『ソラニン』(2010年、日本)―126min
監督:三木孝浩
脚本:高橋泉
原作:浅野いにお『ソラニン』
出演:宮崎あおい、高良健吾、桐谷健太、近藤洋一、伊藤歩 etc
【点数】 ★★★★★★★☆☆☆/ 7.5点
人気漫画家・浅野いにおの同名傑作コミックの映画化『ソラニン』。
宮崎あおいの主演と、これまで数多くのPVを手掛け、本作が長編映画初メガホンとなる三木孝浩が描く、自分探し系&音楽映画。
ひょんなことから見たら意外に傑作。話題性あって、漫画はちょっと立ち読みした程度でしか知らなかったが、軽音楽部にいたことがある筆者としては共感性の高い一作だった。
●あらすじ
都内の会社に勤めるOL2年目の芽衣子とフリーターでバンドマンの種田。大学時代に軽音サークルで知り合い、付き合って6年になる2人は、多摩川沿いの小さなアパートで一緒に暮らしていた。そんなある日、芽衣子は種田に背中を押してもらう形で、嫌気の差していた仕事を辞めることに。一方、種田はサークル時代の仲間とバンド“ロッチ”の活動を続けるものの、将来の不安と焦りから音楽への思いを押さえ込んでバイトに励むようになっていた。だが、芽衣子にそのことを指摘された結果、バイトを辞めてレコーディングに集中し、デモCDを完成させ、今回のチャンスを掴めなければバンドを解散することを決意。しかし、厳しい現実を突きつけられた種田は、ある日突然、芽衣子に別れを切り出す…。
<allcinema>
さて、別になんともない、自由を求めて会社を辞める、自分のやりたいことをやる、しかし現実は厳しかったという、自分探し系なよくありそうなお話。
しかし、こんなに感受性を揺さぶられるのはなぜだろうっ!
個人的にこのソラニンの世界はかなり救いのない話で、凡人が自由になりたくて会社を辞めたり仕事をやめたりしても、結局は救いはなく、単調な日常が繰り返されていくだけだ。
しかし日本の会社社会の閉塞感、満員電車、パワハラ、粘着質でウチソト文化な日本の会社社会の描写がうんざりするほどリアル。わびしいアパートでの自由だが不安定な生活なんてのも、下北っぽい。若者の不安を象徴しているかのよう。
まあ人生の限界というか、特に陰湿なサラリーマン業ばかりのこの日本において、本作の主人公のような感情になる人間が多くて共感できるということだろうか。
しかし原作が秀逸である。何よりこれ。
そしてバンド系映画にしては、みんな本当に演奏しているところが一番魅力。バンド音楽の迫力が伝わってくる映像はまさにPV的。
宮崎あおいもNANA以上にハマッてるし、桐谷健太がいい。本当にドラムを叩くからこそ、この世界にハマッてる。サンボマスターの近藤洋一も、これは名演だと思った。
6年間大学生やってる加藤に対して、「だって加藤は普通の奴だもん。これから長くて退屈な人生が待ってるってアイツわかってるし。だからギリギリまで遊ばせてやろうとはおもってるんだよね。」という言葉がすごく本質的に思えた。
本当に音楽をやっている人間だからこそ、このソラニンの世界が分かるのだ。
そしてわたしも音楽やってる人間だからこそ、この世界が分かる。共感できる。軽音楽部の人間の末路はリアルでこんな感じだったりする。まあ面白かった理由はそれだけかもしれないが。
自分の幸せを割り切ろうとして突っ走る種田のシーンは正直、かなり感情を揺さぶられた。
しかしその後、背負うものができた仲間たちの疾走も勇気をもらえるというかなんというか・・・本作を見て思ったことは、自由で背負うものがない無目的な生活よりも、何かを背負って生きてゆく方が素敵だってことだろうか。
まあ、どっちにしても救いはないのだけれど・・・なかなか文学的な一作だなあと、『ソラニン』、意外と楽しめた。
豪華キャストが本気で演奏しているシーンを見るPVとしても魅力的かなと。
kojiroh