『メランコリア』(2011年、デンマーク)―9.0点。鬱映画の至高


『メランコリア』(2011年、デンマーク)―130min
監督:ラース・フォン・トリアー
脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:キルスティン・ダンスト、シャルロット・ゲンズブール、キーファー・サザーランド、ブラディ・コーベット、キャメロン・スパー、シャーロット・ランプリング、イェスパー・クリステンセン、ジョン・ハート、ステラン・スカルスガルド、ウド・キア、キーファー・サザーランド etc
【点数】 ★★★★★★★★★☆ / 9.0点

※リアルタイム映画評

「ヒトラーに共鳴する」などと発言したため、カンヌ映画祭から「好ましからぬ人物」としてトリアーが追放された。その映画祭で出品され、主演のキルスティン・ダンストが女優賞を受賞したことで話題の映画が本作『メランコリア』。

『ドッグヴィル』などの実験的なスタイルを見事な演出と脚本で、出演者を輝かせ人間の闇にスポットを当てるトリアー監督の最新作ということもあり、超鬱な映画と話題であったが筆者は期待に胸を膨らませて六本木シネマートに足を運んだ。

ミニシアターであったが、冒頭からの絵画のようなスローモーションの終末の映像には度肝を抜かれた。キルスティン・ダストン、『アンチクライスト』のシャーロット・ゲンズブールをメインに配役して、その表情の迫力には息を呑む。

最初から、ドイツの芸術に影響を受けたような、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』による壮大な響きの下で、まるでオペラの舞台にいるかのようだ。この音楽が一貫してこの残酷な物語を美しく壮大に照らし出す。

さて、そんなメランコリアのあらすじであるが、
広告代理店勤務のコピーライターであるジャスティンは、心の病を抱えていたが、僚友マイケルとの披露宴を迎える。しかし、母ギャビーの反対的な態度から、徐々に奇矯な行動に出て、祝宴の雰囲気が崩壊し始める。そんなジャスティンをなじる姉クレアだが、仕方なく夫のジョンや息子とともに彼女との生活を続けるのだが、惑星の出現と共に不穏な気配が漂い始める…


奇想天外なSFじみた世界を舞台に描かれる鬱病患者の妄想のような世界だが、過去の作品同様、トリアー流にえげつなく人間の黒い感情に容赦なくメスを入れる。ドグマ95的な撮影手法で、息遣いがそのままスクリーンに投影されるかのような過去の作品でも御馴染みの作品をシアターで見ることができたことがまず、大きく感情を揺さぶられる。



冒頭の第一部は、結婚式の披露宴から始まるが、笑顔とキスとパーティーで幸福な場面が描かれるが、すぐに黒い人間模様と、邪悪な予感によって転落する。その様があまりにも鬱っぽく、人間の営みの愚かさを思い知らされるようで、感情をわしづかみにされた。


浮かれたパーティーから一転して残酷な現実を見せ付けられる絶望感は、チミノ監督の『ディア・ハンター』にも通じるものがある。

そして最初は異様なほどハイテンションなジャスティンの笑顔に次第に曇りがかかり、鬱に陥る過程が繊細に描かれる。圧巻の演技を見せるダンストが美しくも素晴らしい。ゲンズブールとの二大主演がそれにしても見事すぎる。完成が鋭く芸術肌で常人ではその考えが理解できないような繊細さを持つジャスティンと社会性が豊かな良識あるクレアの姉妹での掛け合いが哲学的でもある。
「Sometimes I hate you so much」
トリアー監督はどうしてこうも女優を演じさせるが巧みなのかといつも思う。言葉も選び方もさることながら、自由で即興的な演技を徹底しているようで、脚本の構成も多様な伏線を含み、完成されている。その他の小道具や伏線も含めて、よくできた映画だ。

ネタバレになるので深くは言及しないが、惑星が近づき、ワーグナーの音楽と共に、ダンストが月光欲するシーンの神秘的な美しさ、危機が去った後の夫ジョンの行動、クレアの叫び、ジャスティンの悟り。全てが人間の本質を描いている。

まさに傑作―。
同じ年のカンヌで『ツリー・オブ・ライフ』にグランプリを譲ったことは理解しがたい選考であるかのように。

『メランコリア』は暴力描写や性描写などがある映画でもないが、絶望的で憂鬱で、暴力や性を排除しても、こんなに残酷な生を感じられる映画が今まであっただろうか。安易な暴力や流血で見せられる残酷さがいかに陳腐なものであろうことか。

トリアー映画の基本は、人間の「裏切り」だ。
彼自身が生みの母親から受けた告白がそうだったように、薄っぺらい友情や愛情をぶち壊す人間社会の残酷さをこれでもかというほどに見せ付けてくれる。それが人間への「悟り」であるかのように美しく胸に響く。『ダンサーインザダーク』以上に救いのない物語だが、そこまで徹底した欝映画を作れたことに脱帽。

迫り来るメランコリアの美しさは、悟りを開くジャスティンと、あくまで最後まで良識的な人間であろうとするクレアの対比をすべて「無」にしてくれる。終末が近づいてくるその瞬間、私はなぜだか涙を抑えられなかった。

Written by kojiroh

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