『FAKE』(2016年、日本)――90点。鬼才・森達也×佐村河内、羅生門的なドキュメンタリー

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監督:森達也
プロデューサー:橋本佳子
撮影:森達也、山崎裕
編集:鈴尾啓太
出演:佐村河内守・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

※リアルタイム映画評

2014年にゴーストライター騒動で日本中の注目を集めた佐村河内守。
彼を1年4ヶ月に渡って追った、ドキュメンタリー映画。
監督は、オウム真理教を題材にした「A」「A2」の鬼才、森達也。

詐欺師、ペテン師と糾弾されて表舞台から消えた男のドキュメンタリーがまさか撮られていたとは・・・一体どんな展開でドキュメンタリーとしてオチるのか、最後の12分がどうのこうのと、ネット上でも話題になっていたので、わたしはインディーズな横浜のミニシアターに足を運んで鑑賞した。

○あらすじ
聴覚に障害を抱えながら「交響曲第1番 HIROSHIMA」などの作品を手がけたとし、「現代のベートーベン」と称された佐村河内。しかし音楽家の新垣隆が18年間にわたってゴーストライターを務めていたことや、佐村河内の耳が聞こえていることを暴露。佐村河内は作品が自身だけの作曲でないことを認め騒動について謝罪したが、新垣に対しては名誉毀損で訴える可能性があると話し、その後は沈黙を守り続けてきた。本作では佐村河内の自宅で撮影を行ない、その素顔に迫るとともに、取材を申し込みに来るメディア関係者や外国人ジャーナリストらの姿も映し出す。
<映画.com>

さて、手話を駆使した佐村河内夫妻の会話が、まず強烈に頭に焼きつく。

わたしはこの事件を深く知らずに、実は耳が聞こえた男がゴーストを使って音楽ビジネスをしていた、ぐらいのレベルの理解だった。しかし、現実はもっと複雑で、黒か白か、というよりもグレーな話であったが、マスメディアが分かりやすい話に置き換えて、ジャーナリストが売名行為や復讐のために相手を徹底的に糾弾して、そういう極めて感情的で、自分都合な報道をしているように、本作から伝わってくる。

基本的に密室劇であり、森達也と夫妻と猫がメインキャラクターだ。2016-06-26_163556

猫は人間に見えない、その深い目が何か真実を見ている気さえしてくる。本作はこの猫が非常に重要な役割を成している。

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マスコミの誘導や時の流れによって成功者になった新垣。
ジャーナリストの大賞を受賞した神山。2016-06-26_163342

結果として売名に成功して、守さんを踏み台にして成功したとも言える人々がいる。

大人数で押しかけてお笑い番組に出演させようと押しかけるフジテレビのシーンと、困惑する猫の視点が、本作が最も否定したい部分を象徴している気がした。海外の本質的なジャーナリストの取材に比べると、日本の番組は大衆の娯楽と笑い作りしか考えていない、そんな低俗さを考えさせられた。

色んな真実を映し出しているが、あまりにも色んな見方ができる映画であるが、この夫妻、2人が素晴らしいのだ、結局は。

・豆乳をがぶのみする守
・ケーキを差し出す奥さん
・警察と消火器のフラグ2016-06-26_163539

それにしても、この映画は製作者の吐息が伝わってきて、それが自分の心にはものすごく痛烈に刺さる。どんでん返しがあるかもしれない、出演者と製作者の疑いさえも映像にゆれる。

どちらの言い分が真なのか――羅生門のような展開もある。現実の事件が無数の視点から証言が得られる。

無数の解釈ができる映画なので、ディティールを書くことは省略するが、・・・結論として、ペテン師である守さんという真実は変わらないが、佐村河内守という人間が非常に魅力的な人物であることは間違いなく、彼のカメラ写りが非常にいいから、自分の映画のために撮影を開始したインタビューに答えていた森監督の気持ちがよくわかる。

俳優としても、ベランダでタツヤさんと一緒に夕焼けと共にタバコを吸うシーンなんかは実に芸術的でもある。薄暗い部屋でのやりとりも。

思いのほか、本作が話題になって、ロングランになりそうな勢いができてきたので、この作品を契機に、さらなる物語の展開を成した、『FAKE2』を、待望したいと思います。

これで終わりではないだろ?? 頭の中でたくさん音楽が鳴っていて、この映画から新しいスタートが切れる、そんなエネルギーを感じた。2016-06-26_163437

「僕を信じますか?」
「僕は守サンと心中します」

全てがFAKEかもしれない。複雑怪奇で白黒ハッキリせず、グレーなこの世の中で、信じるものがあり、愛があるということが素晴らしいのかもしれない。

以上、歴史的な詐称事件のその裏側を見事に潜入して懐に入れ、アナザーストーリーをフィルムに収めることができた、数年に一本の傑作ドキュメンタリーだと思います。

kojiroh

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