『青いパパイヤの香り』(1993年、フランス=ベトナム)―104min
監督:トラン・アン・ユン
脚本:トラン・アン・ユン
出演:トラン・ヌー・イェン・ケー、リュ・マン・サン、トルゥオン・チー・ロック、グエン・アン・ホア、ヴォン・ホア・ホイetc
【点数】 ★★★★★★☆☆☆☆ / 6.5点
『ノルウェイの森』の監督として一躍有名である、ベトナム出身の監督トラン・アン・ユンの長編処女作。東南アジア好きな筆者はベトナム映画が以前から気になっていたので、代表的な彼の映画から入ってみることにした。
なんというか、東南アジアの南国風の美しさを50年代のサイゴンの日常の中に描いた寡黙な作品だった。
舞台は1951年のサイゴン、10歳になる娘ムイが田舎から奉公に出され、とある大きな屋敷へとやって来た。食事の世話や家事手伝いなどを任され、毎日を過ごす。その家には何もせずただ楽器を楽しむだけの父親、衣地屋を営みむ母親、祖母、長男と幼い弟という家族構成であったが、父親の家出などもあり、次第に家族が変化してゆく。そんな中でムイは、家に遊びに来た長男の友人クェンに密かに恋心を抱き、10年後、ムイは今度はクェンの家へ奉公へゆく…。
東南アジアらしい青さと緑が美しいコントラスト。
とにかく色彩表現が豊かで、構図の絵画的で、ほぼアート作品だ。
セリフもありまりなく、とにかく寡黙な映画。
ストーリーはあるが、10年という時の流れが穏やかに曖昧に描かれる。物語以上に人間の感情を映像で表現することで表したような映画であり、ストーリーよりも映像美を愉しむ映画だ。悪くいうと退屈に時間が過ぎてゆく映画なので、あまり娯楽を求めてはいけない。とにかく動きが少なく、こどものいたずらであったり、食事を作ったり、家の中を掃除したりする光景をただひたすら淡々と写してゆく。
個人的にはこの作品の100分という尺は少し長すぎたかな。映像美は素晴らしいが、70~80分ぐらいですっきりとしていた方が満足できたかもしれないという感は否めない。
幼女時代の姿と、アリを蝋でたらしたりなど、奇抜なアイディアによる芸術的な表現が溢れていて、なんだかベトナム版『ミツバチのささやき』という印象がある。とにかく幼いこどもの純粋さと残酷さを高い映像表現力で描いた作品だった。
こういう芸術性を追求した作品と、監督の自己満(オナニー)映画の線引きというのはなかなか微妙なラインなので、やはり好き嫌いは分かれるものですよね。
kojiroh