『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年、アメリカ)―90点。スコセッシ版『ウォール街』、×ディカプリオ最高傑作


『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年、アメリカ)―179min
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:テレンス・ウィンター
原作:ジョーダン・ベルフォート(英語版)『ウォール街狂乱日記 – 「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生』
出演者:レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、ジャン・デュジャルダン、ロブ・ライナー、カイル・チャンドラー、マーゴット・ロビー、ジョン・ファヴロー、マシュー・マコノヒー etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点
※リアルタイム映画評

今年度のオスカー有力候補、
「ディパーテッド」「シャッター アイランド」のマーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演の名コンビが、
80年代から90年代のウォール街で“狼”と呼ばれた実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの実話を映画化した金融ドラマ、コメディ。

スコセッシファンかつ「ウォール街」のような魅惑の物語にひかれ、期待を胸に劇場へと足を運んだ。2014-02-02_112833

●あらすじ
80年代後半のウォール街。証券マンのジョーダン・ベルフォートは26歳で会社を設立すると、富裕層をカモにそのモラルなき巧みなセールストークで瞬く間に会社を社員700人の大企業へと成長させ、自らも年収49億円の億万長者となる。ドラッグでキメまくり、セックスとパーティに明け暮れた彼のクレイジーな豪遊ライフは衆目を集め、いつしか“ウォール街の狼”と呼ばれて時代の寵児に。当然のように捜査当局もそんな彼を放ってはおかなかったが…。
<allcinema>
 

3時間、ヴォルテージMAXで興奮した。
カネと女とドラッグと・・・長かったがバチンときた。2014-02-02_114444

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「ギャング~」「アビエイター」「ディパーテッド」「シャッターアイランド」・・・大作を世に送り出してきたがスコセッシ×ディカプリオの最高傑作であろう。

スコセッシ映画の中でも、個人的には「タクシードライバー」「レイジング・ブル」に次ぐ傑作かなとも思った所感。彼の作品の中で最も笑えた一作であることは間違いない。

それにしても本作ははじけている。
ここまでFUCKを叫ぶ映画は稀である。

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マシュー・マコノヒをはじめ、いかれたストックブローカーの生き様と絶叫、あと演説がすばらしい。コメディでもあり秀逸な現代ドラマである。ゴードンゲッコーからジョーダン・ベルフォードへ、こうしたCrazyな世界観にストックブローカーを目指す若者が出てきそうなほど、面白かった。

2014-02-02_112953『マネーボール』でおなじみのジョナヒルの演技も笑いを誘う。
出会い~創業まで、とにかく笑わせてくれる、さすがコメディアン。
ある意味で主演をも超える目立ちっぷり。太り方まで可愛く見えてくる。

学歴もコネも何もない連中が、教祖のごとく営業トークから演説までを吼えて叫ぶベルフォードと一緒に会社をでかくしてゆく、その冒頭のスピード感は素晴らしい。全員がとにかくキャラ立ちしている。過剰なFワードを絶叫する、欲望の狂気。

会社の中でヤリまくってるなんて、本当に実話なの?と疑うが、ウォール街の狂気の中ではそれもノーマルなのかもしれない。

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音楽のセレクトもスコセッシ・センスが冴え渡っていて、最後に「ミセスロビンソン」を流すあたりなんかも、『ミーン・ストリート』や『グッドフェローズ』で、暴力シーンで楽天的な音楽を選んじゃうあの手法!いや、スコセッシの過去の作品を彷彿させる手法がふんだんに使われていて興奮した。(ダイアルを押す手の指までアップして見せる、ヒッチコック的手法も見せてくれたり)

静と動ではないが、ゆったり進むシーンとすごいテンポで進む場面の使い方がすごく巧みだったが、しかしそれにしてもちょい長すぎかなとも。スコセッシ映画らしく、ビッチ風な美女と結婚してごたごたになるあたりもカジノやレイジングブルの焼き直し風でややうっとおしくもある。

これを2時間半に凝縮してたら90点あげました。

まあ3時間でも十分、緩急つけてテンポよく退屈せずにみれたけどね・・・舞台もアメリカからスイス、イギリス、モナコへの船など、マネーロンダリングのやり口の表現も面白かったし。

とりあえず『ウォール街』などの投資マネー映画が好きな人には必見の、2013年度の最高傑作になりうる一作かと思った。オスカーでも主演男優賞ぐらい狙えそうなぐらい、ジャンゴ~』以上にディカプリオがCRAZYではじけていた。

それにしてもスコセッシ監督は、あと何本傑作を世に生み出せば満足なのだろうか・・・ともかく、70歳のスコセッシが現代版「ウォール街」を作ってくれたことは素晴らしい偉業であり、これは間違いなく近年で最もパワフルな一作だったぜっ!

kojiroh

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『ホステル2』(2007年、アメリカ)―9.0点。パワーアップしたホステル第二作


『ホステル2』(2007年、アメリカ)―94min
監督:イーライ・ロス
脚本:イーライ・ロス
製作総指揮:ボアズ・イェーキン、スコット・スピーゲル、クエンティン・タランティーノ
出演者:ローレン・ジャーマン、ロジャー・バート、ビジュー・フィリップス、ヘザー・マタラッツォ etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

HOSTEL PART2
スプラッターホラーながらもヒットを記録して急遽作られたイーライ・ロス監督の『ホステル』の続編。

前作で生き延びたパクストンが再登場するなど前作のファンとしては楽しめる正当なる続編作。そして主演が女性になり、新要素や前作の謎も明らかになり、非常に完成度が高い第二作だと思った。

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◎あらすじ
ローマに留学中のアメリカ人女子大生ベス、ホイットニー、ローナは、休暇を使ってヨーロッパ旅行に出発、プラハ行きの列車に乗る。そこで、天然スパの情報を聞いた彼女たちは急遽行き先を変更、スロバキアに向かうのだった。やがて、目的地ブラティスラヴァのホステルに到着し、町へ繰り出す3人。だが彼女たちは、ある会員制拷問殺人ゲームの餌食としてパスポート写真が世界中の金持ちたちにインターネット配信され、オークションにかけられていることなど知る由もなかった…。<All cinemaより>

被害者が前作の男から女になる。
女性を主役に添えたことで、前作以上にエロ・セクシー・グロという、この手のB級ホラーにはたまらないR18要素が勢ぞろい。ミッドナイト上映とかするには最適な、いわゆる『グラインドハウス』的な映画に仕上がっている。
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冒頭からいきなり前作のパクストンがあっという間に無残な結末になるとこなんてなかなか怖いし笑えた。(なんであれだけ首チョンパで出血してないの?w的な突っ込み)

とにかく前作では明らかにされなかった人身売買拷問組織の謎とその会員の仕組みが明らかになり、前作を見た人はより楽しめる。

嫌なフラグが立ちつつ迫る恐怖の『ホステル』。
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前作と同様にしてスロバキアの町並み、お祭り、スラムの子供。
お祭りで浮かれて楽しんでいる中で迫る絶望感が相変わらずいい。
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タトゥーを彫って殺しを楽しむ金持ちたちの視点もいい。

「I can help you」
と言って、謎に主役のローレンジャーマンに迫る気持ち悪いかんじの男であったり、組織の大ボス、カマを持って血を浴びる魔女のような女など、脇に揃えるキャラも濃厚。

特に本作の最大の目玉は、
処女の血を浴びる宙吊りのシーンであろう。
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ヘザー・マタラッツォの処女の血。
ホラーマニアのイーライ・ロス監督ならではなの残新かつ痛々しくて目を背けたくなるシーンだ。その他にも過去の色んなホラー映画のオマージュも見受けられる。

『食人族』の監督に食人させる場面なんかも面白い。
そして最後の最後でまさか●●カットになるなんて……色々と意表を突かれるシーンの連続であった。

ネタバレになるが、最後に「ナストロビア」で、首チョンパして、スラムの子供たちがサッカーに興じるところなんかは、まさに三池崇史の『不動~』だ。

さて色々と書いているが、
私が本作を一番評価している理由は、ずばり一番最初に見た『ホステル』だったからだ。1を観ようとしたら貸し出し中だったため、本作『2』から観た。なので自分の中では第一作以上に衝撃的に刻まれている一作なのであった

kojiroh

『LIE LIE LIE』(1997年、日本)―9.0点。VHSしかない豪華制作陣のカルト映画


『LIE LIE LIE』(1997年、日本)―123min
監督:中原俊
原作:中島らも
脚本:伊丹あき、猿渡學
出演:鈴木保奈美、豊川悦司、佐藤浩市、中村梅雀 etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

中島らもの直木賞候補作、『永遠も半ばを過ぎて』の映画化。
監督は『12人の優しい日本字人』『桜の園』でおなじみの中原俊。
主演の3つ巴は日本の一時代を代表できるお三方。今では有り得ない豪華キャスト。大きな受賞やヒットにはならなかった、実に不遇な一作であるが、筆者にとっては、なぜか心引かれる大好きな作品。

一部でカルト的な人気はあるが、あまりにマイナーなために未だDVD化されていない不思議な一作である。(*ネットでもほとんど画像や動画がなく、映画人としても画像収集が困難でした…)

◎あらすじ
不眠症の電算写植オペレーター・波多野は、昼も夜も黙々と写植を打つ日々を送っている。その彼のもとに高校時代の同級生・相川が現われ、生鮮食品買い付け会社の代表取締役をしていると説明し、商売の種である珍種の貝を預けていった。その貝を腐らせてしまって以後、相川は何となく波多野の所に居つくようになる……<Goo映画より引用>

何はともあれ、キャストが素晴らしい。
主演から脇役まで、上田 耕一、大河内浩、山下容莉枝、『12人の優しい日本人』に登場していた名わき役が揃ってい、活き活きとした演技を見せてくれる。今や表に出ることが無い鈴木保奈美を始め、大御所俳優になったトヨエツ&佐藤浩一。このメンツが集まったことがすごい。

気だるく流れるBONNIE PINKの楽曲がまた秀逸。
色々とごちゃごちゃに豪華キャスト、制作陣を集め、秀逸な原作の映画化を試みた。まとまりには少し欠けるが、十分面白い中島らもワールドの再現映画になっていると思う。

詐欺の手法はなかなかリアル。豊川悦司にしてはコミカルでメガネの地味な役柄だが、怪演とも呼べるレアなハマリ役だ。

とは言っても、ヒットするにはあまりにアングラな世界を描いた作品か。
詐欺師の手口と、面白おかしい展開にはポップさがあり、かなり笑えるのだが、やはり映画マニア向けの一作か。構成も一回見ると、時空が交錯していて少し分かりにくい。そしてキキのシーンはあまりに冗長で長すぎて蛇足感があるのが唯一残念なところ。

しかし中原俊監督の演出力も地味に遊びが効いていて面白い。
イカ墨パスタで「どろどろ」になる食事シーンのインパクト、写植屋の事務所で紙ヒコーキで遊びながら打ち合わせをしたり、インスタントコーヒーを美味しく作る方法を語ったり、好きな人は本当にハマる。遊び演出を発見する楽しさがある。

VHSしかないカルト映画になっている残念な本作『Lie Lie Lie』。何より、個人的にタイトルがいけないと思う。やはり中島らもの原作のチカラが大きな原作に忠実な作品なので、素直に『永遠も半ばを過ぎて』でよかったんじゃないだろうか。

写植屋の単調な仕事に抑圧された本能が薬によって語り出す。
不眠症によって感度を増す脳みそ。

うーん、なんて面白い世界観、奇抜なストーリー。原作の中島らもの世界観と哲学、あとは主演三人の輝きは、何度見ても面白い。

最後に、鈴木保奈美は奥さんにとどまるには勿体無い、癖のあるいい女優だったなとつくづく感じることのできる貴重な一本です。

kojiroh

『ファイトクラブ』(1999年、アメリカ)―9.0点。物質社会からの脱出を掲げる名作


『ファイトクラブ』(1999年、アメリカ)―139min
監督:デヴィッド・フィンチャー
脚本:ジム・ウールス
音楽:ザ・ダスト・ブラザーズ
主題歌:ピクシーズ「where is my mind?」etc
出演者:エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、ヘレナ・ボナム=カーター、ミート・ローフ ETC

【点数】 ★★★★★★★★★☆ / 9.0点

鬼才、デビッド・フィンチャーによるカルト映画として名高い『ファイトクラブ』は、年をますごとに名声を高め、歴代映画ランキングでも必ず上位に君臨する近年のアメリカ映画の傑作と呼ばれている。

学生の時に一度見たのだが、社会人になってから見直してみると、新しい発見がたくさんある一作だった。特に社会や企業、資本主義への風刺が、年齢を重ねると共に共感性を増していることに驚く。


◎あらすじ
ジャック(エドワード・ノートン)は保険会社に勤めるヤング・エグゼクティブ。ここ数カ月は不眠症に悩み、さまざまな病気を抱える人々が集まる「支援の会」に通い始め、そこで泣くことに快感を覚えるようになる。そんなある時、出張先の飛行機でジャックはタイラー(ブラッド・ピット)と知り合う。フライトから帰ってくるとなぜかアパートの部屋は爆破されており、ジャックは仕方なくタイラーの家に泊めてもらい、殴り合いをすることになるのだが..…(キネマ旬報より引用)

現代社会、資本主義で働き消費を繰り返すだけの奴隷になっている現代人の闘争本能を目覚めさせる、それがファイトクラブ。去勢されたホワイトワーカーが、次第に暴力と狂気に目覚める姿が描かれる。反社会的な組織を結成する物語が、なんとも痛快というか風刺的で、『未来世紀ブラジル』であったり、『時計仕掛けのオレンジ』にも通じるテーマ性がある。


タイラーバーデンの強烈なキャラクター造詣は歴代映画史にも名を残す。物質社会を否定し、人間的自由を求める彼の言葉には哲学がにじみ出る。
「我々は消費者だ、ライフスタイルの奴隷だ!殺人、犯罪、貧困、何の興味も持たない、興味があるのは芸能雑誌やTV、下着のデザイナーの名前、毛生え薬、インポ薬、ダイエット食品、ガーデニング、何がガーデニングだ!タイタニックと一緒に沈んじまえばいいんだ!……」


放浪されるエドワード・ノートン。彼の語り口、ナレーションも言いえて妙で、仕事にライフスタイルが支配され、飛行機の中で一回分の友達を楽しむ遊びに興じるほど、物質的に豊かだが虚しい心を持て余している姿が、ユーモラスでもあるが会社員の悲しさを感じる。

仕事漬け、消費漬けによって支配されたライフスタイルと感受性、そして本能。不眠症に苦しみ、失われた感性を蘇らせるために男は動き出す。まずは「支援の会」に参加、そしてファイトクラブへ。現実にも起こりえそうな物語に、普通じゃないリアリティを感じ、それゆえこの映画が本物の反社会的映画になり得る所以ではないだろうか。ファイトクラブは実在し得る。


最後は女を選び、消費社会の元凶であるカード会社の崩壊を眺める。
ピクシーズの楽曲が流れ続けるラストシーンが忘れられない。

まさに模倣となる映画。
「ファイトクラブ」が本作の影響で生まれてもおかしくない。そう感じるほど現代の矛盾や自由への羨望を心地よく刺激してくれる。

Kojiroh

『REC』(2007年、スペイン)―9.0点。POVゾンビ映画の最高峰


『REC』(2007年、スペイン)―85min
監督:ジャウマ・バラゲロ、パコ・プラサ
脚本:ジャウマ・バラゲロ、ルイソ・ベルデホ、パコ・プラサ
撮影:パブロ・ロッソ
出演者:マヌエラ・ベラスコ、フェラン・テラッサ、ホルヘ・ヤマン・セラーノ、カルロス・ラサルテ、パブロ・ロッソetc

【点数】 ★★★★★★★★★☆/ 9.0点

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』と同じく、全編ビデオカメラを用いた主観撮影によるモキュメンタリー作品で、本国スペインでは大ヒットを記録した『REC』。米国でもリメイクされた話題作。

スペインのゾンビ系の映画は珍しいと思いつつも、ロメロの『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』は本作の劣化コピーだったんじゃないかと思える。それほどまでにRECの完成度は素晴らしい。


◎あらすじ
ドキュメンタリー番組のため毎晩取材に励むローカルテレビ局のレポーター、アンヘラ。彼女はカメラマンのパブロと共に、その夜は消防士の同行取材を行なっていた。深夜、アパートの住人から“隣に住む老婆の叫びや殺してやるという声を聞いた”との通報が入り、さっそく現場へ向かう。警官たちも駆けつけたそのアパートには、怯える住人たちを横目に朦朧と立つ血まみれの老婆の姿があった。すると突然、彼女は手を差し伸べてきた警官に襲いかかり、消防士たちは重傷を負った警官を運び出そうとするが、警察によって外から封鎖され隔離状態となってしまう。やがてアンヘラたちは、このアパートの住人に未知の病原菌が感染拡散していることを知るのだが……。(Allcinemaより引用)


退屈な取材、何か事件が起きないかと持て余すアンヘラとパブロ……そんな気だるい冒頭がじわじわと狂気を帯びた事件が起き、アパートに監禁されるという異常事態に突如として巻き込まれる。この落差が非常に怖い。


そんなに危機はなく、救援隊も送り込まれるが、また一人、また一人と感染してゆく。さらに感染者はなかなか殺せない。どんどん追い込まれていく。そして詰み。

凶暴化するウイルス、走るゾンビ、『28日後』に影響を受けていることがうかがえるが、POV、モキュメンタリーとしての完成度や設定がすごい。単なるサバイバルホラー映画ではなく、サスペンスとしての面白さがあるのだ。



――一体、何が起きているのか?
この謎がインタビューや、送り込まれた救援隊、さらに最上階へ通じることで次第に明らかになる。映画でははっきりとそれに言及されない部分は多いが、振り返ってみると引っかかるキイとなる言動や情報が提示されていた。

まず、この低所得者層の古いアパート。
謎の病気、たまたまいた医者の見習いのギレム、閉鎖されるが外へ出そうとしない景観。インタビューでの謎。

「何か悪いことが起きると思った」――老夫婦
「訴えてやる。新聞社にそもそもの始まりから終わりまで言ってやる」――ジェニフェルの母

アパートの住人たちも謎だ。高齢者、アジア系の夫婦、売れない俳優、明らかにはされないが、何か表には出してはいけない謎・陰謀が絡んでいたからこそ、彼らは住んでいた。

一番怪しいのが、最上階の鍵からすべての部屋の鍵を保有していた研修医のギレム。恐らく彼は感染の原因になる実験に関わっていた主犯であろう。このアパートに住むにはあまりに不釣合いだし、実質上の管理人だったと考えられる。

とにかく単なるサスペンス的に、このゾンビ化現象への謎が次第に明らかになるヒントが散りばめられている。結局は最後まではっきりないが、何度か見返すと謎が見えてくる部分もある。

「誰も住んでいない」と言われた最上階の部屋。ラストでそこに至ってしまう。怪しい実験、意味深な切り抜き記事。悪魔祓い。宗教。流れるテープレコーダー。

なんだか『死霊のはらわた』であったり、新しい手法ながらも過去のゾンビ映画の名作のツボを押さえていて、それを80分のPOVに凝縮したのは驚異的だと思った。

本作の制作費は150万ユーロ。思ったより安くはない。
よく観ているとその手の込みようが分かる。低予算映画ではなく、あえて臨場感やオリジナリティを求めてこの手法を選んだのであって、途中の停電とライト、最後の赤外線スコープまで至る緊張感、闇に消えゆき幕を閉じるそのオチ付けまでは完璧だと思えた。

パニック映画としても、サスペンスとしても、ゾンビ映画としても陳腐ではない極上の一作。

kojiroh

『サンゲリア』(1979年、イタリア=アメリカ)―9.0点。残酷ゾンビ映画の古典


『サンゲリア』(1979年、イタリア=アメリカ)―91min
監督:ルチオ・フルチ
脚本:エリザ・ブリガンティ、ダルダノ・サケッティ
音楽:ファビオ・フリッツィ
出演:イアン・マカロック 、ティサ・ファロー、リチャード・ジョンソン、オルガ・カルラトス etc

【点数】 ★★★★★★★★★☆ / 9.0点

ジョージAロメロの伝説的な『ゾンビ』(1978年)にならぶカルト的人気を誇るゾンビ映画の金字塔が、イタリアのルシオ・フルチ監督による本作『サンゲリア(Zombie2)』。

ありふれたフラグ立ちまくりの展開、冒頭からグロテスクなゾンビ、眼球破壊、陳腐ながらも妙に味のある音楽、苦悩するドクター、狂いだす歯車……とにかくB級ゾンビ映画のツボをすべて抑えたかのような古典的ゾンビ映画がルシオ・フルチのサンゲリアだと思う。


◎あらすじ
ある日、ニューヨーク湾内で奇妙な事件が発生した。漂流中のクルーザー内に踏み込んだ警備船の警官2名が、全身腐乱した男に襲われた。警官1人が犠牲となり、男は全身に銃弾を打ち込まれて海中に姿を消した。クルーザーの持ち主である娘アン・ボールズ(ティサ・ファロー)と新聞記者ピーター・ウェスト(イアン・マカロック)は、行方不明となっているアンの父親を探すため、アメリカ人夫婦ブライアンとスーザンのクルーザーに同乗し、カリブ海に浮かぶマトゥール島へ向かう。だがそこは謎の疫病で死んだ者が蘇り始めていた…。(WIKIより引用)

ゆっくりと迫りくる死者、ブードゥー教の謎。
『ゾンビ』などと酷似している部分もあるが、しかし本作のゾンビの生々しいグロテスクさはショッキングである。古臭いのだが、ウジ虫がわく蘇る死者は、一つの新しいゾンビ像を描き出したのではないか。

特にこの眼球破壊シーンの痛さは郡を抜いている。肉体の部分的破壊を残酷に表現していて、とにかく痛い。えぐいほど出血して、チャチさはあるがグロい。

他にも、サメと戦うゾンビなど実験的なアイディアと挑戦心が盛り込まれている。火炎瓶で燃え上がるゾンビたち。そこまで派手なアクションシーンはなく、それ以上に迫り来る謎と、蔓延するゾンビの緊張感、守り立てる単調ながら味のあるテーマ曲、この雰囲気がいいのだ。


放射能や化学物質ではなく、ブードゥーという宗教的な側面からゾンビの謎を追うドクターと主人公だが、結局は蘇る死者を止めることができない。


ニューヨークからカリブ海へ。
低予算ながらもニューヨークを舞台にゲリラ的に撮影した本作は、ぱっとみは気付かないが色々と突っ込みどころがある。最後のブルックリン橋でのシーンなど、よく見ると下の車が普通に動いていて、完成度的には突っ込みどころが満載。

しかし、なぜか引き込まれる。
完成度の低いラストシーンであるが、それでも本作の救いのない、無限に広がってゆくゾンビワールドを想像してしまう後味の悪いラストが完璧だと思えた。

ルシオ・フルチの恐怖&残虐シーンの描き方も秀逸であるが、それ以上にゾンビという題材を使って、B級でグロテスクでベタな映画の金字塔を作り出した部分に本作の最も評価すべきだろう。

本家『ゾンビ』以上に、すっきりと短い尺でカルト的要素がある『サンゲリア』の方がなぜか愛すべき映画に思えている。

kojiroh

『ゆきゆきて、神軍』(1987年、日本)―9.5点。奥崎、狂気の歴史的傑作ドキュメンタリー


『ゆきゆきて、神軍』(1987年、日本)―122min
監督:原一男
編集:鍋島惇
企画:今村昌平
出演者:奥崎謙三・シズミ夫妻 etc

【点数】 ★★★★★★★★★/ 9.5点

“THE Emperor’s Naked Army marches on”
あのマイケル・ムーアが、生涯観た映画の中でも最高のドキュメンタリーだと語る国際的に最も評価が高いドキュメンタリー映画の一つとして語り継がれる傑作。

5年間の撮影期間を費やし作り上げられた作品で、ベルリン映画祭カリガリ賞など始め、様々な映画賞を受賞した。そんな邦画ドキュメンタリーの伝説的一作を、ふと思い立って遂に鑑賞した。


奥崎謙三は、かつて自らが所属した独立工兵隊第36連隊のウェワク残留隊で、隊長による部下射殺事件があった事を知り、殺害された二人の兵士の親族とともに、処刑に関与したとされる元隊員たちを訪ねて真相を追い求める。元隊員たちは容易に口を開かないが、奥崎は時に暴力をふるいながら証言を引き出し、ある元上官が処刑命令を下したと結論づけるのだが……。(wikiより引用)


「暴力をふるっていい結果が出る暴力だったら、許されると…。だから私は大いに今後生きてる限り、私の判断と責任によって、自分と、それから人類によい結果をもたらす暴力ならばね、大いに使うと」
高々と宣言して暴れまくる奥崎の姿は永遠に不滅……と、いわんばかりにすさまじいエネルギーを感じる作品。

奥崎によってドキュメンタリー映画の至高のカタチにまで昇華した奇跡的な映画世界ではないだろうか。私はその狂気のカリスマ像に陶酔するかのように二時間ノンストップで引き込まれて行った。

冒頭の結婚式からどこか狂った奥崎の信念が炸裂する。

しかし『アンヴィル』もそうだが、素晴らしいドキュメンタリーというには奇跡がある。追ってゆく中で、奇跡が起きて、現実に物語が動き出すのだ。それがフィクションで無理やり動かされるストーリー以上の感動がある。

はっきり言って、彼が追求する日本軍の40年前の功罪の真実には、興味深く引き込まれるがそこまで意味はない。それ以上に、過去の罪を背負って生きる人間の現在、そしてそこに神なる暴力で挑む奥崎の姿にこそ意味があるのだ。

もう二度とこんな映画は撮れない。
そう思える様々な要因によって起きた衝動、そして奇跡を本作のフィルムから感じ取ることができた。

しかし、これははっきり言って異常な映画だ。
極端な右翼の男をこうもヒーローのように祭り上げている狂気。プロパガンダのような表現の手法をも感じる。奥崎が善なのか悪なのか――そこは曖昧なところであり、見ているだけでは奥崎が英雄のように思えてしまう。

それでも奥崎の狂気の過激右翼=神軍平等兵としての活動をフィルムに映したことには大きな価値がある。

欠落した小指、洗練された尋問・言葉。暴力。
公私混同したことはない、すべて神のため、宇宙の真理だと言わんばかり。

私はもう「天皇陛下の剥き出しの神軍」を貫き生きた、奥崎謙三のタフネスさを生涯忘れられない気がしている。

kojiroh