『LIE LIE LIE』(1997年、日本)―9.0点。VHSしかない豪華制作陣のカルト映画


『LIE LIE LIE』(1997年、日本)―123min
監督:中原俊
原作:中島らも
脚本:伊丹あき、猿渡學
出演:鈴木保奈美、豊川悦司、佐藤浩市、中村梅雀 etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

中島らもの直木賞候補作、『永遠も半ばを過ぎて』の映画化。
監督は『12人の優しい日本字人』『桜の園』でおなじみの中原俊。
主演の3つ巴は日本の一時代を代表できるお三方。今では有り得ない豪華キャスト。大きな受賞やヒットにはならなかった、実に不遇な一作であるが、筆者にとっては、なぜか心引かれる大好きな作品。

一部でカルト的な人気はあるが、あまりにマイナーなために未だDVD化されていない不思議な一作である。(*ネットでもほとんど画像や動画がなく、映画人としても画像収集が困難でした…)

◎あらすじ
不眠症の電算写植オペレーター・波多野は、昼も夜も黙々と写植を打つ日々を送っている。その彼のもとに高校時代の同級生・相川が現われ、生鮮食品買い付け会社の代表取締役をしていると説明し、商売の種である珍種の貝を預けていった。その貝を腐らせてしまって以後、相川は何となく波多野の所に居つくようになる……<Goo映画より引用>

何はともあれ、キャストが素晴らしい。
主演から脇役まで、上田 耕一、大河内浩、山下容莉枝、『12人の優しい日本人』に登場していた名わき役が揃ってい、活き活きとした演技を見せてくれる。今や表に出ることが無い鈴木保奈美を始め、大御所俳優になったトヨエツ&佐藤浩一。このメンツが集まったことがすごい。

気だるく流れるBONNIE PINKの楽曲がまた秀逸。
色々とごちゃごちゃに豪華キャスト、制作陣を集め、秀逸な原作の映画化を試みた。まとまりには少し欠けるが、十分面白い中島らもワールドの再現映画になっていると思う。

詐欺の手法はなかなかリアル。豊川悦司にしてはコミカルでメガネの地味な役柄だが、怪演とも呼べるレアなハマリ役だ。

とは言っても、ヒットするにはあまりにアングラな世界を描いた作品か。
詐欺師の手口と、面白おかしい展開にはポップさがあり、かなり笑えるのだが、やはり映画マニア向けの一作か。構成も一回見ると、時空が交錯していて少し分かりにくい。そしてキキのシーンはあまりに冗長で長すぎて蛇足感があるのが唯一残念なところ。

しかし中原俊監督の演出力も地味に遊びが効いていて面白い。
イカ墨パスタで「どろどろ」になる食事シーンのインパクト、写植屋の事務所で紙ヒコーキで遊びながら打ち合わせをしたり、インスタントコーヒーを美味しく作る方法を語ったり、好きな人は本当にハマる。遊び演出を発見する楽しさがある。

VHSしかないカルト映画になっている残念な本作『Lie Lie Lie』。何より、個人的にタイトルがいけないと思う。やはり中島らもの原作のチカラが大きな原作に忠実な作品なので、素直に『永遠も半ばを過ぎて』でよかったんじゃないだろうか。

写植屋の単調な仕事に抑圧された本能が薬によって語り出す。
不眠症によって感度を増す脳みそ。

うーん、なんて面白い世界観、奇抜なストーリー。原作の中島らもの世界観と哲学、あとは主演三人の輝きは、何度見ても面白い。

最後に、鈴木保奈美は奥さんにとどまるには勿体無い、癖のあるいい女優だったなとつくづく感じることのできる貴重な一本です。

kojiroh

『悪人』(2010年、日本)―7.5点。現代人の孤独と闇


『悪人』(2010年、日本)―139min
監督:李相日
脚本:吉田修一、李相日
原作:吉田修一
出演:妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり、塩見三省、池内万作、光石研、余貴美子、松尾スズキ、樹木希林、柄本明 etc

【点数】 ★★★★★★★☆☆/ 7.5点

モントリオール映画祭で主演女優賞を受賞しただけではなく、国内でもキネマ旬報1位、日本アカデミー賞でも主演男女・助演男女を総なめにした話題作『悪人』。筆者は飛行機の中で見つけて始めて鑑賞。

吉田修一の原作がそもそも冴えていて、見事に映像化された、受賞の評価が納得できる一作であった。


◎あらすじ
長崎のさびれた漁村に生まれ、自分勝手な母に代わり、引き取られた祖父母に育てられた青年、清水祐一。現在は、土木作業員として働き、年老いた祖父母を面倒見るだけの孤独な日々を送っていた。そんなある日、出会い系サイトで知り合った福岡の保険外交員・石橋佳乃を殺害してしまった祐一。苦悩と恐怖を押し隠し、いつもと変わらぬ生活を送る祐一のもとに、一通のメールが届く。それは、かつて出会い系サイトを通じてメールのやり取りをしたことのある佐賀の女性・馬込光代からのものだった……。
<allcinemaより引用>

孤独な現代人が織り成す悲しい愛の物語、と言えば分かりやすいが、そうした愛の中で、複数の視点から、「本当の悪人とは何か?」を問いかける。

まずヴィジュアルイメージがいい。金髪の妻夫木聡、時速200kmで飛ばす白い車。キツイなまりの九州弁。日本人が見ても、なにやら地方の異国性を感じる。都会、車社会、地方の過疎化、孤独。


演技陣も圧巻だった。全員が日本アカデミー賞受賞できるのも納得がゆく。虚言癖な現代の若者、満島ひかりも、演技とは思えないリアリティを個人的には感じた。

エピソードの絡み方もいい。
被害者、被害者の家族、被告、被告の家族。被告を愛した女。高齢者と悪徳商法の絡みも、なんだか老人の孤独をあぶりだすようにも思え、極めて風刺的だ。サスペンスとしても、謎が複数の視点から明らかになってゆく。そして「悪人」とは誰か? 観客に突きつけられる。


「今の世の中、失うものが無い奴が多すぎる――」
柄本明が名言を語りだす。このくだりが本作のオチでもあり、最も胸に突き刺さるメッセージだと思う。失うものがなく無責任だからこそ、自分勝手に強くなった気になり、他人を見下す。現代人の特徴、孤独と闇に対する強烈な風刺である。

重くて暗い作品ではあるが、シナリオと演技、全てにおいて完成度が高い、映画祭を総なめするに十分値する一本であった。

kojiroh

『アウトレイジビヨンド』(2012年、日本)―8.0点&7.0点。平成の「仁義なき戦い」、新領域ヤクザ映画


『アウトレイジビヨンド』(2012年、日本)―112min
監督:北野武
脚本:北野武
音楽:鈴木慶一
出演:ビートたけし、西田敏行、三浦友和、加瀬亮、中野英雄、松重豊、小日向文世、高橋克典、桐谷健太、新井浩文、塩見三省、中尾彬、神山繁 etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点
※リアルタイム映画評

今年、最も公開を楽しみにしていた『アウトレイジ』の続編。
2年を経て、丁寧に豪華キャストで作られ、さらにエンタメ寄りな作品ながらもベネチア映画祭に出品し、たけしらしからぬほど宣伝し、初登場一位を記録し、オフィス北野としては異例なヒット。前評判のよさなどに期待を胸にしていた筆者は新宿のピカデリーで鑑賞した。


黒塗りの車、赤いタイトル、黒いスーツのヤクザたちと罵倒。静に鳴り響く鈴木慶一のサウンド。冒頭から圧巻のテンション!

◎あらすじ
関東最大の暴力団組織・山王会の抗争から5年。関東の頂点を極め、政治の世界に進出するなど過剰に勢力拡大を進める山王会に対し、組織の壊滅を図る警察が動き始める。関西の雄ともいえる花菱会に目をつけた警察は、表向きは友好関係を保っている東西の巨大暴力団組織を対立させようと陰謀を企てる。そんななか、以前の抗争中に獄中死したはずのヤクザ・大友が生きていたという事実が持ち出され、突然出所を告げられるのだが……。(映画.comより引用)

所感、前作よりもシリアスに、ハードボイルドになった。
女っけなし、笑いなしの男たちの生き様にしびれる。
大友と木村。二人の熱い絆による復讐劇でもある。前作以上の冴えた演技を見せる中野英雄はたけしよりも本作では中心にいる。

そしてジェームズ・エルロイ的な悪徳警官っぷりに拍車がかかる、小日向こそが本作の最重要なキーマン。

前作で関内会長が担っていた黒幕的な役割を、本作では片岡刑事が担うかのごとく、動き回り、部下を罵倒し、シナリオを練る。情や仁義などみじんもない、金と権力で動く悪徳っぷりは前作以上に冴えている。

前作の路線と似ているようでまた違った新領域に、色々と意表を突かれる映画であった。とりあえず2時間ハイテンションでアウトレイジの世界に引き込まれて、エンディングで驚愕というか唖然、という鑑賞。

新井や西田など、豪華なキャストが、各々情のあるやくざと経済やくざの悪役たちを演じて対峙し、罵倒と暴力、そして死体の山が築き上げられる。前作以上のスピード感で疾走する。


西田と塩野の関西ヤクザのコンビが特に秀逸な罵倒劇を見せてくれた。

反面、前作のキャストで目立った三浦と加瀬は、本作では追われる役になるので少し失速気味で、前作のような裏で陰謀を企てる黒さと怖さが役柄的にもパワーダウン。加瀬が本作では常にキレているので、唐突にキレる前作のような怖さがなく、少し残念。

どうも全体的に登場人物が多すぎて、詰め込みすぎで喋りすぎの印象もあった。
本来の北野映画が持つ作家性や映像や構図の美しさ、または独自のユーモアやギャグなど、前作ではうまく調和が取れていた要素は、「ビヨンド」ではすっかり影を潜めてしまった。

よりシリアスな本格ヤクザ映画になったと喜ぶべきか、しかしこの男臭さと悪い陰謀を潜ませつつ怒鳴り、罵倒し、とにかく唯一無二と思えるテンションには前作のファンとしては興奮。冒頭からボルテージマックス。(むしろ冒頭が最もテンション高かったかもしれない…)

Vシネでしか再現できない類の暗黒映画のような内容を、スクリーンで全国に上映して見れることは、新しい時代の何かを感じる。そして笑ってしまうぐらい大物がすぐに死んだりして、こんなのはきっと北野武にしかできないであろう。

ネタバレになるが、最後は唐突で、何やら次回作を彷彿させる。たけしが編集中に次のアイディアを思いついてあえてあのラストにしたんじゃないかと思えるほど。

また次も、最後に死んだ彼が、実は何かしらのカタチで生きていた、という内容ではないかと色々と想像が広がる。とにかくアウトレイジの世界はまだまだ続くことに期待したくなる世界のキタノの新領域だった。

kojiroh

◎クロスレビュー(編集員マルクス氏)
【点数】 ★★★★★★★☆☆☆/ 7.0点

その日、腹をナイフで刺される夢を見た。
その後思いっきり切り裂かれ、救急車で運ばれてから無麻酔で縫合されるという荒療治を受けたところで目が覚めたのだが、最早その時点でアウトレイジビヨンドなんざ怖かねえという気分に満ち満ちていた。鑑賞のコンディションとしては最良に近い。という覚悟と期待を込めて見に行ったアウトレイジビヨンドではあるが、実際観てみれば前作で言う歯医者やラーメンのような露悪的なシーン(ただしここで言うのは、悪趣味とか俗悪とかの「悪」だ)はなりを潜め、ひたすらヤクザ同士の殺しに傾注する映画に変化しており肩透かしを食わされた。

死んでも構わんとばかりに痛めつけた結果死亡ではなく、はじめから殺すつもりでやっているシーンばかりなのである。独創的な殺し方はあって楽しめたのだが、殺しシーンの総数が多すぎて全体では埋もれてしまう。ヤクザの抗争を淡々とドキュメンタリー的に撮った映画にすら見えてくるくらいだ。

が、そうなって来ると違和感を感じるのが主人公の大友だ。組をほぼ皆殺しにされてすっかり隠居気分になった大友の言動は、前作では匂わせる程度にとどめていた古き任侠道を強く推しており、はっきり言ってこのシナリオにはそぐわない人物となってしまっている。

「ヤクザにも守んなきゃいけない道理ってのがあるんだよ」
これは言わせてはいけなかったはずだったのだ。そうでなくても大友を無理にかっこ良く描きすぎだったのだが、この台詞で大友は完全に、なにかのコピーキャットに堕してしまった。

ただ、大友自身がヤクザとしてのモチベーションを完全に失っている描写も多く、であれば逆に意図的に「かくあらん」という意思を込めていたのだとすれば、逆にその齟齬は埋まり、綺麗に収まるのだが……だとしたら、そこはもう少しとっかかりが欲しかったところではある。

ある意味見所なのは前作に引き続き、石原だろう。前作では美人局の女は用意しても男を用意し忘れるなど絶妙に気が利かないながらも、こんな小さな組で金庫番をやっているのが不思議なインテリぶり(英語が喋れるとか)を見せつつ、経済ヤクザとして暗躍し、数少ない生き残りとなった。

一方今作では、哀れすっかりおかしくなってしまい、スポットが当たるシーンの9割ではひたすら部下に喚き散らし、無茶苦茶な罵声を浴びせるだけの存在と化している。役者に「若頭の器ではなかったんでしょう」とまでコメントされる様には思わず涙を禁じ得ない。

あんなに美味しいキャラだった石原もこのような大雑把なキャラ付けをされ、主人公の大友はやる気を失い、前作では大友と対立し、序盤で事実上退場した木村は大友を慕い今作ではタッグを組むが、はっきり言って説明不足と言わざるをえない。刑事の片岡は相変わらず小物で良かった。

前作の時点で「大物は死に小物が生き残る」という形をとった以上必然かもしれないが、本作の登場人物は皆、器ではなかったのだ。あるいはアウトレイジも、続編の器ではなかったのかもしれない。
※グバナン大使は出ません。

by マルクス氏

『NANA』(2005年、日本)―6.5点。豪華キャストによる雰囲気見事なコミック映画


『NANA』(2005年、日本)―114min
監督:大谷健太郎
脚本:大谷健太郎、浅野妙子
出演者:中島美嘉、宮崎あおい、 松田龍平、成宮寛貴、平岡祐太、丸山智己、松山ケンイチ、玉山鉄二、サエコ、伊藤由奈  etc

【点数】 ★★★★★★☆☆☆/ 6.5点

社会現象を巻きおこす話題となった人気漫画NANAの映画。ちょっと昔ながら、レンタル屋でビデオを探していたらなんか目に付いたので、今さらながら鑑賞してみることに。

中島美嘉と宮崎あおいが主演し、中島美嘉が歌った主題歌『GLAMOROUS SKY』は原作者の矢沢あいが作詞、L’Arc〜en〜Cielのhydeがメンバー初の楽曲提供による作曲・プロデュースが話題になり、大ヒットを記録したこともあり、一度は見て追うこと、この手の映画は筆者の趣味ではないが、意外と面白かった。


◎あらすじ
小松奈々は、彼氏と一緒にいたいがために東京へやってきた。大崎ナナは、歌で成功したい夢を抱えて東京へやってきた。新幹線の隣同士に座った2人の「ナナ」は、偶然、引越し先の部屋で鉢合わせし、一緒に暮らすことになる。趣味も性格も正反対の2人の共同生活が始まった。ナナは新しいバンドメンバーを加え、昔の仲間とバンド活動を再開する……。(Goo映画より引用)

筆者は原作を読んだことがないので、先入観なしで楽しめた。
なんとなくだが原作の雰囲気は知っているので、それを考えるとこの映像化はキャラとキャストの吊り合いであったり、美術の雰囲気であったり、世界観はなかなか忠実にできていて完成度が高い気がした。


中島美嘉のロックな化粧とルックスでタバコをふかしつつ、電車の中で二人のナナが出会うシーンなどはその凸凹っぷりもさることながら、印象に残っているシーンだ。ライブであったり、音楽の道を歩む大崎ナナの姿はやはりカッコイイ。


真っ白な白塗りの家にロックなにーちゃんねーちゃんが集まる家のシーンもクールだと思った。純粋な若者の青春映画としても面白いし、なにより登場人物の多様さ、そのキャストの豪華さは、今ではもはや実現不可能だと思えるほど。

松田龍平、松山ケンイチ、成宮、玉山、さらにサエコまで出ているとは驚き。今となってはかもしれないが、出演者がみんな当たりすぎ。そして主題歌までラルクのHydeとか、奇跡的なメンツで作られた秀逸なコミック映画であることは疑いようが無い。

脚本的にはやはり完結的な物語ではなく、シリーズモノを連想させるないようなんで、エンディングには少し微妙なところがあり、テレビドラマ的ではある。が、この世界観と豪華出演陣、Hydeの名曲を拝むだけでも見る価値は十分にある一本であろう。

kojiroh

『Dolls』(2002年、日本) ―7.0点。四季の美と、鮮烈で残酷な愛物語


『Dolls』(2002年、日本) ―113min
監督:北野武
脚本:北野武
出演者:菅野美穂、西島秀俊、三橋達也、松原智恵子、深田恭子etc

【点数】
★★★★★★★☆☆☆ / 7.0点

第59回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門正式出品作。
ロシアでロングランを記録したことでも国際的な評価の高い北野武のラブストーリー。菅野美穂や深田恭子が出演している豪華キャストによる異色の作品といえる。


◎あらすじ
松本と佐和子は結婚の約束を交わしていたが、社長令嬢との縁談が決まった松本が佐和子を捨てた。佐和子は自殺未遂の末、記憶喪失に陥る。挙式当日、そのことを知った松本は式場を抜け出し病院へと向かう…。年老いたヤクザの親分と、彼をひたすら待ち続けるひとりの女。事故で再起不能になった国民的アイドルと、彼女を慕い続ける盲目の孤独な青年。3つの究極の愛が、少しずつそれぞれの運命へと展開していく…。(All cinemaより引用)

日本の民族の根源的な人形劇をモチーフに物語は進んでゆく。ほとんど言葉による説明を省略し、映像で語る。残酷なほど寡黙な作品であり、極めて実験的な一作とも言える。三つのラブストーリーが交錯してゆき、そしてそれぞれの終わりを迎える。

正直言って、この豪華キャストを使ってよくこんな個人的な趣味や作家性を露骨にした作品を作ったものだと逆に感心。無心な人形のような表情を浮かべる菅野美穂の美しさはとにかく冴えている。日本の四季と美しい映像美や構造、アイディアには圧巻するが、まったく商業的ではなく、大丈夫なのか?と心配になるほど。

どれもこれも、残酷なほど純粋な愛の物語だ。

ストーリーなんてあるようでないほど単純なもの。心を失った人形のような佐和子との愛の終わり、アイドルオタクの純粋すぎる愛情、何年も男を待ち続ける女。それぞれの宿命が悲しい終わりを迎える。特に残酷なシーンなどはないが、本当に残酷な話だ。

セリフはほとんどなく、冗長すぎるようにも思えるが、ともかく心が無くなったような状態の男女ふたりがヒモに繋がって日本の四季を放浪するシーンなどは不自然であまりにも非現実的なのだが、美しい。色彩が鮮烈すぎる。「繋がり乞食」の映画。まさにシーンで見せて観客の目に焼き付けてくる。

だがある意味、ゴダール病。自分の世界に入りすぎたあまりにも娯楽性のない売れない芸術映画なので、もうこのキャスティングで実現不可能であろう。その意味で、本作には覆せない価値があるのかもしれない。

kojiroh

『十三人の刺客』(2010年、日本)―7.5点。現代版『7人の侍』


『十三人の刺客』(2010年、日本)―141min
監督:三池崇史
脚本:天願大介
音楽:遠藤浩二
出演者:役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、高岡蒼甫、松方弘樹、吹石一恵、内野聖陽、光石研、岸部一徳、松本幸四郎、稲垣吾郎 etc

【点数】 ★★★★★★★☆☆/ 7.5点

ベネチア映画祭では7分間にも及ぶスタンディングオベーションを受け、さらには国内外を問わず様々な賞を受賞した近年まれに見る邦画大作が本作『13人の刺客』。63年の映画のリメイク作だ。

世界の三池による一大スペクタクルとも言える。それほど金もかかっているし出演陣も豪華。制作費は18億近く。それを裏切らない完成度に世界が熱狂した。日本映画の黄金期を思い出させるような内容でありつつ、武士道的精神に満ちた本作は大きな可能性を感じる。


◎あらすじ
時は江戸時代後期の弘化元年(1844年)。将軍の異母弟にあたる明石藩主松平斉韶は暴虐・無法の振舞い多く、明石藩江戸家老間宮図書は老中土井大炊頭屋敷前にて切腹、憤死した。幕閣では大炊頭を中心に善後策を検討したが、将軍の意により、斉韶にはお咎めなし、となった。斉韶の老中就任が来春に内定していることを知る大炊頭は、やむなく暗黙のうちに斉韶を討ち取ることを決意し、御目付役の島田新左衛門を呼び出した。新左衛門は大炊頭の意を受け、自身を含めて13人で、参勤交代帰国途上の中山道落合宿にて斉韶を討つことに……。(Wikiより引用)

冒頭から引き込まれる。手足を切られた女のグロテスクさとショッキングさがアドレナリンを刺激し、ぐいぐい物語に引き込む。静かな前半も、緊張感がなんともいい。

なにより、意外なキャスト、稲垣吾郎の悪役っぷりに驚愕。

豪華キャストながらも最も異色なのがこの配役だろう。助演としてかなり不気味な存在感を放ち、途中まで稲垣だと気付かなかったほどハマり役。彼の新領域というか、意外と狂気な役がすっぽりはまる役者だと思った。そして最後の泥まみれっぷりが、アイドル俳優がここまでやって大丈夫なのかと心配してしまうほど…笑



主演の役所の安定感もさることながら、とにかく個性は役者を揃えて、この映画自体が一つの大博打ではないかと思えるほど。

「みなごろし」
「斬って斬って、斬りまくれ!」
雨の中の決戦、泥、殺陣、トラップ。まさに現代に蘇った七人の侍。

重苦しい武士道、将軍と武士の生きる道、切腹、ケジメ。とにかく日本男児の美しい仁を見せ付けてくれる。重々しい空気が多いが、伊勢谷友介のキャラクターが物語を少し明るくし、『七人の侍』でいう菊千代のような配役になっており、笑いどころとのバランスが調和が取れている。

単なる娯楽大作とも呼べる。だがそれだけではなく、三池流のバイオレンス、グロさが適度に共存している絶妙な空気観がなんともいいのだ。刀で首チョンパされて転がる首の演出がなんとも最後まで味がある。

まあ、従来の三池バイオレンスを期待したコアなファンでには少し物足りないかもしれないが、万人受けする新規ファンも掴み得る新領域ではないかな。

三池監督らしくないが、こうした大作をも手がけうる監督になったことがまず誇らしいことではないか。

(絶賛な批評ですが、正直この手の時代劇はあんまり筆者の趣味ではありません…笑)

kojiroh

『3-4×10月』(1990年、日本)―8.5点。ソナチネのプロトタイプ的な実験映画


『3-4×10月』(1990年、日本)―96min
監督:北野武
脚本:北野武
出演:ビートたけし、小野昌彦、石田ゆり子、飯塚実、豊川悦司 etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

『その男、凶暴につき』に続く北野監督デビュー第二作。
「三対四、エックス十月」。わけのわからないタイトル。
娯楽性がありヒットも期待できた前作とは一変してマニアックな異色作。北野軍団を総動員した映画通がやりたいようにやったわけの分からない映画で、商業的には惨敗した失敗作だと言われる。

昔、鑑賞した時は筆者もできの悪い作品だと思っていたが、レンタルにて再鑑賞してみると、数年前に見たときより遥かに面白く感じることができた。

◎あらすじ
勤務先のガソリンスタンドで暴力団組員にからまれた冴えない青年・雅樹は、逆上しその組員に殴りかかる。しかし、そのことが原因でガソリンスタンドが暴力団に強請られる事となり、草野球チームのコーチで、過去に組長と兄弟分であったスナックのマスターに相談する。雅樹に同情したマスターは問題解決のため組に出向くのだが、そのことがきっかけとなりマスターが暴力団と揉め、雅樹は拳銃を手に入れるため沖縄に飛ぶのだが……。(Allcinemaより引用)

沖縄の海と緑、やくざと暴力、草野球と、とにかく北野映画の源泉がぐちゃぐちゃになったような実験性と、荒削りながら初期の映像表現の衝動に満ちていて、なぜかもう一度観たくなる要素がある。


BGMを一切使わず、効果音だけで見せる。
野球の音がエンディングに響く。『家族ゲーム』に通じる大胆な実験性もさることながら、短い尺に様々なアイディアが盛り込まれ、中毒性の高いカルト映画としても有名で、たけし本人もデキの悪い子供みたいで憎めない映画だといったような発言をしていることも頷ける。


「だからテメー、屑って言われるんだよ」
若き日の豊川悦司がやくざの若頭として登場しているところも見逃せない。ヒット前の無名時代ながらも、シャープな存在感が大器を感じる。大杉連や寺島進もそうだが、北野監督はホントに役者の発掘がうまい。


屑やくざの上原で登場するたけし本人の脇役は完全なる遊びに近いが、奇怪な役過ぎて本作の毒々しさを象徴するかのようだ。

沖縄の緑の中で遊びに興じる。このシーンの色合いと構図はホントに素晴らしい。全般的に本作から、北野映画特有の色と構図が確立され始めたのではないか。

また、忘れられないシーンも多い。
中島みゆきの「悪女」を音痴に歌うダンカン。

ガナルカダルタカが本名で出演し、
「井口さん、やめてくださいよ」
「井口だよ」

とやくざな会話を交わす。これを飽きるぐらい言い合うだけのシーンであるが、この緊迫感とシュールさが特にすごい。『ソナチネ』の「村川さん、やめてくださいよ」に匹敵する名シーンだと思った。

失敗作だがなぜかもう一度観たくなる。
荒削りだが魅了される。
このヴァイブスこそ、映画なのかもしれない。

kojiroh

『呪怨』(2002年、日本)―7.0点。言わずと知れた、日本を代表するホラー映画


『呪怨』(2002年、日本)―92min
監督:清水崇
脚本:清水崇
音楽:佐藤史朗
主題歌:推定少女「鍵が開かない」
出演:奥菜恵、伊東美咲、上原美佐、小林朝美、市川由衣 etc

【点数】 ★★★★★★★☆☆☆/ 7.0点

ハリウッドでもThe juonとしてリメイクされて大ヒットを記録した、『リング』に並ぶ最も有名な日本ホラーの傑作が『呪怨』。様々なパロディを生み出した有名作ながら、未だに鑑賞したことなかったのでこの夏、初めて鑑賞した。


◎あらすじ
ある日、介護ボランティアをする女子大生の仁科理佳は、寝たきりの老婆・徳永幸枝の様子を見るためその家を訪れた。理佳は何か不気味な雰囲気を感じつつも家の中へと入っていく。悪臭が漂い物が散乱する中を進み、一階の薄暗い部屋で幸枝を発見する理佳だったが……。(All cinemaより引用)

多数登場するキャラクターと、視点ごとに切り分けられたエピソード。簡潔で観やすい。そして絶望的で不気味。最後に女性の甲高いJ-popが流れるエンディングも『リング』に匹敵する作品であることは間違いない。日本クオリティが成した傑作だ。


奥菜恵の透明感が初々しい。呪いのホラーには必要な存在感が白い美女に、次々と不気味なことが起きてゆく。伊藤美咲、上原美佐、もう可愛そうなぐらい美女が闇に消えてゆく。怖いけど、ぶっちゃけやりすぎな気もする。


不気味な唸り声が聞こえ、警備室からのモニターが歪み迫ってくる黒い影、写真から顔が消える怪現象、シャワーシーンで迫る手、不気味なフラグが恐怖を煽る。絶望的なほどに。

もしかしたらスレスレで助かるかも、という希望などなく、闇が迫り、子供とお母さんの呪いに巻き込まれる人々。

面白いんだが、しかしすごく理不尽だ。悪い事をした人が不幸になるではなく、呪いに触れた人々が無情にも消えてゆくのはちょっとやりすぎだし、ありえないだろwwwと突っ込みたくもなるほど。

しかしなぜこの子供とお母さんの呪いはここまで強烈なのか。
あくまでホラーというエンターテイメントとして考えて観ないとちょっと理不尽すぎて現実感がイマイチかもしれない。お母さん最強すぎるのだ。

だがこの子供の造詣、「ざしきわらし」的な日本古来からの霊をモチーフに描かれた呪怨は、世界にも通じる恐怖を焼き付けた意味で、やはり偉大な現代風の「怪談」なのだろうと思った。

kojiroh

『IZO』(2004年、日本)―0.0点。実験的、それを越えてもはや映画じゃなくなった映画


『IZO』(2004年、日本)―128min
監督:三池崇史
脚本:武知鎮典
出演:中山一也、、桃井かおり、松田龍平、石橋蓮司 、山本太郎、ミッキー・カーチス、遠藤憲一 、寺島進、松田優、片岡鶴太郎、ビートたけし、ボブ・サップ、緒形拳、原田芳雄、松方弘樹、及川光博、友川かずきetc

【点数】 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆/ 0.0点

ベネチア映画祭正式出品作品。世界の三池が監督。人切り以蔵をモチーフに描かれた時代を、時空を超えて描かれるバイオレンス。

「IZOが、来る……!……天誅!」

さてインパクト大で、三池監督&たけし出演で他もありえない豪華キャストに見事なほど騙される映画だった……。


◎あらすじ
1865年5月、土佐勤皇党首領・武市半平太のもとで数々の幕府要人を暗殺し、“人斬り以蔵”と恐れられた岡田以蔵がついに磔の刑に処された。だが、以蔵の怨念は時空間を越え、現代の東京でホームレスに宿る。そして不死身の肉体を備え、怨念と人斬りを生きがいとする“IZO”として復活した。IZOは時空を飛び越え、老若男女や身分を問わず立ちはだかる人々を次々に斬り刻んでいく…。(ALLcinemaより)


たけしを初めとしたあり得ない豪華キャストと、それに見合わぬあまりにも奇想天外な内容に、まさに度肝を抜かれた。

友川かずきの名曲に載せて現代社会、さらには観客の心を滅多切りに。観客に天誅が降り注ぐ。

「IZOという名のシステムエラー」。時空を越えて暴走するIZOというアイディアはなかなか面白く、IZOはAKIRAを目指したかったのかもしれないが、しかしあまりにもハチャメチャなストーリー展開と意味不明なシーンの連続で、見るのを途中で辞めようかと思った。

レンタルで鑑賞していたため、実際、途中で何度か辞めた。しかし負けた気がするのでまた観て、なんとか2時間見た。ぶっちゃけ、映画館で見た人は止めることができないので可愛そうだとさえ思った――。


及川光博、現代を舞台に時空を超えた人切り。
IZOと対峙するゲストが次から次へと移り変わり、それがあまりにも豪華キャストなので、「こんなにすごい人を滅多切りしていいんですか?w」とつっこみたくなる。それほどまでに、なんでこの役で出演OKしたのか、それが本作最大の謎であった。


桃井かおりは人類の母になった?
怨念、輪廻、時空、暴力、生命……おそらくそうしたものを実験的にIZOをモチーフに描きたかったのだろう。

だが実験性を超えた実験性は、もはや映画芸術ではなく単なる落書きのようなものになってしまうのだなとしみじみ感じた。

部分的には光る演出、演技、面白い部分があるのだが、ナチスや戦争中の歴史から、IZOが壮大なる歴史を越えて人類に天誅を与えようとするアイディア自体は面白いのだが、肝心な本作はぶっちゃけまったく面白くない。

例えるならば、北野武の『Takeshi’s』にも近い。とにかく監督がめちゃくちゃやらかした実験映画という名の失敗作であろう。

見る人によってはハマる賛否両論作なのであろうが、個人的には0点=∞点。

映画を越える映画でもあろうが、やっぱり、それもさらに越えてこれは映画じゃねえ!(笑) 

散々ぼろくそ言っている筆者である、
がしかし、もうイゾーを忘れられない。

kojiroh

『感染』(2004年、日本)―7.0点。不気味な病院ホラーの秀作


『感染』(2004年、日本)―98min
監督:落合正幸
脚本:落合正幸
原案:君塚良一(世にも奇妙な物語「急患」)
出演:佐藤浩市、 高嶋政伸、星野真里、木村多江、真木よう子、南果歩、佐野史郎etc

【点数】 ★★★★★★★☆☆☆/ 7.0点

Jホラーシアターという6人のホラー監督が携わる企画の第一弾として制作された『感染』。原作は世にも奇妙な物語の『急患』。13年の歳月を経て復活したらしく、キャストも豪華なので、レンタルで鑑賞。

広がる感染症のサバイバル映画なのかと思いきや、内面的な心理と感染、霊的なものとの絡みがあるオカルト・ホラーであり、想像以上によくできた怖い映画であった。


◎あらすじ
舞台はとある古い病院。患者数が多い割には赤字続きで、業務の多忙さ故にほぼ毎日夜勤でスタッフ間の関係や病院内の雰囲気も悪くなっていく。そんなある日、初歩的な医療ミスによって一人の患者を死なせてしまう。このミスが発覚すると、確実に交付金がストップすると思った主人公・秋葉らはそのミスを隠蔽する。それと同時に、今まで見たことのない症状の患者が急患で運ばれて…。(WIKIより引用)


不気味な病院、陰湿な看護婦たち、赤字に悩む院長。
全体的にこの病院に漂う雰囲気が気味が悪く、不気味な予兆を冒頭から感じる。患者の顔の青白さも気持ち悪い。また、皮膚の整合で皮を試しに縫ってゆくシーンも生々しく、さらには突き刺さる注射針が痛くて、グロテスクだ。目を背けたくなる。

不自然なほど緑色の血と、どろどろに溶けた内臓、さらには包帯に巻かれたままストーブで暖められるミスをして死んだ患者の様子も、匂いが映像から漂ってきそうなグロさがある。


また一人、また一人と心を壊されて感染が広がってゆく。
その各々の精神破壊っぷりが怖いが面白い。陰湿な病院内でのイジメというかパワハラによって、心を壊してゆく従業員の一人ひとりの描写がよく出来ていると思う。注射針を自分に射す星野真里の可愛そうな結末が悲しくて怖い。

色々と心臓に悪いシーンが連続し、感染の謎が最後には明らかになる。

キャストも佐藤浩一からモロ師岡まで個性派が揃っているし、女性陣も冴えている。とにかく退屈せずに最後まで見せてくれる日本流のホラー映画だ。

病院をテーマにして、その内部をグロテスクに描いたホラー映画としては秀作な一本だと思う。

kojiroh