『恋の罪』(2011年、日本) 144min
監督・脚本:園子温
出演:水野美紀、冨樫真、神楽坂恵、児嶋一哉、二階堂智、小林竜樹、五辻真吾、深水元基、町田マリー、岩松了、大方斐紗子、津田寛治
【点数】
★★★★★★★☆☆☆ / 7.0点
※リアルタイム映画評
さて「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」の鬼才・園子温監督の最新作『恋の罪』。
カンヌ映画祭にも出品した作品であり、水野美紀、冨樫真、神楽坂恵を主演に迎えて、実在の東京・渋谷区円山町のラブホテル街の殺人事件をベースに描く愛の物語。ということで園フリークの筆者としては、こんな話題作を劇場で観ないわけにはいかないと思い、公開翌日に渋谷ヒューマントラストに足を運んだ。
所感、まあ、つっこみどころの多い映画だった。
しかし、だからこそ見所のある映画でもある。
さてあらすじであるが、仕事とプライベートのバランスを保つため愛人を作り肉欲に溺れることが辞められない刑事(水野美紀)、エリートな家柄ながらも夜は街で体を売る大学助教授(冨樫真)、小説家の夫を持ちながらも昼間を持て余し、道を踏み外す平凡な主婦(神楽坂恵)、この3人の女の生きざまを殺人事件を軸にして描く。一言で言うとエロティック・サスペンスである。
相変わらず実験的なやり方で初っ端から観客をぐいぐい引き込む手法はさすが。細かい演出に拘っているがエンタメ心は忘れていない。物語の謎が次第に明らかになってゆくので緊張感があり、2時間半近い上映時間をまったく感じさせないのはさすがだと思った。
冒頭からの水野美紀のフルヌードであったり、冨樫真の鬼気迫る演技、脇役も冴えていて、町田マリーのAVスカウトの異様なテンションや、大方斐紗子の甲高い声による狂気の会話力には息を呑むと同時に笑いが噴出した。
神経質な小説家の夫のためにスリッパをそろえてお茶を入れたり、降りしきる雨の中の事件、そして廃墟のアパートからもれる雨、弾けるピンク色のカラーボールなど細かい小道具を上手く使い、一癖も二癖もある個性ある役柄が物語で浮き立つ。
しかし神楽坂の過剰な距離感、「ここまでやらせるの?」と思うほど過激、というか半分変態的なR-18当たり前の性描写といい、まさしく完全に園子温の神楽坂への愛のむきだしだったな、というのが素直な感想。
そして恋、ロマンスへの罪ではなく、肉欲や禁じられた遊びへの罪であり、タイトルも間違えている。色々、間違っている映画だと思う。
しかしAVモデルへの勧誘に乗って道を踏み外す主婦やエリート大学教授が退屈で虚構めいた日常を捨てて危険な遊びを冒す展開や、デリヘルを呼ぶんで遊びことで刺激を得て、そこから創作活動へ従事する小説家の実態など、業界関係者しか分からないようなディープな領域に踏み込んでいるのが虚構とは思えぬリアリティを感じた。
売春がどういうことか、お金を貰って体を売ること、AV、デリヘルなど現代の資本主義社会で当たり前のように氾濫する女が体を売ることへの考察で溢れていて、テーマとしては興味深い。
しかしいつも思うが、園子温の映画は極めて小説的に構成されている。チャプターをしっかりと区切り、登場人物のナレーションを登場させ、細かい人物の心理や性癖を描くことを忘れない。いくつか彼の作品を見ていると、全てが実験映画的であるが、実はそのパターンが似ていることに気付く。
それはさておき、本作は実験的でもあるが、極めて私的な告白である気がする。園監督自身が売れない時代にポルノ映画を撮っていたり、女にモテずに苦労した若い時代を生きたと噂される園子温、だからこそ『恋の罪』とはまさに彼自身の告白と愛の物語であるように思えた。
そして本作を経て結婚発表した園と神楽坂のベッドインキャンペーンのような作品なので、決して否定はしない。制作上の関係か、完全に助演で終わってしまった水野美紀の名前が一番前に来ていることが残念過ぎるが、まあそんなネタっぽさもあったり、むしろぐいぐい引き込む語り口は圧巻だったし、純粋に楽しめる。神楽坂もよくぞここまでやったなと、私は本作を肯定的に捕らえたいと思います。
園子温監督のご結婚を祝いの意味で、劇場で本作を観た価値はあったなということで、ご結婚おめでとうございます。
Written by kojiroh