『ヘイトフルエイト』(2015年、アメリカ)――167min
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
音楽:エンニオ・モリコーネ
撮影:ロバート・リチャードソン
出演者:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン、チャニング・テイタム
【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点
※リアルタイム映画評
The hateful eight
新作が出ると毎回、劇場にわたしを通わせる監督・タランティーノ。
ジャンゴに続き、またまさかの西部劇。豪華キャストが集結し、アカデミー賞も3部門ノミネート、1部門受賞。88回アカデミー賞作曲賞受賞。タイトルはまさかのヘイトフルエイト。
8にずいぶんと意味を見出しているようだ、タランティーノ監督。さて、密室ミステリーと宣伝されているが、一体どんな映画なのか・・・。
◎あらすじ
雪が降りしきる中で馬を失った賞金稼ぎマーキス(サミュエル・L・ジャクソン)は、同じ稼業であるジョン(カート・ラッセル)と彼が捕らえたデイジー(ジェニファー・ジェイソン・リー)を乗せた駅馬車に同乗する。途中で保安官を名乗るクリス(ウォルトン・ゴギンズ)を拾った馬車は、猛吹雪から避難するためにミニーの紳士洋品店へ。メキシコ人の店番ボブ(デミアン・ビチル)や怪しげな絞首刑執行人オズワルド(ティム・ロス)などの存在にジョンが強い警戒心を抱く中で、事件が起こる。
<Yahoo映画より引用>
冒頭から、もはやすごい。
雪、馬車、泥臭い男たちの汚い言葉、顔のドアップ。
タランティーノが敬愛する、セルジオレオーネの世界が現実に戻ってきた気分だった。
まさかエンニオ・モリコーネの音楽とタランティーノ監督がタッグを組んで現代に蘇ることになるなんて。
サミュエル・L・ジャクソンとカート・ラッセル、この2人のやりとり、馬車の中での、顔面ドアップな会話、派手なアクションではなく洗練された表情と会話によって展開するパターン、すぐにタランティーノの世界へ引き込まれた。
ずばり、言葉のセンスがすごく冴えている。
マイケルマドセン演じるジョーゲージに対して、「自分のストーリーを書いている、ああ、あんたも今登場した」・・・のような一説、問答の一字一句が冴えている。Fuck, motherfucker, bitchなどのFワードな罵倒も含めて。
冗談のような饒舌な会話と、物語を刺すような絶叫のような笑い。
あとキーになるリンカーンの手紙だが、このフラグの出し方もずば抜けている。パルプフィクションの「ブツ」に匹敵している存在感あり。
おなじみのタバコ、レッドアップルも登場するし、かつてのファンにはたまらない。
複数の登場人物と、その各々のストーリーが交錯して全然予想できない方向へ動くこの脚本の力はやはりすごい。どう転ぶかかなり読めない。
前作ジャンゴはおもしろいが、傑作とはわたしは思わなかった。その評価は正しかったかもしれない。
ジャンゴは、この作品を取るための予行演習だったのかもしれないと。黒澤の、『影武者』と『乱』のような関係で。後者の方が優れているように。
ジャンゴの方が娯楽性の高い意味では傑作だったかもしれないが、タランティーノ自信、本作を自分の最高傑作だと語っているように、本当にやりたかったのはこっちの方なのだろう。
8作目にして、デビュー作のレザボアドッグス的なサスペンス要素と、大好きな西部劇をミックスした作品を生み出した。
ここまで自分が敬愛する監督の要素を集めて、先代の音楽を担当したモリコーネとも仕事ができて、自分の常連俳優を豪華に使い、残酷描写もマックス。まあヒットはしない赤字映画な匂いはプンプンするが…。特に日本では、密室ミステリーとか、マーケティングずれすぎだろと腹立ちます、日本版。167分と時間は短い。海外は187分あるっぽいので。
ここまで西部劇を舞台に、連続して2本も優れた作品を出してしまったら、もはやタランティーノがマカロニウェスタン的な映画を撮ることはないかもしれない。
167分の長さを全く感じない、すごい映画であったが、やりきってしまった残念さを同時に感じた。
kojiroh