

『アメリカン・スナイパー』(2014年、アメリカ)―132min
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジェイソン・ホール(英語版)
原作:クリス・カイル『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』(原書房)
撮影 トム・スターン
出演者:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラーetc
【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点
※リアルタイム映画評
84歳になる世界の巨匠、クリントイーストウッドの最新作にして、戦争映画史上最大のヒット作を作った!
プライベートライアンを超える、史上最大の戦争ヒット作にして、イーストウッドの最高傑作といわれ、ある有名な映画サイトでは100点満点。とにかくみんな絶賛のアメリカンスナイパー。
ミーハーなわたしは劇場へ足を運ぶ。
高すぎる前評判と混雑する劇場に、少し嫌な予感はしつつも。
◎あらすじ
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際、その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとる。しかし、同時にその存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われる。数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。過酷な戦場を生き延び妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになる。
<映画.comより>
さて、結論――傑作は傑作だが、イーストウッドの最高傑作でもなければ、史上最高の戦争映画でもない。
雰囲気はすごくいい。
わかりやすくて、ドキュメンタリーのように早いテンポで物語が進む。主演の男優と女優も両方良い味だしていて、個人の生い立ちから現在までを、特徴的に早いテンポで描くのは、イーストウッドならではですね。ミリオンダラーベイビー思い出しました。
無駄なく短いカットでしっかり物語を進めるスピード感は、グラントリノを思い出した。
だが本作は、イーストウッドの力というのもあるが、脚本のよさもあるでしょう。さて、しかしこの映画が反アメリカ的かそうでないかみたいな観点で、本作はすばらしい映画だという主張があるが、どうだろう、監督の力以上に、本作はこの実話ベースの脚本の力が上回っている気がする。
クリス・カイルという人物のサクセスストーリーというか、戦場までへの道のりを描いた部分の構成はさすがイーストウッドと唸るリズムとテンポだった。
戦場シーンはどうだろう、スナイプシーンの緊張感と迫力は、ハートロッカーの爆弾解体シーンに匹敵するかもしれないが、ディティール重視というよりも、単純明快な部分も多く、エンタメ監督としてのイーストウッドらしい。
だが冒頭のスナイパーシーンは歴史に残る名場面かもしれない。手榴弾と子供と女、迫る判断。この2~3分の、吐息が聞こえるようなスナイパーシーンは素晴らしい。


だがはっきりいって、戦争絶賛+アメリカ自画自賛なイラク映画『ハートロッカー』の方がディティールが細かく、本作よりも戦争映画として上を行ってる気がした(メッセージ性は置いといて)
本作のメッセージは何か?
反アメリカ? 反イラク戦争? 反スナイパー?軍隊?
本作は戦場に取り付かれて狂って行く軍人の行く末を描いた。
その人物をどちらかというと否定的に描いてはいるものの、
祖国を守るために戦うことが正しいか?
大量殺戮者=英雄か?
チャップリンの殺人狂時代のようなテーマも内包している。
本作がハートロッカーと違うのは、どちらかというとイラクもアメリカも殺戮の英雄も否定的に描いていることだろうか。(だからいってハートロッカーほど面白くはなかったが・・・)
しかしそのメッセージ性はイーストウッド監督によるものではなく、クリスカイルの人生そのものが示しているだけで、監督としてはわりと中立的に淡々と描いている印象で、うーん、どうだろう、これはイーストウッド84歳の集大成というか最高到達点とはとても思えなかった。ミリオンダラーやグラントリノの方が監督作品として素晴らしいと思った結論でした。
それにしても、劇場の客層の悪さにわたしはびっくりした。
エンドロールが無音になって流れてるのに、おしゃべりしだすは席を離れてごそごそするは、動物園状態。
ぜんぜん余韻に浸れない。隣のカップルはこれからのデートの予定のおしゃべり。
しかし「この映画、もう一回見たい、ラストの意味を考えたい」みたいな発言をしていて、なんというか観客の程度の低さを感じた。
だが、おかげで気づいた。
この映画はミーハーな人でも、「深い映画を見た」気分にさせる。
イーストウッドのシンプルで明快なキレのいい演出、あたかも深く、戦争と平和、家族、陳腐なテーマを昨今、ISISの危機が迫るような、漠然とした不安を抱える現代2015年にはぴったりな映画だったのではないか。
ラストのシーンも、大人の事情とかもあり、意図的ではなく、偶然そうなっただけという気もする。確かにこの映画は発表時期などいろいろと考えて完璧なタイミングで運が味方することでヒットしただけの気がする(個人的には)
本作はイーストウッドの最新作であるだけで、最高傑作なんかではない。
むしろ同じ戦争ものなら『硫黄島の手紙』の方がわたしは傑作だと思う。
だが本作は、分かりやすく深い雰囲気を持った娯楽要素もある戦争映画であり、大スペクタクルというほどの規模やディティールではないが、もっとも利益率の高い戦争映画として歴史に名を刻んだだろう。
早撮りで予算を比較的押さえ、利益率が高いイーストウッド監督の仕事は本当に偉大だなと、84歳にして、きっと100歳まで生きて図太く映画作るんだろうなと感じた。

商業的、時代的にみると100点満点の映画じゃないでしょうか。
映画としては78点ぐらいですね、個人的には。見る価値は大いにあると思いますが。
Kojiroh