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『オーディション』(2000年、日本)
監督: 三池崇史
原作:村上龍
脚本: 天願大介
撮影: 山本英夫
出演: 石橋凌、椎名英姫、国村隼、松田美由紀、大杉漣、石橋蓮司
【点数】
★★★★★★★★★☆ / 9.0点
TIME誌が選ぶホラー映画ベスト25で第3位に選ばれた唯一の邦画、と言えば本作『オーディション』である。2000年のロッテルダム映画祭で本作が上映された際は、エチケット袋を用意され、記録的な退場者を出した、恐ろしい作品なのだ。
さらにクエンティンタランティーノが選ぶ92年以降の映画ベスト20で3位に選ばれている。他にも、『ホステル』シリーズで有名なホラー映画監督 イーライ・ロスや、ジョン・ランディス、ロブ・ゾンビなど名立たる映画人も大絶賛している。
これらの評価を見る限り、只者ではない映画だと思った。日本ではレンタルビデオ屋では置いてない店も多いほど無名ながらも、世界的評価が日本映画の最高峰に君臨するカルト映画だ。
「なんらかの訓練を受けていて自立した女性ではないと、依存してしまい結婚生活は上手くいかない、どうやって結婚相手を見つけようか」
妻に先立たれた主人公の青山(石橋凌)は、旧友の吉川(国村隼)とこんな相談をする。そして映画制作のオーディションをして、再婚相手を探そうとする。大人の事情でオーディションを使って相手を探すという裏事情。そこで、美人で教養も深い山崎(椎名英姫)と出会い、交友を深め、青山は彼女の虜になってしまうのだが…。そこから恐怖のストーリーがゆっくりと幕を開ける。
ラブストーリー、美しい世界から急転して残酷ホラー映画へと転落するその落差が異常な恐怖感を誘う。
それにしても、なんと恐ろしくも美しい映画なのだ。大人都合の身勝手な話であり、リアリティある社会風刺にも思てしまう。残酷な描写には、皮肉にもメッセージ性があるのだ。
正常で清楚に思えた人が、サイコでスプラッターな素性を持ち、イメージを豹変させてしまう姿には鳥肌が立つ。本当に恐ろしさを感じるのだが、そこに人間の恐ろしさの本質を見るからだろう。幽霊や化け物よりも、怖いのは人間なのである。
そんなホラー映画としてだけでもなく、サスペンス映画としても非常によくできている。突如失踪した彼女を追うべく、謎めいた履歴を下に、バレエ教室、バイト先のバーにまで至る。真相に近づくにつれて恐怖のボルテージが上がり、徐々にサイコ色を強めて行くストーリー展開は圧巻だ。
さらに、この映画は小道具の出し方が本当に上手い。木造のボロアパート、黒電話、そして不気味に動く謎のボロ袋。このシーンだけでもホラー映画史を代表するような映像だ。鳥肌が立つほど恐ろしくも見事なシーンである。
恐怖をすぐに見せずに、様々な回想や幻想を交えて、真実を見せてゆく手法は、三池監督の才能としか言いようがない。
最後に、渋い演技を見せる国村隼の警告の一言が頭に残る。
「美人で育ちも良くて、そんな女がすぐに手に入るなんて、何かおかしくねえか?人生、そんなに簡単なもんじゃねえって」
その警告を無視して欲に走った主人公の末路を思うと、皮肉にも、または生きる上での真理であるようにも感じる。オーディションで女を口説くという裏事情にある人間の欲望。そうとも、本作は腐敗した社会に対する警告でもあるのだ。
恐ろしくも、胸に刺さるモノがある。
「言葉なんて嘘だけど、痛みは本当。人は痛みによってしか自分のことを理解できない。痛みによって自分がどんな姿形をしているのか初めて理解できる」
本作のメッセージだ。僕らもこの映画から痛みを感じることで、単調な日常に麻痺して眠っていた感覚が蘇ってくることだろう。
キリキリキリキリ。
恐怖の音が、今や美しい。