『ヒミズ』(2011年、日本) -129min
監督・脚本:園子温
原作:古谷実『ヒミズ』
出演者:染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満、神楽坂恵、光石研、渡辺真起子、黒沢あすか、でんでん、吉高由里子、西島隆弘、窪塚洋介、鈴木杏etc
【点数】
★★★★★★★☆☆☆ / 7.0点
※リアルタイム映画評
「知ってる、何でも知ってる、自分のこと以外なら」
いきなり冒頭から、二階堂ふみが語る詩がなぜか頭に残る。
園監督お得意の詩のナレーションは相変わらず作品に命を吹き込んでいる。
2011年・第64回ベネチア国際映画祭で染谷と二階堂がマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した話題作『ヒミズ』。園フリークである筆者は、劇場公開よりも前のこの時期に、運良くツテで試写会にて鑑賞することができた。
あらすじは、ごく普通に生きることを願っていた祐一と、愛する人と守り守られ生きていくことを夢見る景子、という2人の15歳の日常が、震災を背景として希望のない社会において、ある事件をきっかけに絶望と狂気に満ちたものへと変わっていく…。
さて、漫画を原作とした『ヒミズ』であるが、震災を背景に入れることで大幅に脚本を変えて現地でのロケに挑んだ力作。
一部では「愛のむきだしと冷たい熱帯魚は本作の序章でしかなかった!最高傑作!」みたいに騒いでいるファンもいるようだが、正直な感想は、『愛のむきだし』も『冷たい熱帯魚』も、さらには『紀子の食卓』をも超えていない。
もちろん、普通の人は素通りしてしまう震災を題材に組み込んだ秀作であると言える。メンツも園ファミリー大集合で、園映画ファンにはお腹いっぱいの作品ではあるが、やはり過去の作品を越えたとは言えないと思う。(どれが一番かは好みによるところが大きいが)
がしかし本作で圧巻だったのは俳優人の個性。渡辺哲とでんでん、光石や渡辺真起子、園映画を多く見ている筆者としては、『紀子の食卓』~『愛のむきだし』、さらには『冷たい熱帯魚』までで強烈なインパクトを残した名わき役が次々と登場してくる点が一番盛り上がってしまった。手塚とおるや諏訪太朗 、脇の脇まで見たことのある顔ぶれで思わずニヤリ。
そして新規ながらも窪塚の演技の存在感はこの作品に強烈なインパクトを残している。脇役ながら主役を食っているほどツボだった。
ちょい役すぎるが吉高由里子、西島隆弘、鈴木杏も登場してくる。友情出演に近い登場だが、こういう細かいところに拘っている点はファンとして嬉しい。
しかしシンプルなストーリーの割には上映時間が長すぎるかなとも思える。舞台になる家と河原でのシーンが少し重複しすぎていて過剰なような気もする。1つひとつのシーンに意味やこだわりはあるが、舞台がそんなに変わる映画でもないのに少ししつこさがある。出演陣も多すぎる上に、無駄な蛇足が多い印象。
泥まみれになったり、殴ったり怒鳴ったり、最初は刺激的だが重複が多すぎて少しくどい。しかしアップのシーンで吐息が聞こえてくるかのような距離での表情は劇場で見ると迫力がある。
さらに少年の凶暴で純粋な心を描く映画、という意味で見るとやはり青山真治の「ユリイカ」の方が圧巻であり、実験的で先鋭的な手法で描いてはいるものの、青春映画としては少しパンチの弱さを感じてしまう。
だが本作は震災のあった場所でのロケを決行、そこですべてを失い、職を失った人々が押し付けられた底辺の描写が素晴らしい。これはこの時期にしか撮れなかった映画であると思う。渡辺哲を初めとした「園組」とも呼べる人々が底辺に暮らしながらも未来に希望を託そうとする、その描写が本作のももっとも評価すべき所である。
ラストでもとにかく長回しで狂気的な演技をさせる部分に監督、そして演技人の才気を感じることができる。
だが筆者の好みとしては、この監督は希望がある物語を撮るよりも、虚構と幻想の区別がつかなくなったような主人公の人格破綻で幕を閉じるようなシュールな悲劇の方が性に合っている気がするが、珍しく希望と救いがある園映画だったと、監督の飛躍?に喜ぶべきなのかもしれない。
Written by kojiroh