『サマリア』(2004年、韓国)―8.5点。純粋で残酷な少女たちの映画


『サマリア』(2004年、韓国)―95min
監督:キム・ギドク
脚本:キム・ギドク
出演者:クァク・チミン、ハン・ヨルム、イ・オル etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

ベルリン映画祭で監督賞を受賞した韓国の鬼才、キム・ギドク。三大映画祭全制覇に最も近い男と評されるギドク監督の代表作であり最高傑作といわれることの多い『サマリア』を鑑賞した。

明らかに低予算・短期間で詰め込みで撮影して、ファイナルカットで監督自身が切り刻んで作りこんだという、なんというか自主制作な雰囲気が満載な一作なのだが、冒頭からボルテージマックスで引き込まれる。この世界観は一体なんなのか――。


◎あらすじ
親友で同級生のチェヨンはヨジンと2人でヨーロッパ旅行に行くためと、いつの頃からか援助交際をするようになっていた。屈託ない笑顔を絶やさず、ためらうことなく男に身体を売るチェヨンに抵抗を感じながらも、彼女が心配なヨジンは見張り役として行動を共にしていた。そんなある時、警官の取締りが入り、それを逃れようとしたチェヨンはホテルの窓から飛び降り、命を絶つ。チェヨンの死で強い自責の念を抱いたヨジンは、罪滅ぼしのために、もういらなくなった金を返すため、チェヨンの援交相手のもとを訪ねて回ることに……。(All cimenaより引用)

この緊張感、映像美、純粋さの残る少女たちが触れる社会の暗部がひどく残酷であるが、引き込まれる。

ギドク監督の無駄な説明を一切省略して、ひたすら物語を進めてゆく手法はなかなかお見事。幻想的とも思えるような美しい映像美を織り交ぜつつ、ジャンプカットのような突発的なカットで物語が進んでゆき、くぎづけになった。

映像のふしぶしに見られる細かいアイディアも面白く、冒頭からアイスクリームを舐めながらラブホテルを監視する少女のシーンは素晴らしい。車、手帳などなど、他にもヘッドホンで娘を起こすシーンと、後々の川の中の車のシーンはよくできている。

『ブレス』でも言えるが、とにかく四季の表現に長けている。韓国の自然も日本と似ていて、山々や川の美しさには惹きつけられる。

そして視点の移り変わりが素晴らしいね。第一部のバスミルダ、第二部のソマリア、第三部のソナタ。少女の視点から、父親の視点へと移ってゆくとは、意表を突かれた。本作は視点が、突拍子なストーリーと共に、何が起こるかわからない緊張感と共に、予想を大きく裏切る展開が提示され、観客を惑わすかのように。

それにしても本作は韓国の闇を大胆にえぐっている。
暴力的で衝動的に殺しをしてしまう男、生き恥を忍んで自殺、そして体を売って旅行代を稼ごうとする少女たち。有名なことだが韓国人は娼婦になる女が少なくない。日本でも大学生が小遣い稼ぎで売春にやってくることも有名。女子高生でさえもネットを使ってこうも簡単に売春してしまう、その暗部に訴えかけてくるものがある。

作家性のある韓国映画というのは商業性がなく、才能ある監督が低予算で自主制作のごとく作られるものなのだなと、『息もできない』にも似た凄みを感じる一作だった。

kojiroh

『サマリア』(2004年、韓国)―8.5点。純粋で残酷な少女たちの映画」への2件のフィードバック

  1. キム・ギドクはリアリティそのものの監督だと思う。
    嘆きのピエタがそうだ。
    私が日常でネグレクトしている物を目の前に突きつけてくれる。
    有難い存在。
    サマリアに関しては、視点の移り変わりが素晴らしい。という感想に心が動いた。
    繊細な感じがする。

    1. コメントありがとうございます。
      えげつない現実を抜群のアイディア力と感性で残酷に描く希少な監督ですよね。そうこう話して記事を読み返すと、またサマリアをみたくなってきました。ありがとうございます。映画人。

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