『ミッション:8ミニッツ』(2011年、アメリカ)―80点。新鋭監督による新感覚サスペンス


『ミッション:8ミニッツ』(2011年、アメリカ)―93min
監督:ダンカン・ジョーンズ
脚本:ベン・リプリー
出演:ジェイク・ギレンホール、ミシェル・モナハン、ヴェラ・ファーミガ、ジェフリー・ライト。 etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

原題: Source Code

デビュー作「月に囚われた男」で注目を集めたダンカン・ジョーンズ監督のサスペンス・アクション。彼はデビットボウイの息子で、かつ映画で評判がいいということで、気になっていたがすっかり見るのを忘れていたミッション8ミニッツをやっとこさレンタルで鑑賞。

●あらすじ
列車の中で目を覚ましたコルター・スティーヴンスは、見知らぬ女性から親しげに話しかけられ当惑する。ほどなく列車内で大爆発が起きる。再び意識を取り戻すと、そこは軍の研究室の中。彼が体験したのは乗客全員が死亡したシカゴ郊外での列車爆破事件直前8分間の犠牲者の意識の世界だった。それは、次なる犯行予告の時間が迫る中、軍の特殊プログラムによって死亡した乗客の意識に入り込み、列車内を捜索して犯人を特定しようとする極秘ミッションだった。大役を任されたコルターだったが、列車内にとどまれるのはわずか8分。そのため何度も意識を8分前に戻しては爆破の恐怖に耐えながら、徐々に犯人へと迫っていく。しかし同じ8分間を繰り返すうち、そこで出会った女性クリスティーナに特別な感情が芽生えてしまうコルターだったが…。
<allcinema>

ジェイクギレンホールドが深い顔つきでキレのある演技を見せてくれます。
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何度も繰り返す8分間、緊張感もスリルも満載。
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脇役の演技もなかなか渋く、とにかく脚本がよくできていますね。
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所管、1時間半以内でさくっと見れる映画の中ではかなり完成度が高くて面白いっ!

ずばり、タイムとラベル的な要素を含みつつ、探偵のごとく8分間の中で問題解決するという脚本アイディアが秀逸であるのだが、無駄なくサクサク進んでゆき、本人自身の謎も迫ってくる流れにわくわくした。

メメント的でもあるが、本作のほうがより娯楽映画としてはよくできているなと思った。

とにかく、このパラレルワールドの過去を行き来して問題解決するという比較的スケールが大きそうなテーマを90分で収めて痛快なサスペンスドラマにした点が非常に完成度が高いと感じる。

類似な映画として、バタフライエフェクトやオールニードイズキルがあるが、本作はそのスマートさとスピード感では最も秀逸かもしれない。

父親の頭脳と才能は、子供にも引き継がれるものなのだなと納得。きっと娯楽系サスペンスアクションとしては傑作としてここ10年は残るであろう一作でした。

kojiroh

『アメリカン・スナイパー』(2014年、アメリカ)―80点。イーストウッド最大のヒット戦争映画


『アメリカン・スナイパー』(2014年、アメリカ)―132min
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジェイソン・ホール(英語版)
原作:クリス・カイル『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』(原書房)
撮影 トム・スターン
出演者:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラーetc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

※リアルタイム映画評

84歳になる世界の巨匠、クリントイーストウッドの最新作にして、戦争映画史上最大のヒット作を作った!

プライベートライアンを超える、史上最大の戦争ヒット作にして、イーストウッドの最高傑作といわれ、ある有名な映画サイトでは100点満点。とにかくみんな絶賛のアメリカンスナイパー。

ミーハーなわたしは劇場へ足を運ぶ。
高すぎる前評判と混雑する劇場に、少し嫌な予感はしつつも。

◎あらすじ
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際、その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとる。しかし、同時にその存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われる。数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。過酷な戦場を生き延び妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになる。

<映画.comより>

さて、結論――傑作は傑作だが、イーストウッドの最高傑作でもなければ、史上最高の戦争映画でもない。

雰囲気はすごくいい。
わかりやすくて、ドキュメンタリーのように早いテンポで物語が進む。主演の男優と女優も両方良い味だしていて、個人の生い立ちから現在までを、特徴的に早いテンポで描くのは、イーストウッドならではですね。ミリオンダラーベイビー思い出しました。

無駄なく短いカットでしっかり物語を進めるスピード感は、グラントリノを思い出した。

だが本作は、イーストウッドの力というのもあるが、脚本のよさもあるでしょう。さて、しかしこの映画が反アメリカ的かそうでないかみたいな観点で、本作はすばらしい映画だという主張があるが、どうだろう、監督の力以上に、本作はこの実話ベースの脚本の力が上回っている気がする。2015-03-12_103751

クリス・カイルという人物のサクセスストーリーというか、戦場までへの道のりを描いた部分の構成はさすがイーストウッドと唸るリズムとテンポだった。

戦場シーンはどうだろう、スナイプシーンの緊張感と迫力は、ハートロッカーの爆弾解体シーンに匹敵するかもしれないが、ディティール重視というよりも、単純明快な部分も多く、エンタメ監督としてのイーストウッドらしい。

だが冒頭のスナイパーシーンは歴史に残る名場面かもしれない。手榴弾と子供と女、迫る判断。この2~3分の、吐息が聞こえるようなスナイパーシーンは素晴らしい。

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だがはっきりいって、戦争絶賛+アメリカ自画自賛なイラク映画『ハートロッカー』の方がディティールが細かく、本作よりも戦争映画として上を行ってる気がした(メッセージ性は置いといて)

本作のメッセージは何か?
反アメリカ? 反イラク戦争? 反スナイパー?軍隊?

本作は戦場に取り付かれて狂って行く軍人の行く末を描いた。
その人物をどちらかというと否定的に描いてはいるものの、
祖国を守るために戦うことが正しいか?
大量殺戮者=英雄か?
チャップリンの殺人狂時代のようなテーマも内包している。

本作がハートロッカーと違うのは、どちらかというとイラクもアメリカも殺戮の英雄も否定的に描いていることだろうか。(だからいってハートロッカーほど面白くはなかったが・・・)

しかしそのメッセージ性はイーストウッド監督によるものではなく、クリスカイルの人生そのものが示しているだけで、監督としてはわりと中立的に淡々と描いている印象で、うーん、どうだろう、これはイーストウッド84歳の集大成というか最高到達点とはとても思えなかった。ミリオンダラーやグラントリノの方が監督作品として素晴らしいと思った結論でした。

それにしても、劇場の客層の悪さにわたしはびっくりした。

エンドロールが無音になって流れてるのに、おしゃべりしだすは席を離れてごそごそするは、動物園状態。
ぜんぜん余韻に浸れない。隣のカップルはこれからのデートの予定のおしゃべり。
しかし「この映画、もう一回見たい、ラストの意味を考えたい」みたいな発言をしていて、なんというか観客の程度の低さを感じた。

だが、おかげで気づいた。
この映画はミーハーな人でも、「深い映画を見た」気分にさせる。
イーストウッドのシンプルで明快なキレのいい演出、あたかも深く、戦争と平和、家族、陳腐なテーマを昨今、ISISの危機が迫るような、漠然とした不安を抱える現代2015年にはぴったりな映画だったのではないか。

ラストのシーンも、大人の事情とかもあり、意図的ではなく、偶然そうなっただけという気もする。確かにこの映画は発表時期などいろいろと考えて完璧なタイミングで運が味方することでヒットしただけの気がする(個人的には)

本作はイーストウッドの最新作であるだけで、最高傑作なんかではない。
むしろ同じ戦争ものなら『硫黄島の手紙』の方がわたしは傑作だと思う。

だが本作は、分かりやすく深い雰囲気を持った娯楽要素もある戦争映画であり、大スペクタクルというほどの規模やディティールではないが、もっとも利益率の高い戦争映画として歴史に名を刻んだだろう。

早撮りで予算を比較的押さえ、利益率が高いイーストウッド監督の仕事は本当に偉大だなと、84歳にして、きっと100歳まで生きて図太く映画作るんだろうなと感じた。

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商業的、時代的にみると100点満点の映画じゃないでしょうか。

映画としては78点ぐらいですね、個人的には。見る価値は大いにあると思いますが。

Kojiroh

『ゴーンガール』(2014年、アメリカ)―85点。アメリカン・サイコパス映画@フィンチャ―監督

『ゴーンガール』(2014年、アメリカ)―169min
監督:デヴィッド・フィンチャー
脚本:ギリアン・フリン
原作:ギリアン・フリン『ゴーン・ガール(英語版)』
音楽 トレント・レズナー&アッティカス・ロス
出演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

※リアルタイム映画評

鬼才デビッド・フィンチャー監督、ドラゴンタトゥーの女以来の新作!!しかも、ギリアン・フリンの全米ベストセラー小説の映画化。
「アルゴ」のベン・アフレック主演。音楽を、「ソーシャル・ネットワーク」「ドラゴン・タトゥーの女」でもタッグを組んだNINのトレント・レズナーと、同バンドのプロデューサーでもあるアティカス・ロス。

最高のチームで、最高の原作を映画化ってわけで、こりゃ見ないわけには行きません。

●あらすじ
幸福な夫婦生活を送っていたニックとエイミー。しかし、結婚5周年の記念日にエイミーが失踪し、自宅のキッチンから大量の血痕が発見される。警察はアリバイが不自然なニックに疑いをかけ捜査を進めるが、メディアが事件を取り上げたことで、ニックは全米から疑いの目を向けられることとなる・・・。

<映画.com>

単刀直入に、クソ面白いです。
もう感受性も揺さぶられてぐいぐい引き込まれる。2015-02-02_184352

Missing LADY, アメリカっぽい描写満載で素晴らしい。
夫婦間のトラブルでいうと、ドラマのブレイキングバッドを思い出すような描写。あとリーマンショック後の失業からミズーリへの隠居、みたいな現代アメリカを感じさせる内容もツボ。

謎解きのようなミステリー要素は、本当にこの原作が秀逸なのだろうなと痛感する。

もちろんフィンチャーのダークな映像で、小道具をまた上手く使っていて、かつメディアが事件を取り上げて全米の話題になるその様子を映し出す一連の流れが最高にエキサイティングなんだけどね。

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ブレイキングバッドもそうだが、アメリカの映画は弁護士が登場してからが面白い。どんどんスケールが大きくなっていくわくわく。個人的に最優秀助演はこの弁護士、タイラーペリーっすね。

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あと紙カップのコーヒーを常に片手に操作を進めるキム・ディケンズの演技が個人的によかった。見てるこっちもコーヒー飲みたくなる。

ヒントや細かい動作まで、完璧主義のフィンチャーはやはり本作でもディティールで見せてくれます。

さて、素晴らしく面白い映画であることは疑いようないが、これは意外とサイコパス(精神病質)な映画なんじゃないかなと思った。現代のサイコパスを的確に描いた物語、みたいな。社会でサイコパスがどうやって人と人との関係の中で生きてゆくか、利を得てるか、みたいな観察にもなるほど、個人的な理解だと、これがサイコパスだとバチっと来る。

とりあえずネタバレになるとあれだが、彼女のマジキチっぷりはトラウマになりそうです。

ゾディアックや、ドラゴンタトゥー、ソーシャルネットワークもそうだが、物語に引き込むだけ引き込ませて時間を忘れるぐらい作品の映像世界に夢中にさせたわりにはあっけなく幕引きさせるフィンチャ―監督の手法は相変わらず憎いです。

3作連続のトレントレズナーとのコンビもおなじみ。

90点あげようかと思ったが、ダークでスタイリッシュな映像世界に引き込まれたが、過去2作のテイストで、秀逸な脚本を映像化しただけであり、過去2作のテイストから、なんら進歩はなく、同じ手法で焼き直しされてる感じがしないでもない。
(それでも十分面白いのは監督の才能なのだろうが・・・)

この世界にはすごく引き込まれて、2時間半という長さをまったく感じさせないデキだった、面白さでいうと90点レベルの映画であるが、ほとんどの部分は脚本と原作のチカラであろう。ただサイコパスな部分が多すぎてトラウマに・・・・。

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フィンチャー監督とトレントレズナーの音楽のコンビに過去の手法に進化は感じなかったことと、あまりにもマジキチで後味悪い映画ってことで、82.5点っていう結論でした。

kojiroh

『インターステラー』(2014年、アメリカ)―85点、ノーラン版「2001年宇宙のたび」


『インターステラ』(2014年、アメリカ)―169min
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン、ジョナサン・ノーラン
音楽:ハンス・ジマー
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
編集:リー・スミス
出演:マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン、ビル・アーウィン、エレン・バースティン、マット・デイモン、マイケル・ケインetc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

※リアルタイム映画評

2014年、巨匠の超大作がまたやってきた!
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「ダークナイト」「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督が、理論物理学者キップ・ソーン博士のスペース・トラベルに関するワームホール理論を下敷きに描くSF大作。
制作費は1.65億ドル。円安の今は200億円以上の超大作!!
宇宙ものの大作はゼログラビティ以来、それを超えるなにかがありそうだなと、ノーランがどう宇宙を描くのか・・・前知識がほとんどない状態で映画館へ足を運んだ。

◎あらすじ
近未来の地球。環境は加速度的に悪化し、植物の激減と食糧難で人類滅亡の時は確実なものとして迫っていた。そこで人類は、居住可能な新たな惑星を求めて宇宙の彼方に調査隊を送り込むことに。この過酷なミッションに選ばれたのは、元テストパイロットのクーパーや生物学者のアメリアらわずかなクルーのみ。しかしシングルファーザーのクーパーには、15歳の息子トムとまだ幼い娘マーフがいた。このミッションに参加すれば、もはや再会は叶わないだろう。それでも、泣きじゃくるマーフに“必ず帰ってくる”と約束するクーパーだったが…。
<allcinema>

「私の父は農夫だった」
はい、最初から伏線が飛び交います。インセプションやメメント、弟が脚本書いただけあって、ノーラン流の時空の交錯と論理的な伏線がいいですね。
でもちょっとこの世紀末的な世界観の導入に時間がかかりました。
長いですね、3時間近いこの作品は。
もっとはやく人類を救うために宇宙へ行ったらよかったんじゃないでしょうか。

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役者が渋いしどこかで見たことあるような・・・と思ったら、「ウルフ~」でイカレたストックブローカー役でいい演技を見せてくれたマシュー・マコノヒーが主演か!

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さらに「ゼロダーク~」のジェシカ・チャステイン。
うん、こりゃメンツが豪華です。

そして、なんといってもマッドデイモン。彼がいなければ本作は退屈だった。
本作は宇宙へ飛び立つまではわりとだるくて、65点ぐらいっすかね。
でも月面着陸の捏造と過剰な生産主義が終わって食糧危機に直面する地球の世紀末間は、プレッパーの未来みたいで現実味を感じました。

宇宙へ飛び立ち、冬眠して次の星へ向かう。
相対性理論により、地球の年十年が宇宙と別の惑星では驚異的に早くなって父と子供の年が逆転しうるような状況での宇宙飛行はかなりのリアリティがあって、ディティールも細かくて、どっかでみたようなSFのお決まりパターンにも思えるが、これはこれでかなり楽しめました。

何より映画館でみたことが大きい。
キューブリックの「2001年~」もそうだが、宇宙空間の映像を体感するのに、映画館は最高の場所なのだ。暗闇と無音、無重力な雰囲気が映画館で直面できる。

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「2001年~」はかなりの大作でありつつ難解な芸術作品で、テロップも複雑だが、本作は比較的わかりやすい。

キューブリックが省略して描きそうなところをいい意味で大衆的に、かつ相対性理論を用いて描いた、あるいは今のSFの技術力がよりディティールを細かく描くことを可能にしたのかもしれない。

それにしても2001年ではHALが主要なAIだが、本作のTARSは造詣もキャラクターも素晴らしいですね。歩いたり走ったり、自己犠牲をも可能にしたすごいAIです。人工知能が人間の脅威になる時代は来るとは思えないほど。

ネタバレになるのであまりいいませんが、本作はマッドデイモン登場から本格的に面白くなる。もう、2001年のあの絶望感と緊張感が、彼の演技なしにこの映画は面白くならなかったぐらい。

完全にキューブリックの描いた展開とは逆のストーリーなのだが、相対性理論、ブラックホール、それを乗り越えて人間は超人になれるみたいな展開なんすよね、スターチャイルド的な。

とりあえず、ノーラン版、「2001年宇宙のたび」です。

長すぎたから83点ぐらいですかね。本家は超えられないが、マコノヒーの渋い演技と、TARSのキャラとマッドデイモンは必見だと思いました。

kojiroh

『幸福の黄色いハンカチ』(1977年、日本)―80点。和製ロードムービーの元祖&最高傑作


『幸福の黄色いハンカチ』(1977年、日本)―108min
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝間義隆
音楽:佐藤勝
出演:高倉健、武田鉄矢、桃井かおり、倍賞千恵子 etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

2014年11月の名優、高倉健の追悼キャンペーンってことで、いまだに見たことがなかった昭和の名作「しあわせの黄色いハンカチ」をこの機会に鑑賞したのでレビューします。

◎あらすじ
刑期を終えた中年男が、行きずりの若いカップルとともに妻のもとへ向かう姿を描いた“健さん”主演のロード・ムービー。北海道網走。夢だった新車を買って北海道をドライブする欽也は、途中女の子をナンパし、ふたりで旅を続ける。ある時、ひょんなことから出所したばかりの中年男・勇作と出会い、旅をともにすることに。やがて、ふたりは勇作から“自分を待っていてくれるなら、家の前に黄色いハンカチを下げておいてくれ”と妻と約束したことを打ち明けられる……。あまりにも有名なラストは“あざとい”と感じながらも涙せずにはいられない感動作。
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はい、ずばり、和製ロードムービーの元祖にして最高傑作じゃないでしょうか。
笑いあり、涙あり、さらにわたしの大好きな観光大国・北海道が舞台。もう文句なしでわたし好み。この時代も北海道旅行はやってたのね。

予備知識なしで見たので、昭和の時代に東京からフェリーで車を移動してロードムービーを成し遂げるという、冒頭からのテロップが素晴らしくスピーディーかつ、昭和の経済発展の勢いをも感じさせる。
デフレ世代のわたしとしては、こんな時代があったのかと非常に興味深かった。
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2014-11-24_192731マツダのこの赤い車がまじで最後はかわいく思えてくる。

小道具がいいですね。赤い車、黄色いハンカチ、イカれたハットとグラサン。

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この時代の人間は勢いがあったのかなあ。
武田鉄也の若さと、狂言役者のような饒舌でスケベで間抜けな役回りが、隠し砦の三悪人的でもある。しかし、このキャラは今の時代では再現難しいなあと、本当に興味深かった。
桃井かおりも若いっすねえ。どもったおどおどした感じの役柄も、この時代ならでは?
何より高倉健が渋すぎるぜっ!
寡黙なアニキキャラがいい。
不器用で、男は黙って・・・的な。
はっきりした顔立ちと、顔のしわが「男」を語ってくれる。

出所後のビールとラーメンをほおばるシーンの迫力も印象的。

まあ作品としては、山田監督のカメラワークもさえていて、ズームアップを多用した手法や、車の中からの視点などを巧みに使っていて、見ごたえあります。

とりあえず昭和の高度成長期の勢いと感じさせる、ロードムービーとして文句のつけようのない傑作ですねえ。フルっぽいっちゃ古っぽいですが・・・、

しかし物価が上がっているインフレの好景気の中、ラーメンの値段が360円→400円にあがっているとか、細かい描写がその時代を感じさせてくれる。

日本は昔、インフレで、その時代はこういうかんじで感情的だが人情味がある、男が強い、女を守ってやる系のパワフルな時代だったんだなあと。

今は不況でデフレで人間関係は希薄で、男女平等、てか女が強くなりすぎな、少子高齢化時代。ああ、この映画は海外リメイクさせるような傑作だが、今の時代に似たようなものを作っても今は昔、うけないだろうなあ。面白いけども。

というわけで高倉健も素晴らしい演技を見せてくれますが、高倉健以上に、この時代を描写したことのほうが興味深かった一作です。

Kojiroh

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年、アメリカ)―80点。和製原作×トムクルーズ 新感覚SFアクション・スペクタクル


『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年、アメリカ)―113min
監督:ダグ・リーマン
脚本:ダンテ・W・ハーパー、ジョビー・ハロルド、スティーヴ・クローヴス、クリストファー・マッカリー、ティム・クリング、ジェズ・バターワース、アレックス・カーツマン、ロベルト・オーチー
原作:桜坂洋『All You Need Is Kill』
出演:トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン、ブレンダン・グリーソンetc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

ALL U NEED IS KILL

この夏、ゴジラに並ぶくそ映画として期待の一作、日本の桜坂洋のライトノベルをトム・クルーズ主演で映画化したという異色のSFバトル・アクション大作。共演はエミリー・ブラント、ビル・パクストン。監督は「ボーン・アイデンティティー」「フェア・ゲーム」のダグ・ライマン。

こりゃクソ映画人としては見逃せなそうだなと思って映画館へ行ったのだが、前評判もいいことと、満席であったため劇場では見逃してしまった。

しかし先日、運よく乗車してJALの飛行機の機内で発見して、鑑賞した。

●あらすじ
謎の侵略者“ギタイ”の攻撃によって、人類は滅亡寸前にまで追い込まれていた。そんな中、軍の広報担当だったケイジ少佐は、ある時司令官の怒りを買い、一兵卒として最前線へと送られてしまう。しかし戦闘スキルゼロの彼は強大な敵を前にあっけなく命を落とす。ところが次の瞬間、彼は出撃前日へと戻り目を覚ます。そして再び出撃しては戦死する同じ一日を何度も繰り返す。そんな過酷なループの中で徐々に戦闘力が磨かれていくケイジ。やがて彼はカリスマ的女戦士リタと巡り会う。彼のループ能力がギタイを倒す鍵になると確信したリタによって、最強の“兵器”となるべく容赦ない特訓を繰り返し課されるケイジだったが…。
<allcinema>

はい、予想外でした。
機内で爆睡しようと思ってたのですが、面白くて一気に見てしまい、目が覚めるできばえでした。

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前知識0のような状態で見たので、本作のテロップはかなり新鮮でした。

脚本というか原作がいいんじゃでしょうか。ベタな展開で繰り出させるひ弱な軍人が覚醒してゆく姿はかなり面白かったです。

それもかなりゲーム的で、本作は映画をゲーム的に「リセット」と「リトライ」を再現することに成功しているなと。ネタバレっぽいからあまりいいませんが、ゲーム要素を含んだ映画は多いですが、本作はまるで自分がゲームをやっているような感覚になれる、最も優れた映画かもしれません。

本作のべたべたなエイリアン侵攻のテロップやオチなんかも、パシフィックリムや、宇宙戦争、LA決戦などなど、似たようなパターンで世界を救うという話なんですが、何度も何度も次元を繰り返してゲームのようにエイリアンとの決戦を切り抜いてゆくのはくそ映画を超えて、個人的には斬新な映像体験でした。

トムクルーズは本当にくそ映画に似合う俳優です。

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エイリアンの造詣から、この戦闘服とバトルシーンの迫力、そして繰り返されるシーンのビル・パクストン演じる総長などの脇役、全部が笑わせてくれます。脇役も凝っているなと。

ゲームを繰り返すようにあの手この手で攻略してゆくその姿は滑稽で、かつアイディア満載で楽しめました。

しかし、ゴジラにしてもそうだけれども、日本発祥のモトネタから、『パシフィックリム』、『ゴジラ』、『オールユーニードイズキル』。和製の奇抜なアイディアやカルチャーをハリウッド式の大スペクタクルで再現した映画が非常にクオリティ高くて面白くて世界的なヒットを飛ばすものが多くなっているなと思う。

もちろん、日本はアニメでぐらいしかせいぜい再現できないのだが、実写化して大スペクタクルに仕上げることのできるアメリカの手法は、くそ映画人としては見逃せない超大作な作品を仕上げてくれるので、素晴らしいなと思う昨今です。

Kojiroh

『ザ・レイド(The Raid)』(2011年、インドネシア)―10年に一本の傑作インドネシア製アクション映画


『ザ・レイド』(2011年、インドネシア)―102min
監督:ギャレス・エヴァンス
脚本:ギャレス・エヴァンス
編集 ギャレス・エヴァンス
出演者:イコ・ウワイス、ヤヤン・ルヒアン etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

ハリウッドでも大ヒットして批評かも大絶賛の、10年に一度のアクション映画の傑作と名高い、ザ・レイド。話題で日本人出演も含めた続編も登場するとのことで、そろそろ映画人である筆者も見なきゃなと思い出してレンタルで鑑賞。

インドネシアからまさかこんなにクオリティ高いアクション映画が出てくるとわっ!!2014-09-17_190123

●あらすじ
ジャカルタの麻薬王が支配する30階建ての高層ビル。ギャングに殺し屋、ドラッグの売人たちのアジトとなっているそのビルに、20人の精鋭からなるSWATチームが強制捜査に入る。しかし作戦の情報が漏えいしており、激しい銃撃戦が勃発。そんな中隊員たちは、己の肉体やさまざまな武器を駆使しながら、次から次へと襲撃してくるギャングたちと死闘を繰り広げ、麻薬王を捕獲すべく進んでいく。
<Yahoo映画より引用>

とりあえずこのスピード感、迫力はすごいです。

テロップは長単純な物語。ビルに入って出られなくなって壮大なアクションをするかんじ。無駄がなく、導入が超スムーズに、アクション地獄へと叩きこんでくれます。2014-09-17_190049

インドネシア映画だからなのか、出演人の顔つきだったり、映像の質感とかも、普通の映画にはないかんじのものがあるのですごい新鮮だった。

インドネシアも多民族国家だからいろんな顔がいるなと。

単純な物語だが、この15階建ての古ぼけた犯罪ビルでの壮大なアクションはすごく面白い。今までにないようなアクション。

順調な任務から一転して絶望的な状況に転落する最初の30分はすばらしいと思います。ビルへ閉じ込められるテロップは、REC的でもあるが、同種の絶望感とスピード感で迫る危機がいいですねえ、そこからあの手この手で下の階へ脱出したり、キーマンが登場したり、さらにはこの任務に仕組まれた陰謀が絡んで、単純なアクション映画を超えてハードボイルドな内容になってます。2014-09-17_190157

小道具や、ベルを激しいアップにしたり、ヒッチコック的な演出も絡めつつ、無駄に敵多すぎだけど主人公強すぎみたいなお約束なアクションが展開されます。後半は銃とかはなくなって肉体アクションです。

個人的には肉体アクションが少しだるいです。前半がよかったですね、あのスピード感と危機感が、9点です。

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後半は、タイの『マッハ!!』のインドネシア版か!?とも思うほど激しい格闘技アクションは純粋にエンタメとしても楽しめましたが、全体的にはダークな世界観。インドネシアでこんな映画が作れたことが個人的には一番驚きだった。

この監督も「ザレイド」を単なるアクション映画で終わらずハードボイルドなサスペンスアクションにした技量はたいしたものだなと。

クライマックも非伝統的というか、絶対にハリウッド映画ならあんな幕切れしなそうな感じで、前半と終わり方が特にすばらしかったですね。

個人的には90分以下で終わりにしてよかったと思いますが、まあともかく今後の続編に期待したい、10年に一本と称されるのも頷ける一作でした。

kojiroh

『隠し砦の三悪人』(1958年、日本)―戦国時代と黄金と美女を巡るスペクタクル


『隠し砦の三悪人』(1958年、日本)―139min
監督:黒澤明
脚本:菊島隆三、小国英雄、橋本忍、黒澤明
音楽:佐藤勝
撮影:山崎市雄

出演:三船敏郎、千秋実、藤原釜足、藤田進、志村喬、上原美佐・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

七人の侍や羅生門、用心棒などの名作に隠れてあまり注目されないが、黒澤の中期の傑作として、ジョージルーカスにも多大な影響を与えたとされる『隠し砦の三悪人』。

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●あらすじ
黒澤明監督が戦国時代を舞台に描く娯楽活劇時代劇の傑作巨編。敗軍の将が世継ぎの姫と隠し置いた黄金200貫とともに、敵陣を突破する。次々と遭遇する絶体絶命の危機を間一髪で切り抜けていくアイデアの数々に脱帽。また、群衆シーンの迫力や走る馬の疾走感など黒澤演出も冴え渡る。妙に色っぽい雪姫と狂言回し的な百姓コンビの3人が世界のミフネに負けない存在感を見せてくれる。この百姓コンビが、後に「スターウォーズ」の“C-3PO”“R2-D2”のモデルとなったことはあまりにも有名な話。
<allcinema>

所管、驚いた。
この時代にこのような映画技術と手法をふんだんに盛り込んだ作品があったとは。
ロードムービー的要素や、国越えの脱出劇的要素、槍と槍との一騎打ち、騎馬戦、姫と黄金を守る旅、滑稽で欲張りでよくしゃべる2人組と1人の強い男、そして美女の王女。

ずばり、このプロットというか舞台設定が斬新である。
3人組の躍動感あるトリオはすごい。キャラクター描写がたくみなのだ。

三船の存在感も多大で、馬に乗ってカタナを上げて騎馬戦を展開するあのシーンの迫力もすばらしい。2014-07-19_1731032014-07-19_172638

が、それ以上に千秋実、藤原釜足の百姓2人組の滑稽なキャラクターは映画史に残るレベルで、ジョージルーカスにも影響を与えている。

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本当に本作は、レオーネ監督の『続・夕陽のガンマン』の、ブロンディとトゥッコのコンビを彷彿させる。この映画がなければ誕生しなかったのではないかと思える。

あと雪姫の強いキャラクターも黒澤映画にしては珍しい。
特に野宿して横たわるシーンの構図と妖艶さは名シーンだなと。

佐藤勝の印象的なテーマと共に繰り広げられるロードムービー、合戦あり、決闘あり、お祭り騒ぎから銃撃戦まで。七人の侍を超える大スペクタクルじゃないかっ!

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溢れんばかりのアイディアが、ある意味、実験的に盛り込まれている本作であるが、商業的にも評価的にも他の名作に隠れて目立たない。個人的にはすばらしいが、盛り込みすぎて消化不良な感じもする。

幕切れも妙にあっけなく、大スペクタクルにしては西部劇のような終わり方が少し残念かなとも思う。ロケが難航したり予算がかかりすぎたりと問題が多かったので、おそらく黒澤としては物足りない一作だったのだろうと推測。

しかし、本作が目指したものが、個人的には『続・夕陽のガンマン』に受け継がれたきがする。南北戦争の間で強欲な3人の男たちが黄金を奪いあう戦いを繰り広げるというプロットが似ている。戦国時代の巨大な戦いの間で揺れる本作と。『続~』は女っけ0だが、狂言的な百姓2人の滑稽なやりとりを交えて黄金を巡るスペクタクルが展開されるプロットは多くの模倣を生んだのかもしれないと思った。

The hidden forest、隠し砦の三悪人。
タイトルもまた言い得て妙だが、この三悪人とは一体、誰のことなのか。
百姓・六郎太・姫?

普通に考えたら利用するものされる者ってことで、六郎太・太平・又七だろうが、 本作の人々は意外と残虐非道な悪人はいないなと思った。ただ、隠し砦の三悪人という言葉のセンスは素晴らしいです。

kojiroh

『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年、ドイツ=イギリス)―80点。ウェスアンダーソン最新作


『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年、ドイツ=イギリス)―109min
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン、ヒューゴ・ギネス
製作:ウェス・アンダーソン、スコット・ルーディン、ジェレミー・ドーソン、スティーヴン・レイルズ
出演者:レイフ・ファインズ、F・マーリー・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、レア・セドゥー、ティルダ・スウィントン etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』、『ダージリン急行』の鬼才、ウェスアンダーソン監督の最新作、かつ評判がよく、ベルリン映画祭でも評価され、かつ友人から今年一番!の絶賛受けて、筆者もそんんあいアンダーソン監督ファンではないが見に行ってみることに。

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◎あらすじ
1932年、品格が漂うグランド・ブダペスト・ホテルを仕切る名コンシェルジュのグスタヴ・H(レイフ・ファインズ)は、究極のおもてなしを信条に大勢の顧客たちをもてなしていた。しかし、常連客のマダムD(ティルダ・スウィントン)が殺されたことでばく大な遺産争いに巻き込まれてしまう。グスタヴは信頼するベルボーイのゼロ(トニー・レヴォロリ)と一緒にホテルの威信を維持すべく、ヨーロッパ中を駆け巡り……。
シネマトゥデイより

 

さて、所感。ずばり、100%ウェスアンダーソンの世界、つまりロイヤルテンネンバームの映像感覚で、戦前ミステリーを巨大な陰謀的なタッチで描いてて面白かった。

小説家はネタに困らない・・・なぜならネタが向こうから舞い込んでくるから。作家と豪華ホテル、謎の客とその歴史。

最初の作家の銅像から始める、物語の、ストーリーの動き方はなかなか好き。
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それにしてもアンダーソン監督の才能はすごいなと。
制作から脚本・監督まで。
徹底した映像感覚や色彩は、もう脱帽です。
アメリのジュネ監督や、ティムバートンに並ぶ、独自のおもちゃ箱の世界を表現したようか映像センスを持っている。

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の世界にハードボイルドミステリーのような内容を溶け込ませた、不思議な世界観をさくっと100分ぐらいで楽しめた。ミステリーで犯罪要素もある場面でも、なぜかソフトに移って、シニカルな笑いを誘う感じ。ミステリーコメディとも呼べる作品だった。

アンダーソン監督ってドイツ系アメリカ人なのかな? このお城と西洋の絵画のような表現力はゲルマンっぽい。なんというかオルゴールを回るように映像と音楽が流れる感じ。

しかしさりげなく、ジュードロウ、エイドリアンブロディやエドワードノートン、さらにはハーヴェイカイテルも出演していて、豪華な映画だなと感じる。

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この映画の一番の肝は、豪華な脇役が勢ぞろいしていることでしょう。

小道具が多くて、アンダーソンワールドの中に、ミステリー要素、戦争要素、巨大な陰謀、殺し屋、さらにはプリズン・ブレイクな内容まで盛りだくさんになっていることが、本策が過去のアンダーソンの中で最高傑作という人がいる理由であろう。2014-07-03_120249

個人的には雪の中をスノーボードで失踪するシーンは完全にお子様向けな蛇足だったが、ハードボイルド要素を含みつつ、家族で見れるような内容も含まれている点は大きな魅力だと思った。

お子様向けともいえるし、西洋というか欧州のおもちゃ箱のような映像感覚がいいのだ。

というわけで、アンダーソン監督の作品を始めて映画館で見れたので、個人的にはいい刺激になり、映画館で見る価値大いにある映画でした。

kojiroh

『そして父になる』(2013年、日本)―80点。カンヌ審査員賞、是枝作品の最高傑作


『そして父になる』(2013年、日本)―120min
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
出演者:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

Like Father, Like Son・・・英語のタイトル。2014-03-11_155735

「誰も知らない」の是枝裕和監督が、福山雅治を主演に迎えて贈る感動の家族ドラマ。共演は尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー。カンヌ国際映画祭でみごと審査委員賞を受賞し、国際的な舞台でも大きな話題となる。

スティーブン・スピルバーグも感動し、リメイクが決定した。日本においてもヒットを記録、是枝作品としては最高レベルの一作といえるかなと思った。

●あらすじ
 これまで順調に勝ち組人生を歩んできた大手建設会社のエリート社員、野々宮良多。妻みどりと6歳になる息子・慶多との3人で何不自由ない生活を送っていた。しかしこの頃、慶多の優しい性格に漠然とした違和感を覚え、不満を感じ始める。そんなある日、病院から連絡があり、その慶多が赤ん坊の時に取り違えられた他人の子だと告げられる。相手は群馬で小さな電器店を営む貧乏でがさつな夫婦、斎木雄大とゆかりの息子、琉晴。両夫婦は戸惑いつつも顔を合わせ、今後について話し合うことに。病院側の説明では、過去の取り違え事件では必ず血のつながりを優先していたという。みどりや斎木夫婦はためらいを見せるも、早ければ早いほうがいいという良多の意見により、両家族はお互いの息子を交換する方向で動き出すのだが…。
<allcinema>

うーん、しまったな。
これを去年見てたら、パシフィックリムに並ぶかちょっと超える、2013年の個人的なベスト映画だったなと思います。

しかしすごくいやらしい映画、というか人間の闇というか嫌な部分、さらけ出したくない部分をさらけだす映画でもある。

オープニングのめでたい受験合格シーンから一気に問題が勃発してドロドロの家族崩壊ストーリーになるその落差がすごくえぐい。

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「いいか、血だ。人間もウマと一緒で、血が大事なんだ」
子供は反発しつつも親に似てくるもの。
子供の成長に重要なのは、教育環境か、DNAか、という議論で、これは人種差別にもなりうる難しい話、かつ普遍的な議論である。

個人的にも、監督自身も、道徳的には教育環境を信じたいが、「血」の宿命というのは年を重ねるごとに重要性を実感してくるものであろう。

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子供の純粋さや無垢さを描く事が多い是枝監督だが、その技が最高レベルまで達したのが本作かもしれない。

ある意味で、暴力的な映画ではないが、極めて残酷な映画だ。
残酷映画をみるよりも残酷なのだ。このドロドロとした人間関係模様が。エリートと底辺な家庭の対比が特に残酷で感受性に響く。2014-03-11_155841

福山の家の一家の黒いレクサスと、リリーフランキーの家の軽自動車。この対比がなんとも皮肉でブラック。レクサスが妙にかっこよく見える。もはや大スポンサー?

しかしこの家族2人組の奇妙な関係というか、人間模様も現代的な神経質な感じもあっていい。小道具もこじゃれていて、100均一のようなみすぼらしい財布を使う、リリーフランキーの卑しくも明るいいわゆる底辺なかんじの家族がすごくリアル。2014-03-11_155929

リリーフランキーの奥さんにしては、真木は美人過ぎるけれども・・・。まあ細かい突っ込みは面白いし、日本アカデミー賞取ったレベルで忘れられない怪演をしてくれたので一見の価値ありだと思います。

「こども」と「おとな」の難しい世界の表現に昔から挑み続ける、
世界の是枝の集大成でもあり最高傑作かなと思いました。

_追記
あ、忘れていたが、脇役どころでも、国村隼人の演技が貫禄でした。
福山の上司役で、ところどころのコメントが時代を表していた。
「あなただって僕みたいに突っ走ってきてきたんでしょ?」
「今はそんな時代じゃねえだろ。時代が違うよ、時代が」

そんな成長鈍化の先進国的なやりとりも、また一つ本作が先進国受けする一因かなと思った。

kojiroh