『帰ってきたヒットラー』(2015年、ドイツ)――85点。ブラックコメディ&タブー映画


『帰ってきたヒットラー』(2015年、ドイツ)――116min
監督:デビッド・ベンド
脚本 :デヴィット・ヴェント
原作 :ティムール・ヴェルメシュ
出演:オリバー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルプスト、カーチャ・リーマン、フランツィシカ・ウルフ

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

2~3年前に話題となった小説が映画化されており、Amazon Primeにて視聴。

ヒトラーが現代によみがえり、モノマネ芸人として大スターになるというドイツのベストセラー小説の映画化。

●あらすじ
服装も顔もヒトラーにそっくりの男がリストラされたテレビマンによって見出され、テレビに出演させられるハメになった。男は戸惑いながらも、カメラの前で堂々と過激な演説を繰り出し、視聴者はその演説に度肝を抜かれる。かつてのヒトラーを模した完成度の高い芸として人々に認知された男は、モノマネ芸人として人気を博していくが、男の正体は1945年から21世紀にタイムスリップしたヒトラー本人だった。
<映画.comより>

ずばり、非常によくできた映画で驚きました。

テレビやインターネットが普及したこの時代にヒットラーが再来するとどうなるか?という原作の面白さもありますが、映像化する上でまず主演のオリバーマスッチが完全にヒットラーになりきっており、その演説の鋭さに圧倒されました。

かつ、セミドキュメンタリータッチになっており、本当にドイツ中を巡り実際の生インタビューも含んだ作りになっており、フィクションと思えないリアリティを醸し出しています。

物まね芸人として成功するヒットラーの姿からは、現代ドイツ国民もこういう激しい風刺と皮肉によって社会を楽しませる人物を求めているようにも。

特に印象的だったのが、カーチャ・リーマン演じるベリーニ女史です。

ヒットラー時代は映画監督のレニ・リーフェンシュタールがメディア制作に置いて重要な役割を果たしていましたが、現代ではその役割をベリーニ女史が担っているような気がしてなりませんでした。

ともかく、ドイツの社会問題をドキュメンタリーしつつヒットラー芸人が強烈なブラックコメディを展開し、2010年以降で必見の1本かもしれません。

kojiroh

『シチズンフォー スノーデンの暴露』(2014年、アメリカ=ドイツ)――90点。スノーデンドキュメンタリー、管理社会への警告と


『シチズンフォー スノーデンの暴露』(2014年、アメリカ)――114min
監督:ローラ・ポイトラス
製作:ダーク・ウィルツキー、ローラ・ポイトラス、マティルド・ボヌフォア
出演:エドワード・スノーデン,グレン・グリーンウォルド、ローラ・ポイトラス、ジュリアンアサンジ・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

※リアルタイム映画評

【原題】Citizenfour

アメリカ政府のスパイ行為を告発したエドワード・スノーデンをリアルタイムで迫ったドキュメンタリー。
第87回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞受賞。

劇場公開されていると知り、2013年の事件の真相を、3年を経て、目にすることができ、衝撃的だった。

○あらすじ
2013年、ドキュメンタリー映画作家であるローラ・ポイトラスに接触をしてきた者がいた。重大な機密情報を持っていると、香港でのインタビューの現場に現れたのが、元CIA職員のエドワード・スノーデンだった。スノーデンの口から語られたのはアメリカ政府によるスパイ行為の数々。世界各国の要人、さらに一般国民の電話やインターネット等をも傍受しているという驚くべき真実だった。

<映画.comより引用>

現代の情報化社会、PCやスマホを経由して人々の動きが監視されて、データが蓄積されている。わかってはいたが、ここまで具体的にプライバシーの危機が迫っているのかと、観ていて鳥肌が立つ恐怖を覚えた。2016-06-17_145722

グーグル、フェイスブック・・・名立たる企業のデータはもう政府の手の中にあり、要注意人物を過去のデータの中からすぐに探せるような時代に・・・そんな管理されたインターネットを正しい方向へ導くべく、立ち上がった29歳のエドワード・スノーデン。2016-06-17_145451

この事件の裏側で、このような動きがあったのだと、歴史が動く瞬間は全て残されていたとは。もう、製作者が無我夢中で現在進行形の革命をフィルムに納めた、という、奇跡の時間が収められている。

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香港のミラホテルでの最初の登場シーンから、釘付けになった。

端正な顔立ちで、身のこなしや話し方まで、素晴らしく洗練されていて凛々しい。29歳のこんなしっかりした若者がたった一人で決断するとは――。

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IP電話の盗聴やSDカードへの注意喚起、世界の自由のために革命を起こそうとする若者の姿が、とにかく覚悟を決めた男の姿をフィルムに残したこと自体が奇跡的な出来事だと思う。

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暗号化されたやり取り、何気ないチャットの一文一文が迫力満載だった。

何しろこれは真実であり、地下に潜った後の出来事さえも移せていることが、衝撃的だった。

優れたドキュメンタリー映画の条件として、意図しない出来事が起こり、ストーリーを揺れ動かしたり、そんな奇跡が必ずある。

ミラホテルの中でのインタビューは単なる密室での動きのない、普通なら単調になりがちなシーンだが、ファイヤーアラームの稼動が突然起きるシーンには、思わず舌を巻いてしまった。

意図的ではない、そんな偶然的な奇跡が無数起きた、歴史が動いた時間を、観客としても共有できた興奮を味わえ、映画としてもストーリーに動きがあり、単なるドキュメンタリーを超えている。

これは本当にIT管理社会の中で生きる我々が、国民全員が見るべき映画かもしれない。

 

ラストシーン、情報監視社会の中で極秘の会話(○談)をしつつ、ラストのナインインチネイルズのゴーストのエレクトリック音楽が鳴り響くエンドロールが衝撃的だった。

歴史が動く奇跡的瞬間を記録した、ドキュメンタリーの最高傑作だと思っている、『ゆきゆきて神軍』、『アンヴィル』に匹敵しうる10年に一本レベルのドキュメンタリーだと思った。

それにしても、2014年10月のこの映画が日本で公開されるのが遅すぎる。

アカデミー賞を受賞している作品なのに、政府や大きな権力を持つものにとって不都合な映画を迅速に公開しないことに何か理由を感じてしまう、・・・情報化された管理社会への警告として意味のある一本です。

kojiroh

『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年、ドイツ=イギリス)―80点。ウェスアンダーソン最新作


『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年、ドイツ=イギリス)―109min
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン、ヒューゴ・ギネス
製作:ウェス・アンダーソン、スコット・ルーディン、ジェレミー・ドーソン、スティーヴン・レイルズ
出演者:レイフ・ファインズ、F・マーリー・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、レア・セドゥー、ティルダ・スウィントン etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』、『ダージリン急行』の鬼才、ウェスアンダーソン監督の最新作、かつ評判がよく、ベルリン映画祭でも評価され、かつ友人から今年一番!の絶賛受けて、筆者もそんんあいアンダーソン監督ファンではないが見に行ってみることに。

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◎あらすじ
1932年、品格が漂うグランド・ブダペスト・ホテルを仕切る名コンシェルジュのグスタヴ・H(レイフ・ファインズ)は、究極のおもてなしを信条に大勢の顧客たちをもてなしていた。しかし、常連客のマダムD(ティルダ・スウィントン)が殺されたことでばく大な遺産争いに巻き込まれてしまう。グスタヴは信頼するベルボーイのゼロ(トニー・レヴォロリ)と一緒にホテルの威信を維持すべく、ヨーロッパ中を駆け巡り……。
シネマトゥデイより

 

さて、所感。ずばり、100%ウェスアンダーソンの世界、つまりロイヤルテンネンバームの映像感覚で、戦前ミステリーを巨大な陰謀的なタッチで描いてて面白かった。

小説家はネタに困らない・・・なぜならネタが向こうから舞い込んでくるから。作家と豪華ホテル、謎の客とその歴史。

最初の作家の銅像から始める、物語の、ストーリーの動き方はなかなか好き。
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それにしてもアンダーソン監督の才能はすごいなと。
制作から脚本・監督まで。
徹底した映像感覚や色彩は、もう脱帽です。
アメリのジュネ監督や、ティムバートンに並ぶ、独自のおもちゃ箱の世界を表現したようか映像センスを持っている。

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の世界にハードボイルドミステリーのような内容を溶け込ませた、不思議な世界観をさくっと100分ぐらいで楽しめた。ミステリーで犯罪要素もある場面でも、なぜかソフトに移って、シニカルな笑いを誘う感じ。ミステリーコメディとも呼べる作品だった。

アンダーソン監督ってドイツ系アメリカ人なのかな? このお城と西洋の絵画のような表現力はゲルマンっぽい。なんというかオルゴールを回るように映像と音楽が流れる感じ。

しかしさりげなく、ジュードロウ、エイドリアンブロディやエドワードノートン、さらにはハーヴェイカイテルも出演していて、豪華な映画だなと感じる。

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この映画の一番の肝は、豪華な脇役が勢ぞろいしていることでしょう。

小道具が多くて、アンダーソンワールドの中に、ミステリー要素、戦争要素、巨大な陰謀、殺し屋、さらにはプリズン・ブレイクな内容まで盛りだくさんになっていることが、本策が過去のアンダーソンの中で最高傑作という人がいる理由であろう。2014-07-03_120249

個人的には雪の中をスノーボードで失踪するシーンは完全にお子様向けな蛇足だったが、ハードボイルド要素を含みつつ、家族で見れるような内容も含まれている点は大きな魅力だと思った。

お子様向けともいえるし、西洋というか欧州のおもちゃ箱のような映像感覚がいいのだ。

というわけで、アンダーソン監督の作品を始めて映画館で見れたので、個人的にはいい刺激になり、映画館で見る価値大いにある映画でした。

kojiroh

『ヒトラーの贋札』(2007年、ドイツ)―85点。贋札師ゾロヴィッチの陰謀ドキュメンタリー


『ヒトラーの贋札』(2007年、ドイツ)―96min
監督:シュテファン・ルツォヴィツキー
脚本:シュテファン・ルツォヴィツキー
原作:アドルフ・ブルガー『ヒトラーの贋札 悪魔の工房』
出演:カール・マルコヴィックス、アウグスト・ディール、デーフィト・シュトリーゾフ、アウグスト・ツィルナー、マルティン・ブラムバッハ etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

第80回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞し、話題になったドイツ映画。
劇場公開同時から見たい見たいと思っていた一作であったが、すっかり忘れていた。すっかり過去の一作になっていたが、ふとレンタル屋でぶらぶらしていて目に留まり、レンタルして念願の鑑賞したのが最近。

ずばり所感、公開当時に劇場で見ておく価値が十分にある一作だった。
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◎あらすじ
第二次世界大戦の最中、ナチスはイギリスの経済を混乱に陥れるため精巧な贋ポンド札の製造を計画する。この“ベルンハルト作戦”のため、ザクセンハウゼン強制収容所には、世界的贋作師サリー、印刷技師ブルガー、美校生のコーリャなどユダヤ系の技術者たちが集められた。収容所内に設けられた秘密の工場で、ユダヤ人でありながら破格の待遇を受け、完璧な贋ポンド札作りに従事することになったサリーたち。しかし彼らは、自らの延命と引き替えに同胞を苦しめるナチスに荷担するジレンマに次第に葛藤と苦悩を深めていく。
<allcinema>

とにかく、早い。ぶれるカメラでドキュメンタリーをみるかのような形式で作られた、実話をベースにした一作。そのベルンハルト作戦という陰謀を知らなかった筆者は、その目新しさが非常に斬新で面白かった。

とにかく、スピード感がすごい。呆気ないほど出来事を省略し、面白いエピソードしか切り取らずに、どんどん物語を進めてゆく。1時間半ほどしかボリュームがないのであっという間にゾロヴィッチの数年間が過ぎてゆく。

天才偽札師ゾロヴィッチを演じるカール・マルコヴィックス
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逮捕されてから収監され、偽札を作り始めるその過程がまず面白かった。
貧しい食事と規律が厳しい収容所での生活が、あまりに過酷で残酷。
波乱万丈な人生が、巨大な陰謀の下で揺れる。
極寒のドイツ収容所での独裁的な刑務所生活をリアルに描いたこと自体がそもそも本作の1つの意義かもしれない。

偽札製造シーンも面白い。偽ポンドを量産しようとする過程などはかなり迫力があった。威圧的な将校とのかけひきも、本作の原作者であるブルガーも。
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サボタージュ。ドイツ語で飛び交う言葉がとにかく迫力あり。

彼を捕まえ、導くヘルツォーク。
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饒舌で比較的柔軟な考えを持ち、最後で敗戦への狡猾な逃避を目論ろもうとするその少佐の立ち居地がいい。

主演、助演もそろっていて、どこか皮肉なブラックジョークを感じる作風(特にオチ)もいい。全般的に、ドキュメンタリー出身のシュテファン・ルツォヴィツキーだからできた業であり、ヒットラーの大戦功罪、その裏側を解き明かす意味において、本作がなす意義は大きいと思う。

さらにオスカーを獲ったのも、かなり親ユダヤ・反ナチス映画であることも影響しているのかなと、とにかく歴史の勉強にもなる、興味深い一本だった。

kojiroh

『バグダッド・カフェ』(1987年、西ドイツ)―6.5点。雰囲気系ロードムービー


『バグダッド・カフェ』(1987年、西ドイツ)―96min
監督:パーシー・アドロン
脚本:パーシー・アドロン、エレオノーレ・アドロン
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダー、ジャック・パランス、クリスティーネ・カウフマン、モニカ・カローンetc

【点数】 ★★★★★★☆☆☆ / 6.5点

ニューウェーブを巻き起こしたロードムービー。
バグダッドなのでイラクかと思いきや、本作は意外にも西ドイツの作品。スタイリッシュで即興的にも思える映像感覚が新鮮で、旅の偶然性を表現しているようにも思えてくる。


あらすじは、
ドイツはミュンヘン郊外、ローゼンハイムからの旅行者ジャスミンは、アメリカ旅行中に夫と喧嘩をし車を降りてしまう。彼女は重いトランクを提げて歩き続け、モハーヴェ砂漠の中にあるさびれたカフェ・モーテル「バグダッド・カフェ」にたどり着く。いつも不機嫌な女主人のブレンダ他、変わり者ばかりが集う「バグダッド・カフェ」。いつも気だるいムードが漂う中、ジャスミンが現れてから皆の心は癒されはじめる…。

さて、スタイリッシュなロードムービーということでミニシアターでロングランを記録した名作だそうが、ぶっちゃけかなりの雰囲気映画でストーリーはあるようでないようなもの。

黄色いコーヒーボトル、下手くそな演奏のピアノ、色んな小道具が散りばめられながら、人々の交遊、心の移り変わりが描かれる。

夫と別れて孤独になったドイツからの旅行者がアメリカ大陸を放浪し、ラフベガスの近くでたどり着いたバグダッドカフェでの人々との交流、最初は反発し合う人々が徐々に心を許し合い、思わぬ形で新しい生活が始まる―、というストーリーラインである。

友情、そして愛は国境を、人種を越える。見知らぬ土地で、ジャスミンは、そして周りの人々もアイデンティティを再構築し、はぐれものが自分の居場所を見出して行く。

ただ、個人的にはなんだかあまりにもおとぎ話じみた内容でもあり、面白い映画なのだがどうもこの世界に入り込めない自分がいたことも否めない。

名作である所以は理解できたが、ちょっと舌に合わない一作だったかな。しかし旅を感じさせる世界観は中毒性があります。

Kojiroh

『ラン・ローラ・ラン』(1998年、ドイツ)―8.0点。ドイツ流、ニュー・ヒロイン


『ラン・ローラ・ラン』(1998年、ドイツ)―81min
監督:トム・ティクヴァ
脚本:トム・ティクヴァ
音楽:ジョニー・クリメック、ラインホルト・ハイル、トム・ティクヴァ
出演:フランカ・ポテンテ、モーリッツ・ブライプトロイ、モニカ・ブライプトロイetc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆ / 8.0点

赤髪のローラが走る。コミカルな展開、実験的な構成、アニメーションを交えたとにかく不思議な実験映画だった。

さて、ドイツで歴代記録に残るヒットを飛ばし、近年、世界で有名なドイツ映画の1本になったのが本作『Rola rennt』。ドイツらしからぬ何やら陽気なテーマとスタイリッシュなカラー。ただ単にローラが走るという内容のようだがどんな映画なのか気になっていた。

さて、そんな本作のあらすじであるが、
ローラの家に、裏金の運び屋をしている恋人のマニから電話がかかってくる。マニはボスの10万マルクをなくしてしまい、12時までに金を作らないと大変なことになると言う。残された時間は、わずか20分。ローラは受話器を投げ出し、マニを救うために街へ飛び出す…!

さて、馬鹿みたいに単純な話だが、監督自身が製作に参加しているノリのいいクラブ風のテクノ・ミュージックと共にアニメーションが流れて物語が動き出す。

「Zwanzig minuten!」(あと20分!?)
と言ってローラは走る。走る。走る。

まずはこの映像センス。真っ赤なローラがドイツの町を走るシーンの爽快感。さらにはお馬鹿なノリもありで、随所で笑える。堅苦しい響きのドイツ語がなんだかユーモラスに聞こえたのは初めてかもしれない。

―20分じゃどう考えても無理だろ!www
と思うようなことを次々とやっていくローラの姿はなかなか愉快。さらには街中で出くわす人々やシーンが一つ一つ非常によくできていて、ちょっとした展開の違いで運命ががらりと変わってしまう。ネタばれになるのであまり言わないが、父親、その愛人、消防車とガラスを運ぶ業者、ホームレスから自転車売りまで、町中の人々の関係の因果がとにかくアイディア満載。何度か観て色々と違いを見比べてみたくなる。

スピード感がありつつも時間も80分とさくっと気軽に見られて、3つのオチになっているのでなんだか体感時間はもっと長く感じる。とにかく新鮮な気持ちになれる実験映画の秀作だ。

まあストーリーは、なんでローラがマニのようなダメな男が好きなのか?父と娘の関係は?など色々と突っ込みたくところがあるが、それはそれはでコメディだと割り切った方がいい映画かなと。最後のルーレットの20のシーンなどはもう別世界の出来事が展開されている…。

しかし90年代のこの時期にこうした挑戦は画期的だったのではないか。ミニシアター系のような規模にも関わらず、当時の最新技術を駆使してローラを描いたと言える。こうした強烈な個性キャラの女性主人公がコミカルに町中を駆け回るというようなストーリーは、その後の女性主役の『アメリ』のような作品に多少なりともキャラクター造形などの点で影響を及ぼしているんじゃないかと思えた。

kojiroh