『パルプフィクション』(1994年、アメリカ)―10.0点。タランティーノの原点にして最高傑作


『パルプフィクション』(1994年、アメリカ)―154min
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
原案:クエンティン・タランティーノ、ロジャー・エイヴァリー
製作:ローレンス・ベンダー
出演:ジョン・トラボルタ、ユマ・サーマン、サミュエル・L・ジャクソン、ブルース・ウィリス、ティム・ロス etc

【点数】 ★★★★★★★★★★/ 10.0点

IMDBでも多大な支持を集め、上位にランクインするタランティーノの最大の出世作。アカデミー賞では7部門にノミネートされ、脚本賞を受賞し、カンヌ国際映画祭ではパルム・ドール受賞という快挙。

無数のパロディ、カルト映画をポップな路線へ持っていたことが偉大な仕事であると今見ても感じる一作。まさしく、タランティーノの才気のすべてがここにある。

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●あらすじ
ロサンゼルスの朝、コーヒーショップで不良カップルのパンプキンとハニー・バニーが突然立ち上がり強盗を始める。2人組ギャング、ヴィンセントとジュールスがボスの命令でだまし取られたスーツケースを取り返しに若いギャング団のアパートに車を走らせ、虫けらのように彼らを殺して出ていく。その頃ボクサー、ブッチ・クリッジがギャングのボス・マーセル・ウォレスから八百長の依頼金を受け取っていた…。

冒頭から車の中での意味のない会話、ハンバーガーの話が展開される。
“Misirlou”のサーファー音楽が冴える中、チンケなギャングとレストラン強盗、ボクサーの話が交錯する、パルプな話。それをこんなにスタイリッシュに面白く描いたことがまず素晴らしい。

出演陣の冴え方が半端ではない。『イングロリアス~』でもクリストファ・ボルツもそうだが、マイナーどころの俳優を強烈なキャラクターで輝かせるタランティーノの指導力のすごさが伺える。

ユマサーマンのミステリアスな美女っぷり、そして大きな手を駆使してドラッグを吸引し、ダンスするシーンが印象的だ。個人的な監督の性的趣向さえも伺えるほど。

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マーセルス・ウォレスの後ろ姿。貫禄がありつつも、なぜか新しい取り方で、シュールなスタイリッシュさを感じる。映画の『サイコ』を思い出すような車と歩行者との対面で始めて明らかにされるシーンからも、タランティーノ特有の無数のパロディによってオリジナルを生み出す才能を感じる。

複数のシナリオ、エピソードが交錯しつつも、時空を交錯させることで、パルプフィクションとして1つの作品にまとまっているからこそ、何度見ても面白い世界観を構築することに成功している。

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すべてのエピソードはジャンクなパルプでありつつ面白いが、
特にトラボルタとサミュエルLジャクソンの名コンビっぷりは伝説的なほどであり、聖書を唱えるシーンの顔のアップ、そして間の取り方は映画史に残るほどだと思う。

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セルジオ・レオーネを彷彿させるほど激しい顔のアップ。
迫力、沈黙の間、しかし強烈な余談のお喋り。「ハンバーガー」のくだりはセリフを暗記できるほど見た。冒頭20分は何度も見返したほど面白い。

会話やセリフが饒舌ながらもよく練られていて何度聞いても面白い。この饒舌さこそがタランティーノ作品の最もカルト的で楽しい部分だ。

日本刀を持つブルースウィルス、正体不明の「マスク」。意味のないようなキャラクターや会話が無数に登場するが、それぞれアイディアと組み合わせが面白い。ハーベイカイテルの「ウルフ」から、ハニーバニーとパンプキン、タランティーノ自信も「ジミー」として登場する。それぞれが個性的なキャラになり、「FUCK」を連呼し、面白おかしい迫真の会話で物語が進む。

でしゃばりで目立ちたがり屋でアイディアマン。
そんな監督自身の趣向が最もフルで表現されているのが、まさしくこの『パルプフィクション』である。

映画オタクが趣味で作り上げたようなカルト色の強い本作が、一般的な一級の娯楽映画としても楽しめる作品になったことが、まさしくタランティーノの才能としか言いようのない映画史に残る重要な一作だと筆者は思う。

kojiroh

『キッズリターン』(1996年、日本)―10.0点。キタノブルー、色褪せない不朽の青春映画


『キッズリターン』(1996年、日本)―108min
監督:北野武
脚本:北野武
音楽:久石譲
出演者: 金子賢、安藤政信、森本レオ、石橋凌、山谷初男、寺島進、モロ師岡 etc

【点数】 ★★★★★★★★★★/ 10.0点

青い色彩、自転車二人乗りが久石譲の音楽に揺れる。

94年の北野武のバイク事故から復帰したリハビリのような意味で作られた『キッズ・リターン』。レイジング・ブルのような映画を作りたいと言及していた武が何年も前から構想していた作品であり、自身がボクシングを志したこともあり、自伝的な一作にもなっている。カンヌ映画祭にも招待され、19カ国でも上映された名作。

あらすじは、
落ちこぼれの高校生マサルとシンジは悪戯やカツアゲなどをして勝手気ままに過ごしていた。ある日、カツアゲの仕返しに連れて来られたボクサーに一発で悶絶したマサルは、自分もボクシングを始め舎弟のシンジを誘うが、皮肉にもボクサーとしての才能があったのはシンジであり、各々は別の道を歩んでゆくのだが…。

本作を初めて見たのは筆者が高校1年生ぐらいのときだったであろうか。
北野映画の中でも最も丁寧に作られたシンプルなストーリーが若い時に見ても面白くて感銘を受けた。その感想は10年経っても全く変わらず、逆に細かい部分でさらに共感できるようになっていた。特に社会の過酷さや残酷さが感じられる描写が実は多くて、社会人になってから見る方が感じるものが深い。

特に、高校で同じクラスだった同級生が何組ものストーリーがお互いに交錯し合っているところがすごい。漫才を目指す二人組み、サラリーマンになるが挫折してタクシーを回すおとなしい高校生、はんぱな不良3人組など、何人もの人生が凝縮されている映画なのだ。

やくざの親分を演じる石橋凌も貫禄ある名わき役だ。

いつも一万円のチップを貰ってタバコを買いに行くカズオの末路であったり、親分が撃たれても呑気にゴルフの話に従事する会長など、細かい部分でもそれぞれの現実を描いている。若者が苦い思いをして苦労している中でも年配の上にいる人々はゴルフのハンディのことで呑気な会話をする。

さらには高校の教諭を演じる森本レオなどの配役にも味がある。職員室では受験の指導のことがもっぱら話題になりながらも、不良学生は切り捨ててゆく―、しかしそこに躊躇いもある。だが所詮は何も変わらないという社会の教育の残酷さを象徴しているとも言える。

シリアスな面が多いが、それでいて屋上から授業中にするいたずらや、成人映画を見に行くために会社員のフリをするシーンなど笑えるシーンも無数に散りばめている部分にも監督のアイディアの力を感じる。

つまり『キッズリターン』は、ボクシング映画であるようで本作におけるボクシングとはあくまでモチーフでしかなく、結局は各々の人生を歩まざるをえなくなる若者たちの青春物語である。

人生とは何か?成功とは?
成功者であるはずの監督自身が社会に対して投げつけている強烈な想いを感じる。「世の中そんなに甘くない」という北野武のメッセージであるようにも思える。ボクシングを志して才能を発揮したシンジも、結局は若さゆえの孤独、そして変な先輩にたぶらかされては堕ちてゆく。しかしそこで終わりではないのだ。

いつの時代でも普遍的なメッセージが、何度見ても絶妙な角度で胸を打つ。
やっぱり自転車の相乗りシーンは個人的には『明日に向かって撃て』のそれよりも名シーンじゃないかな。
「馬鹿ヤロウ、まだ始まっちゃいねーよ」

Kojiroh

『タクシードライバー』(1976年、アメリカ)―10.0点。永遠のアンチヒーロー像 不朽の名作


『タクシードライバー』(1976年、アメリカ)―114min
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ポール・シュレイダー
音楽:バーナード・ハーマン
出演:ロバート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ハーヴェイ・カイテル、ジョディ・フォスター、アルバート・ブルックス

【点数】 ★★★★★★★★★★ / 10.0点

僕の見てきた映画の中で恐らく永遠のベスト1であろう一本。

『ザ・ヤクザ』で有名なポールシュレイダーが、大統領暗殺を企てた男の日記に衝撃を受けて、わずか二週間で書き上げた脚本を、当時新鋭のマーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロで映画化した奇跡の映画。

雑誌のブルータスの特集でも、「イカれた才能が集まって作り上げた奇跡的な作品」と評されていた。アメリカン・ニューシネマの最後期の代表作。


アカデミー賞ノミネートをはじめ、カンヌ映画祭グランプリ受賞。13歳のジョディフォスターが助演女優賞にノミネートされたことはあまりにも有名。

そんな数多くの絶賛を浴びている本作であるが、アメリカンニューシネマの一作として今での色あせることなく、都会の孤独を描いた作品は多くのフォロワーを生み続けている。

ハリウッドに反抗するような暗くて憂鬱な作風ながらも、歴史的なアンチヒーローとして伝説になっているのが、ロバート・デニーロが扮するトラヴィス・ビックルである。

本作の舞台は大都会ニューヨーク。
夜の街をただ当てもなく走り続ける元海兵隊のタクシー運転手トラビス。腐敗した現代社会に対する怒り、そして孤独感から徐々に精神を病み、ついには悪への怒りと歪んだ正義感から大統領候補の暗殺に奔走するのだが…。

ミリタリーのようなジャケットやブルゾンのアメリカンスタイルのファッションに身を包み、都会の孤独に生きながらも、自己練磨の末に銃に温かみを覚え、社会の悪に対して一人なにかやろうとするその姿は英雄的でもありカリスマだった。


ポン引きの怪演であるがハーベイカイテルや選挙スタッフのシビルシェパードの役どころもいい。両者の仕事柄からもNYの街の表裏がかいま見える。


「俺の人生は今、一つの方向に向かっている。初めてのことだ」
過剰に広がる妄想、それを具現化するべく成される自己練磨の日々。過酷な筋トレをこなし、銃の射撃に向かったり、鏡の前でイメージトレーニングに励むシーンは歴史的な場面。即興によって成された本作のこの「You talkin me?」と語りかけるシーンは単純ながらも自己と向かい合い狂気の妄想に向かう自身を写しだす。

他の場面でも実験的なシーンの連続だ。
ジョディ・フォスターとブルーベリーパイを食べる場面の即興的な会話や、街でたまたま見つけた太鼓叩きの男のドラムスと共に町を歩くトラヴィス、妻殺しを告白する狂った乗客を演じるマーティン・スコセッシ本人。良くも悪くもニューヨークが描かれている。ファッショナブルな面、ダーティーな面、この作品が描くNYという街の本当の姿だ。

そんな街でタクシードライバーとポルノ映画びたりという底辺的な生活をしながら、作中で絶えず鳴り響くバーナード・ハーマンのサックスの音色が美しくも邪悪な都会の汚さを象徴するかのような旋律を奏でる。

「すべて悪だ。そんな不条理に立ち向かう男がいる。俺だ(Here is)」
社会の不条理や汚さに対するやり場のない怒りが爆発するクライマックスは衝撃的だった。全てが完璧だと思った。

この作品を初めて見たとき、当時の私は高校生であり、また幼かったので気付かなかったが、今思うと本作は実は、日本びいきのポールシュレイダー脚本による三島由紀夫の人生のオマージュなのだと。

虚構の妄想に満足できなくなった孤独な男が、最後は自らの肉体を徹底的に磨き上げ、日記に自らの孤独をつづりながらも世の中を変えるために革命的な犯罪計画を実行する。そして捨て身の覚悟で飛び込み自決する。

どこかで聞いた事のある話だ。そうか!?これはまさしく、虚弱体質へのコンプレックスから肉体改造を成し、右翼的な物語を書き綴りながらも、1970年に壮絶な最後を遂げた三島の人生へのオマージュだったのだ。

NYの闇と孤独、三島への影響、そして奇跡的なメンバーで作られたイカれた傑作が今日ではアメリカを代表する映画の1つになっていることは非常に喜ばしい話だと思える。

Written by kojiroh

インファナル・アフェア(2002年、香港) ―10.0点。香港ノワール最高傑作

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『インファナル・アフェア 無間道』(2002年、香港)
監督: アンドリュー・ラウ、アラン・マック
出演: トニー・レオン、アンディ・ラウ、アンソニー・ウォン、エリック・ツォン、ケリー・チャン、サミー・チェン

【点数】
★★★★★★★★★★ / 10.0点

ハリウッドで歴代最高額でリメイク権が落札され、『ディパーテッド』が作られた。歴史に名を残した『インファナル・アフェア』。香港の『ゴッドファーザー』と呼ばれる香港ノワールの最高傑作と名高い犯罪サスペンス映画だ。

男の美学を、こんな素晴らしい脚本と演技・演出で描いた映画が、かつてあっただろうか。迫真の演技、演出、洗練された脚本、緊張のサウンド、全てを見ても高い密度で凝縮されている。サスペンス・ヒューマンドラマとしても、完璧な映画だと思った。過去の因縁やカルマと現在が巧みに交錯するストーリーが泣かせてくれる。

「己の道は、己で選べ」
貫禄の格言、マフィアの長・サム(エリック・ツォン)の杯を交わすシーンから始まり、そこから二人の青年の人生が圧倒的なスピードで回り始める。オープニングから圧巻の迫力と緊張感。広東語の荒っぽくも調子のいい音がやけに耳に残る。そして、2人の潜入の運命の歯車が動き始める。

さてあらすじは、警察に潜りこんだマフィア(アンディ・ラウ)と、マフィアに潜りこんだ警察官(トニー・レオン)の2人の運命の物語だ。成人した時から彼らの「潜入」が始まる。そして、互いの微妙な立場が一つの警察とマフィアの抗争によって10年後に動き出す。

ウォン警部のアンソニー・ウォン、マフィアのエリック・ツォン、女医のケリー・チャンまで個性的な俳優人で脇を固めた豪華実力派演技陣だ。

スピーディーな展開ながらも、屋上のシーンの青さ、香港の街特有の蛍光灯の青みがかった室内の色と、二人が愛した曲とオーディオ、無常にも開閉を続けるエレベーター、印象深い演出と脚本が完璧につながっている。物語が終わりまでは、息を呑むシーンとストーリー展開の連続で、興奮が収まらなかった。

しかし、作品として完成度が高いだけでない。私が本作に心を動かされたもの、それは男同士の絆だったり友情だったり、男の美学というハードボイルドな哲学に感情を揺さぶられるのだ。自分の命に投げ打ってでも、人との情や信念を貫く。そのような生き様を、随所に散りばめられた仏教思想で説く。

縁、カルマ、輪廻、無間道。そう、本作の「インファナルアフェア(無間道)」とは、輪廻によって同じ縁と宿命によっていつまでも同じ次元で愚かな運命を何度も繰り替えす人間の姿を描いているのだ。これが終わりではない、何度でもこれが続く。そうした人間社会へのメッセージでもある。そこからは香港仏教思想の高い心の次元をも感じさせる。

「香港ノワール」と呼ばれる香港の犯罪・黒社会映画を題材としたアクション映画のムーブメントだ。その種の映画の共通した特徴は、そうした男たちの闘いを描いている。それが今や香港映画の一つのブランドとして、世界中に広まっているカテゴリーなのだ。

本作を見てからというもの、私は「香港ノワール」的映画ばかり見るようになってしまった。『インファナル・アフェア』のDNAは、それだけ心を打つモノがあり、「無間道」的輪廻を見据えて人生を見つめ直したくなる。もっと大事な価値観を、この映画から学べるのではないかと。

(Kojiroh)

グラントリノ(2008年、米) ―10.0点。最後の用心棒、ここに眠る

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グラントリノ(2009年)
監督・主演 クリント・イーストウッド

【点数】
★★★★★★★★★★ / 10.0点

イーストウッドはいつから泣かせる映画監督になったんだ。

こんな大したスペクタクルやトリッキーでもない王道のようなストーリーの映画で涙腺を緩めてしまうなんて、不覚。でもしょうがない。だって私は最初の出世作『夕陽のガンマン』(64年)から彼を知ってるから。

 さて、現78歳のイーストウッドは、一体いくつの歴史的傑作を生みだしてきたことか。レオーネ監督のマカロニウェスタンでのガンマンから成功から始まり、『ダーティハリー』(71年)で俳優として大当たり。『恐怖のメロディ』(71年)で監督デビューし、『許されざる者』(92年)でオスカー、『ミリオンダラー・ベイビー』(04年)で2度目のオスカー、それで終わらずさらに『硫黄島二部作』(06年)まで手がけてきた。もう映画作る必要ないじゃん、と言いたくなるぐらい傑作だらけだ。

 そんなイーストウッド大先生は新作『グラン・トリノ』でついに俳優業引退を宣言した。独り身の頑固ジジイが隣人の東洋人と交流し再生してゆく典型フォーマットを辿った映画で、自身の監督作『パーフェクト ワールド』(93年)的な展開かと感じる。

けれども、1エピソード1分以内で見せるお得意のスピーディーかつ丁寧なカットは見るものを飽きさない。エンタメ精神は相変わらず健在だ。さらに失われた家族像、人種差別、老いと孤独、人種や年齢を超えた友情、戦争、生と死、懺悔、さらにはユーモラスな人間関係まで、彼が今までスクリーンで魅せてきたすべてのテーマを盛り込んでいるようで、いや、もうおなか一杯。少しずつ少しずつ描かれる隣人のモン族との人種を超えた交流は、ヒロイズムを交え、初老の用心棒としての彼の姿を写し出しているように見える。

 顔はしわだらけ、声はしゃがれ、すっかり老け込み、銃を持つ手は震えている。しかし、タバコをくわえ最後の決戦に挑む彼の眼光は昔と何も変わらない。もはや、最後の決闘に鉄の防具は必要ないのだな。

荒野の用心棒・イーストウッド、ここに眠る。

Written by Kojiroh

※引用:最後の用心棒|世界の始まりとハードボイルド