『ラ・ラ・ランド』(2016年、アメリカ)――90点。近年最高峰のミュージカル映画


『ラ・ラ・ランド』(2016年、アメリカ)――128min
監督:デミアン・チャゼル
脚本:デミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、ローズマリー・デウィット・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

※リアルタイム映画評

オスカー6部門受賞のミュージカル映画――史上最多14ノミネート、監督賞、主演女優賞(エマ・ストーン)、撮影賞、作曲賞 、歌曲賞(「City of Stars」)、美術賞受賞。

日本でもヒットしているラブストーリーということで、筆者は全然趣味ではないが、セッションの監督の最新作かつ、ライアンゴズリング主演ってことで、評判がえらくいいので、劇場に足を運んでみました。

◎あらすじ
夢を追う人々が集う街、ロサンゼルス。女優志望のミアは映画スタジオのカフェで働きながら、いくつものオーディションを受ける日々。なかなか役がもらえず意気消沈する彼女は、場末のバーから流れてくるピアノの音色に心惹かれる。弾いていたのは、以前フリーウェイで最悪な出会いをした相手セブだった。彼も自分の店を持って思う存分ジャズを演奏したいという夢を持ちながらも、厳しい現実に打ちのめされていた。そんな2人はいつしか恋に落ち、互いに励まし合いながらそれぞれの夢に向かって奮闘していくのだったが…。
<allcinema>

ベタでよくありがちなアメリカンミュージカル映画、のように思えて、すごく現代チックに洗練されており、まったく古臭さを感じることなく、カリフォルニアの陽気な季節と共にコミカルかつ、シリアスなシーンも交えて展開されるミュージックストーリーに引き込まれました。

主演の2人はどちらもキャラが立っていて素晴らしいが、特にライアンゴズリングでしょう。ピアノを弾く姿がとても美しい。

ジャズへのこだわりを持つ厄介者で、ここはセッションとも似た設定ですが、頑固な売れないミュージシャンながらもユーモラスな面を持つ部分が特にゴズリングはまり役。

彼はドライブみたいな深刻すぎる役より、マネーショートや本作など、コミカルな部分も見せたイケメン役の方がしっくり来ると思う。

夕暮れ時のダンスシーンの美しさもさることながら、セッションでも共作した、ジャスティンハーウィッツの楽曲が素晴らしいです。特にオスカー受賞したCity of starsが名曲すぎる。古臭いようで新しい、ララランドも含めて、そういう言葉で語りたくなる。

ともかく、何か新しい表現手法があり画期的というわけではないが、素晴らしいです。ぜんぜん古臭くなく、これぞ映画だと思える。ミュージカルシーンでうまくエピソードのオチを完結させることで、スピーディーな物語展開を実現しているようで、チャゼル監督は32歳ながらも、セッションに続きこんな完璧な映画を作れることに脱帽です。

音楽が好きな人はハマる要素大、演技、演出、音楽まで、オスカー14ノミネート納得の、見るべき映画だと思います。

だが、それにしてもセッションといい、本作は音楽という夢を追っている(っていた)ものの共感を非常に得やすいストーリーであり、監督自身もその1人だったこともあり、いわゆるチャゼル監督は、そうした夢追い人の共感や絶賛を誘うストーリーテラーとしては最高峰なのだろうと。

それこそが時代のニーズでもあり、多くの夢追って破れた者がいるからこその、いわゆるクリエイターのオアシス的映画の役割を担っているのかもしれない。

kojiroh

『FAKE』(2016年、日本)――90点。鬼才・森達也×佐村河内、羅生門的なドキュメンタリー

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監督:森達也
プロデューサー:橋本佳子
撮影:森達也、山崎裕
編集:鈴尾啓太
出演:佐村河内守・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

※リアルタイム映画評

2014年にゴーストライター騒動で日本中の注目を集めた佐村河内守。
彼を1年4ヶ月に渡って追った、ドキュメンタリー映画。
監督は、オウム真理教を題材にした「A」「A2」の鬼才、森達也。

詐欺師、ペテン師と糾弾されて表舞台から消えた男のドキュメンタリーがまさか撮られていたとは・・・一体どんな展開でドキュメンタリーとしてオチるのか、最後の12分がどうのこうのと、ネット上でも話題になっていたので、わたしはインディーズな横浜のミニシアターに足を運んで鑑賞した。

○あらすじ
聴覚に障害を抱えながら「交響曲第1番 HIROSHIMA」などの作品を手がけたとし、「現代のベートーベン」と称された佐村河内。しかし音楽家の新垣隆が18年間にわたってゴーストライターを務めていたことや、佐村河内の耳が聞こえていることを暴露。佐村河内は作品が自身だけの作曲でないことを認め騒動について謝罪したが、新垣に対しては名誉毀損で訴える可能性があると話し、その後は沈黙を守り続けてきた。本作では佐村河内の自宅で撮影を行ない、その素顔に迫るとともに、取材を申し込みに来るメディア関係者や外国人ジャーナリストらの姿も映し出す。
<映画.com>

さて、手話を駆使した佐村河内夫妻の会話が、まず強烈に頭に焼きつく。

わたしはこの事件を深く知らずに、実は耳が聞こえた男がゴーストを使って音楽ビジネスをしていた、ぐらいのレベルの理解だった。しかし、現実はもっと複雑で、黒か白か、というよりもグレーな話であったが、マスメディアが分かりやすい話に置き換えて、ジャーナリストが売名行為や復讐のために相手を徹底的に糾弾して、そういう極めて感情的で、自分都合な報道をしているように、本作から伝わってくる。

基本的に密室劇であり、森達也と夫妻と猫がメインキャラクターだ。2016-06-26_163556

猫は人間に見えない、その深い目が何か真実を見ている気さえしてくる。本作はこの猫が非常に重要な役割を成している。

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マスコミの誘導や時の流れによって成功者になった新垣。
ジャーナリストの大賞を受賞した神山。2016-06-26_163342

結果として売名に成功して、守さんを踏み台にして成功したとも言える人々がいる。

大人数で押しかけてお笑い番組に出演させようと押しかけるフジテレビのシーンと、困惑する猫の視点が、本作が最も否定したい部分を象徴している気がした。海外の本質的なジャーナリストの取材に比べると、日本の番組は大衆の娯楽と笑い作りしか考えていない、そんな低俗さを考えさせられた。

色んな真実を映し出しているが、あまりにも色んな見方ができる映画であるが、この夫妻、2人が素晴らしいのだ、結局は。

・豆乳をがぶのみする守
・ケーキを差し出す奥さん
・警察と消火器のフラグ2016-06-26_163539

それにしても、この映画は製作者の吐息が伝わってきて、それが自分の心にはものすごく痛烈に刺さる。どんでん返しがあるかもしれない、出演者と製作者の疑いさえも映像にゆれる。

どちらの言い分が真なのか――羅生門のような展開もある。現実の事件が無数の視点から証言が得られる。

無数の解釈ができる映画なので、ディティールを書くことは省略するが、・・・結論として、ペテン師である守さんという真実は変わらないが、佐村河内守という人間が非常に魅力的な人物であることは間違いなく、彼のカメラ写りが非常にいいから、自分の映画のために撮影を開始したインタビューに答えていた森監督の気持ちがよくわかる。

俳優としても、ベランダでタツヤさんと一緒に夕焼けと共にタバコを吸うシーンなんかは実に芸術的でもある。薄暗い部屋でのやりとりも。

思いのほか、本作が話題になって、ロングランになりそうな勢いができてきたので、この作品を契機に、さらなる物語の展開を成した、『FAKE2』を、待望したいと思います。

これで終わりではないだろ?? 頭の中でたくさん音楽が鳴っていて、この映画から新しいスタートが切れる、そんなエネルギーを感じた。2016-06-26_163437

「僕を信じますか?」
「僕は守サンと心中します」

全てがFAKEかもしれない。複雑怪奇で白黒ハッキリせず、グレーなこの世の中で、信じるものがあり、愛があるということが素晴らしいのかもしれない。

以上、歴史的な詐称事件のその裏側を見事に潜入して懐に入れ、アナザーストーリーをフィルムに収めることができた、数年に一本の傑作ドキュメンタリーだと思います。

kojiroh

『シチズンフォー スノーデンの暴露』(2014年、アメリカ=ドイツ)――90点。スノーデンドキュメンタリー、管理社会への警告と


『シチズンフォー スノーデンの暴露』(2014年、アメリカ)――114min
監督:ローラ・ポイトラス
製作:ダーク・ウィルツキー、ローラ・ポイトラス、マティルド・ボヌフォア
出演:エドワード・スノーデン,グレン・グリーンウォルド、ローラ・ポイトラス、ジュリアンアサンジ・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

※リアルタイム映画評

【原題】Citizenfour

アメリカ政府のスパイ行為を告発したエドワード・スノーデンをリアルタイムで迫ったドキュメンタリー。
第87回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞受賞。

劇場公開されていると知り、2013年の事件の真相を、3年を経て、目にすることができ、衝撃的だった。

○あらすじ
2013年、ドキュメンタリー映画作家であるローラ・ポイトラスに接触をしてきた者がいた。重大な機密情報を持っていると、香港でのインタビューの現場に現れたのが、元CIA職員のエドワード・スノーデンだった。スノーデンの口から語られたのはアメリカ政府によるスパイ行為の数々。世界各国の要人、さらに一般国民の電話やインターネット等をも傍受しているという驚くべき真実だった。

<映画.comより引用>

現代の情報化社会、PCやスマホを経由して人々の動きが監視されて、データが蓄積されている。わかってはいたが、ここまで具体的にプライバシーの危機が迫っているのかと、観ていて鳥肌が立つ恐怖を覚えた。2016-06-17_145722

グーグル、フェイスブック・・・名立たる企業のデータはもう政府の手の中にあり、要注意人物を過去のデータの中からすぐに探せるような時代に・・・そんな管理されたインターネットを正しい方向へ導くべく、立ち上がった29歳のエドワード・スノーデン。2016-06-17_145451

この事件の裏側で、このような動きがあったのだと、歴史が動く瞬間は全て残されていたとは。もう、製作者が無我夢中で現在進行形の革命をフィルムに納めた、という、奇跡の時間が収められている。

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香港のミラホテルでの最初の登場シーンから、釘付けになった。

端正な顔立ちで、身のこなしや話し方まで、素晴らしく洗練されていて凛々しい。29歳のこんなしっかりした若者がたった一人で決断するとは――。

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IP電話の盗聴やSDカードへの注意喚起、世界の自由のために革命を起こそうとする若者の姿が、とにかく覚悟を決めた男の姿をフィルムに残したこと自体が奇跡的な出来事だと思う。

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暗号化されたやり取り、何気ないチャットの一文一文が迫力満載だった。

何しろこれは真実であり、地下に潜った後の出来事さえも移せていることが、衝撃的だった。

優れたドキュメンタリー映画の条件として、意図しない出来事が起こり、ストーリーを揺れ動かしたり、そんな奇跡が必ずある。

ミラホテルの中でのインタビューは単なる密室での動きのない、普通なら単調になりがちなシーンだが、ファイヤーアラームの稼動が突然起きるシーンには、思わず舌を巻いてしまった。

意図的ではない、そんな偶然的な奇跡が無数起きた、歴史が動いた時間を、観客としても共有できた興奮を味わえ、映画としてもストーリーに動きがあり、単なるドキュメンタリーを超えている。

これは本当にIT管理社会の中で生きる我々が、国民全員が見るべき映画かもしれない。

 

ラストシーン、情報監視社会の中で極秘の会話(○談)をしつつ、ラストのナインインチネイルズのゴーストのエレクトリック音楽が鳴り響くエンドロールが衝撃的だった。

歴史が動く奇跡的瞬間を記録した、ドキュメンタリーの最高傑作だと思っている、『ゆきゆきて神軍』、『アンヴィル』に匹敵しうる10年に一本レベルのドキュメンタリーだと思った。

それにしても、2014年10月のこの映画が日本で公開されるのが遅すぎる。

アカデミー賞を受賞している作品なのに、政府や大きな権力を持つものにとって不都合な映画を迅速に公開しないことに何か理由を感じてしまう、・・・情報化された管理社会への警告として意味のある一本です。

kojiroh

『マネーショート 華麗なる大逆転』(2015年、アメリカ)――90点。世紀の空売りマネー映画


『マネーショート』(2015年、アメリカ)――130min
監督:アダム・マッケイ
脚本:アダム・マッケイ、チャールズ・ランドルフ
原作:マイケル・ルイス『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』(文藝春秋)
出演:クリスチャン・ベール、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

※リアルタイム映画評

The Big short

クリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレル、ブラッド・ピット、豪華キャストが共演した「マネーボール」の原作者マイケル・ルイスのノンフィクション「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」が映画化。

アダム・マッケイが監督、第88回アカデミー賞で作品賞、監督賞など主要部門を含む合計5部門にノミネート、脚色賞を受賞した。

Gomi投資家である筆者はこの手の金融映画が大好きなので、公開されるやいなや劇場へ足を運んだ。

◎あらすじ
05年、ニューヨーク。金融トレーダーのマイケルは、住宅ローンを含む金融商品が債務不履行に陥る危険性を銀行家や政府に訴えるが、全く相手にされない。そこで「クレジット・デフォルト・スワップ」という金融取引でウォール街を出し抜く計画を立てる。そして08年、住宅ローンの破綻に端を発する市場崩壊の兆候が表れる。
<映画Com>

マージンコールとは真逆で、金融危機で儲けた人々を描く。

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スピード感がすごい。ドキュメンタリータッチ。むしろちょっとスピード感ありすぎるかなというほど。専門用語で難しく語って詐欺のような投資をばらまくサブプライムの闇をうまく説明してくれます。

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クレイジーな人々が、みんなが楽観する相場で、本質的な分析に基づき、行動にでるシーン、そして市場が不合理にうごきつつも信念を変えずに奮闘する・・・ジョージソロスの名言が次々に思い起こされる局面が映画になったとでも形容しようか。
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個人的に本作の主役は、マーク(スティーブ・カレル)でしょう。
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全編的に神経質だが信仰的で、彼とその仲間がサブプライムの暗部をさぐっていく、そのくだりは秀逸なミステリーのような面白さがありました。

ブラットピットも存在感ありすぎてさすが。よくぞ出演してくれたなと。
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イギリスのパブでトレードするシーンなんかは貫禄ありました。

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若い2人のはしゃぎっぷり征するシーンなんかは投資の本質を突いてて印象的でした。

さて、内容の秀逸な部分ももちろんですが、全編的に音楽のセンスがよすぎる。古典的なロックからメタルまで洋楽好きにはたまりません。

エンディングに流れる、Led zeperrinのWhen the Levee Breaksなんかは劇場の迫力ある音響で、エンドロールに見れて本当に感動しました。大好きな曲なんですよね、個人的に。

それを劇場で見たので、ある種のわたしの歴史になってしまったこともあり、今回は85点です。きっとレンタルで見たら75~80点だったかなあ。

とにかく金融や投資に興味ある人は必見です。

投資家というのはこうあるべきだという姿が分かる人には分かる映画です。

それにしても、市場の逆を付くトレードっていうのは、ロックンロールなんだなあ。

kojiroh

『ヘイトフルエイト』(2015年、アメリカ)――90点。タランティーノ真骨頂、西部劇×レザボアドッグス


『ヘイトフルエイト』(2015年、アメリカ)――167min
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
音楽:エンニオ・モリコーネ
撮影:ロバート・リチャードソン
出演者:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン、チャニング・テイタム

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

※リアルタイム映画評

The hateful eight

新作が出ると毎回、劇場にわたしを通わせる監督・タランティーノ。
ジャンゴに続き、またまさかの西部劇。豪華キャストが集結し、アカデミー賞も3部門ノミネート、1部門受賞。88回アカデミー賞作曲賞受賞。タイトルはまさかのヘイトフルエイト。

8にずいぶんと意味を見出しているようだ、タランティーノ監督。さて、密室ミステリーと宣伝されているが、一体どんな映画なのか・・・。


◎あらすじ
雪が降りしきる中で馬を失った賞金稼ぎマーキス(サミュエル・L・ジャクソン)は、同じ稼業であるジョン(カート・ラッセル)と彼が捕らえたデイジー(ジェニファー・ジェイソン・リー)を乗せた駅馬車に同乗する。途中で保安官を名乗るクリス(ウォルトン・ゴギンズ)を拾った馬車は、猛吹雪から避難するためにミニーの紳士洋品店へ。メキシコ人の店番ボブ(デミアン・ビチル)や怪しげな絞首刑執行人オズワルド(ティム・ロス)などの存在にジョンが強い警戒心を抱く中で、事件が起こる。
<Yahoo映画より引用>

冒頭から、もはやすごい。2016-03-07_124759
雪、馬車、泥臭い男たちの汚い言葉、顔のドアップ。
タランティーノが敬愛する、セルジオレオーネの世界が現実に戻ってきた気分だった。

まさかエンニオ・モリコーネの音楽とタランティーノ監督がタッグを組んで現代に蘇ることになるなんて。

サミュエル・L・ジャクソンとカート・ラッセル、この2人のやりとり、馬車の中での、顔面ドアップな会話、派手なアクションではなく洗練された表情と会話によって展開するパターン、すぐにタランティーノの世界へ引き込まれた。2016-03-07_124826

ずばり、言葉のセンスがすごく冴えている。2016-03-07_124621

マイケルマドセン演じるジョーゲージに対して、「自分のストーリーを書いている、ああ、あんたも今登場した」・・・のような一説、問答の一字一句が冴えている。Fuck, motherfucker, bitchなどのFワードな罵倒も含めて。

冗談のような饒舌な会話と、物語を刺すような絶叫のような笑い。

あとキーになるリンカーンの手紙だが、このフラグの出し方もずば抜けている。パルプフィクションの「ブツ」に匹敵している存在感あり。

おなじみのタバコ、レッドアップルも登場するし、かつてのファンにはたまらない。2016-03-07_124647

複数の登場人物と、その各々のストーリーが交錯して全然予想できない方向へ動くこの脚本の力はやはりすごい。どう転ぶかかなり読めない。

前作ジャンゴはおもしろいが、傑作とはわたしは思わなかった。その評価は正しかったかもしれない。

ジャンゴは、この作品を取るための予行演習だったのかもしれないと。黒澤の、『影武者』と『乱』のような関係で。後者の方が優れているように。

ジャンゴの方が娯楽性の高い意味では傑作だったかもしれないが、タランティーノ自信、本作を自分の最高傑作だと語っているように、本当にやりたかったのはこっちの方なのだろう。

8作目にして、デビュー作のレザボアドッグス的なサスペンス要素と、大好きな西部劇をミックスした作品を生み出した。
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ここまで自分が敬愛する監督の要素を集めて、先代の音楽を担当したモリコーネとも仕事ができて、自分の常連俳優を豪華に使い、残酷描写もマックス。まあヒットはしない赤字映画な匂いはプンプンするが…。特に日本では、密室ミステリーとか、マーケティングずれすぎだろと腹立ちます、日本版。167分と時間は短い。海外は187分あるっぽいので。

ここまで西部劇を舞台に、連続して2本も優れた作品を出してしまったら、もはやタランティーノがマカロニウェスタン的な映画を撮ることはないかもしれない。

167分の長さを全く感じない、すごい映画であったが、やりきってしまった残念さを同時に感じた。

kojiroh

『用心棒』(1961年、日本)―ウェスタン的、痛快娯楽時代劇の元祖


『用心棒』(1961年、日本)―110min
監督:黒澤明
脚本:黒澤明、菊島隆三
音楽 佐藤勝
撮影:宮川一夫
出演者:三船敏郎、仲代達矢、山田五十鈴・・・etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

セルジオレオーネとイーストウッドによるマカロニウェスタンの元祖・『荒野の用心棒』の元ネタとして有名な、黒澤と三船の黄金コンビが作った痛快娯楽時代劇、『用心j棒』。

久しぶりにDVDで見て、今の時代でも色あせることないこの作品のレビューを書こうと思い立つ。

●あらすじ
やくざと元締めが対立するさびれた宿場町。そこへ一人の浪人者がやってくる。立ち寄った居酒屋のあるじに、早くこの町を出ていった方がいいと言われるが、その男は自分を用心棒として売り込み始める。やがて男をめぐって、二つの勢力は対立を深めていく……。ハメットの『血の収穫』を大胆に翻案、時代劇に西部劇の要素を取り込んだ娯楽活劇。後にマカロニウェスタン「荒野の用心棒」としてパクられた逸話はあまりにも有名である。桑畑三十郎が名前を変えて活躍する姉妹篇「椿三十郎」も製作されている。
<allcinema>

流れ者、桑畑三十朗。このキャラクター設定は多くの映画に影響を与えたのではないかとも思う。

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北野映画の『座等市』にも、もろこの設定の影響を感じる。
北野監督が言っていたが「黒澤の映画は完璧だ、ミスショットが1枚もない」と。すべてが絵画のようで、フィルム1枚1枚を見ても、完璧らしい。

確かにそううなずけるほど、羅生門もそうだが、本作『用心棒』の宮川一夫の撮影はすばらしい。

墓屋がハイエナのようにつきまとっておべっかする、カメラワークと躍動感、そして犬が手をくわえて走ってくる画面の泥臭さとユーモラスな雰囲気なんて特にすばらしいと思う。

流れものと野暮な男たち。まったく女っけのない映画だが、その泥臭い重厚感と、時にユーモアが飛び交う本作のセンスは、マカロニウェスタン的である。それはレオーオが引用したかどうかは分からないが、無口で強い男が野暮でおしゃべりな男たちを翻弄するように戦いを仕掛けるスタイルは、マカロニウェスタンで演じるイーストウッドにも影響を与えたのだろう。

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仲代の演技も、典型的なカタナVsピストルという二元論な戦いだけで落としていない点がいい。単純明快なのだが、この映画の流れは1つ、フォーマットとして多くの模倣を生んだと思う。

ジョンフォードの西部劇ウェスタンを日本へ輸入して時代劇風に加工して、さらにそれがまたマカロニウェスタンみたいな模倣を生んだのかもしれないと思えるほど。

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ラクビーの戦術を模倣して考えられたらしい最後の決闘シーン。
戦いそのものはじれったくなく、どちらかというと一瞬で終わる形の決闘シーンが、単なる単純なチャンバラで終わらない深みがあると思った。

三船の笑いながらピストルに向かってゆくあの表情、すばらしい演技もあり、色んなところでアイディアの宝庫のようなフィルムだなと感じる。テーマとして有名な音楽もすばらしい。

個人的には本作があまりにもすばらしいので、続編の椿三十朗はあまり評価する気にはなりませんねえ。森田監督が織田とリメイクしてたが、相当な駄作らしくて見てませんが、なぜこっちの用心棒をリメイクしなかったのか不思議。

ともかく白黒ながらも完璧なカメラワークで記録された「羅生門」と並び、100年先も名作というか手本として残っていそうな映画だなと思いました。

kojiroh

『羅生門』(1950年、日本)―90点。黒澤×芥川文学 ベネチア受賞作の歴代最高傑作


『羅生門』(1950年、日本)―88min
監督:黒澤明
脚本:黒澤明、橋本忍
音楽:早坂文雄
撮影:宮川一夫
出演者:三船敏郎、森雅之、京マチ子、志村喬 etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

かつて、2008年にデジタルリマスターが出て劇場へ見に行ったこともある、日本映画屈指の名作。

60年以上前だが、80分弱というフィルムの中に、映画史を変えるようなインパクトのある映像と演出、アイディアを詰め込んだ、ベネチア歴代最高レベルの受賞作であることも納得の一作。

今更ながら歳を重ねてから見返すと、新たな発見や感動があった。

◎あらすじ
芥川龍之介の短編『藪の中』をもとに映像化。都にほど近い山中で、貴族の女性と供回りの侍が山賊に襲われた。そして侍は死亡、事件は検非違使によって吟味される事になった。だが山賊と貴族の女性の言い分は真っ向から対立する。検非違使は霊媒師の口寄せによって侍の霊を呼び出し証言を得るが、その言葉もまた、二人の言い分とは異なっていた……。ヴェネチア国際映画祭でグランプリを受賞した、黒澤明の出世作。

<allcinemaより引用>

ぼろぼろの羅生門と、降りしきる雨。
木片をちぎって火を起こす野暮なシーンもなんだか忘れられない。
雨宿りをしつつ、回想されるその構成も素晴らしい。

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監督の黒澤も素晴らしいが、何と言っても宮川一夫の撮影だ。モノクロで、太陽光を交えて、早坂文雄の音楽で森の中を志村喬が歩いてゆくシーンの迫力、劇場で見たときはさらに圧倒された。

羅生門と藪の中という芥川の傑作2つを旨く入り交ぜた構成も、すごいなと。本当に。2014-05-07_140422

三船の野蛮な盗賊役は、その後の7人の侍の原点とも言える。衣装の肉体の野暮ったさ、しかし鍛えられて男らしいその姿は彼特有の個性だ。

そして京マチ子。この妖艶な演技、そして女の怖さ・・・モノクロでも伝わってくる。2014-05-07_140312

3人の証言から回想し、最後は志村喬・・・もうなんか、ぞっとするものがあった。死後まで引きずる人間のエゴと、視点の違い。この世の伝えるもので、いい加減なものが如何に溢れているのか、この世にはエゴが満ちている。

当たり前な残酷な真実を、単純かつ洗練されたストーリーで90分以内にフィルムに映したのは偉業であろう。

ワンシーンワンシーンがアイディアに満ち、絵画のように完璧な構図になっている。

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映画の技術が進んだ現代、データ量が無数に広がって無限に可能性が広がった。しかし、この羅生門を越える作品が本当の意味で生まれたのか?

テクノロジーの向上は必ずしも芸術性を高めるわけではない。

むしろ現在は機械を使って色々とできるからこそ、逆に手抜きによる映画が増えている。人件費を削減して、CGで代用し、どうも人間特有の「間」であったり「緊張感」がもたらす迫力が足りないなあと。

そんな映画の原点にして真髄に迫れるものが、羅生門にはあるなと思った。

過去の遺作を見ることで、刺激を受けたい人には、羅生門が手軽に見れるしもってこい。とりあえずデジタルリマスターしてくれた角川と米映画芸術科学アカデミーには感謝です。

kojiroh

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年、アメリカ)―90点。スコセッシ版『ウォール街』、×ディカプリオ最高傑作


『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年、アメリカ)―179min
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:テレンス・ウィンター
原作:ジョーダン・ベルフォート(英語版)『ウォール街狂乱日記 – 「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生』
出演者:レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、ジャン・デュジャルダン、ロブ・ライナー、カイル・チャンドラー、マーゴット・ロビー、ジョン・ファヴロー、マシュー・マコノヒー etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点
※リアルタイム映画評

今年度のオスカー有力候補、
「ディパーテッド」「シャッター アイランド」のマーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演の名コンビが、
80年代から90年代のウォール街で“狼”と呼ばれた実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの実話を映画化した金融ドラマ、コメディ。

スコセッシファンかつ「ウォール街」のような魅惑の物語にひかれ、期待を胸に劇場へと足を運んだ。2014-02-02_112833

●あらすじ
80年代後半のウォール街。証券マンのジョーダン・ベルフォートは26歳で会社を設立すると、富裕層をカモにそのモラルなき巧みなセールストークで瞬く間に会社を社員700人の大企業へと成長させ、自らも年収49億円の億万長者となる。ドラッグでキメまくり、セックスとパーティに明け暮れた彼のクレイジーな豪遊ライフは衆目を集め、いつしか“ウォール街の狼”と呼ばれて時代の寵児に。当然のように捜査当局もそんな彼を放ってはおかなかったが…。
<allcinema>
 

3時間、ヴォルテージMAXで興奮した。
カネと女とドラッグと・・・長かったがバチンときた。2014-02-02_114444

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「ギャング~」「アビエイター」「ディパーテッド」「シャッターアイランド」・・・大作を世に送り出してきたがスコセッシ×ディカプリオの最高傑作であろう。

スコセッシ映画の中でも、個人的には「タクシードライバー」「レイジング・ブル」に次ぐ傑作かなとも思った所感。彼の作品の中で最も笑えた一作であることは間違いない。

それにしても本作ははじけている。
ここまでFUCKを叫ぶ映画は稀である。

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マシュー・マコノヒをはじめ、いかれたストックブローカーの生き様と絶叫、あと演説がすばらしい。コメディでもあり秀逸な現代ドラマである。ゴードンゲッコーからジョーダン・ベルフォードへ、こうしたCrazyな世界観にストックブローカーを目指す若者が出てきそうなほど、面白かった。

2014-02-02_112953『マネーボール』でおなじみのジョナヒルの演技も笑いを誘う。
出会い~創業まで、とにかく笑わせてくれる、さすがコメディアン。
ある意味で主演をも超える目立ちっぷり。太り方まで可愛く見えてくる。

学歴もコネも何もない連中が、教祖のごとく営業トークから演説までを吼えて叫ぶベルフォードと一緒に会社をでかくしてゆく、その冒頭のスピード感は素晴らしい。全員がとにかくキャラ立ちしている。過剰なFワードを絶叫する、欲望の狂気。

会社の中でヤリまくってるなんて、本当に実話なの?と疑うが、ウォール街の狂気の中ではそれもノーマルなのかもしれない。

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音楽のセレクトもスコセッシ・センスが冴え渡っていて、最後に「ミセスロビンソン」を流すあたりなんかも、『ミーン・ストリート』や『グッドフェローズ』で、暴力シーンで楽天的な音楽を選んじゃうあの手法!いや、スコセッシの過去の作品を彷彿させる手法がふんだんに使われていて興奮した。(ダイアルを押す手の指までアップして見せる、ヒッチコック的手法も見せてくれたり)

静と動ではないが、ゆったり進むシーンとすごいテンポで進む場面の使い方がすごく巧みだったが、しかしそれにしてもちょい長すぎかなとも。スコセッシ映画らしく、ビッチ風な美女と結婚してごたごたになるあたりもカジノやレイジングブルの焼き直し風でややうっとおしくもある。

これを2時間半に凝縮してたら90点あげました。

まあ3時間でも十分、緩急つけてテンポよく退屈せずにみれたけどね・・・舞台もアメリカからスイス、イギリス、モナコへの船など、マネーロンダリングのやり口の表現も面白かったし。

とりあえず『ウォール街』などの投資マネー映画が好きな人には必見の、2013年度の最高傑作になりうる一作かと思った。オスカーでも主演男優賞ぐらい狙えそうなぐらい、ジャンゴ~』以上にディカプリオがCRAZYではじけていた。

それにしてもスコセッシ監督は、あと何本傑作を世に生み出せば満足なのだろうか・・・ともかく、70歳のスコセッシが現代版「ウォール街」を作ってくれたことは素晴らしい偉業であり、これは間違いなく近年で最もパワフルな一作だったぜっ!

kojiroh

『ホステル2』(2007年、アメリカ)―9.0点。パワーアップしたホステル第二作


『ホステル2』(2007年、アメリカ)―94min
監督:イーライ・ロス
脚本:イーライ・ロス
製作総指揮:ボアズ・イェーキン、スコット・スピーゲル、クエンティン・タランティーノ
出演者:ローレン・ジャーマン、ロジャー・バート、ビジュー・フィリップス、ヘザー・マタラッツォ etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

HOSTEL PART2
スプラッターホラーながらもヒットを記録して急遽作られたイーライ・ロス監督の『ホステル』の続編。

前作で生き延びたパクストンが再登場するなど前作のファンとしては楽しめる正当なる続編作。そして主演が女性になり、新要素や前作の謎も明らかになり、非常に完成度が高い第二作だと思った。

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◎あらすじ
ローマに留学中のアメリカ人女子大生ベス、ホイットニー、ローナは、休暇を使ってヨーロッパ旅行に出発、プラハ行きの列車に乗る。そこで、天然スパの情報を聞いた彼女たちは急遽行き先を変更、スロバキアに向かうのだった。やがて、目的地ブラティスラヴァのホステルに到着し、町へ繰り出す3人。だが彼女たちは、ある会員制拷問殺人ゲームの餌食としてパスポート写真が世界中の金持ちたちにインターネット配信され、オークションにかけられていることなど知る由もなかった…。<All cinemaより>

被害者が前作の男から女になる。
女性を主役に添えたことで、前作以上にエロ・セクシー・グロという、この手のB級ホラーにはたまらないR18要素が勢ぞろい。ミッドナイト上映とかするには最適な、いわゆる『グラインドハウス』的な映画に仕上がっている。
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冒頭からいきなり前作のパクストンがあっという間に無残な結末になるとこなんてなかなか怖いし笑えた。(なんであれだけ首チョンパで出血してないの?w的な突っ込み)

とにかく前作では明らかにされなかった人身売買拷問組織の謎とその会員の仕組みが明らかになり、前作を見た人はより楽しめる。

嫌なフラグが立ちつつ迫る恐怖の『ホステル』。
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前作と同様にしてスロバキアの町並み、お祭り、スラムの子供。
お祭りで浮かれて楽しんでいる中で迫る絶望感が相変わらずいい。
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タトゥーを彫って殺しを楽しむ金持ちたちの視点もいい。

「I can help you」
と言って、謎に主役のローレンジャーマンに迫る気持ち悪いかんじの男であったり、組織の大ボス、カマを持って血を浴びる魔女のような女など、脇に揃えるキャラも濃厚。

特に本作の最大の目玉は、
処女の血を浴びる宙吊りのシーンであろう。
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ヘザー・マタラッツォの処女の血。
ホラーマニアのイーライ・ロス監督ならではなの残新かつ痛々しくて目を背けたくなるシーンだ。その他にも過去の色んなホラー映画のオマージュも見受けられる。

『食人族』の監督に食人させる場面なんかも面白い。
そして最後の最後でまさか●●カットになるなんて……色々と意表を突かれるシーンの連続であった。

ネタバレになるが、最後に「ナストロビア」で、首チョンパして、スラムの子供たちがサッカーに興じるところなんかは、まさに三池崇史の『不動~』だ。

さて色々と書いているが、
私が本作を一番評価している理由は、ずばり一番最初に見た『ホステル』だったからだ。1を観ようとしたら貸し出し中だったため、本作『2』から観た。なので自分の中では第一作以上に衝撃的に刻まれている一作なのであった

kojiroh

『LIE LIE LIE』(1997年、日本)―9.0点。VHSしかない豪華制作陣のカルト映画


『LIE LIE LIE』(1997年、日本)―123min
監督:中原俊
原作:中島らも
脚本:伊丹あき、猿渡學
出演:鈴木保奈美、豊川悦司、佐藤浩市、中村梅雀 etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

中島らもの直木賞候補作、『永遠も半ばを過ぎて』の映画化。
監督は『12人の優しい日本字人』『桜の園』でおなじみの中原俊。
主演の3つ巴は日本の一時代を代表できるお三方。今では有り得ない豪華キャスト。大きな受賞やヒットにはならなかった、実に不遇な一作であるが、筆者にとっては、なぜか心引かれる大好きな作品。

一部でカルト的な人気はあるが、あまりにマイナーなために未だDVD化されていない不思議な一作である。(*ネットでもほとんど画像や動画がなく、映画人としても画像収集が困難でした…)

◎あらすじ
不眠症の電算写植オペレーター・波多野は、昼も夜も黙々と写植を打つ日々を送っている。その彼のもとに高校時代の同級生・相川が現われ、生鮮食品買い付け会社の代表取締役をしていると説明し、商売の種である珍種の貝を預けていった。その貝を腐らせてしまって以後、相川は何となく波多野の所に居つくようになる……<Goo映画より引用>

何はともあれ、キャストが素晴らしい。
主演から脇役まで、上田 耕一、大河内浩、山下容莉枝、『12人の優しい日本人』に登場していた名わき役が揃ってい、活き活きとした演技を見せてくれる。今や表に出ることが無い鈴木保奈美を始め、大御所俳優になったトヨエツ&佐藤浩一。このメンツが集まったことがすごい。

気だるく流れるBONNIE PINKの楽曲がまた秀逸。
色々とごちゃごちゃに豪華キャスト、制作陣を集め、秀逸な原作の映画化を試みた。まとまりには少し欠けるが、十分面白い中島らもワールドの再現映画になっていると思う。

詐欺の手法はなかなかリアル。豊川悦司にしてはコミカルでメガネの地味な役柄だが、怪演とも呼べるレアなハマリ役だ。

とは言っても、ヒットするにはあまりにアングラな世界を描いた作品か。
詐欺師の手口と、面白おかしい展開にはポップさがあり、かなり笑えるのだが、やはり映画マニア向けの一作か。構成も一回見ると、時空が交錯していて少し分かりにくい。そしてキキのシーンはあまりに冗長で長すぎて蛇足感があるのが唯一残念なところ。

しかし中原俊監督の演出力も地味に遊びが効いていて面白い。
イカ墨パスタで「どろどろ」になる食事シーンのインパクト、写植屋の事務所で紙ヒコーキで遊びながら打ち合わせをしたり、インスタントコーヒーを美味しく作る方法を語ったり、好きな人は本当にハマる。遊び演出を発見する楽しさがある。

VHSしかないカルト映画になっている残念な本作『Lie Lie Lie』。何より、個人的にタイトルがいけないと思う。やはり中島らもの原作のチカラが大きな原作に忠実な作品なので、素直に『永遠も半ばを過ぎて』でよかったんじゃないだろうか。

写植屋の単調な仕事に抑圧された本能が薬によって語り出す。
不眠症によって感度を増す脳みそ。

うーん、なんて面白い世界観、奇抜なストーリー。原作の中島らもの世界観と哲学、あとは主演三人の輝きは、何度見ても面白い。

最後に、鈴木保奈美は奥さんにとどまるには勿体無い、癖のあるいい女優だったなとつくづく感じることのできる貴重な一本です。

kojiroh