『帰ってきたヒットラー』(2015年、ドイツ)――85点。ブラックコメディ&タブー映画


『帰ってきたヒットラー』(2015年、ドイツ)――116min
監督:デビッド・ベンド
脚本 :デヴィット・ヴェント
原作 :ティムール・ヴェルメシュ
出演:オリバー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルプスト、カーチャ・リーマン、フランツィシカ・ウルフ

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

2~3年前に話題となった小説が映画化されており、Amazon Primeにて視聴。

ヒトラーが現代によみがえり、モノマネ芸人として大スターになるというドイツのベストセラー小説の映画化。

●あらすじ
服装も顔もヒトラーにそっくりの男がリストラされたテレビマンによって見出され、テレビに出演させられるハメになった。男は戸惑いながらも、カメラの前で堂々と過激な演説を繰り出し、視聴者はその演説に度肝を抜かれる。かつてのヒトラーを模した完成度の高い芸として人々に認知された男は、モノマネ芸人として人気を博していくが、男の正体は1945年から21世紀にタイムスリップしたヒトラー本人だった。
<映画.comより>

ずばり、非常によくできた映画で驚きました。

テレビやインターネットが普及したこの時代にヒットラーが再来するとどうなるか?という原作の面白さもありますが、映像化する上でまず主演のオリバーマスッチが完全にヒットラーになりきっており、その演説の鋭さに圧倒されました。

かつ、セミドキュメンタリータッチになっており、本当にドイツ中を巡り実際の生インタビューも含んだ作りになっており、フィクションと思えないリアリティを醸し出しています。

物まね芸人として成功するヒットラーの姿からは、現代ドイツ国民もこういう激しい風刺と皮肉によって社会を楽しませる人物を求めているようにも。

特に印象的だったのが、カーチャ・リーマン演じるベリーニ女史です。

ヒットラー時代は映画監督のレニ・リーフェンシュタールがメディア制作に置いて重要な役割を果たしていましたが、現代ではその役割をベリーニ女史が担っているような気がしてなりませんでした。

ともかく、ドイツの社会問題をドキュメンタリーしつつヒットラー芸人が強烈なブラックコメディを展開し、2010年以降で必見の1本かもしれません。

kojiroh

『ゲティ家の身代金』(2018年、アメリカ)――80点。優れた金融サスペンス映画

監督 リドリー・スコット
脚本 デヴィッド・スカルパ
原作 ジョン・ピアースン「ゲティ家の身代金」(Painfully Rich: The Outrageous Fortunes and Misfortunes of the Heirs of J. Paul Getty)

出演者 ミシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー、マーク・ウォールバーグ、チャーリー・プラマー、ティモシー・ハットン、ロマン・デュリス

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

※リアルタイム映画評

2018年5月に劇場で見て、そのままになっていたレビューを拾い上げて再UPします。

1973年に起こったアメリカの大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐された事件を、「オデッセイ」「グラディエーター」など数々の名作を送り出してきた巨匠リドリー・スコット監督のメガホンで映画化。ゲティ役をケビン・スペイシーが演じて撮影されたが、完成間近にスペイシーがスキャンダルによって降板。クリストファー・プラマーが代役を務めて再撮影が行われ完成した話題作。

◎あらすじ
73年、石油王として巨大な富を手に入れた実業家ジャン・ポール・ゲティの17歳の孫ポールが、イタリアのローマで誘拐され、母親ゲイルのもとに、1700万ドルという巨額の身代金を要求する電話がかかってくる。しかし、希代の富豪であると同時に守銭奴としても知られたゲティは、身代金の支払いを拒否。ゲイルは息子を救うため、世界一の大富豪であるゲティとも対立しながら、誘拐犯と対峙することになる。
<Eiga.comより引用>

ずばり、普通のサスペンスかと思って劇場で鑑賞しましたが、サスペンスの枠を超えて金融映画の要素があり関心しました。

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この映画には、ゲティ氏がどのように金持ちになったかディティールが描かれています。

・大金持ちなのにドケチ
・相場より安く買うべく値切る

これを徹底して、結果的に美術品を無数に買い集めています。

原題:All the Money in the World

これは単なる誘拐サスペンスではなく、非常に楽しめました。

スキャンダルで失脚したスペイシーの代わりになったプラマーですが、オスカーノミネートされる貫禄であり、他にもマークウォールバーグの演技も冴えていた。

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予告編では陳腐な誘拐サスペンスに見えましたが、金融要素と、あと残虐なシーンもあり、さすがリドリースコットが監督するだけあり、いろんな観点から見ごたえある一作でした。

Kojiroh

『アウトレイジ 最終章』(2017年、日本)――75点。3番目に好きなアウトレイジ最新&最終章


『アウトレイジ 最終章』(2017年、日本)――104min
監督:北野武
脚本:北野武
音楽 鈴木慶一
出演:ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、大杉漣、松重豊、白竜、光石研、原田泰造、中村育二、津田寛治、池内博之、塩見三省、岸部一徳・・・Etc

【点数】 ★★★★★★★☆☆/ 7.5点

※リアルタイム映画評

久々に日本の映画館へ行きました。
世界の北野の新作を見るために…。

◎あらすじ
山王会と花菱会の一大抗争が終結し、大友は日韓に強大な影響力を持つフィクサー張会長を頼り、韓国へと渡る。ある時、花菱会の幹部・花田が滞在中の韓国でトラブルを起こし、張会長の手下を殺して日本へと逃げ帰ってしまう。これが引き金となり、張会長率いる張グループと内紛を抱えた花菱会が一触即発状態に。そんな中、いくつもの怒りを抱えた大友は手下の市川を伴い、日本へと舞い戻ってくるのだったが…。
<allcinema>

感想は、なんていうか、アウトレイジシリーズの中で、3番目に好きな作品でした。

つまり、ゴットファーザー3のような感想です。

ただ、うまく韓国と日本との関係を描けていて、特に最初の20分、JEJU島が登場する場面は思わずニヤリとしました。

北野映画に、ハングルが飛び交う町並みが。いい雰囲気で、ソナチネのような雰囲気もいい。沖縄どまりだった北野武がとうとうJEJU島まで国際化している点が。

俳優が第二の人生であるという、リアル経営者である金田の、貫禄ある雰囲気。とにかく全員、貫禄あり、ピエール瀧など新キャラクターも迫力あります。

 

今度は花菱の内乱みたいな話になり、前作で迫力ある演技を見せた塩見さんですが、今回は神経質な役になり、やつれた印象。

全員、なんだかんだ年とったなあという残念感が少しありました。5年の歳月ですから。

てか、やっぱまたこのオチなの?というガッカリ感があり、とにかく退廃的で、シリーズの勢いを含めて、出演者の年齢やしわの深さも含め、どんどん衰退してるなという感想です。

やっぱり、もうちょっと若い人らが活躍してくれないと、ちょっと2012年に比べて、若さが足りなすぎて、竜三と7人のコブンみたいな雰囲気が否めない。

新井や桐谷とかみたいなキャラが必要だったかなと。

今作の原田泰三の役どころも謎過ぎたし、突っ込みどころは多い。

ただ、大杉連の元証券マンの役どころは非常によかったと思います。北野組常連なので、貫禄を感じました。終わりの死に方も非常になんか、イメージするだけで痛くて怖い。

全体的に、国際化してるヤクザ経済の面が描かれてて、世界の北野の現代に対する風刺みたいな表現も感じて、決して悪くはありません。

罵倒の名台詞もあります。絵的に冴えてる表現も。

「ただの素人やないか!」

あと、「200万でどうだ?」「おまえそれウォンじゃねえだろうな、円で用意しろ」みたいなやり取りも印象的で、罵倒の中にユーモアも感じる一面もあり、よかったです。

なので、シリーズ3番目に好きな一作ということで。

Kojiroh

『キングコング 髑髏島の巨神』(2017年、アメリカ)――80点。大スぺクタクル 地獄の黙示録風キングコング


『キングコング 髑髏島の巨神』(2017年、アメリカ)――118min
監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ
脚本:ダン・ギルロイ、マックス・ボレンスタイン、デレク・コノリー
原案:ジョン・ゲイティンズ、ダン・ギルロイ
出演:トム・ヒドルストン、サミュエル・L・ジャクソン、ジョン・グッドマン、ブリー・ラーソン、ジン・ティエン、トビー・ケベル、ジョン・オーティス・・・Etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

※リアルタイム映画評

Kong: Skull Island

揺れる飛行機の中で、あるアクション映画新作を見ました。

「GODZILLA ゴジラ」を手がけたレジェンダリー・ピクチャーズが、ハリウッドを代表する巨大モンスター“キングコング”を壮大なスケールでリブートしたアクション・アドベンチャー大作。主演トム・ヒドルストン、共演にサミュエル・L・ジャクソン、ジョン・グッドマン、ブリー・ラーソン、ジン・ティエン。監督はTVを中心に活躍し、本作が長編2作目のジョーダン・ヴォート=ロバーツ

 

 

◎あらすじ
泥沼のベトナム戦争が終結を迎えつつある70年代前半。南太平洋上に未知の孤島が発見され、米国政府特務機関“モナーク”によって編成された調査隊が派遣される。リーダーを務めるのは、ジャングルでのサバイバルに精通した英国陸軍特殊空挺部隊の元兵士コンラッド。メンバーはほかに研究者にカメラマン、ベトナム帰りの米軍ヘリ部隊を率いるパッカード大佐といった面々。しかし調査のために爆破を繰り返す一行の前に突如、あまりにも巨大な生物キングコングが現われ、ヘリコプターを次々と破壊し始める。その圧倒的な破壊力に為す術もない人間たちは、この恐るべき生物から逃げ延び、一刻も早く島から脱出すべく決死のサバイバルを繰り広げるのだったが…。
<allcinema>

さて、まったく期待していなくて、かつキングコングも特に好きというわけではない筆者ですが、思いのほか楽しめてびっくりしました。

ベトナム戦争時代の時代背景、スピーディーなストーリー展開、ベタなように見えて、ものすごく完成度高いなと。

かつオカルトな話が好きな私として、地球空洞論、地底人の存在などの話にも触れており、かなり自分好みの作品でした。

敵キャラがみんながみんな強すぎて、都合よく主要人物が生き残るベタさもクソ映画として面白く、貫禄の演技を見せるサミュエルLジャクソンの軍人の姿も、ベタですが、迫力あり、クソ映画に必須な要素をすべて盛り込んだような傑作モンスター映画でしょう。

かつ揺れる飛行機の中で鑑賞したので、スリル満点でした。

世界的ギタリストのMiyaviも、まさかの冒頭で日本軍人を演じていたことをしり、後あと調べても楽しい映画だった。

2020年にはキングコングとゴジラの激突が予定されているとのこと。

キングコングをテーマにした大スぺクタル・クソ映画の飛躍が今後、期待できそうです。

Kojiroh

『はじまりのうた』(2013年、アメリカ)――85点。10年代傑作音楽映画


『はじまりのうた』(2013年、アメリカ)――104min
監督:ジョン・カーニー
脚本:ジョン・カーニー
出演:キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、ヘイリー・スタインフェルド、アダム・レヴィーン、ジェームズ・コーデン、ヤシーン・ベイ、シーロー・グリーン、キャサリン・キーナー・・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

※リアルタイム映画評

BEGIN AGAIN

昔、路上演奏をやってたときに、道端で知り合った人から、路上のそういった人々をモチーフにした面白い映画があると紹介されて、ようやく重い腰を上げて彼が紹介してくれたこの映画を鑑賞。

日本ではあまり有名ではないため、ずいぶんと話題にはなっていないが、クチコミではなかなかの評判。

アカデミー歌曲賞に輝いた「ONCE ダブリンの街角で」で高い評価を受けたジョン・カーニー監督が、キーラ・ナイトレイとマーク・ラファロを主演に迎えて贈る音楽ドラマ。崖っぷちの音楽プロデューサーが、恋人に裏切られた失意の女性シンガー・ソングライターと手を組み再起を図る姿をハートウォーミングに綴る。

 

 

◎あらすじ
音楽プロデューサーのダン。かつては人気ミュージシャンを次々と発掘し、ヒットを飛ばしてきた彼だったが、すっかり時代に取り残され、ついには自分が設立したレコード会社をクビになってしまう。失意のまま飲み明かし、酔いつぶれて辿り着いたバーで、ふと耳に飛び込んできた女性の歌声に心を奪われる。小さなステージで歌を披露していたのは、シンガー・ソングライターのグレタ。ブレイクしたミュージシャンの恋人デイヴに裏切られて別れたばかりで、今も失意のどん底。そんなグレタに一緒にアルバムを作ろうと提案するダン。お金のない2人がスタジオに選んだのは、なんとニューヨークの街の中。ストリート・ミュージシャンたちに参加してもらい、大胆にも路上でゲリラ・レコーディングを敢行してしまう2人だったが…。
<allcinema>

冒頭のOpen micのライブシーンから魅了された。

キーラ・ナイトレイの美しさと、歌声に魅了され、マーク・ラファロの渋い貫禄ある演技、主演の2人が素晴らしい。

都会の孤独と、傷ついた心を、そんなものをふっとばす勢いがある。みんないいけれど、特にラファロの破天荒かつコミカルな演技が圧巻ですね。

音楽の良さだけでなく、都会で生きる人々の心をつかむ、普遍的なメッセージに満ちている。

 

 

 

道端で知り合ったような人々との出会いと、新しいプロジェクトと、それによって更生してゆく人々の姿は勇気をもらえる。

イギリスから来た女が主人公だが、人種など関係なく音楽でつながり、何かを成す姿は、いかにもアメリカ的であり、そういったストーリーは現代チックでもあり、路上演奏ではじまるこの映画は、極めて個人的にはバチーンと来る一作だった。

主演の2人をはじめ、マルーン5のアダムレヴィーンも出ており、日本ではまったく話題になっていないが、かなり豪華で、よくできた映画だ。

音楽業界と個人の利益、ネット配信への葛藤であったり、ラストに向かうにつれて、表情が変わってゆくキャスト各々が素晴らしく、音楽映画としてはメッセージにも富んでおり、完璧に近い出来栄えだと思います。

インサイド・ルーウィンデイビスに匹敵する、近年の傑作音楽映画でしょう。

kojiroh

『Scoop!』(2016年、日本)――80点。傑作邦画パパラッチ映画


『Scoop!』(2016年、日本)――120min
監督:大根仁
脚本:大根仁
原作:原田眞人『盗写 1/250秒』
出演:福山雅治、二階堂ふみ、吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキー、斎藤工、塚本晋也、中村育二・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

※リアルタイム映画評

1985年公開の『盗写 1/250秒 OUT OF FOCUS』を基にした福山雅治主演のドラマ。

クチコミでやや話題になっていたが全然ヒットしなかった映画、SCOOP!!

福山主演ってことで、出演陣は悪くないので、機内で見つけて鑑賞してみた。



◎あらすじ
パパラッチとして生計を立てる中年カメラマンが、個性豊かな写真週刊誌の記者らと共に巨大な事件を追いかける。メガホンを取るのは『バクマン。』などの大根仁。共演として、『ヒミズ』などの二階堂ふみ、『HERO』シリーズなどの吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキーらが顔をそろえる。
<Yahoo映画>

ずばり、意外と面白くてビックリしました。

そして、すごくゲスでビックリ。真面目な映画化と思ったら、シリアス系ゲス映画で、いろいろと衝撃でした。

今の時期にできた映画であるからこそ、無性に面白く感じる。

文春砲といわれるほど、プライバシー侵害して儲ける週刊誌の実態が、実にゲスでリアルに感じて、にわかにフィクションと思えないリアルさがある。

とにかく、ストーリーの面白さももちろん、スキャンダルのゲスさと、それを暴く福山らパパラッチのゲスさにびっくり。

パワハラセクハラなんでもありの仕事であり、中年とはいえ、2枚目俳優の福山がこんなゲスでいいのかと驚き。昼間から酒を飲み、常にタバコを吸い、風俗にも通い、闇に汚染された、掃きだめみたいな役。

この映画、最初は二階堂ふみをはじめ、全員うざい。

 


うざいんだが、だんだんスキャンダルと共に成長してゆくストーリーがあり、すごくいいチームだったんだと感情輸入できる。

スキャンダルも昨今の出来事にモチーフがあり、いちいち共感できる。

あまり子供に見せたくない映画であり、ヒットしないだろうと思うが、映画自体の完成度は高く、巧みな演技を見せる俳優陣が多く、良作判定。

個人的に半沢にもでてた、あの俳優が罵倒系社員を感じつつも、コミカルな要素があって、すごくよかった。

リリーフランキーも出てるが、個人的に彼よりも馬場さん役の滝藤賢一の方が優れた助演に感じた。

二階堂ふみも彼女とわからないほど、イメージが違って、なかなかのカメレオン女優だなと、若いが演技力を評価できる。

演出も、なかなか特徴的なカット多かったんですよねえ。警察に囲まれる中、天にカメラを向ける福山の姿とか、大塚愛のさくらんぼを歌う二階堂ふみのシーンなんかも、すごく印象的。

コンプライアンスとか抜きにして仕事に情熱を注ぐ人々の姿は、なんだか非常に刺激になりました。こういう人たちが今の日本を作ってるんだなとも、グローバル化には反してますが、こういうのが日本のローカルなんだなと、妙に感心。

 

初めてみたパパラッチ映画ですが、もっと評価されてもいい映画かと。このキャストでは、なかなか作れないと思います。

ともかく、全体的には78点、ゲス映画としては100点でした。

Kojiroh

『この世界の片隅に』(2016年、日本)――75点、火垂るの墓以来の傑作戦争アニメ映画


『この世界の片隅に』(2016年、日本)――128min
監督:片渕須直
脚本:片渕須直
原作:こうの史代『この世界の片隅に』
主題歌 コトリンゴ「みぎてのうた」
出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔・・・

【点数】 ★★★★★★★☆☆/ 7.5点

※リアルタイム映画評

同名コミックの映画化で、ミニシアター系にして異例のヒットをして、各方面で絶賛される、噂の戦争映画。第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞。

公開後は口コミが広まり、15週連続で興行ランキングのトップ10入り。第90回キネマ旬報トップテンで「となりのトトロ」以来となるアニメーション作品での1位を獲得するなど高く評価された。

能年玲奈から改名したのんが主人公すず役でアニメ映画の声優に初挑戦した。

◎あらすじ
第2次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描く。昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた女性すずは、戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。それでもお、前を向いて日々の暮らしを営み続けるすずだったが……。

<映画.com>

さて、非常に感情輸入できた。

実はわたし、広島出身なので、ローカルな土地勘が非常にわかる。呉もよく知っている。そのため、何やら故郷がえらく全国展開しており、楽しめました。

評判になるだけのことはあるクオリティで、穏やかな主人公の戦時中の生活が垣間見れて、ディティールが細かく、保存食の作り方や、闇マーケットでの食料の調達など、戦時中はこういう世界だったのかと、興味深かったです。

ある種、ドキュメンタリー風でもあり、こうした戦争ドラマが全国ヒットすることが驚き。君の名はもそうだが、独特なキャラクターのかわいさがあるからか、家族でも見れるアニメになってますね。

映画としてよくできており、火垂るの墓以来に面白い戦争映画かもしれません。

 

それにしても、戦争体験のシェア、そして反省、平和教育として本作のような映画を見ることは重要だと思うが、何よりなんでこんなバカな勝てもしない戦争をしてしまったのだろうかと、そうした戦争の大きな意思決定の失敗による、日本人の気質さえ感じてしまう。

現代では経済戦争で、シャープや東芝が大失敗しており、海外へ進出して投資を失敗して本体が解体されるなど、まさに二次大戦のような大失敗をする名門大企業も出てきており、そうした事件と先の戦争がだぶって見えてしまった。

焦土作戦が塩漬けのようなもので、最後の新型爆弾はロスカット執行のような事件に思えた。

結局は、こうした穏やかな庶民が一番最後には敗戦のケツぬぐいをすることになる。

この世界の片隅には、そうした大失敗と損失を、ぼーっとしてるが穏やかな人々が暖かく包んでくれるような存在に安らぎを感じ、なんだか優しい気分になれるが、こういう庶民を傷つけないために、権力者や責任ある人々は安易な意思決定でリスクを軽視してはいけないと、大きな教訓にもなりえる映画だと思いました。

 

kojiroh

『スノーデン』(2016年、アメリカ)――80点。続・シティズンフォー、サイバーサスペンス映画


『スノーデン』(2016年、アメリカ)――135min
監督:オリバー・ストーン
脚本:キーラン・フィッツジェラルド、オリバー・ストーン
原作:ルーク・ハーディング『スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実(英語版)』
アナトリー・クチェレナ(英語版)
『Time of the Octopus』
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、シャイリーン・ウッドリー、メリッサ・レオ、ザカリー・クイント・・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

※リアルタイム映画評

シティズンフォーに続き、見るべき映画としてようやく公開された、エドワード・スノーデンの物語。

ハリウッドを代表する社会派監督オリバー・ストーンが、アメリカ政府による個人情報監視の実態を暴いた実話を、ジョセフ・ゴードン=レビット主演で映画化。

◎あらすじ

2013年6月、イギリスのガーディアン誌が報じたスクープにより、アメリカ政府が秘密裏に構築した国際的監視プログラムの存在が発覚する。ガーディアン誌にその情報を提供したのは、アメリカ国家安全保障局NSAの職員である29歳の青年エドワード・スノーデンだった。国を愛する平凡な若者だったスノーデンが、なぜ輝かしいキャリアと幸せな人生を捨ててまで、世界最強の情報機関に反旗を翻すまでに至ったのか。テロリストのみならず全世界の個人情報が監視されている事実に危機感を募らせていく過程を、パートナーとしてスノーデンを支え続けたリンゼイ・ミルズとの関係も交えながら描き出す。
<映画.com>

スノーデンの物語は実によくできており、しかも実話であるからこそ驚くべきだと思う。

29歳の彼の人生そのものが、美しいドラマである点が、ドキュメンタリー・シティズンフォーでも感じたが、驚くべく、見るべき内容だと思う。

もちろん、諜報機関のビジネスを、生い立ちからジュネーブ、日本、ハワイ、最後は香港まで駆け抜けていくストーリーは圧巻です。うまくロケで勢いがありました。

サイバー世界での具体的な諜報システムのシーンなどは、実際の生活に照らし合わせると怖くなるほどリアルで、この怖さが本作を優れたサスペンス映画にしている。

トレードマークのルービックキューブも、本当に彼の立ち振る舞いそれ自体が映画的。

ともかく、オリバーストーンがこのような映画を作れて公開できたことが、世界がまだ守られている証拠のように感じられる。だが、警告として成り立つメッセージ性の強い映画だった。

オバマから、さらにトランプ大統領へのアメリカの言及もあり、日本での活動内容もあるので、面白いさ以上に見る価値のある映画だったと感じる次第。

ともかく、アメリカの政治と軍産という存在を強く理解させられる。

それにしても、唯一気になるのが、主演のジョセフゴードンやシャイリーンウッドリーよりも、実物の彼らの方が美男美女で絵になることでしょうか。こればかりは、事実は小説よりも奇なり、という言葉を思い出すばかりであります。

暫定、今年NO.1 社会的に見るべき映画でした。
kojiroh

『ラ・ラ・ランド』(2016年、アメリカ)――90点。近年最高峰のミュージカル映画


『ラ・ラ・ランド』(2016年、アメリカ)――128min
監督:デミアン・チャゼル
脚本:デミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、ローズマリー・デウィット・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

※リアルタイム映画評

オスカー6部門受賞のミュージカル映画――史上最多14ノミネート、監督賞、主演女優賞(エマ・ストーン)、撮影賞、作曲賞 、歌曲賞(「City of Stars」)、美術賞受賞。

日本でもヒットしているラブストーリーということで、筆者は全然趣味ではないが、セッションの監督の最新作かつ、ライアンゴズリング主演ってことで、評判がえらくいいので、劇場に足を運んでみました。

◎あらすじ
夢を追う人々が集う街、ロサンゼルス。女優志望のミアは映画スタジオのカフェで働きながら、いくつものオーディションを受ける日々。なかなか役がもらえず意気消沈する彼女は、場末のバーから流れてくるピアノの音色に心惹かれる。弾いていたのは、以前フリーウェイで最悪な出会いをした相手セブだった。彼も自分の店を持って思う存分ジャズを演奏したいという夢を持ちながらも、厳しい現実に打ちのめされていた。そんな2人はいつしか恋に落ち、互いに励まし合いながらそれぞれの夢に向かって奮闘していくのだったが…。
<allcinema>

ベタでよくありがちなアメリカンミュージカル映画、のように思えて、すごく現代チックに洗練されており、まったく古臭さを感じることなく、カリフォルニアの陽気な季節と共にコミカルかつ、シリアスなシーンも交えて展開されるミュージックストーリーに引き込まれました。

主演の2人はどちらもキャラが立っていて素晴らしいが、特にライアンゴズリングでしょう。ピアノを弾く姿がとても美しい。

ジャズへのこだわりを持つ厄介者で、ここはセッションとも似た設定ですが、頑固な売れないミュージシャンながらもユーモラスな面を持つ部分が特にゴズリングはまり役。

彼はドライブみたいな深刻すぎる役より、マネーショートや本作など、コミカルな部分も見せたイケメン役の方がしっくり来ると思う。

夕暮れ時のダンスシーンの美しさもさることながら、セッションでも共作した、ジャスティンハーウィッツの楽曲が素晴らしいです。特にオスカー受賞したCity of starsが名曲すぎる。古臭いようで新しい、ララランドも含めて、そういう言葉で語りたくなる。

ともかく、何か新しい表現手法があり画期的というわけではないが、素晴らしいです。ぜんぜん古臭くなく、これぞ映画だと思える。ミュージカルシーンでうまくエピソードのオチを完結させることで、スピーディーな物語展開を実現しているようで、チャゼル監督は32歳ながらも、セッションに続きこんな完璧な映画を作れることに脱帽です。

音楽が好きな人はハマる要素大、演技、演出、音楽まで、オスカー14ノミネート納得の、見るべき映画だと思います。

だが、それにしてもセッションといい、本作は音楽という夢を追っている(っていた)ものの共感を非常に得やすいストーリーであり、監督自身もその1人だったこともあり、いわゆるチャゼル監督は、そうした夢追い人の共感や絶賛を誘うストーリーテラーとしては最高峰なのだろうと。

それこそが時代のニーズでもあり、多くの夢追って破れた者がいるからこその、いわゆるクリエイターのオアシス的映画の役割を担っているのかもしれない。

kojiroh

『セッション』(2014年、アメリカ)――85点。映画史を塗り替えた?音楽映画


『セッション』(2014年、アメリカ)――106min
監督:デミアン・チャゼル
脚本:デミアン・チャゼル
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、ポール・ライザー、メリッサ・ブノワ、オースティン・ストウェル・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

ずっと前から名作と話題になっていたが、劇場で見るのを忘れていたセッションをようやく鑑賞。

一流のドラマーを目指し名門音楽大学に入学した青年がの音楽青春ドラマ。マイルズ・テラー、鬼気迫る演技でアカデミー助演男優賞をはじめ映画賞を総なめにしたJ・K・シモンズ。

監督は、長編2作目、若き天才映画監督、デイミアン・チャゼル。

◎あらすじ
偉大なジャズドラマーを夢見て全米屈指の名門、シェイファー音楽院に入学したニーマン。ある日、フレッチャー教授の目に止まり、彼のバンドにスカウトされる。そこで成功すれば、偉大な音楽家になるという夢は叶ったも同然。自信と期待を胸に練習に参加したニーマンだったが、そんな彼を待っていたのは、わずかなテンポのずれも許さないフレッチャーの狂気のレッスンだった。それでも頂点を目指すためと、罵声や理不尽な仕打ちに耐え、フレッチャーのイジメのごとき指導に必死で食らいついていくニーマンだったが…。
<allcinema>

薄暗く、泥臭いほど血の匂いがしそうなドラム練習室でのシーンはデビッドフィンチャー映画のような迫力がある。

出演者全員が実際に演奏をしており、音楽経験者がそろっていることもあり、ジャズの演奏シーンは本当に迫力があり、監督自身もよく音楽をわかっている人なのだなと実感できました。

主演もいいですが、なんといっても本作は助演のフレッチャー教授が圧巻。

オスカーも納得。こんないい助演男優賞は、イングロリアスバスターズのクリストファ・ボルツ以来じゃないかなと。

狂気と殺意の中で、理想の音楽を目指す2人の姿には、同じく音楽をやっている筆者の共感を誘い、心の深い部分に入ってくる映画でした。

人を殺すような気持ちで音楽をやることが、音楽の発展へとつながり、それが次なるチャーリーパーカーを生むのかもしれない。

今の時代は甘すぎる、ジャズが死んでしまう、無能はロックをやればいい・・・ところどころ散りばめられる、音楽をやっていた監督が訴えかけたいようなメッセージがひしひしと伝わってくる。

音楽という夢を追う若者のストイックさに、とにかく胸を打たれる映画です。

ひたすらひたすら練習、練習、そして練習。マイルスデイビスの言葉を彷彿させる、憧れの職業、ミュージシャンの本質がここには表現されている。

 

ただそれ以上に、フレッチャーの狂気が蔓延して、もはやホラー映画とも思える怖さを感じてしまった。

結論をいうと、本作は映画史に残る、サイコパス映画だと言えよう。

近年のサイコパスが主役の映画では、ゴーンガールなどもあったが、本作はオスカー受賞したJKシモンズのフレッチャー役のインパクトがすさまじい。実際に見た後、夢に出てくるほど、トラウマになるほど強烈である。

まったく善人でもなければ理想は高く、理解されないほどの音楽への情熱は持っているが、やっていることは犯罪者のような、冷酷非道。いわばサイコパスだが社会的に成功しうる人物の特徴を見事にとらえていると思う。

社会的に成功しているサイコパス映画でウォール街などがあげられるが、それもはるかに上をいくほど、鬼気迫る迫力のサイコパスが、フレッチャー教授だと思う。

最後の9分は映画の歴史に残ったと言われるが、4分間のピアニストなどの例もあり、確かに素晴らしいエンディングで衝撃的で、見るべく人が見れば映画史の事件だろう。

106分、スピーディーかつ情熱的、危機迫る内容で無駄は一切なく、完璧な映画、古臭いテーマなようで現代チックで音楽の選曲も素晴らしく、90点以上に値する映画だと思うが。

ただ、やはりサイコパスなフレッチャー教授がトラウマになりそうな映画で、何度も見たいとは思えず、85点映画にしました。でも音楽映画でここまで完璧な映画はまれだと、4分間のピアニスト以来の秀作だと思います。

kojiroh