『悪人』(2010年、日本)―139min
監督:李相日
脚本:吉田修一、李相日
原作:吉田修一
出演:妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり、塩見三省、池内万作、光石研、余貴美子、松尾スズキ、樹木希林、柄本明 etc
【点数】 ★★★★★★★☆☆☆/ 7.5点
モントリオール映画祭で主演女優賞を受賞しただけではなく、国内でもキネマ旬報1位、日本アカデミー賞でも主演男女・助演男女を総なめにした話題作『悪人』。筆者は飛行機の中で見つけて始めて鑑賞。
吉田修一の原作がそもそも冴えていて、見事に映像化された、受賞の評価が納得できる一作であった。
◎あらすじ
長崎のさびれた漁村に生まれ、自分勝手な母に代わり、引き取られた祖父母に育てられた青年、清水祐一。現在は、土木作業員として働き、年老いた祖父母を面倒見るだけの孤独な日々を送っていた。そんなある日、出会い系サイトで知り合った福岡の保険外交員・石橋佳乃を殺害してしまった祐一。苦悩と恐怖を押し隠し、いつもと変わらぬ生活を送る祐一のもとに、一通のメールが届く。それは、かつて出会い系サイトを通じてメールのやり取りをしたことのある佐賀の女性・馬込光代からのものだった……。
<allcinemaより引用>
孤独な現代人が織り成す悲しい愛の物語、と言えば分かりやすいが、そうした愛の中で、複数の視点から、「本当の悪人とは何か?」を問いかける。
まずヴィジュアルイメージがいい。金髪の妻夫木聡、時速200kmで飛ばす白い車。キツイなまりの九州弁。日本人が見ても、なにやら地方の異国性を感じる。都会、車社会、地方の過疎化、孤独。
演技陣も圧巻だった。全員が日本アカデミー賞受賞できるのも納得がゆく。虚言癖な現代の若者、満島ひかりも、演技とは思えないリアリティを個人的には感じた。
エピソードの絡み方もいい。
被害者、被害者の家族、被告、被告の家族。被告を愛した女。高齢者と悪徳商法の絡みも、なんだか老人の孤独をあぶりだすようにも思え、極めて風刺的だ。サスペンスとしても、謎が複数の視点から明らかになってゆく。そして「悪人」とは誰か? 観客に突きつけられる。
「今の世の中、失うものが無い奴が多すぎる――」
柄本明が名言を語りだす。このくだりが本作のオチでもあり、最も胸に突き刺さるメッセージだと思う。失うものがなく無責任だからこそ、自分勝手に強くなった気になり、他人を見下す。現代人の特徴、孤独と闇に対する強烈な風刺である。
重くて暗い作品ではあるが、シナリオと演技、全てにおいて完成度が高い、映画祭を総なめするに十分値する一本であった。
kojiroh