『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008年、日本)―190min
監督:若松孝二
脚本:若松孝二、掛川正幸、大友麻子
音楽:ジム・オルーク
出演:坂井真紀、ARATA、並木愛枝、地曵豪 etc
【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.5点
今年亡くなった故人の中で最も惜しい、日本の人間国宝のような若松監督を追悼してレビューを書くことにする。
第58回ベルリン国際映画祭にて最優秀アジア映画賞と国際芸術映画評論連盟賞(CICAE賞)をダブル受賞。連合赤軍を追った、「あのとき、若者は何に突き動かされていたのか?」を問う、半ドキュメンタリーのような作りの一作。カンパなどによって制作費が賄われ、長編ながらも低予算で自主制作のような臭いがする。
しかし本作の圧倒的なエネルギーと、演技陣の迫力とメッセージ性には心の奥にあるモノを突き動かされた。
◎あらすじ
60年代、世界的な潮流の中、日本でも学生運動が大きな盛り上がりを見せていく。革命を旗印に、運動は次第に過激化し、逮捕者も相次いでいく。そんな中、71年、先鋭化した若者たちによって連合赤軍が結成された。しかしその後彼らは、“総括”により同志に手をかけ、真冬のあさま山荘にたてこもり、警察との銃撃戦を繰り広げることになるのだが…。<allcinema>
思想によって革命を起こそうとした若者たちの姿。
昭和の時代を感じさせ、現代に作ったとは思えぬ臭いを感じる。
三部構成で作られた本作は、秀逸なドキュメンタリー再現映画でもある。実際の安保闘争時代の映像などを交えて、あの時代が何であったかを問う。その時代を生きた若松監督だからこその説得力を感じる。
しかし本作のメインとして思わず舌を巻くのは、第二部の山の中での遠征、そして壮絶なリンチ。
「自らを共産主義化せよ」
地曵豪が演じる「森恒夫」の強烈な罵倒と洗脳的で新興宗教のような振る舞いはキチガイじみているが衝動的で素晴らしい。
自分しか理解していない理屈で迫り、部下をなじり、罵倒し、自殺的なリンチに追い込み、死体の山が築き上げられる……誰かが言っていたが、この連合赤軍事件の構図は、現代の日本社会の縮図なのだと。全くその通りで、学校や会社など日本の組織の中でよく行われていることだからこそ、妙に胸に残るモノがある。
永田洋子を演じる並木愛枝のブスでルサンチマンで、だからこそその劣等感を革命活動と、狂ったリンチへと誘い行く。これが彼らの望んだ「共産主義化」であったのか。最後では何が「共産主義化」を意味するか困惑し、実践の革命軍としての活動の象徴となった、「あさま山荘事件」へと続く。
ともかく、若い人々のうっぷんと衝動が革命活動への情熱へと還元され、時代遅れになった中でもなんとか足掻こうと新興宗教的な「人間開発」=共産主義化をなすべく奮闘する人々の姿が滑稽であるがリアルで、何より残酷だ。
坂井真紀の悲劇のヒロインと、永田洋子の並木の仕打ちはとにかく残酷すぎる。脳裏に焼きついて忘れられない。
3時間以上の長い映画であるが、感情をぐっと鷲掴みに最後まで見せる力量は若松監督と、この制作陣の熱量としか表しようのないモノだと思った。この狂気をフィリムに焼き付けたこと、最後にいたる強烈なメッセージ性には心を奪われた。
「足りなかったのは、勇気だよ」
若松監督に憧れて参加した、ジムオルークの音楽が鳴り響く。
低予算ながらも、本作のために集まった製作陣の情熱が伝わってくる。
ヤクザもので自信もそういった暴力的な世界に身を修めていた若松監督だからこそ作れた、多くのスタッフの情熱によって成された奇跡的な一作であることは疑いようがない。
過去に何度も映画や書籍の題材として取り上げられてきた「連合赤軍~」の中でも屈指の名作再現映画として語り継がれる名作であろう。
kojiroh