『北京バイオリン』(2002年、中国) ―9.0点。人民、北京、音楽芸術の街へ

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『北京バイオリン』(2002年、中国)
監督: 陳凱歌(チェン・カイコー)
出演: 唐韻(タン・ユン)、劉佩琦(リウ・ペイチー)、王志文(ワン・チーウェン)、陳凱歌(チェン・カイコー)、陳紅(チェン・ホン)、程前(チェン・チエン)
章婧(チャン・チン)

【点数】
★★★★★★★★★☆/ 9.0点

“人民”で溢れる北京駅、優雅に流れるクラシック、そして父と少年。

父と子、夢を追う家族と愛の物語。バイオリンの才能のある子供の夢をかなえるために、北京へ上京して音楽コンクールに出て教師を付ける。生活を共にし、トラブルが起きたり葛藤を繰り返し成長してゆく感動のヒューマンドラマ、ってことか。別に大したもんではない、よくありそうな話だ。

さて、今作を手がけるのは、今や中国を代表する巨匠の一人でもあるチェンカイコー監督。今までは『さらば我が愛、覇王別姫』だったり、『始皇帝暗殺』だったりと、さんざんとスペクタクル系な映画ばかりが目立っていたのに、家族愛とバイオリンのお話とは、以前に比べるとずいぶんと縮こまってしまったもんだなと。

しかし、「世界中が泣いた」とキャッチコピーは嘘ではなかった。軽く見てごめんなさい。。この映画は素晴らしい。何が凄いかって、特にこれが一つスゴイというわけではないが、完成度の高い”完璧”に近い作品なのだ。

具体的には、スピーティーで無駄のないカットの連続で、トントン拍子に続くエピソード・ストーリーの嵐に付いて行けないこともなくグイグイ引き込まれる。

撮り方もまた素晴らしい。溝口的で、劇のような構図や演技を重視する。あまり表情を映さず、シーンとしての映像が中心でほぼ8割なのだ。不用意に顔のアップを使わない。だからこそ、ワンシーンの劇としての、演技としての場面場面の緊張感や迫力があるのだ。カットで誤魔化しができない純正な映像だ。それによって、人物が活きる。

そして、登場人物の生き様もいい。それぞれが個性を持ち、各々ダメな部分を見せるのだけど、それがまた人間らしく魅力溢れるキャラクターとして描かれている。

私は冒頭30分ほどで、そんなダメなんだがどこか愛らしい人々を映し出している、この映画の北京の世界にすっかり飲み込まれてしまった。

途中入れ替わってしまうが、2人の先生もいいし、主人公の隣のリッチな家に住むチェン・ホン演じるセレブな浪費家な女が特にいい。気性の荒っぽさが乱暴にも聞こえがちな北京語、そのセンスは完璧だとさえ思った。大人の魅力を振舞き、わがままなことをしつつも、義理人情があって、若いバイオリン弾きの主人公との交友によって、お互いが変わって行く。住んでいる世界は天国と地獄のように違う同じ人民同士がこうして心を交わしてゆくのか。

中華人民共和国という社会主義の抑圧が未だに続く国家が、多くの人民を抱えて暮らしている。そこでも尚、急速な経済発展を遂げつつある反面、格差が広がり、西洋文化も輸入され、そのアイデンティティたるや一体なんなのだろうか。

そんな混沌とした背景から、クラシック・バイオリンという中国では新産業にもなりえる文化によって、この親子はかつての近代からの脱出、飛躍を成そうとしている。そんな姿からは歴史的な重みさえ感じるのだ。

「弾くな、感じろ!」

チアン先生を演じるワン・チーウェンの教えだ。技巧ではなく、心の音楽を教えてくれる。しかし、それは成功を保証してくれない。世の中は残酷だと。

その言葉自体が、この映画を象徴する一説でもある。譜面通りに弾いただけの音では、人の心は動かせない。その音に込められたモノが人を突き動かす。

そう、それは映画も同じなのかもしれない。
最後に泣かせてくれる映画には、単なる脚本のデキや映像の技巧や俳優の演技、それを超越して心を突き動かすモノがあるのだ。何かは分からないが、とにかくこの映画には心がこもっていて、それが何より心地よく響くのだ。

Written by kojiroh

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