『タクシードライバー』(1976年、アメリカ)―114min
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ポール・シュレイダー
音楽:バーナード・ハーマン
出演:ロバート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ハーヴェイ・カイテル、ジョディ・フォスター、アルバート・ブルックス
【点数】 ★★★★★★★★★★ / 10.0点
僕の見てきた映画の中で恐らく永遠のベスト1であろう一本。
『ザ・ヤクザ』で有名なポールシュレイダーが、大統領暗殺を企てた男の日記に衝撃を受けて、わずか二週間で書き上げた脚本を、当時新鋭のマーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロで映画化した奇跡の映画。
雑誌のブルータスの特集でも、「イカれた才能が集まって作り上げた奇跡的な作品」と評されていた。アメリカン・ニューシネマの最後期の代表作。
アカデミー賞ノミネートをはじめ、カンヌ映画祭グランプリ受賞。13歳のジョディフォスターが助演女優賞にノミネートされたことはあまりにも有名。
そんな数多くの絶賛を浴びている本作であるが、アメリカンニューシネマの一作として今での色あせることなく、都会の孤独を描いた作品は多くのフォロワーを生み続けている。
ハリウッドに反抗するような暗くて憂鬱な作風ながらも、歴史的なアンチヒーローとして伝説になっているのが、ロバート・デニーロが扮するトラヴィス・ビックルである。
本作の舞台は大都会ニューヨーク。
夜の街をただ当てもなく走り続ける元海兵隊のタクシー運転手トラビス。腐敗した現代社会に対する怒り、そして孤独感から徐々に精神を病み、ついには悪への怒りと歪んだ正義感から大統領候補の暗殺に奔走するのだが…。
ミリタリーのようなジャケットやブルゾンのアメリカンスタイルのファッションに身を包み、都会の孤独に生きながらも、自己練磨の末に銃に温かみを覚え、社会の悪に対して一人なにかやろうとするその姿は英雄的でもありカリスマだった。
ポン引きの怪演であるがハーベイカイテルや選挙スタッフのシビルシェパードの役どころもいい。両者の仕事柄からもNYの街の表裏がかいま見える。
「俺の人生は今、一つの方向に向かっている。初めてのことだ」
過剰に広がる妄想、それを具現化するべく成される自己練磨の日々。過酷な筋トレをこなし、銃の射撃に向かったり、鏡の前でイメージトレーニングに励むシーンは歴史的な場面。即興によって成された本作のこの「You talkin me?」と語りかけるシーンは単純ながらも自己と向かい合い狂気の妄想に向かう自身を写しだす。
他の場面でも実験的なシーンの連続だ。
ジョディ・フォスターとブルーベリーパイを食べる場面の即興的な会話や、街でたまたま見つけた太鼓叩きの男のドラムスと共に町を歩くトラヴィス、妻殺しを告白する狂った乗客を演じるマーティン・スコセッシ本人。良くも悪くもニューヨークが描かれている。ファッショナブルな面、ダーティーな面、この作品が描くNYという街の本当の姿だ。
そんな街でタクシードライバーとポルノ映画びたりという底辺的な生活をしながら、作中で絶えず鳴り響くバーナード・ハーマンのサックスの音色が美しくも邪悪な都会の汚さを象徴するかのような旋律を奏でる。
「すべて悪だ。そんな不条理に立ち向かう男がいる。俺だ(Here is)」
社会の不条理や汚さに対するやり場のない怒りが爆発するクライマックスは衝撃的だった。全てが完璧だと思った。
この作品を初めて見たとき、当時の私は高校生であり、また幼かったので気付かなかったが、今思うと本作は実は、日本びいきのポールシュレイダー脚本による三島由紀夫の人生のオマージュなのだと。
虚構の妄想に満足できなくなった孤独な男が、最後は自らの肉体を徹底的に磨き上げ、日記に自らの孤独をつづりながらも世の中を変えるために革命的な犯罪計画を実行する。そして捨て身の覚悟で飛び込み自決する。
どこかで聞いた事のある話だ。そうか!?これはまさしく、虚弱体質へのコンプレックスから肉体改造を成し、右翼的な物語を書き綴りながらも、1970年に壮絶な最後を遂げた三島の人生へのオマージュだったのだ。
NYの闇と孤独、三島への影響、そして奇跡的なメンバーで作られたイカれた傑作が今日ではアメリカを代表する映画の1つになっていることは非常に喜ばしい話だと思える。
Written by kojiroh