『シャンハイ』(2010年、アメリカ=中国)―65点。40年代の上海とコン・リー、ときどきケンワタナベ


『シャンハイ』(2010年、アメリカ=中国)―105min
監督:ミカエル・ハフストローム
脚本:ホセイン・アミニ
出演:ジョン・キューザック、コン・リー、チョウ・ユンファ、菊地凛子、渡辺謙 etc

【点数】 ★★★★★★☆☆☆/ 6.5点

なんだか気軽に見れる新作に近いスペクタクル映画をGEOで探していて、目に止まった一作。『シャンハイ』。戦時中のシャンハイを舞台にし、ケンワタナベなど国際的スターが集結したこの一作は、以前劇場でトレーラーで見て面白そうだと思った。しかし評判は微妙で、日本でヒットした記憶もなければ、金かけたわりには赤字になったクソ映画な臭いもぷんぷんする。

まあでも寝る前の暇つぶしにクソ映画鑑賞もまた一興だと思っている筆者はレンタルを決意。

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◎あらすじ
1941年、太平洋戦争開戦前夜の上海。そこは、列強各国が互いに睨み合う複雑な均衡の上に築かれた妖しくも危険な“魔都”。米国諜報員のポール・ソームズは、親友でもある同僚コナーの死に直面する。上官から彼が裏社会の大物、アンソニー・ランティンの動向を探っていたことを告げられ、新聞記者の身分を使ってコナーの死の謎を追うよう命じられる。さっそくランティンに近づくソームズ。やがて捜査線上には、ランティンの妻で謎めいた美女アンナ、日本軍情報部のトップを務める大佐タナカ、コナーの愛人で忽然と姿を消した女スミコら、事件のカギを握ると思われる男女が浮上してくる…。
<ALLCINEMAより>

なんというか、思ったよりは悪くなかった。そこそこ面白い。
出演陣も豪華で、日本語・中国語・英語、それぞれの言葉が楽しめる。
なんと言っても世界のケンワタナベが出ているのが嬉しい。がしかし、ほぼジョンキューザックとコンリーの映画。いや、しかしキューザックの演技は冴えないので、やっぱりコン・リーがほぼ主演。
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菊地凛子なんて別にほとんどセリフもないし影の薄い役なので、キーマンではあるがなんだか扱いが可哀想。
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戦争の波乱の中で、ロマンチストな恋に憧れる愚かな男を描いた映画ではあるが、なんともそのテーマ設定が中途半端だった。そのせいでヒット作にありそうなベタさやヒロイズムがなく、こりゃロングランする映画じゃないなという所感。

さらにかなり反日な映画で、日本軍をすごく残忍な悪人として描いている。別にそれは公平で中立な目線で描いているならいいが、中国的な反日エンターテイメントのような扱いの大スペクタクルになっているようで、個人的にはこの映画の視点や政治的立場にはあまり感心できない。

とは言っても完全な駄作かというとそうでもなく、ケンワタナベの存在感はやはりいい。『インセプション』ぐらい活躍してくれたらもっと面白かったが、軍人に扮した彼の英語が聞けただけでも満足。『硫黄島の手紙』を思い出した。
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さらに40年代のシャンハイを舞台にしているのが興味深かった。完全に再現されたかつての上海の歴史を感じられる。異国の人々が集まり国際ハブになっていた中国主要都市、そこで生まれる愛憎劇、陰謀。

そんなわけで面白い部分もあるが、やっぱり不完全燃焼で中途半端であった。特に後半はわりとグダグダ。ラストシーンも手抜きというかわりとクソ映画。前半のカジノのシーンとかなかなか好きだったが、まあつまり40年代の上海と、コンリーの妖艶な美貌と、ケンワタナベの英会話を楽しむには十分な映画でした。

そこそこ金も掛かっているので、完成度は微妙だが僕としては十分に楽しめましたね。

kojiroh

『靖国』(2007年、日本=中国)―3.0点。話題性はあるが、デキの悪いドキュメンタリー


『靖国』(2007年、日本=中国)―123min
監督:李纓
撮影:李纓、堀田泰寛
編集:李纓、大重裕二
出演:刈谷直治、菅原龍憲、高金素梅etc

【点数】 ★★★☆☆☆☆☆☆☆/ 3.0点

靖国神社を取り上げた話題作『靖国』。
釜山国際映画祭で上映されたほか、2008年3月に開催された香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。戦後のセンシティブなテーマである靖国を、日本在住19年の中国人監督、李纓(リ・イン)が10年にわたって取材した渾身のドキュメンタリー。


一時期話題になっていたこともあり、テーマ性からも傑作の匂いを感じたので、この夏の終戦記念日に鑑賞に挑んでみるが…。

あらすじとしては、非常に曖昧であるが、
靖国刀(1933年から終戦まで日本刀鍛錬会によって靖国神社で作られていた軍刀)の最後の刀鍛冶職人を追う。それと共に、主に終戦の日を中心とした靖国神社の境内の映像が映し出されている。

さて、靖国刀というような普通の人は知らないような事実に迫っているようで興味深いが……だがあまりに手抜きで長回しが過剰かつ無意味、とにかくテーマ性は面白いが、まったく深い部分まで迫っていないドキュメンタリーだった。

靖国刀の歴史自体は面白いテーマだったが、しかし100人切りの話など、歴史的にそこまで意味話さない内容の気もして、さらに随所に挿入される刈谷さんとの話しも冗長すぎる。

そもそもこの中国人監督の日本語力にも問題があるだろう。


小泉総理、石原慎太郎都知事など、毎年の靖国参拝を追っていったのだろう。しかしそれにても10年かけたとは思えないほど表面的なことしか移されず中身がない。素人レベルで、ちょっとカメラ勉強した人ながら誰でも取れる水準だと思う。

とてもじゃないが、『ゆきゆきて神軍』などの深い緊張感で、写してはいけないものまで写そうとする汗が感じられない。

唯一いいのが、小泉総理の靖国参拝に賛同する日本の若者が、警備員に追い出される場面。これはなかなか迫力がある。

「中国人は帰れ!」と叫ぶおじさんの姿が印象的で、部分的にはいいシーンもある。

個人的に、彼がその後、どうなったか。
それを追って欲しかったのだが……。

他にも国旗をかかげるアメリカ人を追い払うなど、靖国内での外人の振る舞いなどを追ったことは興味深いが、しかし素人でも撮れてしまう程度の表面的なものでしかない。

基本的に、本作は靖国の表面を写して、その上で靖国の存在を戦争大罪だと見なしている。監督の意見はそうだ。

だが結局はそうした意見は一般論ではない。あくまで監督やその周りのごく一部の過激な人々の描写を抜き取っただけで、「反日」的なことを語るにしては説得力がなさ過ぎると思った。

そして最大の酷評要因は、このあまりに冗長な編集にある。
本作ほど表面上な内容と刀鍛冶インタービューだけの映画なら、一時間で十分すぎる内容だ。しかしそれをわけのわからない歴史映像と無駄な長回しであまりにも冗長でいい加減なものにしてしまった。

いい短編ドキュメンタリーには成り得たと思うが、商業的な話題性を求めた点も感じられる残念な長編ドキュメンタリー映画である。

koijroh

『スプリング・フィーバー』 (2009年 中国=フランス 115min.) 7.5点。

『スプリング・フィーバー』 (2009年 中国=フランス 115min.)
監督 婁燁(ロウ・イエ)
脚本 梅峰(メイ・フォン)
出演 秦昊(チン・ハオ)、陳思成(チェン・スーチョン)、譚卓(タン・ジュオ)ほか

【点数】
★★★★★★★☆☆ / 7.5点

 理解では足りない。共感では、とどかない。倒錯する性や無軌道な日常をたどったところで、この愛にせまることはできないだろう。こたえのない関係を問い、苦しみまで引き受けることでようやく、不実な春の漂泊に、全き愛のすがたを見出すことがかなうのだ。

 ある不倫を背景に、夫(ウー・ウェイ)の愛人(チン・ハオ)が“青年”であることを知った妻(ジャン・ジャーチー)はとまどう。だが、雇った探偵(チェン・スーチョン)は彼女の思惑をはなれて、青年のなかに恋人(タン・ジュオ)とはことなる魅力を認めていた。

 交錯する想いを南京の街に取り出してみせたのは『天安門、恋人たち』のロウ・イエ監督だ。前作の政治的反響により、思想という枠組から語られる危うさを伴うものの、「天安門」がひとつの時代をとらえる道具立てにすぎないのと同様に、本作で描かれた同性愛も数ある愛のかたちから択ばれた、ひとつの選択肢にすぎない。

 人はなぜ愛するのか、その答えは永遠に閉ざされている。だが、それを問うことは可能だ。たとえば、夫との関係を持ちこたえたい妻の愛は、強制されたわけでもないのに社会的な“常識”に自らをあてはめ、それに反する夫の愛を抑圧することで成り立っている。だが、ひとつの“常識”に同致してことなる常識を排除することがひとしく容れられるならば、その現実こそ“狂気”ではないか。

 ロウ・イエが描く愛の模様は、豊かさにともなう痛みを強いる。交互に愛し合う男性の両義性をまえに、ふたりの女は常に無力だ。うしなった愛の重さを、怒りという烈しさに逃す妻のすがたとは対照的に、工場ではたらく恋人は探偵と青年の関係を知りながら、外向きの怒りではなく、内なる喪失の深さを測ることで充足する。その愛はかぎりなく静かであり、それゆえにはかなく、傷い。

 ひとがたゆたうのは、生の薄暗がりが途方もなく豊かだからだ。物語はありうべき孤独を手放すことで、愛そのものを象っていた。

(Writen by うえだしたお)

不思議な三角関係、いや、四角?五角?
撮影を国内で禁じられたロウ・イエ監督が執念で同性愛のタブーに挑んだ力作。とにかく揺れる。映像が、感情が。ドグマ95的な自然光と生音で焼き付けられたフィルムと濃厚な同性愛セックスには思わず目が点。

完成度的には荒々しくドキュメンタリー的で曖昧であるが、男女を越えて人間同士が生きてゆくことを考えさせられる。特にそれが共産主義で人民に溢れる中国だからより一層、胸に残るモノがあった。

kojiroh

『北京バイオリン』(2002年、中国) ―9.0点。人民、北京、音楽芸術の街へ

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『北京バイオリン』(2002年、中国)
監督: 陳凱歌(チェン・カイコー)
出演: 唐韻(タン・ユン)、劉佩琦(リウ・ペイチー)、王志文(ワン・チーウェン)、陳凱歌(チェン・カイコー)、陳紅(チェン・ホン)、程前(チェン・チエン)
章婧(チャン・チン)

【点数】
★★★★★★★★★☆/ 9.0点

“人民”で溢れる北京駅、優雅に流れるクラシック、そして父と少年。

父と子、夢を追う家族と愛の物語。バイオリンの才能のある子供の夢をかなえるために、北京へ上京して音楽コンクールに出て教師を付ける。生活を共にし、トラブルが起きたり葛藤を繰り返し成長してゆく感動のヒューマンドラマ、ってことか。別に大したもんではない、よくありそうな話だ。

さて、今作を手がけるのは、今や中国を代表する巨匠の一人でもあるチェンカイコー監督。今までは『さらば我が愛、覇王別姫』だったり、『始皇帝暗殺』だったりと、さんざんとスペクタクル系な映画ばかりが目立っていたのに、家族愛とバイオリンのお話とは、以前に比べるとずいぶんと縮こまってしまったもんだなと。

しかし、「世界中が泣いた」とキャッチコピーは嘘ではなかった。軽く見てごめんなさい。。この映画は素晴らしい。何が凄いかって、特にこれが一つスゴイというわけではないが、完成度の高い”完璧”に近い作品なのだ。

具体的には、スピーティーで無駄のないカットの連続で、トントン拍子に続くエピソード・ストーリーの嵐に付いて行けないこともなくグイグイ引き込まれる。

撮り方もまた素晴らしい。溝口的で、劇のような構図や演技を重視する。あまり表情を映さず、シーンとしての映像が中心でほぼ8割なのだ。不用意に顔のアップを使わない。だからこそ、ワンシーンの劇としての、演技としての場面場面の緊張感や迫力があるのだ。カットで誤魔化しができない純正な映像だ。それによって、人物が活きる。

そして、登場人物の生き様もいい。それぞれが個性を持ち、各々ダメな部分を見せるのだけど、それがまた人間らしく魅力溢れるキャラクターとして描かれている。

私は冒頭30分ほどで、そんなダメなんだがどこか愛らしい人々を映し出している、この映画の北京の世界にすっかり飲み込まれてしまった。

途中入れ替わってしまうが、2人の先生もいいし、主人公の隣のリッチな家に住むチェン・ホン演じるセレブな浪費家な女が特にいい。気性の荒っぽさが乱暴にも聞こえがちな北京語、そのセンスは完璧だとさえ思った。大人の魅力を振舞き、わがままなことをしつつも、義理人情があって、若いバイオリン弾きの主人公との交友によって、お互いが変わって行く。住んでいる世界は天国と地獄のように違う同じ人民同士がこうして心を交わしてゆくのか。

中華人民共和国という社会主義の抑圧が未だに続く国家が、多くの人民を抱えて暮らしている。そこでも尚、急速な経済発展を遂げつつある反面、格差が広がり、西洋文化も輸入され、そのアイデンティティたるや一体なんなのだろうか。

そんな混沌とした背景から、クラシック・バイオリンという中国では新産業にもなりえる文化によって、この親子はかつての近代からの脱出、飛躍を成そうとしている。そんな姿からは歴史的な重みさえ感じるのだ。

「弾くな、感じろ!」

チアン先生を演じるワン・チーウェンの教えだ。技巧ではなく、心の音楽を教えてくれる。しかし、それは成功を保証してくれない。世の中は残酷だと。

その言葉自体が、この映画を象徴する一説でもある。譜面通りに弾いただけの音では、人の心は動かせない。その音に込められたモノが人を突き動かす。

そう、それは映画も同じなのかもしれない。
最後に泣かせてくれる映画には、単なる脚本のデキや映像の技巧や俳優の演技、それを超越して心を突き動かすモノがあるのだ。何かは分からないが、とにかくこの映画には心がこもっていて、それが何より心地よく響くのだ。

Written by kojiroh

『四川のうた』(2008年 中国・日本) ―5.0点。子守うた的長回し

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『四川のうた』2008年 中国・日本
監督・脚本・プロデューサー:ジャ・ジャンクー
出演:ジョアン・チェン、リュイ・リービン、チャン・タオ 他

【点数】
★★★★★☆☆☆☆☆ / 5.0点

「するべきことがあれば、老けるのも遅い」と、四川省・成都に位置する巨大国営工場「420工場」の元女性労働者は語る。工場は2007年に閉鎖され、働く人々は散りゆき、栄光の時代の思い出が反芻される。

ベネチア金獅子賞受賞作『長江哀歌』(06年)で名高いジャ・ジャンクー監督による中国歴史ドキュメンタリー映画である。50年に渡る中国の国営工場の繁栄と衰退の過程を、過去~現在に渡る重要人物のインタビューと共に鮮明に描いた。

オープニングでは燃える鉄を機械で打ちつける人々の姿を鮮明に映す。当時の活気と栄光を語る初老の老人、老婆、職場での恋模様を淡々と語る420工場のアイドル、人々の憧れであった過去、そして思い出が蘇る。その活気とは対極に、現在の廃墟と化したがらんどうの工場と近代化した中国、そして老いた労働者の姿を、「うた」を交え、時代の激動を呼び起こす。本物のインタビューかと思わせる出演人も主要4人の人物は実は俳優と女優だ。演じている者と本当の生き証人を交えて歴史を再現する凝った作りである。特に初老の労働者たちの表情に刻まれた皺は、その歴史を物語っているように映る。

さらに、本作を一番引き立てているのは、「うた」も含めた音楽の起用であろう。高度成長した中国の構造ビル群と共に台湾のDJ・林強(Lim Giong)によるハウス~ラウンジ系の電子音楽が流れ、現代の近代化を代弁する。見所満載、歴史も勉強、林強の音楽が流れるラストはクラブにいるような気分に。さすがカルト映画の雄・オフィス北野配給作だ。

と言いつつも、やはり、ちょっと長すぎる。2時間もいらない。監督の自国の問題に対する熱意はわかるが、1時間半で十分。おばちゃんが淡々延々と過去を語るシーンで、まぶたがどんどん重くなってしまった。歴史は深く偉大なのだろう。でも、眠く、観客の眠りの方が深くもなりうる。

今振り返ってみても、実際に自分の目で中国大陸の成長性を感じた人間ではないと、いまいち深みがなく共感性の低い次元の作品になってしまうのだろうな。中国の市場の現在を知らないと、おそらく子守うたにしかならない映画でしょう。そう、過去の自分を含めてね。

(Written by Kojiroh)
※過去、2009年春に執筆したものを加筆修正

レッドクリフ PART1(2008年、中国) ―4.0点。巨匠の大作と駄作

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『レッドクリフPART1』
監督 呉宇森(ジョン・ウー)
出演 梁朝偉(トニー・レオン)、金城武、
張豊毅(チャン・フォンイー)、張震(チャン・チェン)
趙薇(ヴィッキー・チャオ)、胡軍(フー・ジュン)
中村獅童、林志玲(リン・チーリン)

【点数】
★★★★☆☆☆☆☆☆ / 4.0点

巨匠とは、年を重ねると、
自分の国の歴史を描きたくなるものなのか。

黒澤明の『乱』(85年)、マイケル・チミノの『天国の門』(80年)、マーティン・スコセッシの『ギャングオブニューヨーク』(2002年)など、いずれも巨額の制作費と長期の撮影期間を費やし作り上げた、作家人生をかけた歴史大作である。

今作もまさにその領分か、アクション映画の巨匠ジョン・ウー監督の『レッドクリフ』ねえ。制作費100億をかけて三国志の歴史的大戦を描く大作である。二丁拳銃や銃を投げ捨てるガンアクションで名高いウー監督がついに中国の歴史に足を踏み入れることになったという展開のようだ。豪華な舞台、争い、陰謀、愛憎など大作には欠かせないキーをちりばめ、大スペクタクル歴史アクションが展開される。飛び交う弓、緻密な戦略による罠、確かに迫力満載で、とってもエキサイティングな作品だ。

でも、なんだろう、どこか過剰にゲーム的に感じてしまう。暴力シーンも中途半端で当たり障りよく、槍で刺される兵士はグロテスクには死んでいかない。キレイな形でしか死なず、リアリズムの排除による暴力のエンタメでしかないように思える。

そして男女関係やストーリー展開もB級で単なる一般的歴史叙述にしか過ぎず、そこに独自的解釈を感じられない。その反面、セットやCGに一流演技陣と豪華贅沢三昧。弓での戦闘シーンなど圧巻であるが、ウー監督が多大な影響を受けている黒澤作品の中国版CG版焼直し観が否めず。

とてもではないが、金城武を初めとした演技陣に、ロケ撮影で資金に苦しみ作り上げた『乱』の仲代達也のような凄みはなく、それは配給会社を破綻に追い込んだ『天国の門』や、興商収入に苦しんだ『ギャングオブニューヨーク』と比べても同様である。それは背景として、『レッドクリフ』は過酷なバックグラウンドを持った作品でないからか。危機感や緊張感を含んだ映像的凄みはない。どこか浅いのだ。

これで国内総員100万人突破とは、まさに、スポンサーであるエイベックス(Avex)の宣伝の巧みさか。一作品5時間だから、PART1とPART2の二つに分かれているなんて、なんだか二度手間に感じてしまう。作家性を貫いたベルイマンの5時間の大作『ファニーとアレクサンデル』(84年)のような類の映画に失礼だよね。商業主義臭がぷんぷん。

そして個人的にも中国の歴史ものにはまったく興味がないのです。

ということで、私はPART1でおなか一杯。

(Written by Kojiroh)
※過去、2008年秋に執筆したものを加筆修正