『ゲティ家の身代金』(2018年、アメリカ)――80点。優れた金融サスペンス映画

監督 リドリー・スコット
脚本 デヴィッド・スカルパ
原作 ジョン・ピアースン「ゲティ家の身代金」(Painfully Rich: The Outrageous Fortunes and Misfortunes of the Heirs of J. Paul Getty)

出演者 ミシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー、マーク・ウォールバーグ、チャーリー・プラマー、ティモシー・ハットン、ロマン・デュリス

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

※リアルタイム映画評

2018年5月に劇場で見て、そのままになっていたレビューを拾い上げて再UPします。

1973年に起こったアメリカの大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐された事件を、「オデッセイ」「グラディエーター」など数々の名作を送り出してきた巨匠リドリー・スコット監督のメガホンで映画化。ゲティ役をケビン・スペイシーが演じて撮影されたが、完成間近にスペイシーがスキャンダルによって降板。クリストファー・プラマーが代役を務めて再撮影が行われ完成した話題作。

◎あらすじ
73年、石油王として巨大な富を手に入れた実業家ジャン・ポール・ゲティの17歳の孫ポールが、イタリアのローマで誘拐され、母親ゲイルのもとに、1700万ドルという巨額の身代金を要求する電話がかかってくる。しかし、希代の富豪であると同時に守銭奴としても知られたゲティは、身代金の支払いを拒否。ゲイルは息子を救うため、世界一の大富豪であるゲティとも対立しながら、誘拐犯と対峙することになる。
<Eiga.comより引用>

ずばり、普通のサスペンスかと思って劇場で鑑賞しましたが、サスペンスの枠を超えて金融映画の要素があり関心しました。

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この映画には、ゲティ氏がどのように金持ちになったかディティールが描かれています。

・大金持ちなのにドケチ
・相場より安く買うべく値切る

これを徹底して、結果的に美術品を無数に買い集めています。

原題:All the Money in the World

これは単なる誘拐サスペンスではなく、非常に楽しめました。

スキャンダルで失脚したスペイシーの代わりになったプラマーですが、オスカーノミネートされる貫禄であり、他にもマークウォールバーグの演技も冴えていた。

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予告編では陳腐な誘拐サスペンスに見えましたが、金融要素と、あと残虐なシーンもあり、さすがリドリースコットが監督するだけあり、いろんな観点から見ごたえある一作でした。

Kojiroh

『キングコング 髑髏島の巨神』(2017年、アメリカ)――80点。大スぺクタクル 地獄の黙示録風キングコング


『キングコング 髑髏島の巨神』(2017年、アメリカ)――118min
監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ
脚本:ダン・ギルロイ、マックス・ボレンスタイン、デレク・コノリー
原案:ジョン・ゲイティンズ、ダン・ギルロイ
出演:トム・ヒドルストン、サミュエル・L・ジャクソン、ジョン・グッドマン、ブリー・ラーソン、ジン・ティエン、トビー・ケベル、ジョン・オーティス・・・Etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

※リアルタイム映画評

Kong: Skull Island

揺れる飛行機の中で、あるアクション映画新作を見ました。

「GODZILLA ゴジラ」を手がけたレジェンダリー・ピクチャーズが、ハリウッドを代表する巨大モンスター“キングコング”を壮大なスケールでリブートしたアクション・アドベンチャー大作。主演トム・ヒドルストン、共演にサミュエル・L・ジャクソン、ジョン・グッドマン、ブリー・ラーソン、ジン・ティエン。監督はTVを中心に活躍し、本作が長編2作目のジョーダン・ヴォート=ロバーツ

 

 

◎あらすじ
泥沼のベトナム戦争が終結を迎えつつある70年代前半。南太平洋上に未知の孤島が発見され、米国政府特務機関“モナーク”によって編成された調査隊が派遣される。リーダーを務めるのは、ジャングルでのサバイバルに精通した英国陸軍特殊空挺部隊の元兵士コンラッド。メンバーはほかに研究者にカメラマン、ベトナム帰りの米軍ヘリ部隊を率いるパッカード大佐といった面々。しかし調査のために爆破を繰り返す一行の前に突如、あまりにも巨大な生物キングコングが現われ、ヘリコプターを次々と破壊し始める。その圧倒的な破壊力に為す術もない人間たちは、この恐るべき生物から逃げ延び、一刻も早く島から脱出すべく決死のサバイバルを繰り広げるのだったが…。
<allcinema>

さて、まったく期待していなくて、かつキングコングも特に好きというわけではない筆者ですが、思いのほか楽しめてびっくりしました。

ベトナム戦争時代の時代背景、スピーディーなストーリー展開、ベタなように見えて、ものすごく完成度高いなと。

かつオカルトな話が好きな私として、地球空洞論、地底人の存在などの話にも触れており、かなり自分好みの作品でした。

敵キャラがみんながみんな強すぎて、都合よく主要人物が生き残るベタさもクソ映画として面白く、貫禄の演技を見せるサミュエルLジャクソンの軍人の姿も、ベタですが、迫力あり、クソ映画に必須な要素をすべて盛り込んだような傑作モンスター映画でしょう。

かつ揺れる飛行機の中で鑑賞したので、スリル満点でした。

世界的ギタリストのMiyaviも、まさかの冒頭で日本軍人を演じていたことをしり、後あと調べても楽しい映画だった。

2020年にはキングコングとゴジラの激突が予定されているとのこと。

キングコングをテーマにした大スぺクタル・クソ映画の飛躍が今後、期待できそうです。

Kojiroh

『はじまりのうた』(2013年、アメリカ)――85点。10年代傑作音楽映画


『はじまりのうた』(2013年、アメリカ)――104min
監督:ジョン・カーニー
脚本:ジョン・カーニー
出演:キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、ヘイリー・スタインフェルド、アダム・レヴィーン、ジェームズ・コーデン、ヤシーン・ベイ、シーロー・グリーン、キャサリン・キーナー・・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

※リアルタイム映画評

BEGIN AGAIN

昔、路上演奏をやってたときに、道端で知り合った人から、路上のそういった人々をモチーフにした面白い映画があると紹介されて、ようやく重い腰を上げて彼が紹介してくれたこの映画を鑑賞。

日本ではあまり有名ではないため、ずいぶんと話題にはなっていないが、クチコミではなかなかの評判。

アカデミー歌曲賞に輝いた「ONCE ダブリンの街角で」で高い評価を受けたジョン・カーニー監督が、キーラ・ナイトレイとマーク・ラファロを主演に迎えて贈る音楽ドラマ。崖っぷちの音楽プロデューサーが、恋人に裏切られた失意の女性シンガー・ソングライターと手を組み再起を図る姿をハートウォーミングに綴る。

 

 

◎あらすじ
音楽プロデューサーのダン。かつては人気ミュージシャンを次々と発掘し、ヒットを飛ばしてきた彼だったが、すっかり時代に取り残され、ついには自分が設立したレコード会社をクビになってしまう。失意のまま飲み明かし、酔いつぶれて辿り着いたバーで、ふと耳に飛び込んできた女性の歌声に心を奪われる。小さなステージで歌を披露していたのは、シンガー・ソングライターのグレタ。ブレイクしたミュージシャンの恋人デイヴに裏切られて別れたばかりで、今も失意のどん底。そんなグレタに一緒にアルバムを作ろうと提案するダン。お金のない2人がスタジオに選んだのは、なんとニューヨークの街の中。ストリート・ミュージシャンたちに参加してもらい、大胆にも路上でゲリラ・レコーディングを敢行してしまう2人だったが…。
<allcinema>

冒頭のOpen micのライブシーンから魅了された。

キーラ・ナイトレイの美しさと、歌声に魅了され、マーク・ラファロの渋い貫禄ある演技、主演の2人が素晴らしい。

都会の孤独と、傷ついた心を、そんなものをふっとばす勢いがある。みんないいけれど、特にラファロの破天荒かつコミカルな演技が圧巻ですね。

音楽の良さだけでなく、都会で生きる人々の心をつかむ、普遍的なメッセージに満ちている。

 

 

 

道端で知り合ったような人々との出会いと、新しいプロジェクトと、それによって更生してゆく人々の姿は勇気をもらえる。

イギリスから来た女が主人公だが、人種など関係なく音楽でつながり、何かを成す姿は、いかにもアメリカ的であり、そういったストーリーは現代チックでもあり、路上演奏ではじまるこの映画は、極めて個人的にはバチーンと来る一作だった。

主演の2人をはじめ、マルーン5のアダムレヴィーンも出ており、日本ではまったく話題になっていないが、かなり豪華で、よくできた映画だ。

音楽業界と個人の利益、ネット配信への葛藤であったり、ラストに向かうにつれて、表情が変わってゆくキャスト各々が素晴らしく、音楽映画としてはメッセージにも富んでおり、完璧に近い出来栄えだと思います。

インサイド・ルーウィンデイビスに匹敵する、近年の傑作音楽映画でしょう。

kojiroh

『スノーデン』(2016年、アメリカ)――80点。続・シティズンフォー、サイバーサスペンス映画


『スノーデン』(2016年、アメリカ)――135min
監督:オリバー・ストーン
脚本:キーラン・フィッツジェラルド、オリバー・ストーン
原作:ルーク・ハーディング『スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実(英語版)』
アナトリー・クチェレナ(英語版)
『Time of the Octopus』
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、シャイリーン・ウッドリー、メリッサ・レオ、ザカリー・クイント・・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

※リアルタイム映画評

シティズンフォーに続き、見るべき映画としてようやく公開された、エドワード・スノーデンの物語。

ハリウッドを代表する社会派監督オリバー・ストーンが、アメリカ政府による個人情報監視の実態を暴いた実話を、ジョセフ・ゴードン=レビット主演で映画化。

◎あらすじ

2013年6月、イギリスのガーディアン誌が報じたスクープにより、アメリカ政府が秘密裏に構築した国際的監視プログラムの存在が発覚する。ガーディアン誌にその情報を提供したのは、アメリカ国家安全保障局NSAの職員である29歳の青年エドワード・スノーデンだった。国を愛する平凡な若者だったスノーデンが、なぜ輝かしいキャリアと幸せな人生を捨ててまで、世界最強の情報機関に反旗を翻すまでに至ったのか。テロリストのみならず全世界の個人情報が監視されている事実に危機感を募らせていく過程を、パートナーとしてスノーデンを支え続けたリンゼイ・ミルズとの関係も交えながら描き出す。
<映画.com>

スノーデンの物語は実によくできており、しかも実話であるからこそ驚くべきだと思う。

29歳の彼の人生そのものが、美しいドラマである点が、ドキュメンタリー・シティズンフォーでも感じたが、驚くべく、見るべき内容だと思う。

もちろん、諜報機関のビジネスを、生い立ちからジュネーブ、日本、ハワイ、最後は香港まで駆け抜けていくストーリーは圧巻です。うまくロケで勢いがありました。

サイバー世界での具体的な諜報システムのシーンなどは、実際の生活に照らし合わせると怖くなるほどリアルで、この怖さが本作を優れたサスペンス映画にしている。

トレードマークのルービックキューブも、本当に彼の立ち振る舞いそれ自体が映画的。

ともかく、オリバーストーンがこのような映画を作れて公開できたことが、世界がまだ守られている証拠のように感じられる。だが、警告として成り立つメッセージ性の強い映画だった。

オバマから、さらにトランプ大統領へのアメリカの言及もあり、日本での活動内容もあるので、面白いさ以上に見る価値のある映画だったと感じる次第。

ともかく、アメリカの政治と軍産という存在を強く理解させられる。

それにしても、唯一気になるのが、主演のジョセフゴードンやシャイリーンウッドリーよりも、実物の彼らの方が美男美女で絵になることでしょうか。こればかりは、事実は小説よりも奇なり、という言葉を思い出すばかりであります。

暫定、今年NO.1 社会的に見るべき映画でした。
kojiroh

『ラ・ラ・ランド』(2016年、アメリカ)――90点。近年最高峰のミュージカル映画


『ラ・ラ・ランド』(2016年、アメリカ)――128min
監督:デミアン・チャゼル
脚本:デミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、ローズマリー・デウィット・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

※リアルタイム映画評

オスカー6部門受賞のミュージカル映画――史上最多14ノミネート、監督賞、主演女優賞(エマ・ストーン)、撮影賞、作曲賞 、歌曲賞(「City of Stars」)、美術賞受賞。

日本でもヒットしているラブストーリーということで、筆者は全然趣味ではないが、セッションの監督の最新作かつ、ライアンゴズリング主演ってことで、評判がえらくいいので、劇場に足を運んでみました。

◎あらすじ
夢を追う人々が集う街、ロサンゼルス。女優志望のミアは映画スタジオのカフェで働きながら、いくつものオーディションを受ける日々。なかなか役がもらえず意気消沈する彼女は、場末のバーから流れてくるピアノの音色に心惹かれる。弾いていたのは、以前フリーウェイで最悪な出会いをした相手セブだった。彼も自分の店を持って思う存分ジャズを演奏したいという夢を持ちながらも、厳しい現実に打ちのめされていた。そんな2人はいつしか恋に落ち、互いに励まし合いながらそれぞれの夢に向かって奮闘していくのだったが…。
<allcinema>

ベタでよくありがちなアメリカンミュージカル映画、のように思えて、すごく現代チックに洗練されており、まったく古臭さを感じることなく、カリフォルニアの陽気な季節と共にコミカルかつ、シリアスなシーンも交えて展開されるミュージックストーリーに引き込まれました。

主演の2人はどちらもキャラが立っていて素晴らしいが、特にライアンゴズリングでしょう。ピアノを弾く姿がとても美しい。

ジャズへのこだわりを持つ厄介者で、ここはセッションとも似た設定ですが、頑固な売れないミュージシャンながらもユーモラスな面を持つ部分が特にゴズリングはまり役。

彼はドライブみたいな深刻すぎる役より、マネーショートや本作など、コミカルな部分も見せたイケメン役の方がしっくり来ると思う。

夕暮れ時のダンスシーンの美しさもさることながら、セッションでも共作した、ジャスティンハーウィッツの楽曲が素晴らしいです。特にオスカー受賞したCity of starsが名曲すぎる。古臭いようで新しい、ララランドも含めて、そういう言葉で語りたくなる。

ともかく、何か新しい表現手法があり画期的というわけではないが、素晴らしいです。ぜんぜん古臭くなく、これぞ映画だと思える。ミュージカルシーンでうまくエピソードのオチを完結させることで、スピーディーな物語展開を実現しているようで、チャゼル監督は32歳ながらも、セッションに続きこんな完璧な映画を作れることに脱帽です。

音楽が好きな人はハマる要素大、演技、演出、音楽まで、オスカー14ノミネート納得の、見るべき映画だと思います。

だが、それにしてもセッションといい、本作は音楽という夢を追っている(っていた)ものの共感を非常に得やすいストーリーであり、監督自身もその1人だったこともあり、いわゆるチャゼル監督は、そうした夢追い人の共感や絶賛を誘うストーリーテラーとしては最高峰なのだろうと。

それこそが時代のニーズでもあり、多くの夢追って破れた者がいるからこその、いわゆるクリエイターのオアシス的映画の役割を担っているのかもしれない。

kojiroh

『セッション』(2014年、アメリカ)――85点。映画史を塗り替えた?音楽映画


『セッション』(2014年、アメリカ)――106min
監督:デミアン・チャゼル
脚本:デミアン・チャゼル
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、ポール・ライザー、メリッサ・ブノワ、オースティン・ストウェル・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

ずっと前から名作と話題になっていたが、劇場で見るのを忘れていたセッションをようやく鑑賞。

一流のドラマーを目指し名門音楽大学に入学した青年がの音楽青春ドラマ。マイルズ・テラー、鬼気迫る演技でアカデミー助演男優賞をはじめ映画賞を総なめにしたJ・K・シモンズ。

監督は、長編2作目、若き天才映画監督、デイミアン・チャゼル。

◎あらすじ
偉大なジャズドラマーを夢見て全米屈指の名門、シェイファー音楽院に入学したニーマン。ある日、フレッチャー教授の目に止まり、彼のバンドにスカウトされる。そこで成功すれば、偉大な音楽家になるという夢は叶ったも同然。自信と期待を胸に練習に参加したニーマンだったが、そんな彼を待っていたのは、わずかなテンポのずれも許さないフレッチャーの狂気のレッスンだった。それでも頂点を目指すためと、罵声や理不尽な仕打ちに耐え、フレッチャーのイジメのごとき指導に必死で食らいついていくニーマンだったが…。
<allcinema>

薄暗く、泥臭いほど血の匂いがしそうなドラム練習室でのシーンはデビッドフィンチャー映画のような迫力がある。

出演者全員が実際に演奏をしており、音楽経験者がそろっていることもあり、ジャズの演奏シーンは本当に迫力があり、監督自身もよく音楽をわかっている人なのだなと実感できました。

主演もいいですが、なんといっても本作は助演のフレッチャー教授が圧巻。

オスカーも納得。こんないい助演男優賞は、イングロリアスバスターズのクリストファ・ボルツ以来じゃないかなと。

狂気と殺意の中で、理想の音楽を目指す2人の姿には、同じく音楽をやっている筆者の共感を誘い、心の深い部分に入ってくる映画でした。

人を殺すような気持ちで音楽をやることが、音楽の発展へとつながり、それが次なるチャーリーパーカーを生むのかもしれない。

今の時代は甘すぎる、ジャズが死んでしまう、無能はロックをやればいい・・・ところどころ散りばめられる、音楽をやっていた監督が訴えかけたいようなメッセージがひしひしと伝わってくる。

音楽という夢を追う若者のストイックさに、とにかく胸を打たれる映画です。

ひたすらひたすら練習、練習、そして練習。マイルスデイビスの言葉を彷彿させる、憧れの職業、ミュージシャンの本質がここには表現されている。

 

ただそれ以上に、フレッチャーの狂気が蔓延して、もはやホラー映画とも思える怖さを感じてしまった。

結論をいうと、本作は映画史に残る、サイコパス映画だと言えよう。

近年のサイコパスが主役の映画では、ゴーンガールなどもあったが、本作はオスカー受賞したJKシモンズのフレッチャー役のインパクトがすさまじい。実際に見た後、夢に出てくるほど、トラウマになるほど強烈である。

まったく善人でもなければ理想は高く、理解されないほどの音楽への情熱は持っているが、やっていることは犯罪者のような、冷酷非道。いわばサイコパスだが社会的に成功しうる人物の特徴を見事にとらえていると思う。

社会的に成功しているサイコパス映画でウォール街などがあげられるが、それもはるかに上をいくほど、鬼気迫る迫力のサイコパスが、フレッチャー教授だと思う。

最後の9分は映画の歴史に残ったと言われるが、4分間のピアニストなどの例もあり、確かに素晴らしいエンディングで衝撃的で、見るべく人が見れば映画史の事件だろう。

106分、スピーディーかつ情熱的、危機迫る内容で無駄は一切なく、完璧な映画、古臭いテーマなようで現代チックで音楽の選曲も素晴らしく、90点以上に値する映画だと思うが。

ただ、やはりサイコパスなフレッチャー教授がトラウマになりそうな映画で、何度も見たいとは思えず、85点映画にしました。でも音楽映画でここまで完璧な映画はまれだと、4分間のピアニスト以来の秀作だと思います。

kojiroh

『沈黙 サイレンス』(2016年、アメリカ)――80点。スコセッシ新作、宗教とグローバリゼーション

『沈黙 サイレンス』(2016年、アメリカ)――162min
監督:マーティン・スコセッシ
原作:遠藤周作
脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ
撮影:ロドリゴ・プリエト
出演:アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、浅野忠信、キアラン・ハインズ、リーアム・ニーソン、窪塚洋介、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

※リアルタイム映画評

スコセッシが長年、構想してきて、映画化されるという噂は耳にしてたが何年も待っていてすっかり忘れてた時期、2017年ようやく公開ということで、見に行きました。劇場。

遠藤周作の小説「沈黙」を、「ディパーテッド」「タクシードライバー」の巨匠マーティン・スコセッシが映画化。オール台湾ロケによる17世紀の日本の映像。アンドリュー・ガーフィールドをはじめ、キチジロー役の窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシといった豪華日本人キャストが集結。

◎あらすじ
キリシタンの弾圧が行われていた江戸初期の日本に渡ってきたポルトガル人宣教師の目を通し、人間にとって大切なものか、人間の弱さとは何かを描き出した。17世紀、キリスト教が禁じられた日本で棄教したとされる師の真相を確かめるため、日本を目指す若き宣教師のロドリゴとガルペ。2人は旅の途上のマカオで出会ったキチジローという日本人を案内役に、やがて長崎へとたどり着き、厳しい弾圧を受けながら自らの信仰心と向き合っていく。
<映画com>

BGMがあった記憶がない、静かで幽玄な自然美の映画であったが、突然始まる虐殺などの暴力シーンとのギャップに衝撃を受ける。

音楽はほとんどなくおとなしい、まさに沈黙の映画だが、2時間半という長さを感じないほど、寡黙だが強烈な暴力シーンが刺激的であり、言葉や演技、自然美の力を感じる。

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ポルトガルからマカオ、そして日本へ。奴隷貿易等の歴史がある、日本マカオのキリシタン時代を思い出す。

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主演のガ―フィールドも力のあるいい演技をしているのだが、なんだかんだで本作は日本人役者が西洋役者を食っているように感じる。グッドフェローズのレイリオッタみたいなもの。

強烈な個性と狂言役者的な立ち回りをする窪塚洋介。

「パードレ」という言葉の響きがなんとも強烈で、頭に残っている。

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2017-03-05_173319特に迫力があったのが、井上様役のイッセー尾形。全然知らなかったが、本作で最もいい演技してて、ものすごく迫力ある貫禄の役どころだったと思います。

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ヒール役ではあるが、知的で、かつ迫力がある。その他の役者も豪華なラインナップで、日本映画の顔が揃っているなと。

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テーマとしては非常に深く、信仰と大衆支配、神と救いであったり、政治と宗教、そしてグローバリゼーションという領域まで本作が問いかけるトピックは広がっており、原作の良さもあるが、17世紀を舞台に宗教とグローバリゼーションに大きな問いかけをしているようにも思えてくる。BREXITやトランプ大統領時代の反グローバリゼーションがトレンドになりつつある今の時代において、本作が上映されたことは、ある意味ではぴったりなテーマ&メッセージかもしれない。

それにしても高齢のスコセッシのエネルギーには圧倒されます。

もう80~90点クラスの映画を何本も作ってるのに、強欲な男たちを描いたウルフオブウォールストリートに次いで、次は180度変わって宗教テーマの寡黙で残酷な一作品。

日本人俳優もうまく使っており、彼が敬愛してる黒澤の域にはすでに到達している気がしました。

それにしても、金融の時代から一気に宗教の時代へ転換してきたスコセッシ監督の歴史自体が興味深い一本でした。

kojiroh

『ザ・コンサルタント』(2016年、アメリカ)――85点。ニュータイプのアンチヒーローストーリー

『ザコンサルタント』(2016年、アメリカ)――128min
監督:ギャヴィン・オコナー
脚本:ビル・ドゥビューク
製作:マーク・ウィリアムズ、リネット・ハウエル・テイラー
出演:ベン・アフレック、アナ・ケンドリック、J・K・シモンズ、ジョン・バーンサル・・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

※リアルタイム映画評

The Accountant

ザコンサルタントという今風な題名と、ベンアフレック主演というテーマに引かれて鑑賞。

ハリウッドありがちなクソ映画だと思って観ましたが、ずばり、想像以上に面白くてびっくりしました。

◎あらすじ
田舎町のしがない会計士クリスチャン・ウルフには、世界中の危険人物の裏帳簿を仕切り、年収10億円を稼ぎ出す命中率100%のスナイパーというもう一つの顔があった。そんなウルフにある日、大企業からの財務調査の依頼が舞い込んだ。ウルフは重大な不正を見つけるが、その依頼はなぜか一方的に打ち切られ、その日からウルフは何者かに命を狙われるようになる。
<映画.com>

王道のハリウッド路線で進むが、何か普通とちがう。
重苦しく、デビットフンチャー監督のようなダークな映像に、寡黙で神経質な主人公の異様なライフスタイルなど、アスペルがー的な人間としての共感を誘える部分もある。

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ベンアフレックというと、ユダヤ系で、自分自身もブラックジャックでカウンティングできることで有名なカジノプレイヤーであえるが、そんな彼の超ハマリ役でしょう。

数学の天才。自閉症・・・殺しのプロ。会計術もすぐれており、ガラスを使ってマーカーで計算するシーンのかっこよさは異常でした。こんなアンチヒーロー像をわれわれは待っていたのかもしれない。

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月曜日に生まれて、
火曜日に洗礼を受け、
水曜日に結婚して嫁をもらい、
木曜日に病気になった
金曜日に病気が悪くなり危篤
土曜日に死んだ
日曜日には埋められて・・・

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ところどころで散りばめられる呪詛のようなキーワードが、主人公の存在を大きくするフラグになっており、正直、すごくよくできた、サスペンスアクションだと思います。

終わり方はかなり雑な気がするのですが、展開のスピード感はかなり興奮しました。

各々の節税・不正会計スキームも、そういう金融な話が好みなわたしにとってはツボ。

また、The会計士シリーズで続編を待望したくなるほど、ベンアフレックの会計士、面白かったです。

kojiroh

『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』(2016年、アメリカ)――75点、20年ぶりのクソ映画超大作


『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』(2016年、アメリカ)――120min
監督:ローランド・エメリッヒ
脚本:ニコラス・ライト、ジェームズ・A・ウッズ(英語版)、ディーン・デヴリン、ローランド・エメリッヒ、ジェームズ・ヴァンダービルト
原案:ディーン・デヴリン、ローランド・エメリッヒ、ニコラス・ライト、ジェームズ・A・ウッズ
出演者:リアム・ヘムズワース、ジェフ・ゴールドブラム、ジェシー・T・ユーシャー(英語版)、ビル・プルマン、マイカ・モンロー、セーラ・ウォード、ウィリアム・フィクナージャド・ハーシュ、ブレント・スパイナー、ヴィヴィカ・A・フォックス、 シャルロット・ゲンズブール、アンジェラベイビー・・・etc

【点数】 ★★★★★★★☆☆/ 7.5点

※リアルタイム映画評

この日のために、20年待ってました!!

ウィルスミス出世作の、1996年に製作・公開され、世界中で大ヒットしたSFパニック超大作「インデペンデンス・デイ」の20年ぶりの続編。制作費1.60億ドルの今年最高傑作&大作のSFスペクタクル映画がやってきた。

監督は、前作と同じく巨匠ローランド・エメリッヒ。

戦闘機パイロットの主人公ジェイク役を「ハンガー・ゲーム」シリーズのリアム・ヘムズワースが演じ、ビル・プルマン、ジェフ・ゴールドブラムら前作から続投。

このたび、クソ映画人友達と一緒に、劇場に見に行きました。

○あらすじ
エイリアンの侵略を生き延びた人類は、共通の敵を前にひとつにまとまり、回収したエイリアンの技術を利用して防衛システムを構築。エイリアンの再来に備えていた。しかし、再び地球を目標に襲来したエイリアンの兵力は想像を絶するものへと進化しており、人類は為す術もなく、再度の絶滅の危機を迎える。
<映画COMより引用>

相変わらずクソ映画ノリが連続して、大いに笑いました。ベタベタな敵対関係の仲間と、奇跡的に一緒に生き延びて、偶然的すぎるストーリー展開で人類の未来が開かれてゆく過程は突っ込みどころ満載で楽しかったです。

キャストも豪華。 シャルロット・ゲンズブールが登場しててびっくり。こんなハリウッド商業大作に出演するんだなと。

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QQでの通話、中国の牛乳、最高責任者、そしてヒロイン、アンジェラベイビーと、中国資本の飛躍にも本当にびっくりした。中国が大手スポンサー? いまやヒロインは中国系っていう時代なんだなと。超美人なので文句なしですが。

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しかし、前作より巨大な敵の出現により、世界がめちゃくちゃになるシーンの迫力には驚かされました。これぞ、映画館でみる映画です。そして中国人観光客の表情もシリアスで笑えました。

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ネタバレになりますが、96年のインディペンデンスデイは本当に大傑作クソ映画で、テレビ放映で見て、盛大に笑わせていただいた一作。特にラストに大統領が演説と共に自ら出動するシーンは爆笑しました。

今回も、同じく爆笑必須なシーンが満載で、ローランドエメリヒッヒ監督のクソ映画は本当に外すところが無くて安定感ある。

とにかく、前大統領もばっちり登場し、中国資本の進出なども映画に描かれており、非常に現代を象徴する描写も多く、大変楽しく鑑賞できました。

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大統領が「女」という設定があり、そのオチも、ある種、未来を予言しているような内容もある、政治色も匂わせる、非常に興味深い一作。

クソ映画としては堂々の95点作品です。

次回作も控えているそうなので、クソ映画ですが、また劇場に足を運ぼうと思います。

kojiroh

『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(2016年、アメリカ)――75点。新しい形の戦争ドキュメンタリー


監督:マイケル・ムーア
製作:マイケル・ムーア、ティア・レッシン、カール・ディール
製作総指揮マーク・シャピロ
出演:マイケル・ムーア・・etc

【点数】 ★★★★★★★☆☆/ 7.5点

※リアルタイム映画評

今年はドキュメンタリー映画が秀逸。今年公開のドキュメンタリーで注目の一作、「ボウリング・フォー・コロンバイン」や「華氏911」のマイケル・ムーアによる「世界侵略」をテーマにしたドキュメンタリー作品。

軍事戦争ではなく、アイディアを奪いに行く形の”戦争”とは・・・。

◎あらすじ
度重なる侵略戦争が良い結果にならなかったというアメリカ国防総省幹部からの切実な悩みを持ちかけられたムーア。そこでムーアは、自身が国防省に代わり、「侵略者」となって、世界各国から「あるモノ」を略奪するために出撃することを提案。ムーアは空母ロナルド・レーガンに搭乗し、ヨーロッパを目指すが……。
<映画.comより>

うーん、ずばり、本作は優れたグローバル社会のドキュメンタリーであり、多様な国の社会実験的なかたちで成り立ったライフスタイルを記録している。

映画というより、情報番組的な面白さだ。

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相変わらず巨体、なんでこんな太ってんだといつも突っ込みたくなる。だが貫禄が出ているなあと。

さてアメリカ高額医療を批判した『シッコ』にも通じるが、あれと違うのは、本作はほぼ単独でムーアが世界へ出ていること。

被害者とストーリーを進めていったシッコとは、また少し意味が違う。

が、本作が提供する情報は実にユニークで、世界は広いのだなと、広い視野を持てる、自国の閉鎖性や問題点に悩んでいる人が見たら、非常にすっきりし、それこそ多くの発見がある映画であろう。
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それにしてもオーガニックで昼にフランス料理とか長期休暇豊富なイタリアとか、土日勤務厳禁なドイツとか、自然主義的な生き方ができているんだと、多様化とグローバリゼーションで潤って成長してきたアメリカが筆頭とした多国籍企業に批判的な構図にも思える。

コカコーラを休職のときに飲んでいるムーアの姿がなんだかブラックジョークに感じた。

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イタリアで昼になると一斉に帰宅し、家族と食事をする光景なんかも、同じ先進国でも仕事と人生の関わり方がこんなに違うのかと興味深い一本だった。言語上では知っている内容でも、映像化してみてみるとまた違う発見がある。

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しかし、非常識でガラパゴスだといわれるアメリカであるが、未だに世界の中心を担う存在であり、それは欧州とは違った形での長時間労働を従事している人が多いからなのかもしれないとも。

そしてムーア監督のように、自国のダメなところを拾い上げて改善する意識を持って世界に映画として発信できるメディアの役割を担える人物がいる時点、やはりアメリカは日本のような閉鎖的な国よりも全然常識的で素晴らしい国だなと比較してしまった。

ともかく、世界を股に駆けてアイディアを奪いに行く行動を、戦争や侵略とたとえてコミカルに独自の視点で映画を進める、そのアイディアこそ本作のベース。

だが結局、そのアイディアの根源は、もうすでにある、「幸せの青い鳥」のようなものだった。旅人が最後にいたる結論のような内容。

多くの情報、様々な社会実験で多様な社会が構成されているが、根底にあるものは、既に過去にあったものだった、的な。

正直、テレビドキュメンタリーでいいじゃん、と思える内容ではあるが、これを劇場映画にできる業こそ、ムーアなのだなと思わされた。

ともかく、多様化、グローバリゼーション、そうしたものを振り返って原点回帰して、新しい時代の材料(アイディア)を探そうと言う、この2016年、EU離脱や大統領選などで、時代の転換期にありそうな時期に、必要とされる映画だなと感じた。

kojiroh