イントゥ・ザ・ワイルド(2008年、米) ―8.5点。詩的な旅とアフォリズム

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『INTO THE WILD』 (2008年)
監督・脚本:ショーン・ペン
プロデューサー:ショーン・ペン、アート・リンソン、ウィリアム・ポーラッド
音楽・歌曲:エディ・ヴェダー、音楽:カーキ・キング
出演 エミール・ハーシュ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート、ジェナ・マローン、ブライアン・ダーカー、キャサリン・キーナー、ヴィンス・ヴォーン、クリステン・スチュワート、ハル・ホルブルック、ジム・ガーリエン

【点数】
★★★★★★★★☆ / 8.5点

大学の卒業式の後、
すべてを捨てて青年は旅立った。

新しい自分を探す旅。

そうして気付いたことがある。
「幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合ったときだ。」

そんな名台詞が頭に残るショーンペン監督最新作『INTO THE WILD』。彼の最高傑作と誉れ高い作品である。

話としては単純明快なロードムービーである。高学歴な人間の物質主義じみた社会への反抗というアメリカン・ニューシネマ的テーマの下、青年は旅立つ。エディ・ヴェダーのアコースティックなカントリー系ミュージックと共に物語は展開する。社会への反抗とアメリカでの旅をセンスのいい音楽を交えてゆく。まさにクリーンでクレバーな『イージーライダー(1969)』である。今回は、Born to be wildではなく、Into the wildということ。

トラックで放浪する夫婦、農場で働く人々、モロッコへ向かうカップル、16歳のシンガーソングライターの少女、初老の革職人、様々な人々との出会いと別れ、そして湧き上がる衝動。家族愛や男の友情、男女愛が過去と現在が交錯する巧みな構成の中で描かれる。
アラスカやグランドキャ二オンなど大規模な圧倒的自然描写や、『September 11 (2002) 』の短編映画でもみせたドキュメンタリータッチの揺れる手ぶれ映像、表情の極端なアップ、ロングショットの少なくワンシーンワンシーンが短い凝った映像演出が、ドキュメンタリーテイストでありつつ繊細な心情を表現している。

陳腐な話ではあるのに、こんなにも胸を打つのはなぜだろう。この作品にあるのはリリシズムか。アフォリズムか。そう、基本的には寡黙な作品である。会話は多いが、短い。トルストイなどの古典引用による詩的な言葉に溢れた映像世界。そう、もはや言葉は要らない領域なのだ。映像が、音楽が、シーンが語る。旅、出会い、別れ。始まりから終わりまで、多くは語らぬ詩的アフォリズムなのである。

言葉を超えた存在を感じることのできる148分間の中、私は種田三頭火を初めとした旅人たちと、そこにある意味を考えさせられた。この旅自体が、超越した感覚を秘めているのだ。

見終えた後、エディ・ヴェターの音楽が情緒的かつ爽やかに頭をよぎる。そうか、答えはここにあるのか。

旅へ出よう。答えのない答えを探し続けよう。

言葉を超えた世界にこそ、真の幸福が待っている。

(Written by Kojiroh)

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