『おくりびと』(2008年、日本)―80点。死というより衰退する先進国の職業選択を問う秀作


『おくりびと』(2008年、日本)―130min
監督:滝田洋二郎
脚本:小山薫堂
出演者:本木雅弘、広末涼子、山崎努、峰岸徹、余貴美子、吉行和子、笹野高史 etc

【点数】 ★★★★★★★/ 8.0点

滝田洋二郎が監督を務め、第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞など数々の賞を受賞、第81回アカデミー賞外国語映画賞という史上初の快挙を成し遂げた1作。

そういえば話題になっていたが見そびれていたのだが、ANAの機内であったので鑑賞してみると想像以上に引き込まれて面白く、もっと早く見ておけばよかったなと思った。

●あらすじ
 チェロ奏者の大悟は、所属していた楽団の突然の解散を機にチェロで食べていく道を諦め、妻を伴い、故郷の山形へ帰ることに。さっそく職探しを始めた大悟は、“旅のお手伝い”という求人広告を見て面接へと向かう。しかし旅行代理店だと思ったその会社の仕事は、“旅立ち”をお手伝いする“納棺師”というものだった。社長の佐々木に半ば強引に採用されてしまった大悟。世間の目も気になり、妻にも言い出せないまま、納棺師の見習いとして働き始める大悟だったが…。
<allcinema>

はい、もう文句なしに近年まれにみる邦画の傑作でしょう。

ぶっちゃけそこまでこの手の人間ドラマは趣味ではないですが、引き込まれました。内容的にも現代的で面白いです。心理描写とか、都会から田舎へ引っ込んでゆき、隙間産業にいざなわれていくその描写は、失われた10年のならではの描写だと思った。

死というより衰退する先進国の中で、どういう職業で生きてゆくか。
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もっくんの優しくて誠実で、ひたむきな演技はなかなか秀逸だった。広末もそうだが、主演から助演まで、近年稀に見るいい芝居をしているなと思った。

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ウェブ屋さんから田舎暮らし。田舎の水で炊く米が美味しいという食卓シーンがなんか個人的にツボだった。

名優・山崎勉の渋くてちょっとユーモラスのある社長役がハマり役だった。

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隙間さん産業に生きる変人社長ってこんな人本当にいるよなと、この怪演は貫禄だったなと思う。台詞まわしも何もかもウィットに富んでいる。

クリスマス祝いでチキンをほおばるシーンとか、もらい物の何かをくちゃくちゃ車の中で食べるシーンとか、生きること・食べること・死ぬこと=死ぬことを処理する人がいることを、皮肉にブラックユーモアを交えて肯定している点が非常に面白かった。

本作の最も秀逸なテーマは「死」ではなく、汚い隙間産業でいきてゆく人々の苦悩と葛藤だと思う。つまりやりたいことと天職はつながらない、ますますつながり難くなっている時代の職業選択の問題である。

今後、何週間も放置されてしに行く高齢者が急増することが予想される日本で、こういう生き方・働き方がすごく現実的であり、リアルだ。

それはすべての先進国に共通して言えることだろう。だからこそ、本作は日本のみならず海外でも評価されたのだと思う。

日本のみならず、先進国の人々、特に職に困っている若者にとっては一見の価値がある一作だと思った。

kojiroh

『パシフィック・リム』(2013年、アメリカ)―80点。空前のスペクタクル・怪獣(カイジュウ)オタク映画

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『パシフィック・リム』(2013年、アメリカ)―131min
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:トラヴィス・ビーチャム、ギレルモ・デル・トロ
原案:トラヴィス・ビーチャム
製作:ジョン・ジャッシニ、メアリー・ペアレント、トーマス・タル
音楽:ラミン・ジャヴァディ
出演者:チャーリー・ハナム、菊地凛子、イドリス・エルバ、チャーリー・デイ、ロバート・カジンスキー、マックス・マルティーニ、ロン・パールマン、芦田愛菜 etc
【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

*リアルタイム映画評

――Pacific Rim
この夏、三大クソ映画のグランプリと言っても過言ではない超大作。
制作費1.9億US$。
スペシャルサンクスにジェームス。キャメロンも名を連ねる。
菊池凛子がヒロイン、日本のカイジュウ映画からの影響で生み出された、『クローバーフィールド』以来、最高のハリウッド製、カイジュウクソ映画到来か!?こりゃスペクタクルだと筆者は劇場でようやく鑑賞した。

●あらすじ
ある日、太平洋の深海から突如巨大な生命体が出現した。“KAIJU”と名付けられた彼らは、大都市を次々と襲撃して容赦ない破壊を繰り返し、人類は滅亡の危機を迎える。そこで人類は世界中の英知を結集し、人型巨大兵器“イェーガー”を開発する。その操縦は2人のパイロットによって行われるが、イェーガーの能力を引き出すためには、パイロット同士の心を高い次元でシンクロさせる必要があった。当初は優勢を誇ったイェーガーだったが、出現するたびにパワーを増していくKAIJUたちの前に次第に苦戦を強いられていく。そんな中、かつてKAIJUとのバトルで兄を失い、失意のうちに戦線を離脱した名パイロット、ローリーが復帰を決意する。彼が乗る旧式イェーガー“ジプシー・デンジャー”の修復に当たるのは日本人研究者の森マコ。幼い頃にKAIJUに家族を殺された悲しい記憶に苦しめられていた。やがて彼女はローリーとの相性を買われ、ジプシー・デンジャーのパイロットに大抜擢されるのだったが…。
<Allcinemaより引用>

最初は、ちょっと面食らった。
あまりSFのロボットアクションなんて筆者の趣味ではないし、ニュース映像と共に、イエーガー、ってか「ゼノギアス」のギアとか、フロントミッションシリーズのゲームに出てきそうな人型ロボットは、日本の名作ゲームのパクリにしか見えなくてそんなに盛り上がらなかった。迫力とか音響はすごいが。2013-10-02_202218
主役の男女2人、菊池凛子がこんな大作で主演とは・・・。

2013-10-02_205145いや、すげえ出世。あげまんなんだなと。でもこの2人がどうして精神的に共鳴しあうことができるのか、なんか腑に落ちない。単に白人西洋人と「やまとなでしこ」な日本人をくっつけてアクションさせたかっただけじゃね?・・・そう思えるほど薄っぺらい。
どこかにありそうな人間模様。
なんだこれ、どこのゲームのシチュエーションだ?
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2人で操縦する必要ってのもなんかねえ、、この操縦室のレイアウトとかも「機動武闘伝Gガンダム」っぽい。

落下されるギア、じゃなかった、イエーガー。これもかっこいいがどっかで見たような。
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しかし今まではアニメでしか見たことなかった映像が実写で、圧倒的な迫力で迫る。
日本のロボットSFの名作にありそうなヴィジュアルのメカが怪獣と盛大に戦う。どこかで見たのか、過去の記憶がうずく。

ゴジラ?ガメラ?キングギドラ?

日本カルチャーへのオマージュむき出して既視感に襲われるが、この規模で実写化するとはっ! その妥協のない姿勢が素晴らしい。菊池凛子がたまに喋る日本語もツボで、どこのゲーム?アニメ?どっかで見たけど思い出せねえ。エヴァだっけ、ガンダムだっけ、最後は「先生愛してます」だと?

薄っぺらいオマージュ。でも、なんでこんなに胸がアツくなるんだっ!きっと自分が過去に触れたSFゲームやアニメのコアを彷彿させるからだろう。溢れんばかりの日本カルチャーへのリスペクトに溢れた大傑作じゃないか。もうどうでもいいや、何をぱくっていようと、これはPacific RIM!!

ドイツ人のラミン・ジャヴァディの音楽も最高。
あのギターはトムモレロだったとは・・・どうりでFuckin coolだと思ったぜ!
重圧なテクノが、物語の緊張感を盛り上げる。手に汗握るバトルを最高に楽しませる。

『クローバーフィールド』も怪獣オタクの実験的な大作だったが、本作はもう、徹底してカイジュウ!メカ!漫画!アニメ、ゲーム!オタク要素をここまでミックスしてごちゃ混ぜにして実写化してくれるとは。

東京を破壊しつくすシーンは、「ゴジラ」で既に描かれていた。
だからこそ、本作は香港を舞台に盛大に暴れたのか?
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徹底的にぶっ壊される香港の町並みが面白い。まさにネオ香港。香港通な筆者的にはかなり楽しめる。オフィスビルにめり込んだデスクの上の振り子が叩かれるシーンなんて、監督の拘りが細部まで描かれていて素晴らしい。

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科学者と闇バイヤー、ハンニバル・チャウとのやり取りも面白い。

溢れんばかりの日本文化への愛情、もはや半和製とも言えるのではないか。

日本がなければこの映画はなかった。既に既存のアニメやカイジュウ映画で描かれていた。しかし、このスケールで、完全実写によって描かれたパシフィックリムは、逆輸入とでもいうのだろうか、とにかく度肝を抜かれた。

ともかく、子供のころに見た『ゴジラ』シリーズ以来の興奮だったかもしれない。僕らが最近失っていた日本のカイジュウ映画の伝統に敬意を示しつつ具現化してくれたことに感謝しなければ・・・ともかくこの夏、最高のクソ映画であり、大満足な所存。

kojiroh

『嘆きのピエタ』(2012年、韓国)―80点。ベネチア金獅子賞、えげつない傑作

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『嘆きのピエタ』(2012年、韓国)―105min
監督:キム・ギドク
脚本:キム・ギドク
出演:チョ・ミンス、イ・ジョンジン、ウ・ギホン、カン・ウンジン、クォン・セイン、チョ・ジェリョン etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点
*リアルタイム映画評

2012年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したキムギドクの最新作・「ピエタ」。

一時期、停滞していたギドク監督がドキュメンタリー「アリラン」での受賞から、復活し、集大成のような傑作を作り上げ、ベネチアで韓国映画初のグランプリを受賞した。そんな流れを感じていた筆者は、今月、ようやく満を持して日本公開されたPietaを劇場で鑑賞した。

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*鶏を掴むチョミンスのオープニング。斬新かつ挑戦的なショット。絵画的。

◎あらすじ
生まれてすぐに親に捨てられ天涯孤独に生きてきたイ・ガンドは、法外な利息を払えない債務者に重傷を負わせ、その保険金で借金を返済させる取り立て屋をしている。そんなガンドの目の前に、母親を名乗るミソンという女が現れた。ミソンの話を信じられず、彼女を邪険に扱うガンド。しかし彼女は電話で子守歌を歌い、捨てたことをしきりに謝り、ガンドに対し無償の愛を注ぎ続けるのだが……<All cinema>

所見の感想――とにかく、エグイ!!
100分間、釘付けになるこの狂気。エグさ。悪さ。
悪すぎる男、イ・ガンド。強烈で残忍な暴力が飛び交う前半。
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本作はすごく痛い。心の痛みだ。
グロテスクな描写や残酷残虐なスプラッターなシーンがあるわけではないが、暴力の局部、グロの局部をうまく隠しているが、それが逆に観客の想像力を引き立てるというのか。借金取立て、暴力。全般的に、とにかくシチュエーションがえげつない。
描写としても近親相姦的なものが多く、R-18でもおかしくない。
特に、○○を食わせるシーンの狂気は尋常でなかった。
えぐくて、直接的でない表現だが、思わず目を背けたくなった。
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似たジャンルの映画でいうと、『アンチクライスト』よりえぐく、ギドク過去の『悪い男』にも匹敵する悪さ。斬新で奇抜な表現――芸術を貫く姿勢がありつつ、それでいてストーリーが練られていて、ギドク監督の集大成を感じる。

鶏やウナギ、ウサギなど動物を使ったギドクらしい表現手法があったり、ナイフなど小道具、映画表現の丁寧さと奇抜さは相変わらずいつものキムギドクだ。時代はiphoneにまで電話描写が進化していて、古臭いストーリーのようで、間違いなく現代を描いている。

さらに韓国の背景や社会風刺が描かれているようにも思う。
借金苦と暴力、経済的にも苦境といわれる韓国の現代を映し出す一作でもあるのではないか。少女の援助交際がテーマの「サマリア」でもそうだが、ギドク監督は芸術性だけでなく、どこか現代へのメッセージがある。

カネとは何か。
愛とは、家族とは。
欲望にまみれるこの世の救いとは、なんだろう。

キム・ギドクが、「ピエタ」に語りかけた、その答えの1つが本作だ。
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グロテスクな物語だが、この救いのない世界観に、涙腺が緩くなってしまう、傑作だった。

こんな際どい表現作品がベネチア取って大丈夫なのかと疑ってしまうが、まあ、ギドク監督の功労賞みたいなものだろうか。

しかし、「嘆きのピエタ」という邦題はどうしても感心できない。
PIETAという神秘的なタイトルが台無しかもなあと、傑作だからこそ残念に思う次第。

kojiroh

『デスプルーフ』(2007年、アメリカ)―85点。挑戦的なスラッシャー・カーアクション傑作


『デスプルーフ』(2007年、アメリカ)―113min
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
撮影:クエンティン・タランティーノ
製作:クエンティン・タランティーノ、ロバート・ロドリゲス、エリザベス・アヴェラン、エリカ・スタインバーグ
出演:カート・ラッセル、ヴァネッサ・フェルリト、ゾーイ・ベル etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

2007年、タランティーノとロドリゲス・・・B旧映画マニアの鬼才2人が手がけた企画『グラインドハウス』。そのタランティーノ版が、異色のカーアクション『Death proof』。

筆者は当時、劇場でその2本を両方とも鑑賞し、興奮した世代だ。最近また『ジャンゴ』見た影響で再鑑賞したくなり、ビデオで見直したのでレビューを書くことにする。
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◎あらすじ
テキサス州オーステインの人気DJ、ジャングル・ジュリアは気の置けない仲間たちとバーへ繰り出し、女の子だけの会話に花を咲かせていた。そんな彼女たちを、ドクロマークの不気味な車を駆る顔に傷のある謎の中年男、スタントマン・マイクが秘かにつけ回していた…。14ヵ月後、テネシー州で映画の撮影に参加していたスタントウーマンのゾーイ。彼女は空き時間を利用して、仲間たちとある計画を実行する。それは、売りに出されていた憧れの車、映画「バニシング・ポイント」に登場した70年代型ダッジ・チャレンジャーに試乗しスタントライドを楽しむこと。さっそくボンネットに乗り、危険なスタントを始めるゾーイ。やがてそんな彼女たちを、あの男スタントマン・マイクが、新たな獲物に見定め襲いかかるのだったが…。
<allcinemaより引用>

とにかくタランティーノの趣味映画である。
意味のない「女子トーク」がありえないぐらい長い。
足フェチな映像も多すぎ。
だがそれでいて、非常に見所が多く、映画としても革新的で、挑戦的な傑作であろう。

なんと言っても前半のノイズと古臭いカラー映像。70年代のミッドナイトムービーを意図的に再現した映像が逆に新鮮であった。古臭いが携帯使っていたり。そして後半でも白黒映像から、普通の現代的な映像に切り替わり、2種類のムードを楽しめる。
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カート・ラッセルの「スタントマン・マイク」というキャラクターは、これまで監督が生み出してきた、「イングロリアス~」のハンス・ランダであったり、「ジャンゴ~」のDr.シュルツ以上に変態的で強烈な味を出している。タランティーノ史上、最も変態な主演だが、キャラの暴走っぷりがなんだか愛せる。

特にタランティーノが演じるマスターがいるバーで、ナチョスをほうばるシーンの、生々しい食べ方が変態な印象であるが、非常に美味しそうで、彼のキャラクターを象徴しているように思った。

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『プラネットテラー』のヒロイン・・・ローズ・マッゴーワンの快演というか、特殊メイクなちょい役もなかなか味がある。最初は本人だとは気付かないようなカメオ出演が多いのも笑いどころ。

後半の体を張ったスタントシーンによるカーアクションは劇場で見て興奮したのを覚えている。CGを使わず、力の入った映画だ。チアガールの メアリー・エリザベス・ウィンステッドも可愛い・・・が結末が笑える、てかどうなったのか。
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脇役まで愛せるキャラなのがタランティーノ映画も面白さのひとつ。

クレイジーな監督が、彼の過去の思い出であるミッドナイト映画からインスピレーションを得て作り上げた、怪作であり、挑戦心に満ちた稀な傑作だ。カーアクションとしても、見ていてドキドキハラハラが味わえる、スピルバーグの『激突』を超えた一作かもしれない。

何と言っても、最後に鳴り響く可愛いチック・ハビットの音楽によるエンディングが最高だ。

kojiroh

『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年、アメリカ)―80点。奇想天外・逃走スプラッターB級映画


『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年、アメリカ)―108min
監督:ロバート・ロドリゲス
脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ジョージ・クルーニー、クエンティン・タランティーノ、ハーヴェイ・カイテル、ジュリエット・ルイス etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

『グラインドハウス』でもタッグを組んだ兄弟的存在の2人、タランティーノとロドリゲスの黄金コンビによる異色のアクション映画。From dusk till dawn.

ジョーニークルーニー×タランティーノ、今思えばすごい豪華キャストである。
ロドリゲスのB級な強盗と拳銃、バーと女、そしてメキシコの世界観の集大成!
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◎あらすじ
アメリカ各地で強盗殺人を繰り広げたゲッコー兄弟は、警察の追及を振り切るべく、メキシコを目指して逃亡を続けている。牧師を辞めて放浪の旅をしていたフラーとその一家は、たまたま立ち寄ったモーテルでゲッコー兄弟に誘拐され、国境を突破するための隠れ蓑に利用される。メキシコに到着した一行は、兄弟が現地の組織の使者と落ち合う予定のナイトクラブ「ティッティー・ツイスター」で一夜を過ごすことになるが、そこは吸血鬼の巣窟と化していた。かくして、夕暮れから夜明けまで(フロム・ダスク・ティル・ドーン)の戦いが始まる・・・
<allcinema>

若き日のジョージクルーニーとタランティーノのコンビがいい。
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トランクの開け方からしても、「レザボアドッグス」や「パルプフィクション」を思い出す。

クルーニーもさることながら、出たがりのタランティーノも変態な役柄でブラックな笑いを誘う。しかしとにかくタランティーノは俳優を発掘するなと。彼の映画に関わった役者はその後出世しているような。
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ゾンビ映画のメイクアップアーティストであるトム・サヴィーニのセックスマシーン役なんかもくだらないが面白い。ハーベイカイテルも渋い演技を見せる。元牧師役と地味な役柄だがシニカルな存在感がありツボ。

ダニートレホもロドリゲス映画らしい、メキシカンの役で出演していてなかなか味がある。ロドリゲスの映画の世界観とタランティーノのトリッキーなアイディアが融合している。

ぶっちゃけとんちんかんな映画なのだが、大脱走犯罪アクションとスプラッターアクションを前半後半に分けて融合させようという発想が素晴らしく斬新。さすがタランティーノ&ロドリゲス。

てわけで面白さ的には7点ぐらいで、目新しさに+1点ってところ。

最初の10分間のユーモラスな対峙と酒屋爆破シーンが一番面白かったかもしれない。あと「ティッティー・ツイスター」到着後のメキシカンな世界観は強烈!
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とにかくプッシーとファック。下衆な言葉を連呼させ、スピード感満載の逃走スプラッターを炸裂させるノリは、B級すぎてもはや一級です。後の『グラインドハウス』の序章というか原点になる一作かもしれない。

kojiroh

『ヒトラーの贋札』(2007年、ドイツ)―85点。贋札師ゾロヴィッチの陰謀ドキュメンタリー


『ヒトラーの贋札』(2007年、ドイツ)―96min
監督:シュテファン・ルツォヴィツキー
脚本:シュテファン・ルツォヴィツキー
原作:アドルフ・ブルガー『ヒトラーの贋札 悪魔の工房』
出演:カール・マルコヴィックス、アウグスト・ディール、デーフィト・シュトリーゾフ、アウグスト・ツィルナー、マルティン・ブラムバッハ etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

第80回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞し、話題になったドイツ映画。
劇場公開同時から見たい見たいと思っていた一作であったが、すっかり忘れていた。すっかり過去の一作になっていたが、ふとレンタル屋でぶらぶらしていて目に留まり、レンタルして念願の鑑賞したのが最近。

ずばり所感、公開当時に劇場で見ておく価値が十分にある一作だった。
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◎あらすじ
第二次世界大戦の最中、ナチスはイギリスの経済を混乱に陥れるため精巧な贋ポンド札の製造を計画する。この“ベルンハルト作戦”のため、ザクセンハウゼン強制収容所には、世界的贋作師サリー、印刷技師ブルガー、美校生のコーリャなどユダヤ系の技術者たちが集められた。収容所内に設けられた秘密の工場で、ユダヤ人でありながら破格の待遇を受け、完璧な贋ポンド札作りに従事することになったサリーたち。しかし彼らは、自らの延命と引き替えに同胞を苦しめるナチスに荷担するジレンマに次第に葛藤と苦悩を深めていく。
<allcinema>

とにかく、早い。ぶれるカメラでドキュメンタリーをみるかのような形式で作られた、実話をベースにした一作。そのベルンハルト作戦という陰謀を知らなかった筆者は、その目新しさが非常に斬新で面白かった。

とにかく、スピード感がすごい。呆気ないほど出来事を省略し、面白いエピソードしか切り取らずに、どんどん物語を進めてゆく。1時間半ほどしかボリュームがないのであっという間にゾロヴィッチの数年間が過ぎてゆく。

天才偽札師ゾロヴィッチを演じるカール・マルコヴィックス
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逮捕されてから収監され、偽札を作り始めるその過程がまず面白かった。
貧しい食事と規律が厳しい収容所での生活が、あまりに過酷で残酷。
波乱万丈な人生が、巨大な陰謀の下で揺れる。
極寒のドイツ収容所での独裁的な刑務所生活をリアルに描いたこと自体がそもそも本作の1つの意義かもしれない。

偽札製造シーンも面白い。偽ポンドを量産しようとする過程などはかなり迫力があった。威圧的な将校とのかけひきも、本作の原作者であるブルガーも。
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サボタージュ。ドイツ語で飛び交う言葉がとにかく迫力あり。

彼を捕まえ、導くヘルツォーク。
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饒舌で比較的柔軟な考えを持ち、最後で敗戦への狡猾な逃避を目論ろもうとするその少佐の立ち居地がいい。

主演、助演もそろっていて、どこか皮肉なブラックジョークを感じる作風(特にオチ)もいい。全般的に、ドキュメンタリー出身のシュテファン・ルツォヴィツキーだからできた業であり、ヒットラーの大戦功罪、その裏側を解き明かす意味において、本作がなす意義は大きいと思う。

さらにオスカーを獲ったのも、かなり親ユダヤ・反ナチス映画であることも影響しているのかなと、とにかく歴史の勉強にもなる、興味深い一本だった。

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『インセプション』(2010年、アメリカ)―85点、オールスター集結の完璧なノーラン映画


『インセプション』(2010年、アメリカ)―148min
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
出演:レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、マリオン・コティヤール、エレン・ペイジ、トム・ハーディ etc

【点数】 ★★★★★★★★☆/ 8.5点

レオナルドディカプリオ主演、渡辺謙も出演、監督はクリストファー・ノーラン。これで面白くなかったら詐欺だろうというほどオールスター勢ぞろいのサスペンスアクション大作『インセプション』。

IMDBなど批評サイトで常に高得点を取得し、圧倒的な支持を集めている、10年度以降を代表する傑作と名高い。
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筆者はB747の機内の画面で初めて鑑賞し、その後レンタルでも再鑑賞した。

◎あらすじ
他人の夢の中に潜入してカタチになる前のアイデアを盗み出す企業スパイが活躍する時代。コブは、この危険な犯罪分野で世界屈指の才能を持つ男。しかし、今や国際指名手配犯として、またこの世を去った妻モルの殺害容疑者として逃亡の身となり、大切なものすべてを失うこととなっていた。そんなコブに、サイトーと名乗る男からある依頼が舞い込む。成功すれば、再び幸せな人生を取り戻すことができる。しかしその依頼とは、これまでのように盗み出すのではなく、ターゲットの潜在意識にあるアイデアを植え付ける“インセプション”というものだった…。<allcinema>

ノーランが10年ごしに構想を練っていたオリジナル脚本。
うーん、とにかく奇抜なアイディアが見事に具現化されていて素晴らしい。
「夢」の世界の話ながらも、その異空間でのアクション映画にもなっている。さらには豪華キャスト。渡辺謙の存在感も冴えている。
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1.6億ドル、つまり140億円ほどの制作費。このキャストとCGで再現された夢の世界は見応えがある。
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複雑に絡み合う夢の世界が視点を何重にもして、常に見るものを惑わす。
ケン渡辺の名演とディカプリオのコンビがこういったノーランの精神世界を交えたSFチックな舞台で観れることは奇跡に等しい。ディカプリオも熱演で、『ディパーテッド』以上の緊張感ある役が非常に味がある。奥さん役のマリオン・コティヤールもミステリアスで美しい。

他にも、エレンペイジと一緒に夢の世界を歩き、地面が垂直になるシーンなど印象深い。
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「アイディアを受けこむ」ということからここまで精神世界のエンターテイメントに昇華できるたことには脱帽であります。最後の謎を呼ぶ結末の解釈も見た後に考えさせる余韻を残す。計算しつくされた一作である。

また本作が挑む陰謀、エネルギー革命を先に見据えたような、「インセプション」というミッションにも、なにやらフィクションとは思えぬような現代社会のリアルな風刺を感じる。

色々と書きたいことが沢山ある映画ではあるが、最も個人的に面白いのは、ラストシーンの解釈であろう。何重にも張りめぐらされた伏線やヒントの数々によって、観客それぞれにより、何通りもの解釈が楽しめる。
どこからがインセプションだったのか?
そもそも最初から最後まで、インセプションだったのか?
とにかく何度も観て謎を探りたくなる。
数々の伏線が仕込まれている計算深い一作なのだ。

こうした複雑な精神世界を具現化し、結末を観客に考えさせるような映画を、アメリカのエンタメ映画のカテゴリに見事に入れて商業的な娯楽性にも応えられる映画にしたことは、まさにノーラン監督の才気の賜物であろう。

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『127時間 』(2010年、アメリカ=イギリス)―80点。サバイバル登山映画の最高傑作


『127時間 』(2010年、アメリカ=イギリス)―94min
監督:ダニー・ボイル
脚本:ダニー・ボイル、サイモン・ボーファイ
原作:アーロン・ラルストン
出演:メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ライアン・メリマン、クリス・レムシュ etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

『スラムドッグミリオネア』の天才、ダニー・ボイルの最新作であり、彼自身が4年越しで熱望していたクライマー、アーロン・ラルストンの実話を映画化した力作。レンタルにて鑑賞。

所感、ボイルらしいスピーディースタイリッシュなカットと音楽もいいが、それ以上に危機的な状況下で何も動けない男の心理的なアクション映画であることに意表を付かれ、とにかくビックリした。
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◎あらすじ
ある日、27歳の青年アーロンは一人でロッククライミングを楽しむため、庭のように慣れ親しんだブルー・ジョン・キャニオンへと向かった。美しい景観の中で様々な遊びに興じて大自然を満喫するアーロン。ところが、ふとしたアクシデントから、大きな落石に右腕を挟まれ、谷底で身動きがとれなくなってしまう。そこは誰も寄りつかない荒野の真ん中。おまけに彼は行き先を誰にも告げずに出てきてしまった。絶望的な状況と自覚しながらも冷静さを失わず、ここから抜け出す方法を懸命に模索するが・・・。<allcinema>

冒頭からマルチ画面を駆使し、スタイリッシュに旅立ちを描く。
とにかくパワフル。超人的な旅人のアーロンに惹きつけられる。
音楽のセンスもよく、大自然の美しさには息を呑む。この空の青さがいい。
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そんな自然との戯れを楽しんでいたアーロン
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がしかし、突然の試練のごとく、自然の驚異に巻き込まれる場面から127時間が始まる。

まったく動かないが、様々な脱出のための試行錯誤や、自分へのインタビュー、ビデオの回想、さらには走馬灯のように蘇る過去の思い出、最愛の人、そして妄想や幻想が交じり、観客を飽きさせない。
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とにかく本作の構成に驚いた。よくこんなネタで一時間半も引き込んだなと。
陽気でハッピーな冒頭以降は、ひたすらサバイバルの残酷さが胸に刺さる。
岩が挟まる右手を想像するだけでも痛いし、水がなくなった状態の飢餓感、絶望、そして最後は……とにかくリアルすぎてショック度高い。まあこのオチを知らない方が楽しめますね。

特に筆者はネタバレを知らず、まったく事前知識なく鑑賞したので、手に汗握るような展開が非常に楽しかったです。

映画を観終えた後は、このアーロン・ラルストンという人物のことを検索せずにはいられなくなったほど。興味深い実話だ。

とりあえず、この手の自然での遭難というか生死をかけた危機を越えてゆく系のサバイバル映画の中では最高峰に部類される映画であることは疑いようがないであろう。

kojiroh

『マイレージマイライフ』(2009年、アメリカ)―8.0点 ノマド的ハリウッド映画


『マイレージマイライフ』(2009年、アメリカ)―108min
監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ジェイソン・ライトマン、シェルドン・ターナー
原作:ウォルター・カーン
出演:ジョージ・クルーニー, ヴェラ・ファーミガ, ジェイソン・ベイトマン, エイミー・モートン, サム・エリオット etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

Up in the air。
マイレージマイライフ。なんとも響きのいいタイトル。
「JUNO/ジュノ」のジェイソン・ライトマン監督がウォルター・カーンの同名小説を映画化、現代人を取り巻く様々な問題を描き出す、アカデミー賞に6部門ノミネートされた傑作だと口コミでも評判がいいので、友人に奨められたこともあり、筆者はレンタル屋で手に取った。

所感は、もっと早く観ておけばよかった。
実に現代的で、風刺的でもあり、2010年あたりの時代背景をうまく映し出す現代ドラマだと感心した。
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●あらすじ
業のリストラ対象者に解雇を通告する“リストラ宣告人”の仕事で年間322日間も出張しているライアン・ビンガム。自らの講演でも謳っている“バックパックに入らない人生の荷物はいっさい背負わない”をモットーに人間関係も仕事もあっさりと淡泊にこなし、結婚願望も持たず家族とも距離を置いたまま、ただマイレージを1000万マイル貯めることが目下の人生目標となっていた。だがそんな彼も、2人の女性と出会ったことで人生の転機が訪れる…。
<allcinema>

なんとうか、典型的なハリウッド映画だ。
新しい出会いによって、自らのアイデンティティを再構築するかのように、それぞれが価値観を変え、成長してゆく。
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ベタであるが、よくできていると思う。

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冒頭からザック・ガリフィアナキスの脇役が笑いを誘う。
クビを宣告するだけの仕事、何気ないごく普通の出張シーンをああもカッコいいように描けるとは、やり過ぎでありコメディである。人間ドラマでもあり、秀逸なコメディ映画だと筆者は思った。

テンポよくノマドる彼らに圧倒されて、突っ込みどころは多いが、見てるときはあんまり矛盾に気付かなかった。とにかくよくできた映画だ。
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アバンチュールを楽しむ。ヴェラ・ファーミガも金髪で美しい。現代風の遊びも仕事もできるキャリアウーマン像であるかのように。

馬鹿馬鹿しいが、二人でパソコン開くシーンとか、カードを見せびらかすジョージクルーニーとの絡みが面白い。

現代的な不安や孤独を自由なノマドワーカーで突っ切ろうとする姿勢が妙にスタイリッシュなのだ。ジャック・アタリの超ノマドにぴったり当てはまるような、アメリカン・ノマドの1つの例を具現化したかのようである。

しかしそんなネットワーク社会の無限に広がるように思えた可能性が、実は有限で、人間の幸福というのは自由なだけでは満たされないという根本的な問題を問い直す。

ネット社会と人間の自由について問い直すような、テーマ的にも21世紀的で、この時代を生きる上で重要な一本なのではないかと思った。

kojiroh

『L.A.コンフィデンシャル』(1997年、アメリカ)―8.0点 エルロイ流・闇社会、傑作サスペンス映画


『L.A.コンフィデンシャル』(1997年、アメリカ)―138min
監督:カーティス・ハンソン
脚本:カーティス・ハンソン、ブライアン・ヘルゲランド
原作:ジェイムズ・エルロイ
出演:ケヴィン・スペイシー、ラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、ジェームズ・クロムウェル、キム・ベイシンガー、デヴィッド・ストラザーン etc

【点数】 ★★★★★★★★☆☆/ 8.0点

ツタヤの良品発掘コーナーにさりげなく置かれていて手にした一作。

アメリカ文学界の狂犬・ジェームズエルロイ原作の傑作を映画化し、第64回ニューヨーク映画批評家協会賞ならびに第23回ロサンゼルス映画批評家協会賞で作品賞を受賞。さらにアカデミー賞も9部門ノミネートした佳作と誉れ高い。

●あらすじ
縄張り争いが激化する’50年代のロス。街のコーヒーショップで元刑事を含む6人の男女が惨殺される事件が発生した。殺された刑事の相棒だったバド(ラッセル・クロウ)が捜査を開始。殺された女と一緒にいたブロンド美人リン(キム・ベイシンガー)に接近する。彼女はスターに似た女を集めた高級娼婦組織の一員。同じ頃、その組織をベテラン刑事のジャック(ケビン・スペイシー)が追っていた。野心家の若手刑事エドも事件を追い、容疑者を射殺。事件は解決したかに見えたが…。<Allcinema>

男臭い暗黒映画。
出世や過去へのジレンマに取り付かれつつも、大きな事件に直面する3人の癖のある刑事。ラッセル・クロウ、ガイ・ピアーズ、ケヴィンスペイシー。2013-01-13_120319
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2013-01-13_120400彼らの個性が前面に衝突しつつも闇の権力や、謎の娼婦が登場する、まさにエルロイ的世界観。見事に再現されているように思える。

特にガイ・ピアーズの若くて生意気な、どこかルサンチマンがあるような、出世欲が強く、従来の正義感という概念を排除し、全員それなりに悪党である警察の舞台裏がエルロイらしくて面白いのだ。何気ない事件から次第に明らかになる巨大な権力。ファンとしてはたまらない。

妖艶な演技で魅せるキム・ベイシンガー。
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私利私欲に満ちた汚い権力者と、巧みにちりばめられた伏線。シーンやセリフも多く、ずばずばと端的に物語が進む。2時間弱の長さを全く感じさせないストーリーの飛躍感がたまらない。その作風はエルロイなのだが、エルロイほど暗黒ではなく、一般受けしやすくなっていると思う。50年代の裏社会の深さを垣間見える脚本・脚色が見事なだけではなく、配役も絶妙だ。

音楽にも力がある。陽気なLAの50年代風の音楽が流れたかと思いきや、暗黒街の緊張感のある楽曲へと切り替わったり、サスペンス映画としての緊張感が全編に溢れている。

キャスト・脚本・監督・音楽、さらには美術。全般的にすごく完成度が高い、近年のアメリカサスペンスの傑作であることは疑いようがない。

エルロイの世界をうまく一般受けするサスペンス映画化したといえよう。

kojiroh