『嘆きのピエタ』(2012年、韓国)―80点。ベネチア金獅子賞、えげつない傑作

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『嘆きのピエタ』(2012年、韓国)―105min
監督:キム・ギドク
脚本:キム・ギドク
出演:チョ・ミンス、イ・ジョンジン、ウ・ギホン、カン・ウンジン、クォン・セイン、チョ・ジェリョン etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点
*リアルタイム映画評

2012年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したキムギドクの最新作・「ピエタ」。

一時期、停滞していたギドク監督がドキュメンタリー「アリラン」での受賞から、復活し、集大成のような傑作を作り上げ、ベネチアで韓国映画初のグランプリを受賞した。そんな流れを感じていた筆者は、今月、ようやく満を持して日本公開されたPietaを劇場で鑑賞した。

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*鶏を掴むチョミンスのオープニング。斬新かつ挑戦的なショット。絵画的。

◎あらすじ
生まれてすぐに親に捨てられ天涯孤独に生きてきたイ・ガンドは、法外な利息を払えない債務者に重傷を負わせ、その保険金で借金を返済させる取り立て屋をしている。そんなガンドの目の前に、母親を名乗るミソンという女が現れた。ミソンの話を信じられず、彼女を邪険に扱うガンド。しかし彼女は電話で子守歌を歌い、捨てたことをしきりに謝り、ガンドに対し無償の愛を注ぎ続けるのだが……<All cinema>

所見の感想――とにかく、エグイ!!
100分間、釘付けになるこの狂気。エグさ。悪さ。
悪すぎる男、イ・ガンド。強烈で残忍な暴力が飛び交う前半。
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本作はすごく痛い。心の痛みだ。
グロテスクな描写や残酷残虐なスプラッターなシーンがあるわけではないが、暴力の局部、グロの局部をうまく隠しているが、それが逆に観客の想像力を引き立てるというのか。借金取立て、暴力。全般的に、とにかくシチュエーションがえげつない。
描写としても近親相姦的なものが多く、R-18でもおかしくない。
特に、○○を食わせるシーンの狂気は尋常でなかった。
えぐくて、直接的でない表現だが、思わず目を背けたくなった。
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似たジャンルの映画でいうと、『アンチクライスト』よりえぐく、ギドク過去の『悪い男』にも匹敵する悪さ。斬新で奇抜な表現――芸術を貫く姿勢がありつつ、それでいてストーリーが練られていて、ギドク監督の集大成を感じる。

鶏やウナギ、ウサギなど動物を使ったギドクらしい表現手法があったり、ナイフなど小道具、映画表現の丁寧さと奇抜さは相変わらずいつものキムギドクだ。時代はiphoneにまで電話描写が進化していて、古臭いストーリーのようで、間違いなく現代を描いている。

さらに韓国の背景や社会風刺が描かれているようにも思う。
借金苦と暴力、経済的にも苦境といわれる韓国の現代を映し出す一作でもあるのではないか。少女の援助交際がテーマの「サマリア」でもそうだが、ギドク監督は芸術性だけでなく、どこか現代へのメッセージがある。

カネとは何か。
愛とは、家族とは。
欲望にまみれるこの世の救いとは、なんだろう。

キム・ギドクが、「ピエタ」に語りかけた、その答えの1つが本作だ。
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グロテスクな物語だが、この救いのない世界観に、涙腺が緩くなってしまう、傑作だった。

こんな際どい表現作品がベネチア取って大丈夫なのかと疑ってしまうが、まあ、ギドク監督の功労賞みたいなものだろうか。

しかし、「嘆きのピエタ」という邦題はどうしても感心できない。
PIETAという神秘的なタイトルが台無しかもなあと、傑作だからこそ残念に思う次第。

kojiroh

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