『紀子の食卓』(2006年、日本) ―8.5点。既存の日本家庭をえぐるアンチテーゼ物語

『紀子の食卓』(2006年、日本)159min
監督・脚本:園子温
出演者::吹石一恵、つぐみ、光石研、吉高由里子、宮田早苗、並樹史朗、三津谷葉子、手塚とおる

【点数】
★★★★★★★★☆ / 8.5点

鬼才・園子温の出世作『自殺サークル』(2001年)の続編、というよりアナザーストーリーのような物語。カルロヴィヴァリ国際フィルムフェスティバル:特別表彰・FICC賞を受賞した国際的にも評価の高い作品で、園監督の描く世界観の原点でもあり集大成とも呼べるような長編だ。


あらすじは、田舎に住む17歳の平凡な女子高生・紀子は、家族との関係に違和感を覚え、インターネットのサイト「廃墟ドットコム」で知り合った女性を頼って東京へ家出する。そこで知る「レンタル家族」という虚構の世界の仕事で生きていくのが…。


登場人物の3人の女性の視点を中心に語られる本作であるが、よく練られたナレーションが思春期の少女の心情を感じさせられる。それぞれの視点が浮き立ち、登場人物の内面に深く迫ろうとした行いであるが、少しナレーション過剰のように感じなくもない。もともとは監督本人が書いた小説がベースになっていることもあり、繊細な心理描写になる。その反面、魅力的な演技陣によって冒頭から物語にぐいぐい引き込まれるのは園子音流、細かい脇の人物や小道具の引っ張り方が秀逸で、三津谷葉子演じるみかんちゃんであったり、コインロッカーに入れられた毛糸であったり、ノートの筆圧につづられた物語であったり、世界観に引き込まれる。

印象的なシーンも特に多く、バラが咲いたの音楽と共に展開される暴力シーンは、マーティン・スコセッシがよくやる、暴力シーンで明るい音楽を流すという手法に匹敵するショッキングな名シーンだと思った。

厳しい演技指導で有名な園子温の才もさってか、鬼気迫るような迫真の演技を見せる役者陣には目を奪われるが、父親を光石研も『愛のむきだし』の渡部篤郎に匹敵するハマり役であり、物語の重要な視点の一つとなっている。しかし本作は女性が主人公の物語だ。女性を本当に上手く描いている。


主に、吹石一恵、つぐみ、吉高由里子の3人による女優合戦だ。紀子の食卓というタイトルながら、なぜか園監督の映画では主役を助役が食ってしまうパターンが多く、本作もメインは謎めいた役で圧倒的な存在感を示すつぐみが群を抜いている。次いで吉高の繊細で透明感のある演技が非常に初々しく素晴らしい。本作が彼女のデビュー作でもあるようだが、そうとは思えない圧巻の演技だ。

ラストシーンは賛否両論のような内容であるが、個人的には保守的で平和を永遠に信じているかのような典型的な、のほほんとした日本の家庭が崩壊し、再生へ向けて奮起するも精神崩壊、人格崩壊、そんな残酷な結末を微妙なラインで描き、シュールなようでもあり、わけのわからない次元に突入したような、取り戻すことのできない平穏を皮肉に描いているように思える。

『自殺サークル』の関連性も多々あるが、本作はテンションが全く違いつつも、その前作での謎がより明らかになる内容なので、語られる視点が多く少し複雑でもある。ナレーションが多く、時間もやや長い作品ではあるが、とにかく日本映画の快作であることは間違いない。

園子温という監督の根源にある要素や、彼が問い続けたテーマが集約された真の集大成のような作品である。

Written by kojiroh

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中