『ミルク Süt 』(2008年、トルコ)―103min
監督:セミフ・カプランオール
脚本:セミフ・カプランオール、オルチュン・コクサル
出演:メリヒ・セルチュク、バサク・コクルカヤ、リザ・アキン・・・etc
【点数】 ★★★★★★★☆☆☆/ 7.5点
トルコの巨匠、セミフ・カプランオールの自伝的な3部作、『卵』『ミルク』『蜂蜜』が、国際映画祭でも話題となり、近年の重要な映画としてのレビューを受けて、映画人である筆者も見てみることに。何気に、初めてのトルコ映画。
Sutは、ユスフ3部作の第2作目。
第28回イスタンブール国際映画祭の国際批評家連盟賞受賞。
なぜか最初に『ミルク』を手にとってしまったのだが、あまりにも難解で驚いた。
◎あらすじ
高校を卒業したばかりのユスフは、何よりも詩を書くことが好きで、書いた詩のいくつかを文学雑誌で発表し始めている。しかし、彼の書く詩も、母親のゼーラと共に営んでいる牛乳屋も二人の生活の足しにはなっていない。そんな中、母と町の駅長との親密な関係を目にしたユスフは当惑する。これがきっかけとなり、また幼少期の病気のせいで兵役に不適と判定されたこともあって、急に大人になることが不安になってしまうユスフ。
<Movie walkerより>
まず驚いたのが冒頭。
ユメか現実か分からないが、謎の儀式シーン、そして蛇。
本作のモチーフがまず提示されたということを後で知る。
このシーンの美しさとショッキングさを取っても、この監督が只者ではないことがわかった。
大自然の中で暮らす中東~ヨーロッパの風景の中のドラマは映像美としか言いようが、そんな中、起きては本を読み詩を書く青年。母とのミルクを売る日々。
基本的に長回し。タルコフスキ的というか、絵画のような構図から、ゆったりと流れる時間の流れを感じる。
音楽は一切ない。ひたすら、絵画的風景の長回しで、台詞も少ない。
ワンシーンワンシーンに深い意図は感じつつも、あまりに難解で、連続して100分を観るのは普通の人は無理ではないかと。。。
はっきり言って、ここまで分からない映画はまれである。
ストーリーはあるようでないようなもの。
意味不明なシーンが多く、何度も観ないときっと意図が分からない。何度観ても分からないかもしれない。
だが本作は、映像美に満ちた、自伝的な、作家の生い立ちや複雑な信教を描いた点は素晴らしい。さらにそれ以上に、宗教的、神や霊などの世界を映し出しているものだと感じた。
ネタバレかもしれないが、
蛇というのは、恐らく人間に憑く悪霊のようなものであり、
郵便配達員が謎に転倒したり、
ユスフが気絶してバイクが転倒するシーンなど、「持病」という複線でもあるが、全般的に、神のお告げor悪魔の作用など、霊的な存在が現実社会に作用するものを示唆しているように思えてならない。
イングマールベルイマン的なものもそうだが、映画監督というのは霊感が高く、神話のようなものを描き出す力を持っている
そういう目に見えない世界の話を前提にすると、冒頭の老人は恐らくシャーマンだ。除霊の儀式を行っていることが、ある種の本映画の始まりでもあり、結末でもある。筆者の仮説。
だが本当に分からなく、狩猟の男を追ってナマズを取るシーンなど、わからないことだらけである。それでも、なぜかこの映像世界はわたしの心に残っている。
個人的には、工場労働者の友達と、詩を見せ合い、カメラが足元へ向くシーンが素晴らしいと思った。カメラワークが絶妙であり、長回しでゆっくり流れるからこその、利点がすごく活かされているなと驚いた。
それにしても、卵、ミルク、蜂蜜・・・すべてが物語の中で、布石というか、ユスフの人生の中で重要な存在として動いていることが分かる。
次、『蜂蜜』へつづく。
_PS
2011年に観た、カンヌパルムドール賞の作品、ブンミおじさんの森に匹敵する、久々に観た難解な映画かもしれない。
kojiroh