『ブエノスアイレス』(1997年、香港)―60点。伝説的ゲイ映画@香港


『ブエノスアイレス』(1997年、香港)―96min
監督:ウォン・カーウァイ
脚本:ウォン・カーウァイ
製作:ウォン・カーウァイ
音楽:ダニー・チョン
撮影:クリストファー・ドイル
出演:レスリー・チャン、トニー・レオン、チャン・チェン etc

【点数】 ★★★★★★☆☆☆☆/ 6.0点

HAPPY TOGETHER―原題。
ゲイ映画として有名な香港映画。舞台はブエノスアイレス。
監督はウォンカーウェイで超豪華なメンツ。
香港通な筆者だが、そいえば見てなかったのでレンタル屋で見つけて鑑賞。

●あらすじ
南米アルゼンチンへとやってきた、ウィンとファイ。幾度となく別れを繰り返してきた2人は、ここでも些細な諍いを繰り返し別れてしまう。そして、ファイが働くタンゴ・バーで再会を果たすが…。
<allcinema>

即興的で成り行きで香港の地球の裏側にきてしまったゲイカップル。
イケメン2人のラブシーン満載です。よくこんな映画作ったなと、商業的にありかいこれ、さすが自由国家・香港。

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しかし個人的に中華権のゲイ映画なら、スプリングフィーバーの方がだいぶ上の水準を言っているように感じる。

ウォンカーウェイの映画って当たり外れでかいんすよね。即興がほとんどみたいな内容で、脚本は手抜きというかあるようでないもの。

この手の映画製作は好き嫌いと当たり外れがでかい。
案の定、トニーレオンの語り口で、香港の裏側のブエノスアイレス+ゲイっていう設定はすばらしいのだが、それ以上のものがあるかというと少し微妙。

いいシーンはすばらしいと唸るシーンは多いのだが、積み重ねたタバコや、モノクロでのゲイベットシーン、言葉をレコーダーに吹き込む場面、足元で反転する香港など、日常の中の何気ないシーンが印象に残る。

とりあえずゲイのいざこざはいくら伝説的俳優のレスリーチャンでもおなかいっぱいです。

kojiroh

『グランド・マスター』(2013年、香港)―40点。巨匠の新感覚カンフーアクション、失敗作


『グランド・マスター』(2013年、香港)―123min
監督:ウォン・カーウァイ
脚本:ゾウ・ジンジ、シュー・ハオフォン、ウォン・カーウァイ
製作:ウォン・カーウァイ、ジャッキー・パン・イーワン
出演:トニー・レオン、チャン・ツィイー etc

【点数】 ★★★★☆☆☆☆☆☆/ 4.0点

2013年、中国系の映画で最も話題になった一作。
映画館で見ようかとも思ったが、レンタルにてようやく鑑賞。
「花様年華」「2046」の巨匠、ウォン・カーウァイ監督が、描くカンフーアクション。長い年月の構想による、トニーレオンとチャンツイー主演!これはつまらないはずないだろと期待して鑑賞したのだが・・・。

●あらすじ
1930年代の中国。北の八卦掌の宗師、宮宝森(ゴン・パオセン)は引退を決意し、生涯をかけた南北統一の使命を託す後継者を探す。第一候補は一番弟子の馬三(マーサン)。一方、パオセンの娘で奥義六十四手をただ一人受け継ぐ宮若梅(ゴン・ルオメイ)も、父の反対を押して後継争いに名乗りを上げる。そんな中、パオセンが指名したのは、南の詠春拳の宗師で人格的にも優れた葉問(イップ・マン)だった。納得のいかないマーサンは、師であるパオセンへの恨みを募らせる。一方、諦めきれないルオメイも、イップ・マンを秘かに呼び出し、みごと八卦掌奥義六十四手で勝利を収めるのだったが…。
<allcinema>

はい、見事にすべってました。
この規模の大作にしては、中途半端に芸術性を求めて、エンタメとしてもかなりの滑り方をしているなと。アクションシーンは、キルビルの人とかが演出を協力しているらしいので、迫力あって、おっと驚くシーンありましたが・・・灰色がかった画面の感覚はシンシティも思い出します。
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なんていうか、この規模の大作なのに、歴史を折りませて大スペクタクルな雰囲気をかもし出しているのだが、ストーリーがまたぜんぜん駄目。あるようでないようなもの。ウォンカーウェイが好きそうな「あるようでない脚本」だけれども、この規模のアクション映画にするなら、その感性だのみな脚本はまったく意味をなせない。

もっと観客を楽しませるような精密なエンタメな脚本練れよ!ウォンカーウェイ!!

正直、カンフーアクションにシーンは楽しめる演出がありますが、それ以外がちょっと駄目すぎる。トニーレオンも「2046」とほぼキャラ的に変わらない悲壮感、語り部のような立場で、主役はチャンツイーっすかね。

部分的には光る演出や新しい試みを感じるけれど、こりゃ、全体通してぐだぐだすぎ。

ウォンカーウェイのせいです。間違いなく。

エンタメ大作にするなら、彼のような、一発取りというか、即興演出とか映像を感性で語るような監督に、大きな予算と長年の構想で、こんな映画を取らせちゃいけないですね。

もっとちゃんとしたストーリーを作って、その行く末を追いたくなるようなエンタメ映画にしてれば、悪い作品にはならなかったでしょうが・・・とりあえずカーウェイ監督は、雰囲気で映画を撮っちゃう人だから、この手の映画は二度と作ってはいけませんね。

こりゃ赤字でしょう。絶対ヒットしないと思います。

商業的なアクション映画としては、あまりに中途半端でつまらなすぎました 。

kojiroh

『デッドエンド 暗戦』(1999年、香港)―6.0点。アンディラウのための軽快ノワール映画


『デッドエンド 暗戦』(1999年、香港)―90min
監督:ジョニー・トー
脚本:ヤウ・ナイホイ、ローレンス・クロチャード&ジュリアン・カーボン
出演:アンディ・ラウ、ラウ・チンワン、ヨーヨー・モン、レイ・チーホン、ホイ・シウホン

【点数】 ★★★★★★☆☆☆☆/ 6.0点

ツタヤの良品発掘コーナーにて取り上げられていた、ジョニートー監督による初期の一作。なかなかこの時代の作品はこうした特集で改めて発掘されないと見ることができないのでレンタルにて鑑賞。

ずばり、90%アンディラウの映画であった。

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◎あらすじ
末期ガンで余命数週間と宣告されたチャン(アンディ・ラウ)は、ある目的のため完全犯罪を計画。彼はまず、大手金融コンサルタント会社に押し入り、人質をとってビルの屋上に立てこもる。人質解放の交渉人として重犯課のホー刑事を指名したチャンは、“これは、ゲームだ。72時間以内にオレを逮捕しろ”と宣言し、厳重に警備された現場から姿を消してしまう。ホーは独自に追跡を始め、チャンの目的が復讐だという事を知る。<Goo映画より>

香港ノワールとしては『インファナル』よりも前の初期の作品になるが、屋上での決死、寡黙に笑う謎めいたアンディ・ラウの姿がとにかくクール。

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後に『MAD』で強烈な演技を見せるラウ・チンワンも主軸に固める。
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時限爆弾、限られた時間内での頭脳戦と肉弾戦。
よくできてはいると思うが、ずばり一言、馬鹿馬鹿しい(笑
ノワール系にしては少しマイルドすぎて、いまいち緊張感もなく、若干のぐだぐだ観がある。

どんでん返しや色々な伏線があり、サスペンスとしてはアイディアも面白い部分があるが、香港映画らしい馬鹿っぽさがちょいと個人的には冷めてしまった。

だが「バスの中だけ恋人」の有名なシーンはインパクト大。
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この映画のすべてはここにあると思える。むしろこのバスの中でのエピソードをもっと拡張して上映すべきだったのかもしれない。逃走中の犯人が検問を逃れるためにヘッドフォンを一緒に聞くことで急速に距離が縮まる。切ないが、このシーンがやはり最も独創的で輝いている場面だった。

あと脇役でのホイ・シウホンの相変わらずのぬひょんとしたカエルみたいな顔で間抜けな上司を演じる姿がジョニートーの映画らしくてなんだか微笑ましかった。

というわけであんまり書くことがないが、部分的には面白かったが全体的にはちょっと幼稚すぎたかな。でもアンディはカッコイイ。サングラスがよく似合うThe香港ガイ。

やはり筆者は、香港ノワールでハードボイルド色が強い作品の方が好みである。

kojiroh

『MAD探偵 7人の容疑者』(2007年、香港)―8.0点。


『MAD探偵 7人の容疑者』(2007年、香港)―89min
監督:ジョニー・トー、ワイ・カーファイ
脚本:アウ・キンイー、ワイ・カーファイ
出演:ラウ・チンワン、ラム・カートン、ケリー・リン、アンディ・オン etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

原題は、『神探』。
ジョニートー監督の隠れた名作と名高い『MAD探偵――』
日本公開はなんと2011年と非常に遅れていたが、第64回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門ではサプライズフィルムとして上映され、カルト的な一作と評判もいいので筆者はレンタルで鑑賞した。

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●あらすじ
西九龍署・刑事課へ配属された新人のホー刑事は、奇抜な捜査で難事件を解決する先輩刑事のバンと出会う。彼は、自らを殺人現場と同じ状況に置くことで真犯人を突き止める特殊な能力を持っていた。しかし、それは精神を病んでいるようにも思われ、その数々の常軌を逸した行動が原因でクビになってしまう。それから5年後。バンのもとをホー刑事が訪ね、1年半前に失踪したウォン刑事の拳銃が使われた連続殺人事件の捜査協力を依頼する。さっそくホーと共に捜査に乗り出したバンは、ウォン刑事の相棒だったコウ刑事に疑いの目を向ける。ほどなく、バンにはコウの中に7人の異なる人格が宿っているさまが見え始めるが…。

冒頭からテンションマックスでの豚斬り。わけのわからないきちがいじみた捜査方法で事件の謎を暴く。
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スーツケースで自ら落ちてゆく場面など、謎であったが次第の彼の持つ特殊能力が明らかになる。この観客を惑わしつつも次第にバンの謎を晒してゆく手法が面白い。霊的存在を霊的ではなく、普通の人格を持つ人間として描いている点が、独特の世界観であり、時間がたつと共にばしっとハマる。

常連のラムカートンからラムシューまで脇役もトー・ファミリー。しかし彼の作品の中では郡を抜いて異色な作風であろう。彼の作品の中で最も優れて強烈なキャラクター造詣が、このバン刑事であろう。
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とにかくゴッホのような天才刑事を香港を舞台に描いたことが素晴らしく斬新で、今まで見たことのない刑事サスペンス映画であった。仏教観念的なスピリチュアルな世界と作家のような刑事、それを狂気的に演じたラウ・チンワンがすごい。

特に中華料理屋でフカヒレと米を何度も何度も食べ続けるシーンは、トー監督特有の秀逸な食事シーンと、『エレクション』でレンゲを食べるような狂気を感じる、本作の中で最も忘れられないワンシーンだった。

事件の謎以上に、彼自身に対する謎も散りばめられ、最後には輪廻転生を繰り返すようなThe endだ。

そんなわけで『MAD-』は、前半の引き込みから中盤にかけてはかなり素晴らしいと思った。スピード感もあり事件解決方法の目新しさなどに惹きつけられる。

が、ジョニートー監督のいつもながらの後半の失速というか葛藤や心のもやもやでぐだぐだするところがちょっと蛇足であった気がする。終わり方は個人的にかなり好きであるが、いつものごとく銃撃戦で人が最後までしななすぎでリアリティがない……まあそれが香港映画らしいけれども。

最後の鏡の中の対峙はトリッキーだが人間の内面をあばくモチーフとして描かれているようだ。
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てわけで前半9点、後半6.5点、ラウチンワンのMAD探偵の新しさに+0.5点っていう映画でした。

しかしインド人も登場するなど、香港が舞台ならではの映画なのだろう。香港びいきの筆者はこの世界観が非常に好きでした。

kojiroh

『The eye2』(2004年、香港=タイ)―4.5点。劣化したThe eyeの続編


『The eye2』(2004年、香港=タイ)―95min
監督:オキサイド・パン、ダニー・パン
脚本:ジョジョ・ホイ
出演:スー・チー、ジェッダーポーン・ポンディー、ユージニア・ユアンetc

【点数】 ★★★★☆☆☆☆☆/ 4.5点

前作『The eye』が非常によくできたサイコサスペンス系の映画であったため、その続編も見ることにした。監督は前作と同じく、香港生まれでタイで活躍するパン・ブラザーズであるため鑑賞を楽しみにしていたが……。


◎あらすじ
タイのホテルで大量の睡眠薬を飲み、自殺を図った女性が一命を取り留めた。妻のいるサムを愛してしまったジョーイ。彼女は香港に戻るが、霊現象に悩むようになる。自殺未遂以降、死霊が見えるようになってしまい、さらには妊娠の事実が彼女を追いつめてゆく……。(Goo映画より引用)

妊娠と自殺、そして霊感。
なかなかテーマとしては興味深い話で、霊が赤子に入り、輪廻転生を繰りかえす。

見えないものが見えてしまった女性の悲劇、という部分は前回と同じだが、それが霊的な要因が入りすぎて、謎を追ってゆくサスペンス要素も前回に比べるとまったく面白くない。衝撃的な謎や真実は何もなく、ただただ輪廻から逃れようと四苦八苦する女性を追っているだけに思えて、まあ霊的な描写が面白い部分もあるのだが、どうだろう、ストーリー的にもそんなに起伏がなく、デキが悪い。

さらに主人公の女性、前作の美しいアンジェリカに比べると、ちょっと劣りすぎる。他にも登場人物がたくさん出てきて色々物語が動くならあれだが、これはほぼスーチーさんの主観の独壇場でもあるので、彼女がthe eyeの続編を担うほどの美しさと力量はなかったと思います。


まあ香港的な霊的観念や輪廻転生が映し出されていて、香港好きな僕としてはそれなりに楽しめたのだが、前作の素晴らしさを考えると興ざめする部分が多い。怖いシーンもそれなりにあるっちゃあるが。

最後の屋上から飛び降りるシーンなどは、もう突っ込みたくなるほど。
あそこで死んで別のエンディングだったらもう少しましだったかもしれないが、しかしラストのオチ付けから何から何まで前作から劣化しすぎている残念な一本であった。

まあ単に、前作が素晴らしすぎたのかもしれない。

kojiroh

『ザ・ミッション 非情の掟』(1999年、香港)―8.0点。香港ノワール火種の傑作

『ザ・ミッション 非情の掟』(1999年、香港)―81min
監督:ジョニー・トー
脚本:ジョニー・トー&ヤウ・ナイホイ
音楽:チュン・チーウィン
出演:アンソニー・ウォン、フランシス・ン、コウ・ホン、ラム・シュー、ロイ・チョン、ジャッキー・ロイetc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

香港ノワールブームの火種にもなったといえる熱狂的なカルトファンを持つ名作、『ザ・ミッション(槍火)』。

オープニングからジョニー・トー監督が敬愛して止まない黒澤明風の習字フォントによるロールがなんとも誇らしい。オープニングテーマ曲も冴えている。トー監督流の『用心棒』のような作品だ。


◎あらすじ
黒社会のボス、ブンは何者かに命を狙われてしまう。そのため護衛として組織の精鋭を招集する。集められたのはそれぞれ境遇のまるでちがう5人。彼らは衝突を重ねながらも、与えられた任務――ブンを守り犯人を割り出す――を遂行するため行動を共にするのだが…。

冒頭からダンスダンスレボリューションでの汗臭いダンスを見せつつピーナツをぼりぼり食べるラムシューの姿にも思わずニヤリ。

基本的に男だらけの男臭い作品で、近年の『エグザイル』と『冷たい雨に撃て~』と並んで三部作と呼ばれる。アンソニー・ウォンの主演が渋い。香港の男の美学を感じる。そしてフランシス・ン。『インファナルアフェア2』でも貫禄の演技を見せた彼の原点とも呼べる渋いアニキ分を演じる。そしてガンマニアの匂いを感じさせるロイ・チョンもカッコイイ。

男と銃と放課後の友情、みたいな映画。ストーリーはあるようでないようなもの。ほとんどが即興的な遊びのシーンと銃撃からボスを守る任務に従事する男たちの姿が描かれている。それだけっちゃそれだけだが、北野映画の『ソナチネ』的な遊びシーンが多く、特に紙くずサッカーのシーンなどのアイディアが冴えている。


一番の見所は、やはり香港ノワール史上で歴史的な名シーンとも言えるジャスコでの銃撃戦。
5人がフォーメーションを組んで繰り広げられるシーンは即興で撮ったとは思えぬほど構図が美しく、そしてカッコイイ。

そして食卓を囲って対峙する男たちの緊張感溢れるシーンもしびれるね。ジョニー・トー監督は食卓に登場人物の人間性を投影するのがホントにうまい。食べる姿もまた美味しそうなのだ。

本作はトー監督の原点であり最高傑作であると思うが、以後の作品は同じようなパターンで描いているので、彼の作品は最初に見たものの方がなぜか印象に残ってしまう。私の場合は『冷たい雨~』→『エグザイル』→『ザミッション』という順番で鑑賞したので、一番初めに『冷たい雨~』を見たときほどの衝撃や驚きは残念ながらなかった。

終わり方が少し呆気ない印象もあるが、しかし80分程度のフィルムにこれだけ色々と盛り込んだ技量に、トー監督の才気の源泉を感じる傑作であることは間違いないだろう。

その後、トー作品の常連になる俳優陣たちを輝かせたことも、監督の力量の1つであろう。

kojiroh

『ブレイキングニュース -大事件-』(2004年、香港)―6.5点。香港警察、一大SHOW映画


『ブレイキングニュース -大事件-』(2004年、香港)―91min
監督:ジョニー・トー
脚本:チャン・ヒンカイ、イップ・ティンシン
出演者:ケリー・チャン、リッチー・レン、ニック・チョン、チョン・シウファイ、ラム・シュー、ホイ・シウホンetc

【点数】 ★★★★★★☆☆☆ / 6.5点

巨匠ジョニー・トーによる、冒頭からいきなりハイスピードで7分にも及ぶ銃撃戦が繰り広げられる香港アクション大作。ジョニー・トーの作家性と商業的なスペクタクルな面がうまく融合した一作。


ある朝、香港の市街地で銀行強盗団と警察との壮絶な銃撃戦が発生し、ユアン率いる犯人グループを捕り逃してしまう。しかも偶然現場に居合わせたTV局のカメラによってその一部始終が報道されてしまい警察への非難が高まる。そんな中、新任指揮官レベッカは失地回復のためメディアを逆利用する戦略に打って出るのだが…。


『インファナル・アフェア』でも活躍だったケリー・チャンを主役に添えて、香港警察と犯罪者との対立だけでなく、世論と警察の社会的対立も描く、いかにも香港ノワールっぽい映画であるが、そんなお決まりなパターンが逆に微笑ましくも思える。

「泥棒さんと食事できるなんてめったにあることじゃない」
と言って、進入してきた強盗らに、人質になったラムシューが振舞う食事のシーンは本作でもダントツで名シーンだと思った。異様なシチュエイションながらもこれは傑作といえる食卓シーンだ。ジョニートーはいつも思うが食卓に登場人物の人間性を反映させるのが本当にうまい。


トー映画の常連であるニック・チョンと、相変わらず間抜けな警官役にはまる名脇役ホイ・シウホンのコンビが本作でも微笑ましい。

しかしどこか可もなく不可もなくなパンチの弱い作品である感が否めず、ここという見所に少し物足りなさは感じるが、ジョニートー映画は90分ぐらいの尺できっちりと起承転結を定めて作られていて、見るほうとしても安心して時間の長さを感じることなく見れるはやはり匠だなと思える。

Written by kojiroh

『2046』(2004年、香港)―6.0点。香港の巨匠&アジアスター集結だが…

『2046』(2004年、香港)―129min
監督・脚本:ウォン・カーウェイ
出演:トニー・レオン、木村拓哉、コン・リー、フェイ・ウォン、チャン・ツィイーetc

【点数】 ★★★★★★☆☆☆☆ / 6.0点

香港の巨匠、ウォンカーフェイ監督の『花様年華』の続編であり、一部『欲望の翼』の続編。トニーレオン、木村拓哉などのアジアスターを集結させて長い年月をかけて作られ、カンヌ映画で上映されて話題になった『2046』。


「どうせ永遠に続く愛などない」
舞台は1960年代の後半、愛に見切りをつけながら女遊びをしつつ、物書きとして生きるチャウ(トニー・レオン)。香港の古びたホテルに住むチャウは、それまでの女性たちとの思い出を胸に、ある近未来SF小説『2046』を執筆する。それは、失われた愛を見つけることができる“2046”へ向かう列車の物語。2046から帰ってきた者はいない、ただひとりの男(木村拓哉)を除いては…。

木村拓哉、コン・リー、フェイ・ウォン、チャン・ツィイーなどなどアジアを代表するスターが勢揃いで、なぜこんな面子が集まったのか不思議に思えるほど豪華。その割にはポップな作品ではなく、不思議な内容だ。


2046という謎めいたタイトルとSFめいたストーリーを予感させるフローには期待をついつい高めてしまう。しかし、木村拓哉の演技は悪くはないが、相手が広東語を話しているのに、日本語でやりとりしているシーンには違和感大。言葉のやりとりがないような設定にして、うまくごまかしている感じを受けてしまう。


驚くほどこの作品は場面がない。密室劇かと思えるほどにセットがない。室内かパーティーの席か、ネオンが消えているホテルの屋上か、シンガポールでの賭博か、2046という近未来小説の舞台か。

基本的には時間軸に沿って、次々と女性が出てくる。
合計で3人の女性とのエピソードが並べられるという筋だ。

そんなわけで登場人物が多いこともあり、時間が長くなっている。だがその割には場面の切り替えが少なく、少し飽きる。

俳優の演技を突き詰めたい意図なのか、色んな国に行く割りには街や風景の全体像がなく、あまり現実味のない映画に感じられた。

前作『花様年華』のようなカンボジアとアンコールワットへと飛んでゆく世界観は感じられず、少し残念。見応えはあるのだが、本作はウォンカーフェイの趣味のような作品になってしまった。

また本作のエピソードは、すべてカーフェイ自身の女性遍歴を投影しているかのようにも思えてしまい、あまりにもストーリー性がない。つまり直感的な作品になりすぎていて、129分見るには少ししんどい部分があった。

「もともと最初から、貸し借りなんてなかったんだ」
恋愛の悟りのようなセリフで本作は幕を閉じる。

個人的にチャン・ツィーとトニーレオンのエピソードが本作の最も面白い部分であり、チャンツィーの切ない美しさが素晴らしい部分。制作の関係上なのか出番も多く名前が上に出ているが、木村拓哉は所詮、脇役にしかすぎないのだが、2046のエピソードを推しすぎている。アンドロイドとの愛など必要のないエピソードだったのではないかと思えてしまう。

いいシーンもある、音楽の選曲も相変わらずセンスがよく映像美もあるが、アジアのスターを集結させて5年の歳月をかけた割には少し残念な作品だった。

Written by kojiroh

『花様年華』(2000年、香港=フランス) ―8.5点。60年代香港、美しい秘密の愛物語


『花様年華』(2000年、香港=フランス) 98min
製作・監督・脚本:ウォン・カーウァイ
美術・編集・衣装:ウィリアム・チャン
音楽:マイケル・ガラッソ
撮影:クリストファー・ドイル、リー・ビンビン
出演: トニー・レオン, マギー・チャン, レベッカ・パン, ライ・チン

【点数】
★★★★★★★★☆ / 8.5点

英語のタイトルは、In the mood For Love。
『花様年華』(かようねんが)という、なんと読めばいいのか分からない本作は、カンヌ映画祭でトニーレオンが男優賞を受賞した『恋する惑星』のウォン・カーファイ監督による香港映画・不朽の名作。

さて舞台は1962年の香港。ジャーナリストのチャウは妻と共にあるアパートに引っ越してくる。その同じ日、隣の部屋にはチャン夫妻が引っ越して来た。チャウの妻とチャンの夫はであまり家におらず、二人はそれぞれの部屋に一人でいることが多く、お互いの妻と夫が浮気していることを察し、そこから二人の関係が始まってしまう…。

名作だと噂には聞いていた作品だったが、その世界観には圧倒された。香港だけの物語かと思えば、日本の貿易業の夫妻やシンガポール、さらにはカンボジア、アンコールへ。奇想天外にも思える不思議な世界が広がっていく様には魅了される。


「どちらが誘ったのかわからない。でも もう始まっている」
詩的でキザな台詞とジャンプカットのような早いカット回しでストーリーがポンポン進む。

特にすばらしいのは、『地球で最後のふたり』のクリストファー・ドイルの撮影による圧倒的映像美であろう。とにかくすごい小技の嵐。天井に上るタバコの煙のスローモーションだったり、食事のときのマスタードのズームであったり、実験的な映像美が凝縮されている。

その映像と共に流れるマイケル・ガラッソの音楽がまた素晴らしく、不思議な世界へ誘うかのように鳴り響く。ナット・キング・コールによる「キサス・キサス・キサス」など、意外な選曲が映像に溶け込み、しつこいぐらい同じ音楽を流すのは『恋する惑星』の「カリフォルニア」でも同様、しかし今回もまた中毒になるような使い方だ。香港なのになぜかラテンな曲調であり、アジアと西洋のテイストが融合している。本当に美しい作品だ。


特徴的な演出も冴えていて、トニーレオンの表情が渋い。美術も素晴らしく、とにもかくにも、本作はウォン・カーファイの世界観が爆発しているかのようだ。

特に動きがある作品ではなく、主役の二人の日常と生活、徐々に深まる関係とその末路を描いただけの作品である静かな作品なのだが、その表現手法がとにかくすごい。見終わった後にも、その映像が脳裏に迫ってくるような芸術的な傑作だった。

この世界に再び入りたいので、木村拓哉も出演している続編『2046』も見なければいけないな。

Written by kojiroh

『密告・者』(2010年、香港) ―6.0点。イヌ、女、警察、三つ巴の香港ノワール


『密告者』(2010年、香港) 112min
監督:ダンテ・ラム
出演:ニコラス・ツェー、ニック・チョン、グイ・ルンメイ、リウ・カイチー、ミャオ・プー、ルー・イー
【点数】
★★★★★★☆☆☆☆ / 6.0点
※リアルタイム映画評

新宿武蔵野館にてポスターに負けて見に行ってしまった作品。そう、ジョニー・トー作品など、香港マフィアのハードボイルドな犯罪アクション映画、いわゆる香港ノワールマニアの私は、この手の香港映画がツボなのである。

そして過去まれに見るほどポスターがカッコよかったので、これは名作に違いないと思い、早速足を運んだ。

さて結論、『インファナル・アフェア』と『ワンナイト・イン・モンコック』の中間のような作品だった。

あらすじは、香港警察気鋭の捜査官ドン(ニック・チョン)は、ドンは密告者を使って捜査をすることに深い罪の意識を背負いながらも、台湾から帰ってきた凶悪犯罪者の動向を探る。新たな密告者として出所したばかりの青年サイグァイ(ニコラス・ツェー)に接近。新しいパートナーとして宝石強盗を企む組織に潜入させるのだが…。

王道の香港ノワールのストーリーであるが、ダンテ・ラム監督の臨場感があり、重厚かつ適度に軽いタッチの演出はなかなか見ものであった。


ティムサーチョイなど香港の町で派手な逃走劇を繰る広げる主演の二人の姿は臨場感がある。ニコラス・ツェーとグイ・ルンメイの顔ぶれが名コンビである。とっくみあいのアクションシーンは泥臭さがありつつも、学校の中で激しく戦うシーンは迫力がある。


本作は密告者側だけでなく、それを利用する警察官の良心にも触れている点がみどころ。ジョニートー作品でもおなじみのニック・チョンが演じる警察官の視点が多数出てくる。

がしかし、なにやら両方の視点を中途半端に出しすぎている感がある。いいとこどりをしすぎて詰め込みすぎて結局はすべて中途半端に終わっているかなという次第。


派手なカーアクションは圧巻であり、香港の狭い喧騒とした町の中を闘争する二人の姿を追うのは緊張感があり楽しめたが、追われるイヌ(密告者)や犯罪者の男女のふたりの逃走劇は、結局はもう過去に出し尽くされたネタの焼き直しであり、『インファナル・アフェア』にも、『ワンナイト・イン・モンコック』にもなれない中途半端な作品だったなと。

上映時間も積み込み過ぎな内容によって、この手の映画の割には少し長かった所感。90分ぐらいにすっきり絞っていた方が面白かったんじゃないかなと。まあでも香港ノワールはベタでも楽しめるので、見る価値はありましたが、劇場で見なくてもよかったかなというのが素直な感想でした。

Written by kojiroh