『息もできない』(2008年、韓国) ― 9.0点。驚愕のシバラマ映画

『息もできない』(2008年、韓国) 130min
監督・脚本・編集・制作:ヤン・イクチュン
出演:ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク:マンシク、ユン・スンフン:ファンギュ、キム・ヒス、パク・チョンスン、チェ・ヨンミン

【点数】
★★★★★★★★★☆ / 9.0点

世界が絶賛、ヤン・イクチュン監督・主演による長編処女作。低予算で作られた映画とは思えぬ完成度、迫真の演技陣。作品開始の冒頭から、暴力、暴力、暴力と、自主制作ならではの異常なテンションで観るものを圧倒する。

主人公のサンフンは子供の頃の家庭内暴力により、すべてのものを愚弄する凶暴な男として育ち、友人マンシクと始めた取り立て屋として日々を送る。そんなサンフンがある日、女子高生(ヨニ)と出会い、口論をきっかけにお互いに荒んだ家庭環境を持っていることから惹かれてゆく。しかし、知らず知らずのうちにヨニの弟がサイフンの子弟になったとき、運命の歯車が輪廻のごとく狂い始める…。

荒れた家庭に絶望しつつ孤独なサイフンとヨニの純愛ストーリーでもあり、失われた家族の再生の物語でもあり、結局は暴力が暴力を生み、破滅へ向かう悲劇でもある。暴力と家族に迫った胸を打つ物語であった。

「韓国の父親は最低だ。どいつもこいつも家の中じゃ金日成気取りか!」
この監督は韓国の家庭に対して否定的な立場を取ってるように思える。近年、問題視されるような韓国の陰湿な社会情勢を象徴しているかのようだ。監督自信の実体験に基づくコンプレックスをすべてぶつけるような強烈な作風には、ただただ驚愕であった。

「シバラマ(バカ野郎、FUCK YOU)」という韓国語の罵倒が嵐のような暴力とともに鳴り響く。韓国語を知らない筆者でもすっかり頭に残ってしまったほどだ。

「バカヤロー」というセリフだけで映画を作るという行いは、北野武の『その男、凶暴につき』や『ソナチネ』から始まったとも言える。粗野で凶暴な人間を徹底して描き、セリフはバカヤローだらけ。単純な手法であるが、そうすることでも面白く、逆に徹底して暴力的な映画に仕上げることに成功している。北野武同様、まさしく監督と主演の両方を成すヤン監督だからこそできる領分だ。

北野映画のそれにも通じる部分があるが、本作ではそれ以上に気性が激しく怨念深い韓国人の特徴がにじみ出ている、文化的にも興味深い作品だと感じた。

そんな中でも少女との純愛や、姪っ子との愛情が交わされてゆく姿は、不器用ながらも純粋で、葛藤しながら乗り越えてゆく家族の人々の成長には心暖まるものがある。

ドキュメンタリータッチのような低予算な手法で荒々しくも感情豊かに描かれる本作であるが、完成度を越える強い情熱を感じさせられる。資金繰りにも困り、監督自身が映画の中の登場人物のごとく金を借りまくり執念で完成させたという逸話があるのも納得してしまった。

ともかく、まだ若手ながらも監督・脚本・主演・編集をすべてこなしたヤン・イクチュンの才気には脱帽としか言いようがない詩的な情緒もある傑作だった。

最後は涙なしに観られない。

Written by kojiroh

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