『ゆきゆきて、神軍』(1987年、日本)―9.5点。奥崎、狂気の歴史的傑作ドキュメンタリー


『ゆきゆきて、神軍』(1987年、日本)―122min
監督:原一男
編集:鍋島惇
企画:今村昌平
出演者:奥崎謙三・シズミ夫妻 etc

【点数】 ★★★★★★★★★/ 9.5点

“THE Emperor’s Naked Army marches on”
あのマイケル・ムーアが、生涯観た映画の中でも最高のドキュメンタリーだと語る国際的に最も評価が高いドキュメンタリー映画の一つとして語り継がれる傑作。

5年間の撮影期間を費やし作り上げられた作品で、ベルリン映画祭カリガリ賞など始め、様々な映画賞を受賞した。そんな邦画ドキュメンタリーの伝説的一作を、ふと思い立って遂に鑑賞した。


奥崎謙三は、かつて自らが所属した独立工兵隊第36連隊のウェワク残留隊で、隊長による部下射殺事件があった事を知り、殺害された二人の兵士の親族とともに、処刑に関与したとされる元隊員たちを訪ねて真相を追い求める。元隊員たちは容易に口を開かないが、奥崎は時に暴力をふるいながら証言を引き出し、ある元上官が処刑命令を下したと結論づけるのだが……。(wikiより引用)


「暴力をふるっていい結果が出る暴力だったら、許されると…。だから私は大いに今後生きてる限り、私の判断と責任によって、自分と、それから人類によい結果をもたらす暴力ならばね、大いに使うと」
高々と宣言して暴れまくる奥崎の姿は永遠に不滅……と、いわんばかりにすさまじいエネルギーを感じる作品。

奥崎によってドキュメンタリー映画の至高のカタチにまで昇華した奇跡的な映画世界ではないだろうか。私はその狂気のカリスマ像に陶酔するかのように二時間ノンストップで引き込まれて行った。

冒頭の結婚式からどこか狂った奥崎の信念が炸裂する。

しかし『アンヴィル』もそうだが、素晴らしいドキュメンタリーというには奇跡がある。追ってゆく中で、奇跡が起きて、現実に物語が動き出すのだ。それがフィクションで無理やり動かされるストーリー以上の感動がある。

はっきり言って、彼が追求する日本軍の40年前の功罪の真実には、興味深く引き込まれるがそこまで意味はない。それ以上に、過去の罪を背負って生きる人間の現在、そしてそこに神なる暴力で挑む奥崎の姿にこそ意味があるのだ。

もう二度とこんな映画は撮れない。
そう思える様々な要因によって起きた衝動、そして奇跡を本作のフィルムから感じ取ることができた。

しかし、これははっきり言って異常な映画だ。
極端な右翼の男をこうもヒーローのように祭り上げている狂気。プロパガンダのような表現の手法をも感じる。奥崎が善なのか悪なのか――そこは曖昧なところであり、見ているだけでは奥崎が英雄のように思えてしまう。

それでも奥崎の狂気の過激右翼=神軍平等兵としての活動をフィルムに映したことには大きな価値がある。

欠落した小指、洗練された尋問・言葉。暴力。
公私混同したことはない、すべて神のため、宇宙の真理だと言わんばかり。

私はもう「天皇陛下の剥き出しの神軍」を貫き生きた、奥崎謙三のタフネスさを生涯忘れられない気がしている。

kojiroh

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