『エレクション -黒社会-』二部作 ―7.0点。香港黒社会の仁義なき戦い

『エレクション 黒社会』(2005年、香港) 85min
監督:ジョニー・トー
脚本:ヤウ・ナイホイ、イップ・ティンシン
出演:レオン・カーフェイ、サイモン・ヤム、ルイス・クー、 ニック・チョン, ラム・カートン, ラム・シュー

【点数】(二作合計)
★★★★★★★☆☆☆ / 7.0点

クエンティン・タランティーノも絶賛する香港の巨匠、ジョニー・トーによる香港版『グッド・フェローズ』、いや『仁義なき戦い』とも呼べるマフィア映画の傑作シリーズ。第一作目はカンヌ映画祭コンペ正式出展作品であり、返還により変わりゆく香港社会の裏社会での権力闘争を描くアクション・サスペンス。香港電影金像奨でも最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(レオン・カーフェイ)を受賞。


2年ごとに変わる黒社会の会長を決める選挙(エレクション)によって泥沼化する抗争が描かれる。冷静なロク(サイモンヤム)と乱暴者のディー(レオン・カーフェイ)の二つの権力者による選挙劇というだけの単純な話であり、上映時間も85分と非常に短くまとまっている。

しかしながら登場人物も多く、香港映画の観たことのある面子が勢ぞろいしている点がファンとしては興味深い。サイモン・ヤムを始め、ニック・チョンやラム・カートン、ラム・シューまでジョニー・トー・ファミリー大集結といえるキャスティングだ。

『エレクション』ではジョニー・トーお得意のガンアクションかと思いきや、本作では十八番の銃撃戦は封じて、香港マフィア伝統の刃物での戦いが中心。しかしアクションシーンよりも暴力の中心は拷問や暗殺シーンが中心であり、その本作の全体に漂う異様な緊張感には息を呑む。

拉致されて木箱に入れられて崖から落とされるシーンなど、誰が敵になるのか、味方になるのか分からない展開には息を呑む。激しいアクションは息を潜めつつも、個人の抱く野望と殺意には目が離せない。『アウトレイジ』の元ネタにもなっていると思えるほど、人物が豊かで先が読めないヤクザたちの生き残り合戦だ。

ドンパチは息を潜め、動の映画ではなく、静の映画なのだが、だからこその緊張感と、人物の読めない行動による言動の迫力は素晴らしい。


特に一作目では、レオンカーウェイの怒鳴りっぷりは圧倒的迫力、ルイス・クーの知的なのだが残酷な暴力をものともしない冷酷さ、忠誠心の強いニック・チョンがレンゲを食べるシーンなど、見応えのある名シーンが多いのも見所だ。

さて、その『エレクション』の2年後の世界を描くのが、『エレクション 死の報復』であるが、劇場未公開になっていたりと、一般的な評価は、カンヌ映画祭の出品もあり、第一作の方が高い。

『エレクション 死の報復』(2006年、香港) 92min
監督:ジョニー・トー
脚本:ヤウ・ナイホイ、イップ・ティンシン
出演:ルイス・クー、サイモン・ヤム、マーク・チェン、ニック・チョン、チョン・シウファイ、ラム・シュー、ラム・カートン、ウォン・ティンラム、ヨウ・ヨン、タム・ビンマン、アンディ・オン、パン・ユートン

あらすじは、ロクが会長の座を手にしてから早くも2年の時が過ぎ、再び会長選挙の時期がやって来る。長老たちの本命はビジネスでの才覚を発揮し、みるみる頭角を現わしてきたジミー(ルイス・クー)。しかしジミーは大陸での事業拡大に関心が向いており、選挙には無頓着、その一方、すっかり権力の虜になったロクは、任期満了にもかかわらず会長の座に居座り続けようとするだが…。

ジョニー・トー本人も、本作の方が描きたい香港マフィア象があると述べているように、メッセージ性の強い作品になっている。香港と大陸の深センが舞台に描かれていたりと、現代の複雑な本土との事情を描いており、その土地柄が分かる人には興味深い描写が出てくる。

私は先にこちらの方を見てしまったので少しチンプンカンプンになってしまったが、前作よりもよりダークで残酷な拷問シーンが登場したりと、香港マフィアの変化を絶望的に描いているようにも感じる。


特にルイス・クーの人物描写が素晴らしい。クールでヤクザ業を引退してビジネス路線に移りたいと考え、子供は医者か弁護士にしたいと願うインテリヤクザであるが、変化に翻弄されてゆく姿は印象深い。

2作とも1時間半程度の作品なので、これはゴッドファーザーのように二つで一つとしてみるべき内容だなと思った。(私は2作目から見たので少し後悔している…)

2つとも同じテイストで楽しめるが、しかし個人的にはエレクション一作目の方が完成度が高く好きである。実験的で印象的なジョニー・トーらしい食事のシーンであったりと、いつもの娯楽作とは違うが、香港マフィアの歴史など、なかなか見所の多い傑作映画であることは間違いない。

派手なドンパチはなく、エンタメ性には乏しいカルト映画の要素が多い作品であるが、第三弾が出ることを期待したい香港ノワールの新領域とも呼べるシリーズである。

Written by kojiroh

『恋する惑星』(1994年、香港) ―6.5点。スタイリッシュ香港Love


『恋する惑星』(1994年、香港) 100min
監督・脚本:ウォン・カーウァイ
出演:トニーレオン、フェイウォン、金城武、ブリジット・リン、チャウ・カーリン
【点数】
★★★★★★☆☆☆ / 6.5点

フェイウォン、トニーレオン、金城武、ブリジット・リン。今振り返ると超豪華なキャスティング。若き日の彼らの初期の時代の出世作といえば、香港のウォン・カーウェイ監督が送る本作『恋する惑星』である。クエンティン・タランティーノが絶賛して、アメリカでの配給権を確保したという有名作でもある。

原題は重慶森林、Chungking Express。香港の安宿街、九龍、尖沙咀にある雑居ビル・重慶大厦(チョンキンマンション)を舞台に、4人の男女の恋愛模様を描いた香港独自のラブストーリー。


“雑踏ですれ違う見知らぬ人々の中に、将来の恋人がいるかもしれない”
センスのいいキザなナレーションで始まる。2つのエピソードから成り立ち、男性側の語り口によって、失恋した男性の切なさや淋しさ、そこから恋愛を再開する青春のほろ苦さをも感じさせるストーリーだ。時にそれが、あまりにも幼稚で漫画のような展開もあるのだが、まあこのスタイリッシュなカメラワークと俳優人の魅力を映し出したセンスに免じて許してしまえる。

ラフなドキュメンタリーのようなタッチな映像で切り貼りされた本作は、脚本的にも決して完成度が高いとは言えない映画ではある。しかし、なぜか中毒性がある。幼稚な失恋と恋、それを彩るステキなシーンが満載なのだ。

パイナップルを食べる金城武、「Do you like Pinapple?」と英語、日本語、広東語、北京語の四ヶ国語で話しかけるシーンはユーモラスでもあり印象深い。フェイウォンが自身が歌う曲『夢中人』と共にトニーレオンの部屋を改装するシーンのスピーディーなカットも若々しさが溢れて素晴らしい。無邪気なフェイウォンの笑顔も美しい。

特に、食事のシーンが可笑しいぐらいにどこか不思議だ。金城武の警官の役は、失恋を境に缶詰を買い込み、恋を忘れるためにバカ食いする。そしてホテルに泊まっても彼女の分まで食べる。とにかくよく食べる。無邪気に暴食する姿は滑稽でもあった。

その他でも、ドラックディーラーを演じるブリジット・リンの役どころでも、香港の犯罪模様が垣間見えたり、人間模様が香港独自であり、フェイウォンの輝くように明るさ、バカっぽさ、「夢のカリフォルニア」が繰り返し流れる光景も、本作への中毒性を高める一員なのだろう。

当時の香港の現代人を描いた秀逸でハイセンスな作品であることは間違いない。香港からカリフォルニアへ、か。夢のある物語ではあった。

Written by Kojiroh

『THE EYE【アイ】』(2001年、香港=タイ) ―8.0点。見てはいけないものが見える恐怖体験

『THE EYE【アイ】』(2001年、香港=タイ)99min
監督・編集:オキサイド・パン、ダニー・パン
出演:アンジェリカ・リー 、ローレンス・チョウ、チャッチャー・ルチナーレン 、キャンディ・ロー、 エドムンド・チェン

【点数】
★★★★★★★★☆☆ / 8.0点

実話を元に作られ、香港で大ヒットしたホラー映画。『レイン』の映画監督パン兄弟によるサイコサスペンスとも言える作品だ。香港ではそれまでの歴代の映画を打ち破る記録的なヒットになった。そしてハリウッドでも、トムクルーズがリメイク権を購入した本土のみならず海外な本作。

盲目のある女性が、角膜手術に成功して目が見えるようになったが、その後、自殺したという実話がヒントになって作られた脚本。完全なる実話ではないが、「目が見えない」といった障害に対するカルマ、人間の輪廻を感じさせる映画だった。

「目が見えなかったのには理由があった、私には見てはいけないものが見えてしまう」

香港に住む盲目の主人公マン(アンジェリカ・リー)は、「世界は美しい」と言われていた。角膜手術に成功した彼女はその美しい世界が見えるようになった。しかし、彼女は死者を連れ行く黒い影、人の霊が見えてしまう特殊な能力を有してしまい、目が見えるようになったことを悔やむ。しかし、その移植された角膜の謎を追うために舞台は香港からタイにまで至る。単に恐怖体験の話だけではなく、展開にも広がりのある緊迫の秀作サスペンス映画だった。

本作は、怖い映画でもあるが、人間を描いた美しい映画でもある。恐怖を体感する主演のアンジェリカ・リーの心の移り行きも繊細で美しい。そしてパン兄弟監督は、いつも観客と主人公の感覚を同化させるのが上手い。前作の『レイン』では耳の聞こえない主人公の感覚をそのまま伝えるために、無音のシーンやフラッシュバックを取り入れていた。そして『The EYE』でも、その手法は同様で、眼が見えるようになった主人公と、幻想に悩まされたり、人とは違うものが見えるその体験を擬似的に観客が共有できる。

なので、ホラーとしても、サスペンスとしても、さらに映像体験としても、様々な要素を取り入れた見ごたえのある完成度の高い作品だった。

霊と輪廻、その中にある「死」を可視化することは、もしかすると本作の映し出すモノなのかもしれない。

(Written by Kojiroh)

『ワンナイト・イン・モンコック』(2004年、香港) ―8.0点。香る港の本質を旺角黒夜から

ワンナイト・イン・モンコック(2004年、香港) 110min
監督: イー・トンシン
出演: ダニエル・ウー, セシリア・チョン, アレックス・フォン, チン・ガーロッ

【点数】
★★★★★★★★☆☆ / 8.0点

夜のモノトーンの映像から、黒い闇夜が始まる。

香港一の犯罪都市・モンコック(旺角)を舞台に描かれる犯罪サスペンス。近年の香港ノワールとしては、国内の賞を総なめにした有名作だ。

歌舞伎町のような夜の街、モンコックのネオン。おびただしい数の人々で賑わう人口密集地帯だ。そんな場所を舞台に、複雑に絡み合う複数の人物と組織、緊迫の演出と音響、主演の香港の俳優、ダニエル・ウーとセシリア・チョンの演技が光る。寡黙なウーと、饒舌なチョンのコンビネーションがハーモニーになっている。

さて、本作のあらすじは、大陸から香港へ出稼ぎに来た二人の男女(殺し屋と娼婦)が、警察のクリスマスの夜の黒社会に対する治安防衛作戦・「ワンナ・イト・イン」に巻き込まれる。奇妙な縁が錯綜する一夜の出来事を、夜のモンコックを舞台にスタイリッシュに描く。複数の出来事がどんどん結びついてゆく脚本は非常に完成度の高いものだった。

非常に多くの人物が登場する。冒頭で事故に巻き込まれるチンピラカップル、ケータイ販売やコピービジネスのやくざ仕事をする夫妻、同じ村出身の殺し屋と娼婦、彼らと喧嘩を起こしたやくざ、怠惰な思惑を持ちつつ業務には正義よりも出世を夢見る7人の警察。絡み合いそうですれ違っていた事柄が、最後に全てが絡み合う。秀逸な脚本によるサスペンスの愉しみがあった。

また、特に興味深いのが、本作の舞台と人物の背景にあるものだ。それには何か、強いメッセージ性がある。

大陸からの出稼ぎ人が本作のキーだ。自由経済都市でもあり犯罪都市でもある香港で、黒い仕事で稼ぎを得て食っていく人々がいる。そんな街で権力に溺れて腐敗してゆく警察という司法。警察という国家権力を、極めて悪質でやくざよりもたちの悪い存在として描いている点が面白い。腐敗する国家権力、卑怯な悪として描かれる警察組織。強い社会的なメッセージだ。

「香る港」である香港という国を、大陸という外部の視点から冷静に見つめているように思えた。そこにある正義とは何か、悪とは何か。『ワンナイト・イン・モンコック』は、輪廻が渦巻く自由都市における一つの重要な視点である。

一大スペクタクル、エンターテイメントというには重く暗い悲しい物語であるが、緊迫の人間模様を高いテンションとスピード感で描いている希少な作品であることは間違いない。

Mongkok(モンコック)から、香港の本質が見えてくるはずだ。

(Written by kojiroh)

『エグザイル/絆』(2006年、香港)  ―9.0点。美学に生きるクールな5人の男たちを映した香港ノワール

『エグザイル/絆』(2006年、香港)
監督:ジョニー・トー
出演:アンソニー・ウォン、フランシス・ン、ニック・チョン、ラム・シュ、ロイ・チョン、サイモン・ヤム、ラム・カートン、ジェシー・ホー、リッチー・レン

【点数】
★★★★★★★★★☆ / 9.0点

ハリウッドでのリメイクも決定している2000年以降の香港ノワールの秀作。香港アクション映画の巨匠 ジョニー・トーと、『インファナル・アフェア』のスタッフ・出演陣がタッグを組んで生まれたのが本作『エグザイル』だ。

アンソニー・ウォン、ニック・チョン、フランシス・イ、『インファナル』シリーズの出演陣がよりハードボイルドにガン・アクションを織り成す。これだけでもファンにはたまらない一作だ。

しかし、ミーハーな魅力だけでなく、よくできた脚本と洗練された演出、殺陣の緊張を盛り上げる音楽、「パーフェクト!」と拍手を送りたくなるほど完成度が高い。マフィア、マカオ、銃、渋いサングラスの黒い男たち、そして友情。香港のクールな男たちの姿をこれほどカッコよく映した作品は他に類を見ない。男だらけの物語なのにも関わらず、暑苦しさを感じない。信念を貫き、絆を守る。武士にも通じるモノがある。

さて、本作のあらすじは返還前のマカオを舞台を舞台にした西部劇のようでもある作品だ。マフィアのボスの命令で、旧友であるウー(ニック・チョン)を殺すことになった2人の男(アンソニーウォン&ラム・シュ)と、ウーを守る2人の男(フランシス・ン&ロイ・チョン)がいた。その5人はかつての仲間だった。決闘の末、ウーを殺すまでに、家族のために金を残すことを約束し、5人が再びチームとなり、危険な仕事に手を出すのだが…。

奇妙な縁に巻き込まれてゆく5人の男たちだが、最後まで仁義を貫き、自らの美学に生きる。合理的に生きるズルい姿ではなく、絆のために命をかける人々なのだ。

最後になると、西部劇的なお決まり的なベタにも思える展開をも見せるが、けして陳腐ではない。細かい演出や、小役や小道具が素晴らしいとしか言い様がなく非常に新鮮な映像だ。

コインを投げて、表裏どっちかで決めていた人生を、最後に投げ捨てる。蹴り上げられたレッドブルの空き缶、ラストシーンの男たちの姿は、少しカッコつけすぎだ。

(Written by kojiroh)

インファナル・アフェア(2002年、香港) ―10.0点。香港ノワール最高傑作

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『インファナル・アフェア 無間道』(2002年、香港)
監督: アンドリュー・ラウ、アラン・マック
出演: トニー・レオン、アンディ・ラウ、アンソニー・ウォン、エリック・ツォン、ケリー・チャン、サミー・チェン

【点数】
★★★★★★★★★★ / 10.0点

ハリウッドで歴代最高額でリメイク権が落札され、『ディパーテッド』が作られた。歴史に名を残した『インファナル・アフェア』。香港の『ゴッドファーザー』と呼ばれる香港ノワールの最高傑作と名高い犯罪サスペンス映画だ。

男の美学を、こんな素晴らしい脚本と演技・演出で描いた映画が、かつてあっただろうか。迫真の演技、演出、洗練された脚本、緊張のサウンド、全てを見ても高い密度で凝縮されている。サスペンス・ヒューマンドラマとしても、完璧な映画だと思った。過去の因縁やカルマと現在が巧みに交錯するストーリーが泣かせてくれる。

「己の道は、己で選べ」
貫禄の格言、マフィアの長・サム(エリック・ツォン)の杯を交わすシーンから始まり、そこから二人の青年の人生が圧倒的なスピードで回り始める。オープニングから圧巻の迫力と緊張感。広東語の荒っぽくも調子のいい音がやけに耳に残る。そして、2人の潜入の運命の歯車が動き始める。

さてあらすじは、警察に潜りこんだマフィア(アンディ・ラウ)と、マフィアに潜りこんだ警察官(トニー・レオン)の2人の運命の物語だ。成人した時から彼らの「潜入」が始まる。そして、互いの微妙な立場が一つの警察とマフィアの抗争によって10年後に動き出す。

ウォン警部のアンソニー・ウォン、マフィアのエリック・ツォン、女医のケリー・チャンまで個性的な俳優人で脇を固めた豪華実力派演技陣だ。

スピーディーな展開ながらも、屋上のシーンの青さ、香港の街特有の蛍光灯の青みがかった室内の色と、二人が愛した曲とオーディオ、無常にも開閉を続けるエレベーター、印象深い演出と脚本が完璧につながっている。物語が終わりまでは、息を呑むシーンとストーリー展開の連続で、興奮が収まらなかった。

しかし、作品として完成度が高いだけでない。私が本作に心を動かされたもの、それは男同士の絆だったり友情だったり、男の美学というハードボイルドな哲学に感情を揺さぶられるのだ。自分の命に投げ打ってでも、人との情や信念を貫く。そのような生き様を、随所に散りばめられた仏教思想で説く。

縁、カルマ、輪廻、無間道。そう、本作の「インファナルアフェア(無間道)」とは、輪廻によって同じ縁と宿命によっていつまでも同じ次元で愚かな運命を何度も繰り替えす人間の姿を描いているのだ。これが終わりではない、何度でもこれが続く。そうした人間社会へのメッセージでもある。そこからは香港仏教思想の高い心の次元をも感じさせる。

「香港ノワール」と呼ばれる香港の犯罪・黒社会映画を題材としたアクション映画のムーブメントだ。その種の映画の共通した特徴は、そうした男たちの闘いを描いている。それが今や香港映画の一つのブランドとして、世界中に広まっているカテゴリーなのだ。

本作を見てからというもの、私は「香港ノワール」的映画ばかり見るようになってしまった。『インファナル・アフェア』のDNAは、それだけ心を打つモノがあり、「無間道」的輪廻を見据えて人生を見つめ直したくなる。もっと大事な価値観を、この映画から学べるのではないかと。

(Kojiroh)

フルタイム・キラー(2001年、香港) ―7.0点。香港×日本ノワール・ハードボイルド

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売り上げランキング: 61648

『フルタイム・キラー』(2001年、香港)
監督: ジョニー・トー&ワイ・カーファイ
出演: アンディ・ラウ, 反町隆史, サイモン・ヤム, ケリー・リン

【点数】
★★★★★★★☆☆☆ / 7.0点

マレーシア・クアラルンプール、韓国・ソウル、シンガポール。香港を拠点に様々な場所で殺しを行う、「フルタイム・キラー(全職殺人)」と呼ばれる男たちの物語。

アジアの二大スター・香港のアンディ・ラウ&日本の反町隆史の奇跡の共演、しかも監督は香港ノワールの巨匠・ジョニー・トー。今ではありえないのではないかと思うほど豪華なドリームチームによるハードボイルドの傑作だ。

さて、筆者はこんな映画はリアルタイムではもちろん知らなかった。日本ではあまり有名ではないだろう。反町が香港映画を出ていたことなど知る由もなし。しかし、香港へ旅行へ行ったときに、観光者向けの香港映画展示ブースがあり、そこで流れていたのが、本作・フルタイム・キラーだった。

使う言語は英語・日本語・広東語・北京語。グローバルに活躍する殺し屋たちの日常を描いている点でも非常に興味深い。殺し屋”O”を演じる反町も、基本的に寡黙な役ではあるが、日本語を中心としながらも中国語と英語を話している。アンディ・ラウが話す日本語も少しクレイジーで役にハマッている。ヒロイン役のケリー・リンも日本語が意外に堪能で、色んな意味でも傑作でもあり怪作だ。有名俳優たちの多国語での組み合わせが見所でもある。

しかし、ジョニー・トーの描くハードボイルドな男の姿に、反町隆史はハマリ過ぎている。香港ではその長身やアジア人離れしたスタイリッシュな顔立ちはかなりクール。アンディ・ラウと共演だが、主役はやっぱり反町だなと。むしろ反町を立てるために用意された作品なんじゃないかと思うほど。

香港ノワールらしく、銃撃戦で撃たれても、意外とピンピンしている。撃たれても、なかなか死なない。ベタっぽい西部劇のようでもあるが、それはクールさやハードボイルっぽさを売りにしてお客さんを楽しませるような映画なのでリアリズム描写を突っ込む方が下種というものだ。ベタであれ、どう転ぶか分からない展開もそれなりに楽しめる。

日本人のトップスター反町が、香港のアンディ・ラウと共演してガチンコ勝負している。激しい銃撃戦、夜の決闘、それを見れるだけで、とにかく二人ともカッコよくて、ミーハーな筆者としては満足なのだ。

日本人スターでも、香港ノワールにハマッれる光景が微笑ましい。

(Written by kojiroh)

『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009年、香港)―8.5点。新・香港ハードボイルド


『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009年、香港)
監督: ジョニー・トー
出演: ジョニー・アリディ, アンソニー・ウォン, ラム・カートン, ラム・シュ, サイモン・ヤム

【点数】
★★★★★★★★☆ / 8.5点

2009年の第62回カンヌ映画祭コンペティション部門で上映された香画の巨匠、ジョニー・トー監督の最新作。フランスのプロデューサー・俳優と共に製作した香港映画だ。”香港ノワール”として『エグザイル絆』などでも世界的にも高い評価を得ているトー監督新作、この作品もお得意のタッチで描く犯罪アクションだ。

ストーリーの内容はというと、異国の地で暮らす最愛の娘が襲われ、その家族を何者かに殺された男が3人の殺し屋とともに復讐に挑む。という典型的な復讐劇だ。クエンティン・タランティーノの『キル・ビル』だったり、『イングロリアスバスターズ』とも似た雰囲気を感じる王道復讐劇とも言える。そんなに複雑でよく出来た話ではない。

筆者はこの映画がジョニートー監督、さらには香港映画を真剣に見るのが始めてだった。しかし、オープニングからスピーディーな展開、ベタなんだけれども見せてくるね、引き込まれる。

話は王道であるが、香港・マカオ、東洋の独自の雰囲気が超ハードボイルドでしびれる。ズームアップとかスローモーションを多用していて、作品全体に漂う緊張感がすごい。香港・マカオの美しい夜景と共に激しいアクション、そして男たちの美学や絆を見せてくる。


”I have a job for you”
から始まる地下道でのシーンのハードボイルさには冒頭からいきなりしびれる。

演技陣も素晴らしい。ジョニー・トー監督おなじみの香港の俳優陣、『インファナル・アフェア』シリーズのアンソニー・ウォン、ラム・カートン、ラム・シュ。英語も堪能で顔立ちやキャラも濃くて、味わい深い。そんな彼らとフランス人コックの殺し屋演じる、ジョニー・アンディ。彼の表情も本当に渋い。ハットにグラサンをかけたモードなスタイル。歩くシーン見るだけでも痺れるね。

そんな西洋と東洋の意外なコラボがまた一興。一緒に食事をするシーンなども、会話のウィットさや食べ方、徐々に心を打ち解けて行く姿にはヒューマンドラマを見ているようなよさがある。

フランス人コック×香港殺し屋という4人組、ありそうでなかった名チームだ。

「一度乗った船だ」と言って、最後まで覚悟を決めて奮闘する、金よりも仁義や絆に生きる香港の殺し屋集団3人組がカッコよすぎる。

『グラントリノ』もそうだけど、異国の異文化の人々が心を交わして、一緒に戦うっていう王道ストーリーがなんだか胸を打つものがある。バイオレンスで人がめちゃ死にまくるけれど、アクション映画意外な部分でも秀逸な映画だ。

香港ノワールの魅力は遂に世界へ広がり進化している。

(Written by kojiroh)

引用:『冷たい雨に撃て 約束の銃弾を』鑑賞日記