『3-4×10月』(1990年、日本)―96min
監督:北野武
脚本:北野武
出演:ビートたけし、小野昌彦、石田ゆり子、飯塚実、豊川悦司 etc
【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.5点
『その男、凶暴につき』に続く北野監督デビュー第二作。
「三対四、エックス十月」。わけのわからないタイトル。
娯楽性がありヒットも期待できた前作とは一変してマニアックな異色作。北野軍団を総動員した映画通がやりたいようにやったわけの分からない映画で、商業的には惨敗した失敗作だと言われる。
昔、鑑賞した時は筆者もできの悪い作品だと思っていたが、レンタルにて再鑑賞してみると、数年前に見たときより遥かに面白く感じることができた。
◎あらすじ
勤務先のガソリンスタンドで暴力団組員にからまれた冴えない青年・雅樹は、逆上しその組員に殴りかかる。しかし、そのことが原因でガソリンスタンドが暴力団に強請られる事となり、草野球チームのコーチで、過去に組長と兄弟分であったスナックのマスターに相談する。雅樹に同情したマスターは問題解決のため組に出向くのだが、そのことがきっかけとなりマスターが暴力団と揉め、雅樹は拳銃を手に入れるため沖縄に飛ぶのだが……。(Allcinemaより引用)
沖縄の海と緑、やくざと暴力、草野球と、とにかく北野映画の源泉がぐちゃぐちゃになったような実験性と、荒削りながら初期の映像表現の衝動に満ちていて、なぜかもう一度観たくなる要素がある。
BGMを一切使わず、効果音だけで見せる。
野球の音がエンディングに響く。『家族ゲーム』に通じる大胆な実験性もさることながら、短い尺に様々なアイディアが盛り込まれ、中毒性の高いカルト映画としても有名で、たけし本人もデキの悪い子供みたいで憎めない映画だといったような発言をしていることも頷ける。
「だからテメー、屑って言われるんだよ」
若き日の豊川悦司がやくざの若頭として登場しているところも見逃せない。ヒット前の無名時代ながらも、シャープな存在感が大器を感じる。大杉連や寺島進もそうだが、北野監督はホントに役者の発掘がうまい。
屑やくざの上原で登場するたけし本人の脇役は完全なる遊びに近いが、奇怪な役過ぎて本作の毒々しさを象徴するかのようだ。
沖縄の緑の中で遊びに興じる。このシーンの色合いと構図はホントに素晴らしい。全般的に本作から、北野映画特有の色と構図が確立され始めたのではないか。
また、忘れられないシーンも多い。
中島みゆきの「悪女」を音痴に歌うダンカン。
ガナルカダルタカが本名で出演し、
「井口さん、やめてくださいよ」
「井口だよ」
とやくざな会話を交わす。これを飽きるぐらい言い合うだけのシーンであるが、この緊迫感とシュールさが特にすごい。『ソナチネ』の「村川さん、やめてくださいよ」に匹敵する名シーンだと思った。
失敗作だがなぜかもう一度観たくなる。
荒削りだが魅了される。
このヴァイブスこそ、映画なのかもしれない。
kojiroh